note.037 SIDE:G
「ふぅっ」
息を吐きながら、立ち上がって剣を一払いしてから盾の裏につけた鞘に納めるミスティス。
マグナムブレイクからの流れるような一連の所作に、思わず見惚れて拍手をしてしまっていた僕に、
「オーゲサだなぁ、もう……あ」
なんて頬を掻きながら照れくさそうに言いつつも、満更でもなさそうに僕に振り向いたミスティスだったけど、そこで何かに気付いたようで、その視線はすぐに僕から外れる。
釣られて僕もそちらを振り向けば、ゴブリンライダーが最後に立っていた場所で、普通であればすぐにエーテルに還元されて消滅するはずのフォトンが、ぎゅるりと一点で渦を巻いて、再び何か形を取ろうとしているようだった。
一瞬、まさかまだ戦闘が続くのかと警戒しそうになったけど、どうも第2形態とかそういう事でもなさそうで、とりあえずは成り行きを見守ることにする。
そうして見ている間にもゴブリンライダーを構築していたフォトンは一点に収束し続け、そこに現れたのは虹色に光り輝いて宙に浮かぶ不思議な球体だった。
同時に、Lvアップの時とは違ったファンファーレが流れて、「ボス討伐おめでとうございます! MVPは MISTIS さんです。スコア : ―― あなたのスコア : ――」というシステムメッセージが表示される。
「おぉ〜、MVPドロップだ〜♪」
「これがドロップ……?」
「あぁ、マイスはフォトンクラスターを見るのは初めてか」
謎の球体にはしゃぐミスティスに、疑問を口にすれば、オグ君が答えて補足してくれる。
「これがこのゲームの、まぁ所謂『何故かダンジョンに置いてあったり何故かボスを倒すと落っことすふしぎなたからばこ』って奴さ」
「あー……な、なるほど」
実にわかりやすい説明だね。
フォトンクラスター……名前を聞けば、そう言えば情報サイトを流し読みしてた中にも記述があった気がする。
世界観的な設定だと、所謂ボスや上位個体と呼ばれるような強い力を持った個体が倒された時に、その強力な残留思念によって、エーテルに還元されるはずのフォトンがフォトンのまま押し留められて発生する……とかだったかな?
ダンジョン内で局所的に「エーテル溜まり」みたいな場所があると自然発生することもあるらしい。
普通のフォトンは外側に拡散する方向に指向性がついているために白く光って、時間と共に発散してエーテルに還ってしまうけど、フォトンクラスターはこの「指向性」が定まっていないために、虹色に光りながらフォトンのまま留まり続ける。
そして、その「指向性」の方向を決定づけるもの≒何らかの意思を持つものが触れることで、その意思に沿って形を成して、ランダムにアイテムを生成する、ということらしい。
ランダムとは言え、基本的には触れたものの意思に沿うから、ある程度その人のジョブや個人的志向に合うものが選ばれやすいようで。
特に、ボスが生成したクラスターの場合は、ボスの残留思念によって、誰の意に沿うか、というところから優先順位が着くらしく、この優先順位を決定するのが、このゲームにおけるMVP選定システムになってるみたいだね。
触らずに時間がたてば、優先順位2位以下の人も順に触れるようになっていくみたいだけど、今回はミスティスがMVPだったから、今時点では彼女以外は触れても反応しないはずだ。
「MVPだったし、私がもらうね〜?」
「うん」
「おっけー」
「そうするといい」
特に異論もなく、ミスティスが球体に触れると、フォトンクラスターはパッと見慣れた白いフォトンに弾けて、彼女の右手に向けて収束していく。
どんなアイテムになるんだろう?
