note.054 SIDE:G

「それでは、ゴーなのですよー」

 マリーさんの合図で泉の畔まで一気に躍り出ると、打ち合わせた通りにそれぞれの方向へと仕掛けに移る。
 即座に戦闘態勢をとった僕たちに、トレントたちもこれ以上の擬態は無意味と判断したのか、ただの樹の節目や洞だと思っていたものが顔を形取り、一斉に動き出した。

「きゃははっ、おそいおそ〜い! そんな程度じゃ、私を捕らえようなんて1000年早いのだわっ」

 真っ先にトレントたちへと飛び込んでいったのは妖精の少女で、自分が任された右側半分に群れるトレントの木々の合間を、飛んでくる蔦の触手や木の実の礫攻撃を器用に避けて、アクロバットのようにするりとすり抜けて飛び抜けながら、その軌道上に加護をかける時と似たような魔力の軌跡を残していく。

「《促成栽培:砲千華》 《バインドソーン》 《エナジードレイン》」

 マリーさんは、奥の方の少し遠目にいるトレントたちを砲千華の弾幕で足止めしつつ、手前のすぐに蔦の射程内に入りそうな距離の1体を、地面から茨を召喚して拘束するバインドソーンで絡め取ると、エナジードレインでその生命力を吸収する。
 ……うん、ようやく一般的なデバッファーとしてのドルイドらしい戦いを見られた気がするね。

「では、焼き払いましょうー。《フレイムスロアー》」

 続けて、あえてバインドソーンにも砲千華の弾幕にも引っ掛けずに残していた数体が向かってきたところに、ナパームトレントをぶつけていく。

 さて、僕はと言えば。

「氷魔の捕食者、万象喰らえ。《フロストヴァイパー》!」

 加護のおかげでより短縮できるようになったフロストヴァイパーで、泉の向こう岸のトレントたちを狙う。
 さすがに泉を渡ってはこれないようで、左右に分かれて両側で戦ってる二人の方へ加勢しようとしていたみたいだけど、そうはさせない……!
 放たれた氷の蛇は、次々とトレントの幹に巻き付いて、締め上げるようにその身体を下から上まで駆け上り、氷塊へと閉じ込めていく。
 元々トレント自体、それほど足が速い魔物ではないこともあって、3匹の蛇たちによって瞬く間に僕の担当範囲のトレントたちは残らず凍り付いていった。

 さぁ、ここは新しい魔法の試しどころだね。
 ここでの選択肢は、中級雷魔法「チェインライトニング」。
 名前の通り、ヒットすると近くの敵に次々連鎖していく1本の雷を放つスキルだ。
 凍結の状態異常で強制的に水属性に変換された相手に雷魔法で追撃する、風炎型と並ぶもう一つのマジシャンのテンプレお手軽コンボ、氷雷コンボだね。
 雷魔法は風属性魔法からの派生スキルだから、同様に詠唱も短くて、無詠唱が簡単なのも強みだね。
 まぁ、その短詠唱高火力の代わりに、風属性魔法と打って変わって消費MPが他の属性と比べてやたら高いのが欠点だけどね。
 詠唱文を思い浮かべれば、ウィンドカッターやエアロブーメランの時と同じように、即座に頭の中で魔法陣のイメージが組み上がる。

「《キリエ・エレイソン》」

 次の僕の行動をある程度察してくれたのか、マリーさんがキリエをかけてくれる。
 的確な支援に感謝だね。

「《チェインライトニング》!」

 凍り付いたトレントたちに振り下ろした杖を向ければ、雷鳴と共に、一瞬で杖の先から凍ったトレントたち全てを一筆書きで繋げる稲妻のラインが迸る。
 キリエの効果もあって、餌食になったトレントの大半はフォトンへと消し飛び、残った数体も、氷は割れたものの、樹の身体に雷が落ちた当然の帰結として、雷が走った位置から発火して、炎上していく。

「《ウィンドカッター》」

 燃えたのをいいことに、ウィンドカッターで追撃してやれば、残ったトレントも輪切りに丸太にされながら燃え落ちていくだけだ。

 この落雷からの炎上があるから、氷雷型のサブウェポンは、意外にも風属性魔法がポピュラーなんだよね。
 風属性の低消費なら、雷魔法で消耗した後の残ったMPでも効果的な追撃がしやすい、という意味でも氷雷型と風属性魔法は相性がいい。
 他には、一時的な行動不能を引き起こす状態異常の感電によって身体に電気が溜まった状態に撃ち込んでやれば、土塊や地面との接触面に向けてもう一度電流が流れることで、感電状態の解除と引き換えに再度雷魔法の追撃が発生する状態異常である打雷によって、更なる追撃が見込める地属性魔法なんかも人気だね。

「あははははははっ! バーカバーカ、きゃはははははっ♪」

 笑い転げだした妖精の少女の方を見れば、何故かトレント同士がみんな互いに同士討ちしあっていた。

「あれは……また幻覚にかけたの?」
「そうよ。うふふっ、あははははっ! あいつらには今、お互いが全部私たちの姿に見えているはずなのだわ。マヌケよね〜、きゃははっ」

