戻る


note.039 SIDE:G

 翌日、時間通りにストリームスフィア前で集合した僕たちは、今日の行き先を相談していた。

「んじゃ、今日はどこいこっかー……あ、そうだ! マイス、ちょっとダンジョン行ってみない?」
「ダンジョン?」
「あぁ、ふむ、なるほど、いいんじゃないか」
「そうね。多分、マイスはまだ挑戦したことないでしょ? ダンジョン攻略」
「うん、まだ行ったことはないかな」

 この世界にもやはりと言うべきか、所謂「ダンジョン」と呼ばれる領域は存在している。
 とは言っても、神が作った試練だとか、よくありがちなファンタジーご都合主義ではなく、ちゃんとこの世界なりの理由が設定されている。
 この世界で「ダンジョン」とは、スライム森みたいな「魔力溜まり」と呼ばれるような場所に、極端に魔力とエーテルが集中した結果、その領域の内と外とで完全に生態系が隔絶された「異界」と化してしまった場所のことを指す。
 「異界」と表現されるけど、単に生態系の問題だから、別次元世界とかそういうわけじゃないし、森一帯がダンジョン指定されてたりとか、普通に周囲と地続きの場合も少なくない。
 ダンジョン内部には、その超高魔力、高エーテル環境に適応した凶悪な魔物がわんさかと湧くから、外部の魔物はまず生き残ることはできない。
 逆に、ダンジョン内部で湧いた魔物にとっては、外部の環境はエーテル濃度が薄すぎて、存在を維持できないんだよね。
 そんなわけで、ダンジョンに認定された領域は、内からも外からも魔物の出入りが不可能な「異界」となっているわけだ。
 ちなみに、スライム森は単純に、スライムに勝てる魔物が湧くことができるほどのエーテル濃度がないから生態系の頂点がスライムになってしまっているだけで、あそこのスライムたちは別に森の外でも生きていけるし、外の魔物も森に侵入することは普通にあるから、ダンジョンとは呼ばれていない。
 他に、ダンジョンの特性として、エーテル濃度が高いせいで、通常であれば環境中のエーテルを認識できず、一度倒せば復活ができないので「駆除」が可能な「亜人」種族でもエーテルを認識することができるようで、ダンジョン内ではゴブリンやオークなんかの亜人種も普通にリポップしてくる。
 おかげで、そういう亜人種の巣窟となっているようなダンジョンもいくつかあるんだけど、結局のところ、ダンジョン内部に適応して発生した魔物の方が基本的には強いらしく、彼らにとっても決して楽園と言うほどの場所ではないとのことだ。

「となれば、行き先はエニルムの遺跡か」
「ま、一択だよね〜」

 エニルム……えーっと、確か攻略サイトの事前情報だと……。
 アミ北の森をそのまま北に抜けると「エニルム平原」と呼ばれる長閑な平原地帯になっていて、少し進むと、その平原を利用した酪農が主な産業になっている「エニルム」の町がある。
 その町の程近く、アミ北の森から見ると、森を抜けて街道を少し逸れた北東の位置にある遺跡がダンジョンになったのが「エニルムの遺跡」だ。
 起源は不明ながら、かな〜り古くからダンジョンとして存在している場所らしく、敵のLvは大体80〜90前後、エニルムからはもちろん、アミリアからでも余裕で日帰りで行って帰ってこれる距離にあり、内部も2層構造と浅くて攻略も簡単……と、まぁ、アミ北を無事に抜けられるぐらいになった、ちょうど今の僕たちぐらいのLvになったパーティーが初めて攻略するダンジョンにはうってつけの場所。
 ……という感じの説明だったかな。

 ちなみに、この世界でダンジョンの生成理由は大きく分けて二つある。
 一つは、スライム森と同じ、周囲の環境的要因とかいろんな理由が重なって「魔力溜まり」になった場所がそのままダンジョンとなるパターン。
 そもそも、それこそスライム森がいい例だけど、森林地帯やら洞窟やらといった閉鎖的な空間は魔力が溜まりやすい。
 そこに+αで魔力溜まりを発生させるような要因が重なったりするとダンジョンになりやすいらしい。
 もう一つは、何らかの目的で、最初から後々ダンジョン化させることを前提に、魔力が蓄積しやすい構造で迷宮の類が設計されていた場合。
 エニルムの遺跡はこのパターンだね。
 どうしてわざわざそんなことをするのかと言うと、まぁよくある理由としては、例えば王墓だとか、神聖とされる場所を作る場合とかに、その場所を守護するために、ゴーレムなんかを配置した上でダンジョン化させる、みたいなパターンが多かったみたいだね。
 エニルムの遺跡がどうしてダンジョン化されたのかは、もはや遺跡自体の起源も失伝してしまっているだけあって、歴史の謎というやつらしいけど。

 と、まぁともあれ、今日の行き先は決定したようだ。

「あー……一応ギルド寄ってく?」
「え、今更エニルム行くような依頼あると思う?」
「だよねー。んじゃいこっか」

 というわけで、ギルドへは向かわずに、そのまままずは昨日と同様アミ北を目指して出発する。

 ダンジョン攻略かぁ。ダンジョンと言えばRPGの醍醐味の一つだもんね。
 エニルムの遺跡……どんな場所なのか、今から楽しみだね。


戻る