収束したフォトンは、最初は球体のまま大きくなっていくばかりで、どんな形になるかも予測がつかなかったけど、全てが収束しきった途端、一気にふにゃりと形を変えると、もう一度勢いよくフォトンが弾けて、その姿を露わにした。
「これは……」
「おぉ〜、盾だー!」
ミスティスがテンション高めにこちらに向けて掲げてみせてくれたそれは、狼の顔をモチーフに模ったらしい銀灰色の盾だった。
大きさとしては、彼女が今使っている盾よりも二回り程は大きいように見える。
構えればミスティスの胴体部分はすっぽり覆えてしまうぐらいの大きさはあるみたいで、多分基本職であるソーディアン時点で扱える盾としてはほぼ最大クラスと言ってしまっていいんじゃないかと思う。
まぁ、ミスティスが元々どっちかと言うと小柄って部分も大きく見える原因かもしれないけど。
「うへ〜、ちょっと重た〜……」
と、僕たちに見せるために無駄に高く掲げていたこともあったのか、疲れ気味の様子でぐでりと腕を下ろすミスティス。
「ちょっとってゆーか、見た目よりだいぶ重いよこれ」
「そんなに?」
重さに負けたミスティスのふにゃふにゃっぷりに、ちょっと興味が湧いたらしいツキナさん。
「持ってみる?」
と、試しにミスティスから受け取ってみれば、
「はぅわ!? こ、これ……は、確かに……Lvのごり押しでなんとか持ちあがってる、けど……っ」
どうやら見た目以上の重さであることは間違いなさそうで、ツキナさんではバーベルでも持ち上げるかのように大股で抱え上げるように支えるのがやっとみたいだね。
「でしょ?」
「は〜……うん、あたしのStrじゃ無理だわ、これ」
見かねたミスティスが盾を受け取ると、相当きつかったのか、ツキナさんは自由になった腕をぶるぶると震わせてほぐした。
その横で、ミスティスはいくつかウィンドウを操作する仕草をすると、
「なになに〜……? 『ウォルフラムシールド』だってさ」
と、アイテム詳細を読み上げてくれる。
「わぁ、すごいすごい、火属性耐性60%に炎上無効だって!」
「それはすごいね」
追加効果にテンションを上げるミスティスに、僕も素直に同意する。
実際、火属性攻撃を6割カットした上に状態異常も防げるのは僕らの今のLv帯を考えれば破格の性能だと思う。
「ウォルフラム……タングステンの別名か。ふむ、この世界にタングステンなんてものがあるのかはわからないけど、その重さに高熱への耐性効果……色味と言い、確かに特徴としては一致している」
というオグ君の分析に、ミスティスからは「へぇ〜」と適当な相槌が返ってくる。
……うん、あれは多分よくわかってない顔だね。
「よくわかんないけど狼っぽいのはカッコイイし防御値もめっちゃいいし、しばらく盾はこれ1枚で使っていけそうだよー。……もうちょっとStr上げないとちょっと重さが気になるけど」
あ、うん、やっぱりよくわかってなかったね……。
なんて僕の内心には気付いているのかいないのか、カラカラと笑い飛ばすミスティス。
ともあれ、だいぶ気に入りはしたようで、一旦ウォルフラムシールドをストレージに仕舞うと背中に背負っていた今までの盾から剣を取り外して、そちらの盾もストレージへ。それから左手にもう一度ウォルフラムシールドを取り出すと、そこに同じように剣をセットしなおして、改めて前に掲げてみせる。
「よーし、これでおっけー♪ ……あれ? これなんだろ……」
と、そこで何かに気付いたらしいミスティスが、ガチャガチャと盾を見回すと、何やら手元に力を込め始める。
「ふんぬぐぐぐ……あっれぇ〜……?」
しばらくそうして格闘していたものの、期待した結果にはならなかったようで、首を傾げる。
「何してんの……?」
「なんかねー、持ち手のところにもういっこ、握り手? トリガーみたいなのがあるんだけど、なんか引けなくって……」
