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note.105 SIDE:G

「ところでオグー、さっきの釣りは釣れたのー?」
「あぁ、ちょっと時間が遅かったからどうかと思ったが、なんとか一人一匹ぐらいは釣れたよ」

 ボコボコと蛍光グリーンに泡を吹く鍋を気にすることなく、オグ君に話を振っていくミスティス。
 それに答えてオグ君が見せてくれたバケツの中には、イワナ……に見えるけどイワナかと言われるとなんか違和感がある謎の魚がきっちり5匹釣り上げられていた。
 ……イワナだよねぇ?……いや、具体的にどことは言えないけどなんか違うような気がするんだけどでも見た目は確かにイワナ……だと思う……けど……う〜ん……。

「ま、これに関してはもうシンプルイズベストだろ」

 イワナのような何かの謎の違和感に一人悶々とする僕をよそに、オグ君はイワナらしきそれを手早く内蔵を抜いて、シンプルに串に刺して化粧塩をまぶすと、焚き火の周りに立て掛けて塩焼きにしていく。
 うん、これはもう、キャンプと言えばって感じのド定番で安心して食べられそうだね。

 ……で、問題の……

「ん〜、そろそろいいかなー。よし、かんせ〜い!」

 出来上がってしまった……スライム鍋……。
 ミスティスが器に盛って、みんなにそれぞれ渡してくれたけど……これを食べるのか……。
 入ってる具材自体は普通なのに、明らかにヤバい色合いの蛍光グリーンが全てをデロデロに覆い隠してしまっていて、正直あまり食べる気にならないんだけど……。

「それじゃあ、せーの……」
「「「「いただきまーす!」」」」

 と挨拶して、みんなそれぞれに食べ始めてるんだけど……う〜ん……。

「んー! おいしー♪」
「あぁ、いい味だな。安心できる」
「だね〜」
「……えぇ、美味しいです」

 ……普通に美味しそうに食べるんだねみんな……。本当にそんなに美味しいの……?
 むむ……まぁ、いつまでも器だけ持ってたって仕方がない……。
 覚悟を決めて……

「い、いただきま〜す……」

 いざ、一口……!
 ん……う…………!?これは……!

「あれっ!? お、美味しい……!」
「ほら〜、でしょー?」
「う、うん……なんだろう、すごく優しい味……」

 えぇぇ……なんというか、予想を遥かに超えてすっごい和風の味がして美味しい……!
 これはー……なんか思い出すんだけど、なんだろう、あー……

「わかった、あれだ、こう、干しシイタケの戻し汁を出汁に使ったみたいな」
「そうそう、わかるわかる」

 なんとなく思い浮かべた僕の感想に、ミスティスも同意してくれる。
 えーっと、何、つまり、スライムって、菌類なの?キノコみたいな?
 いやまぁ、粘菌とかを思い浮かべればなんとなく納得いくような微妙に納得いかないような気はしなくもないけども……。

 まぁスライムの生物学的分類の謎はとりあえず置いとくとして、ともかくこのスライム鍋はすごく美味しい……。
 見てた限り、味付けはスライムと、軽く塩で味を整えてたぐらいだったのに、シイタケの戻し汁だけじゃなくて、ほんのりと白だしみたいな風味も感じられたりして、具材にした野菜の旨味もちゃんと出てるし、すごく心が落ち着く味わいになっている。
 粘液の粘りも、見た目だけだともっとこう、デロンデロンの気色悪い感じを想像しちゃってたけど、実際食べてみると、ちょうど片栗粉で少しとろみをつけたみたいな、ちょうどいい舌触りになっているのもいい感じだね。
 具の野菜たちも……うん、ちゃんと味が染みててホクホクだ……。
 これは確かに、見た目とかどうでもよくなってくるぐらいにスプーンが進む……!

「お、魚もそろそろいいんじゃないか?」

 と、オグ君がイワナモドキの塩焼きを渡してくれる。
 これは、うん、まさにシンプルイズベストだね。
 いい感じに肉厚だし、焼き加減も塩の加減もちょうどいいし、予想通りのものが予想通りに美味しい、安定の味。これが美味しくないわけがないよねぇ。
 ……美味しくないわけがないんだけど……イワナと言われると謎の違和感があるのに、味とか食感そのものは普通に違和感なくイワナしてることでむしろ逆に違和感が増強されるというか、納得いかない感が増すというか……これホントになんなの……?