 そして、マリーさんの方では、砲千華の弾幕を抜けてきた残りのトレントたちが、椰子の樹に向けて蔦を伸ばそうとしていた。
 だけど、

「《リーフスラッシュ》」

 マリーさんがスキル指示を出せば、椰子の樹はぶるんぶるんと頭を振るようにしならせると、葉っぱが鋭い刃となって飛んで、伸びてくる蔦を全て斬り落としてしまう。

 ……って、それはいいけど、マリーさんの後ろにもいつの間にかトレントが1匹迫ってる!?

「あっ、マリーさん後ろ!」

 咄嗟に警告しつつ、フロストスパイク辺りで足止めを……と思ったんだけど……。
 それよりも先に、マリーさんが自身で反応していた。

「《成長抑制:枯死(ネクローシス)》」

 浮かせた魔導書がマリーさんを護るように背後に回り込んで、スキル宣言と共に光ると、魔導書の見開かれたページと、迫っていたトレントの足元に一瞬だけ魔法陣が展開されて消える。

「!! ――……」

 直後、何かに怯えたようにびくりと一瞬身体を震わせたトレントは、わずかに叫び声らしきものを上げながら、みるみるうちに枯れ落ちていき、そのままフォトンへと崩れていってしまった。

 成長抑制:枯死は、植物型の魔物限定で一定確率で即死させることができる、まぁ、一言で言ってしまえば対植物専用のターンアンデッドという感じの、ドルイドの上級聖術だね。
 ターンアンデッド同様に、自分と相手のLv差と、相手の残りHPで成功率は上下する。
 このスキルで倒した相手からは通常のドロップを得られなくなってしまうのが欠点だけど、代わりに、このスキルで倒すと、その魔物を促成栽培で召喚するための種が確率で手に入る。

 成長抑制が成功して枯れ果てていくトレントには目もくれず、マリーさんは即座に椰子の樹の方へ次の指示を出す。

「《ナパームナッツ・ボム》」

 攻撃手段の蔦を失って戸惑ったか、一瞬動きに隙が生まれていた残りのトレントたちに、容赦なく椰子の実の焼夷弾が降り注ぐ。
 あっという間に火は燃え広がって、トレントたちがフォトンへ還っていく。

 その頃には反対側では、既に同士討ちでほとんどのトレントが沈黙していて、最後に1体が残ると、

「んん〜〜〜っ、てぇーいっ!」

 妖精の少女が、残ったトレントに向けて両手を伸ばして、何やら力を込める。
 すると突然、何かの反動をくらったかのように、彼女の身体が後ろに転がりながら斜め上へと飛ばされ、同時に、最後のトレントの幹の真ん中辺りで爆発が起こって、上下で真っ二つにされてしまったトレントはフォトンへと散っていった。

 今のは……魔力の流れからは、魔法の構築に失敗して暴発した時みたいな魔力爆発が突然起こった、みたいに感じたけど……。
 そもそも魔力爆発が起きる代表的な理由が魔法の構築失敗による暴発であることからもわかるように、魔力を純粋な魔力のままに何か意味のある現象を起こさせるって、かなり難しいんだよね。
 エーテルと、エーテルを物質の構築が可能な状態に励起したフォトンがこの世界における万物の源となる素粒子なわけだけど、魔力はそれらが意味のある形になるための「繋げる力」と言われている。
 その本質故に、魔力というのは単体だとすぐに周囲のエーテルと繋がろうとするから、ものすごく不安定な力なんだよね。
 それをこうもあっさりと、狙った通りに魔力のまま一点に収束させて意図的に爆発を起こすなんて……さすがは意思を持った魔力とも言われる妖精の力だね。

 さて、何はともあれ、泉の周りのトレントはこれで殲滅できたかな。

「しっかり全部仕留められましたねー。お二人とも感謝なのですよー。ドロップした素材は全部、わたしの買い取りの形にしますのでー。ちゃんとメモして、マイスさんには帰ったら買い取り分の金額をお渡ししますねー」
「あ、はい。それでお願いします」

 ギルドの買い取りは基本少し割安だから、マリーさんが直接買い取ってくれるのはありがたいね。
 マリーさんはるんるんで、トレントがドロップ品として残していった蔦やら実やら枝葉やらを拾い集めてはメモを取っていく。
 少し手持ち無沙汰だったので、

「あ、僕も拾うの手伝いましょうか?」

 と、言ってみたんだけど……

「いえいえー、何をいくつ拾ったか、きちんと数をメモしておかないとですからねー。お構いなくー」

 と言われてしまえば、まぁ、素直に大人しくしておく方がよさそうだ。
 う〜ん……まぁ、雷魔法でMPも消費したし、泉の水でも飲んで少し落ち着こうかな。


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