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note.150 SIDE:G

 講義を終えてラウンジに戻ると、ちょうど向こうも戻ったところだったのか、僕を探している様子のミスティスの姿があった。

「ミスティス、こっち!」
「あ、マイス〜!」

 呼びかけに気付いて駆け寄ってくるミスティスに合流する。

「そっちもちょうど終わった感じ?」
「そだよ〜! チュートリアルでウェイブエッジを教えてもらってきたー。やー、人から教わるとスキルポイント使わないからいいよね〜」

 ウェイブエッジはこの手のゲームではよくある感じの、剣から光波を飛ばすオーソドックスな遠距離攻撃のブレーダースキルだね。
 ブレーダーのスキルでは一番シンプルでいろんな動きに組み込みやすいから、派生するオリジナルスキルも多いらしい。

「それで、そっちはどうだった?」
「僕は契約と召喚の術式を教わってきたよ」
「おぉ〜。まぁ、サマナーになったからには、まずそれができないとだよね」

 まぁ、それはその通りだね。
 実のところ、サマナーにスキルツリーとして用意されているスキルって召喚契約だけなんだよね。
 他はもう自分で契約してスキルを増やしましょうってスタンスらしい。
 だからサマナーって、最初の契約のアテがないと転職してもしばらくはただステータスの上がっただけのマジシャンで戦わなきゃいけないのが弱点の一つとされてるんだよねぇ。
 幸いにして、僕には「アテ」があるから、そこは問題ないんだけど。
 というか、僕もあの大妖精の少女っていうアテがなかったら、ステラの能力があってもサマナーになるかどうかはまだ迷っていた気がする。

「よーっし、これでひとまず転職はオッケーだね。暗くなるまではまだちょっと時間ありそうだけど、どうするー?」

 確認すると、ゲーム内の時刻は15時を少し回った辺り。
 確かに、これならまだ少し時間はあるかな。
 とは言っても……

「う〜ん……今からできることとなると、やっぱり図書館に戻って情報収集ぐらいしかないんじゃない?」
「ん〜……ま、それもそっか」

 と、決まりかけて。

「あ、待って、そうだ! 思いついた! 転職できた記念ってことで、装備の更新しない? ちょうどいいから、紹介したい人もいるしさ」
「装備の更新かぁ……」

 一応、エニルム装備は最初の転職からしばらくぐらいまではなんとかなるってオグ君は言ってたけど……。
 でもまぁ確かに、せっかく転職できたんだし、装備も一新して心機一転っていうのはありなのかもしれないね。
 紹介したい人がいるってことは、流れ的にきっと製造職の人に会わせてもらえるってことなんだろうし、今後も考えて、そういう人たちにも伝手を繋いでおくにはいい機会ではあるよね。
 ……新しい人に会うのはちょっとまだドキドキするけど。

「確かに、いい機会かも」
「うんうん、よっしけってーい! それじゃ、一回王都の冒険者区に飛ぼー!」
「了解」

 というわけで、アミリアギルドを出て、王都の東ストリームスフィアに飛ぶ。

「んじゃ、さっそくいこ〜。ついてきて」

 と、ミスティスに連れてこられたのは、ちょうど冒険者区の真ん中辺りを南北に貫く、冒険者区では一番の大通り。
 ストリームスフィアから直接延びているその通りを、一路南へと進んでいく。
 そこは、道幅自体は中央に続くメインストリートにも負けない広さでありながら、そこら中に所狭しと屋台や、あるいは地べたに敷物だけ敷いた直置きで、数多の露店がPCもNPCもなく雑然と列をなし、冒険者特有の無秩序な活気に満ちあふれていた。

 だけど、ミスティスの目的は露店ではないようで、それらは全てスルーして、通りを少し進んだ一角の店のドアを迷わずに開ける。
 その軒先に提げられた看板には、盾に重ねた星印型に交差する剣と槍とライフル、その上に豪奢な王冠がかぶせられたエンブレムが描かれていた。
 これ、鍛冶屋ってことでいいのかな……?なんて視界の端に思いつつも、ミスティスに続いて扉を潜る。

「んぉ、っらっしっせ〜ぇぃ」

 多分「いらっしゃいませ」のつもりで言ったんだと思うけど……まぁそんな軽い調子で出迎えてくれたのは、がっしりと引き締まった長身のわかりやすい細マッチョ体型に、金髪のギザギザ頭に白い歯を見せる笑顔が似合う碧眼の、精悍な顔つきの熱血爽やか系お兄さんといった出で立ちの店主らしき青年。
 オリーブグリーンのカーゴパンツに黒のブーツ、上半身はその筋肉質な体型がぴっちり浮き出た紺色のタンクトップ姿がよく似合っている。

 そしてもう一人、店主と話し込んでいたらしいのは、所謂ぱっつんに真っ直ぐ切り揃えられた鮮やかなオレンジ色のストレートロングに金色の瞳と、頭にのせたフライトゴーグルが印象的な女性。
 オレンジはイメージカラーなのか、服装も上半身を脱いで腰元に袖を縛ったオレンジ色の作業着のツナギに、分厚い手袋とカーキ色のラフなタンクトップ姿で、見るからにこちらも何かしらの製造職らしいことが見て取れる。

「あ、ミィナも一緒だ。やっほ〜、二人とも」
「こんにちは?」
「んぁ? あー、その声とキャラ名……あーっとフレ欄フレ欄……あ、チカか! ……え、おま、チカ!? うっそだろ!?」
「えっ、あ、チカちゃんかー!」
「そだよ〜! にっひひ〜♪」
「うそ〜! すっごい可愛らしくなっちゃったじゃん! お持ち帰りした〜い!」
「わっ! もう、ミィナ〜」

