note.160 SIDE:G
「いぇ〜い、ないすぅ♪」
「まずは上々、といったところか」
お互い、転職できての新スキルの具合に手応えはあったようで、ミスティスとオグ君がハイタッチを交わす。
「随分と面白いことをしていたわね、ミスティス」
『ありそうでなかった。この世界では多分出てこない発想』
と、大妖精とステラが評したのは……さっきの瞬間移動みたいな動きのことかな?
「ん? あー、二人にはちゃんと見えてたんだね。これは確かに、こっちの世界の人じゃ思いつかないか、思いついても制御しきれないんじゃないかな〜。私もこの身体じゃまだ妖精ちゃんの魔力制御の加護にコンセントレーション入れてようやっとだよ。ちなみに、天地からの口伝だから、何したのかは私からは秘密ね」
口伝っていうのは、オリジナルスキルシステムで作ったスキルに対して設定可能な公開範囲設定の一つ、スキル作成者本人からだけ他人に教えられる設定だね。
オリジナルスキルの公開範囲設定は全部で四段階あって、前提となる取得条件を設定して正式にスキルツリーに組み込んで誰でも取得可能にする「公開」と、自身を含むスキルを取得した人から人伝にだけ取得させることができる「伝承」、作成者自身のみが他人に教えることができる「口伝」、作成者以外非公開の「秘奥」の四つから自由に設定できる。
ただ、当たり前の話だけど、この公開設定の段階を後から下げることはできても、上げることはできない。まぁ、考えるまでもなく当然だよね、一度自ら広めちゃったものを後からやっぱ非公開、と主張したところでスキルは既に他人に伝わって広まってるんだもんね。なので、この公開範囲の設定は慎重になる人が多いとのことだ。
天地さんからのオリジナルスキルかぁ。まさか本当にワープしてるってことでもないんだろうけど、制御が難しい程の――それこそ、僕の目には瞬間移動したようにしか見えないような――超スピードが出せるスキルってことなのかな。
「それに、あなたも相当面白い存在ね、ステラ?」
『ん。そうかな』
「えぇ、実に実に興味深いわ。あまりに正確すぎる一定周期の魔力波長、それから、私たち妖精には記録されている魔法が見えるのだけど……あなたのそれは、なんというか……複雑すぎて、一妖精でしかない私では何の魔法なのかさっぱり読み取れないのだわ」
「そ、そんなにすごいものが記録されてるの?」
「精霊の視点があれば少しは理解できるかもしれないわね。ただ、相当にヤバい代物なのは間違いないわ。マイス、あなたよくこれと契約できたわね……」
フェアリーたる妖精から分派した種族と言われるピクシー族にも受け継がれているわけだから、その元である妖精も当然「魔力視」を持っている。
そんな妖精である彼女から見て「相当にヤバい代物」かぁ……。一体何が見えているのやら……。
『私の声、聞いてくれたのはマスターだけ』
「う〜ん……ステラはこう言ってるんだけど、どうして僕だったのかは僕自身よくわかってないから……サマナーになったのは、その理由を探すためでもあるんだ」
「そう。まぁ、今はひとまずいいわ。次にいきましょう」
と、話を切り上げられてしまったので、ステラについてはとりあえず置いておいて、先に進むことにする。
「しかしまぁ、改めて妖精の加護というのは凄まじいな」
「ホントにね」
「ここがアミリアの周りじゃ一番Lv高い場所の割にいまいち不人気狩場なのって、一番の理由がこのクソ地形だもんねぇ」
「そーそー。これがほとんど普段通りの感覚で歩けるって本当にすごいことよね」
「魔力制御のおかげで身体もすっごく軽いし」
なんて、加護の力を褒めれば、
「ふふん、そう思うのならも〜っと私を褒め称えてもいいのよ!」
「わーい! 妖精ちゃんすごいすご〜いっ!」
案の定調子に乗り出した大妖精の少女に、ミスティスも全力で乗っかっていく。
ミスティスが拍手までしたからか、少女の身体からふわりと信仰の光が溢れた。
「うふふっ、いい信仰ね。お礼に加護を追加してあげる」
そう言って、少女が僕たちをベールで囲うと……これは、気配探知の加護だね。しかも、前回よりも強力になっている感じがする。
「わっ! えっ、すごいすごい! 周りに何がいるか全部わかるよ!」
「え〜、何これ! なんか新感覚〜」
「気配探知か、有り難い」
「これ、前より効果が上がってるよね、ありがとう」
「えぇ、どういたしましてなのだわ。みんなのおかげであの時より力も増しているもの。今度はハンターディアーなんかに遅れは取らないわ」
前回はハンターディアーに探知をすり抜けられてマリーさんの椰子の木に助けられたもんね。今回は本人もこう言ってるし、実際明らかに前回よりも加護が強いと感じられるぐらいには力も上がってるみたいだから、きっと大丈夫だと思う。
「ふむ、契約前であってもこれほどの力を発揮するとは。妖精の加護、か……。僕も次はサマナーもありだな……いや、僕がやるのであればソーサラーの方が戦闘スタイルにも性にも合っているかな」
オグ君がそう今後の展望を口にしたところで、
「キキキッ」
「キキャーッ!」
気配探知に早速引っかかってくる大量の反応。
案の定、カスフィモンキーだね。
「おっ、出たなー!」
「今回の依頼対象だ、狩らせてもらうぞ」
そういえば、今回取ってきた依頼にカスフィモンキーの尻尾5本があったね。
オグ君の言う通り、パパっと返り討ちにして素材をゲットしてしまおう。
「ウキーーーッ!!」
全周を包囲して一斉に飛びかかってくるカスフィモンキーたち。
まぁとは言え、今更僕たちの敵でもないね。僕はステラと二人同時のチェインライトニングで、オグ君は今ではすっかり最大の5連鎖までできるようになっているチェインアローで、ミスティスはウェイブエッジの光波と飛び交うソードゴーレムたちで、おまけにツキナさんもサブマシンガンの斉射で加わって、飛びかかってきた奴も、樹上から投げつけられた木の実の礫の援護射撃も逃さず全て迎撃する。
「ウキャキッ!?」
「ホヒヒーーーッ!?」
「ゥホキキーーー!!!」
かなりの数で飛びかかったはずが一瞬で全滅させられて、残った猿たちが浮足立つ。
すかさず逃げの一手を打とうとする猿たちだったけど、
「逃がさないよーっ!」
ミスティスが挑発を打ち鳴らす。
どうやらカスフィモンキーって他の魔物と比べても特にこの、音と魔力の共鳴波というものが苦手なようで。
「ホキャーーーーーーッ!?」
「ギャキィーーー!?!?」
全身を硬直させて耳を塞いで、逃亡の足並みを乱されてしまう。
「終わりだな」
「《チェインライトニング》!」
完全に足が止まって隙だらけの猿たちに容赦なく追撃して殲滅する。
が、その追撃が届くよりもほんの一瞬早く、
「キキャッキィッ!」
猿の一匹が、苦し紛れに礫を放つ。その礫は結局、まるで見当違いな方向へ飛んで、適当な樹にぶつかった……かと思いきや……ちょ、あの樹の気配は……!