ツキナさんの問いに、ミスティスは手元を覗き込みながら答えると、
「あー……それあれじゃない? 多分魔力通せば動くんじゃない?」
とのツキナさんのアドバイスに、
「なるほど!」
何を思ったか、右手で支えながら拳を突き出すようにして盾を水平に構える。
次の瞬間、「ガシュッ!」っと音を立てて、デザインで言うと狼の口の犬歯に当たるだろう場所から、前方――つまりは盾の下側に向けて、その通り狼の犬歯を模したのだろう、盾本体と同じ材質らしい鋭い金属杭が2本飛び出した。
「おぉー! なにこれすごいすごい! ありがとツキナー!」
「いーえー。でも何それかっこいー!」
はしゃぐ女子二人に加えて、この機能にはオグ君も何か琴線に触れるものがあったようで、
「いいな、すごくいい……! 隠し武器にパイルバンカーは漢の浪漫だ……! くぅっ、こういうのがあるとやはり僕も剣士を選ぶべきだったか……!?」
なんて拳を握って唸っていた。
実際、僕から見ても男の子として、なんというか、こう……わかりみが深い、と言うのかな、この気持ち。
うん、思わず全力で首を縦に振ってしまっている程度にはオグ君に同意したい。
そこで、ふとミスティスが何か気が付いたようで、ウィンドウがあるのだろう位置を覗き込みながら、操作を加える。
「んん〜……? あー、ごめーん、これちゃんと書いてあるじゃん、説明文スクロールできた。えーっとなになに……? 固有スキル『ウルヴズファング』……MP20消費でこれ使えるんだってさ」
あはは、と笑って誤魔化すミスティス。
「なるほど。しかし、だいぶアタリだったな、今回は」
「だねー」
と、オグ君の言に全員が頷く。
ゴブリンライダーの他のドロップに何があるのかは知らないけど、この性能を見るだけでも、少なくともドロップ品の中でもかなり上等なものであるだろうことは僕でも察しがつく。
それ以前に、ゴブリンライダー自体がまず出現率の低いレアボスであることも考えれば、大当たりと言っていいと思う。
それにしても、ボス狩かぁ……。
昨日までは、それこそ情報サイトでもボスのページは読み飛ばしてしまっていたぐらいには、当面の間は僕には無縁だと思っていたはずのものを、達成できてしまった。
ミスティスの左手で鈍く金属光沢を放つウォルフラムシールドの姿に、今更ながらその事の実感が湧いてきて、思わず握った自分の拳へと視線が落ちる。
そこからふと顔を上げれば、いつの間にか目の前で僕の顔を下から覗き込むように見ていたミスティスのいたずらっぽい笑顔と目が合って、
「わひゃ!?」
変な悲鳴を上げてのけ反ってしまう。ち、近いってば!
当のミスティスはと言えば、そのいたずらっぽい笑みをにんまりと深くして、
「にっひっひ〜♪ どうよどうよ? 初めてのボス狩の感想は〜」
なんて聞いてくる。
改めて、そう問われてみれば……。突然の襲来だっただけに最初はかなり慌てたし、言うまでもなく、僕が今まででこのゲームで経験した中では一番の激戦だったことは間違いない。
その分、緊迫感もものすごくて、こうして今改めて聞かれたことでその緊張も解けたのか、どっと疲れが押し寄せてくる。だけど、その疲労感さえも、なんだか今は心地いい。
この気持ちを素直に総評して言えば……
「うん、疲れたけど、すっごく楽しかったよ。ありがとう、みんな」
「フ……そうか。楽しんでもらえたなら何よりだ」
「そうね。そう言ってくれるとプリーストとしてもやりがいがあるってものよ」
僕の素直な感謝に、みんなも笑顔で返してくれる。
「うんうん、やっぱりボス狩はMMOの華だもんね〜。これが楽しめないのはHXTの戦闘職の半分は損してるよ!」
と、ミスティスも満足気に頷いていた。
さすがに半分は言いすぎでは……?とは思わなくもないけど。一方で、そう言ってしまう気持ちもわかる気はする、かな。