 ミスティスの正体が知っている人物と知って、ミィナと呼ばれた女性がぎゅっと抱きついて頬ずりする。
 なんというか、彼女の1stキャラであるチカはよっぽど身長を伸ばして作ってあるのか、こういう反応が多いね。

「可愛……いや、可愛いのはいいんだが、そんなちみっこくしちまって、大丈夫なのかよ? まぁ、このゲームにもアポロン補正はあるってもよ……」
「ヘーキヘーキ、だってこっちがむしろリアル身長だもん」
「えぇー、ホントに!? リアルのチカちゃんてこんなにちっちゃいの!?」
「は? いやいやいや、マジかよ!? おま、逆にむしろ今まであの身長差つけてよくあんな戦い方してたな!?」
「まぁ実際最初アレだったけど、もう慣れちゃったからね〜。それこそアポロンの補正もあるし」

 いつものように勝手に納得したようにうんうんと頷くミスティス。

 アポロンというのは、Augmented Personality Overlap aLternative-virtuaL-avater Optimization for Neural-network-protocol(拡張自己-仮想義体間神経接続最適化プロトコル)の略称で、例えばSDキャラとか人外とか、リアルの自分と全く体型の異なるアバターも自由に設定可能なワイヤードネット上での、リアルとアバターとの身体感覚の差異を補正してくれる機械学習プロトコルのことだね。
 アバターのボーン設定や操者の思考を学習していくことで、余程人型からかけ離れた異形にでも設定しない限りは数時間〜数日程度でほぼ思い描いた通りに違和感なく動けるようにしてくれる。
 このゲームにもこのアポロンによる補正機能は採用されてるから、確かに慣れればどうとでもなるという話ではあるけど……個人差はあるけど、長いとまともに動けるまで数日かかることもやっぱりあるから、本当によくゲーム始めて最初のキャラでいきなりそんなことしたもんだよねぇ。
 二人の驚きようもわかるという話だ。

「あー、まぁいいか、まいいや。おう、んで、そっちの二人を紹介してくれよ。はじめましての客だろ?」
「あ、うん! こっちのキャラでパーティー組んでる、マイスと、こっちがステラだよ〜。んで、こっちがキングとー、それからこっちがミィナ! 二人とも私の行きつけの製造職なんだ〜」

 ミスティスの紹介に続いて、まずはキングと呼ばれた方が名乗りを上げる。

「おう! 俺様がキング! いずれこの世界のあらゆる武器を俺様製で埋め尽くして、武器を統べる王となる男だッ!!」

 は、はぁ……武器を統べる王……それでキャラ名からもうキングにしちゃったのね……。ず、随分壮大だなぁ……。
 なんて、一瞬反応に迷ったところで、

「あっははっ。びっくりしたでしょ〜? 武器のこととなるとこうなっちゃう人だから、あんま気にしないであげてー。私はミィナ。ここのちょうどお向かいのあそこが私のお店。よろしくね! あぁは言ってるけど、キングは鍛冶専門。木工と革細工は私が専門だから、木製素材で弓とか杖が欲しいんなら私の方に言ってね」

 ミィナさんが割って入ってくれる。
 彼女が指差した窓の外、本当にちょうど真向かいにあった店の看板には、ハートマークをバックにラウンドシールドに重ねた弓矢と、そこに重ねて、恐らく彼女のサインなのだろう、かなりアレンジされた丸文字の筆記体で「Myna」と可愛らしく名前が入ったエンブレムが掲げられていた。
 なるほど、言う通り、あれが彼女のお店らしい。

「は、はじめまして。マイスと言います。こっちはステラです。よろしくお願いします」
「ん。ステラ。よろしく」

 と、ひとまず自己紹介したところで。

「おぉ……おおぉ……」

 いつの間にかフラフラとカウンターから出てきていたキングさんが、何故かステラの前まで来て、突然頽れる。

「貴女が……貴女様が女神か…………ッ!」
「え、えぇぇー……」

 いや、えぇぇ……どういうこと!?
 え、どうしたらいいのこれ!?

「……? 女神は私じゃない、よ?」

 あまりにも脈絡がなさすぎて、当然ながら崇められているステラ自身も困惑気味だ。

「あー……まぁ、絶対わかってたけど、始まっちゃったねぇ〜、キングのアクヘキが……」

 とは、遠い目をしたミスティスの弁。

「悪癖……?」

 困惑のままに聞き返した僕の問いに、嘆息しつつも答えてくれたのはミィナさんだった。

「いやぁ、そのねぇー……コイツ、こう見えて筋金入りの可愛いもの好きなのよ。ちょっと可愛い娘見つけるとすぐこの調子なんだから」

 そう言って、ミスティス共々処置なしとばかりに肩をすくめて頭を振る。
 とは言うものの、続けて、

「まぁでも、今回ばかりはちょっとだけ気持ちはわかっちゃうかなー。ステラちゃん、女の子の私から見てもホントに可愛いもん。お人形さんみたいで羨ましい」

 あー、まぁ、なるほど、やっぱりステラって実際女性目線でも可愛いとかって感想になるんだね。
 で、彼のその可愛いもの好きにもばっちりぶっ刺さってしまったと……。

「ぬおおおこうしちゃおれん!」

 と、ものすごい勢いで誰かに連絡を取り始めるキングさん。
 程なくして現れたのは――驚きの人物だった。


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