 まぁ、それはひとまずともかくとして……。
 うん、すごく美味しい。
 美味しいんだけど……う〜ん……なんとな〜くまだ食べ足りないというか……。あ、そうか。
 ふとあるものを思い出して、ストレージから取り出す。

「そうだ、一品お土産を追加するよ」

 僕が取り出したのは、そう、一昨日のマリーさんと行ったカスフィ森でもらったハンターディアーのもも肉だ。

「わ、お肉っ♪」
「おぉ、美味そうな肉じゃないか。どうしたんだ?これ」
「一昨日、僕一人だった日に、まぁ話端折るけどいろいろあってカスフィ森に行くことになってね。その時のお土産。ハンターディアーのもも肉だよ」

 と、オグ君の疑問に答えれば、

「カスフィ森か。なるほど、ミスティスとLvが離れたのはそれが理由だったのか」
「じゃあこれ鹿肉なの?」
「うん、そうだね」
「おぉ〜、ジビエだー」

 鹿肉と聞いて、やっぱり初めてなのか目をキラキラさせるミスティス。

「へぇー、どんな味なのかしら」
「……わたしも鹿肉というのは初めてですねぇ」

 ツキナさんたちも興味津々って感じだね。

「じゃあ、貸してマイス。ちょっと待ってね〜、すぐ切り分けるから」
「うん、お願い」

 ミスティスに渡せば、手早く小皿に切り分けて渡してくれる。

「さて……」
「どれどれ?」
「あむ……ん、これは……」
「……」

 さて、みんなの反応はどうかな?

「おぉ、淡泊だけど……」
「んん〜、肉汁んまー♪」
「胡椒とハーブの香りもいいわね〜」
「……癖もなくて、食べやすくていいですねぇ」

 どうやら好評みたいだね、よかった。
 うん、僕も食べようっと。

「はむ……うん、美味しいね」

 そんなこんなで、和やかに食事は進んで。
 全員がそれなりに一通りを食べきったところで、

「よ〜っし、そろそろデザートにしよ〜♪」
「おー!」
「……くすっ……いいですね、デザート」

 ミスティスの音頭で女子三人がテンションを上げる。

「それはいいが……メニューはどうするんだい? デザートにできそうな手持ちはそれこそ蝶蜜とシーレの実とレモンぐらいしかないように思うが」
「そうだねぇ……とりあえず蝶蜜レモンは作るとして、あとはー……う〜ん……」

 と、少し悩んだミスティスだったけど、

「……ホットケーキミックスならありますが?」
「それだ! ナ〜イス、雫!」
「いや、なんで!?」

 随分ピンポイントだね!?
 っていうかこの世界ホットケーキミックスなんて概念あったの!?

「……パスフィアンの方が売っていて、面白そうと思って買ってみたのですが、なかなか作る機会がなくて……」

 あー、これもリアルからの持ち込み再現かぁ。
 まぁ、要は小麦粉にベーキングパウダーとか砂糖とかを適切な比率で混ぜてパッケージにすればいいだけのものだもんね。HXTで再現しようという人がいてもおかしくはない話か。

 っていうか、作る機会ないのに「面白そう」で買ったんだ……。
 あとそもそも、今日のここまでのところ料理はミスティスとツキナさん任せにしてる気がするけど、雫さん自分で料理できるのかな……?

 それにしても……

「プレイヤーをパスフィアンって呼んだり、エクストラスキルを加護って言ったり、雫さんって随分と、こっちの世界に寄せてるねぇ」

 疑問、という程でもない、ただそういうロールプレイなのかな?ぐらいの軽い雑談のつもりで聞いただけの話題。
 だけど、返ってきたのは僕の予想だにしない、衝撃の答えだった。

「……あぁ、マイスさんにはまだ言ってませんでしたねぇ。……わたし、どうにも皆さんの言うところの『リアル』の記憶がないものでして……」
「えっ……!?」


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