「ちょっ、アイツ最悪っ!」
「チッ、厄介な置き土産を……!」
礫がぶつかった樹はトレントで、しかもジャイアントキラービーの群れを抱えていた。
トレントが動き出し、キラービーが一斉に飛び立つ。けど、礫を投げた猿は既にフォトンへと爆散しているわけで……となれば必然、それらのタゲが向かうのは全て残された僕たちだ。
ミスティスとオグ君が思わずといった様子で毒づくけど、
「あらら、最後にしてやられたわね、クスクスッ」
大妖精の少女はそんな状況すらも楽しむかのように悪戯っぽく笑ってみせた。
「安心なさいな。この私がついているのだから、この森の中にいる限り、あなたたちを傷つけさせはしないのだわ」
少女が飛んで、光のベールをかけてくれる。これは……新しい加護だね。
この感覚は……敵と僕たちが、なんだか魔力で繋がってる……? そのことを認識した瞬間、なんとなくその効果が直感的に理解できる。この魔力は……
「攻撃誘導か! 有り難い、感謝するぞ!」
「いいね! ありがとー妖精ちゃん!」
「いいわねこれ、銃弾でも問題なさそう。ありがとねっ」
「ありがとう、これなら!」
加護の効果を把握して、妖精の少女にお礼を言う。
「いいのよ。今日もいい信仰をもらえているもの、お返しもたっぷりしてあげるのだわ。さぁ、存分にやってしまいなさいな」
「うん!」
彼女に頷いて、魔法の構築にかかる。何を撃っても誘導してくれるというのであれば、ここで蜂を倒せる威力で、手数も一番出せるのは……
「《エアロブーメラン》!」
Lvも上がって最大の5発が出せるようになったエアロブーメランがちょうどいいね。
回転する風の刃は繋がった魔力の導線に導かれて、目論見通りに往復軌道の都度に狙いを切り替えながら、次々と蜂の群れを切り裂いていく。
「そゃ〜ぃ」
「いっけぇぇぇっ!」
ミスティスがウェイブエッジを放ち、ツキナさんもマシンガンを斉射する。
そしてオグ君は、矢筒から10本の矢をまとめて掴み取る。そんなの番えられないんじゃ?と思うけど、その手元に魔力の光が生み出されると、その光の部分を番えることで弓が引かれて、
「《スプレッドアロー》!」
10本の矢全てが拡散するように放たれる。
一度に10本の矢を放って前方扇形の範囲で最大10体を攻撃できるハンターの中距離範囲攻撃スキル、スプレッドアローだね。
射程と威力を犠牲にする代わりに弓のスキルの中では屈指と言える広範囲と同時攻撃数を誇る対複数スキルだ。だけど、まぁ察しがつく通り、一応10本の矢が重ならないように、必ず範囲内を隙間なく面制圧できるように調整されているとはいえ、それぞれの矢がどこに飛ぶかまではおおまかな制御しかできなくて、ダメージが偏ることもあるのが難点なんだけど……。
今回は妖精の加護のおかげで、10本全部がミサイルのようにきっちり別々の敵を狙って軌道を変えながら飛んでいく。
蜂たちも虫特有の小刻みな切り返しで避けようとしているけど、加護の力がかかった僕たちの攻撃はそんな程度では躱せない。
キラービーは何もさせてもらえないまま瞬く間に殲滅されて、残りはのろのろと歩いてくるトレントだけ。まぁ、それぐらいなら全員でフルボッコにして秒殺だね。
「や〜、とんだ置き土産だったよ」
「全くだな」
愚痴る二人に、僕とツキナさんも同意しかない。
「それにしても、攻撃誘導は本当に助かったわ」
「うん、すごい効果だった。ありがとう」
ツキナさんに頷いて、少女に改めてお礼を言ってあげれば、
「うふふっ、どういたしましてなのだわ」
身体から信仰の光を溢れさせながら、彼女も嬉しそうに答えるのだった。