戻る


note.166 SIDE:G

 一度は倒したかと思いきや、恐ろしいまでの再生力で復活してきた大蛇との、第二ラウンド開始だ。

「いくよっ!」

 改めて挑発をかけ直すと同時に、ミスティスが大蛇の懐へと飛び込んでいく。
 それを迎え撃たんと、大蛇の尻尾に魔力の光が宿る。

「、とぉぅ!」

 物理スキルが発動する時と同じオーラを纏った尻尾が、槍のように突き込まれる。
 ミスティスはそれを難なく回避。続く攻撃も足を止めることなく、ひらひらと舞うように躱しながら距離を詰めていく。

「シャアアアアァァッ!!」

 時に先端を槍のように、時に鞭のように、時には鱗を逆立てて卸し金のようになった尻尾で擂り潰すかのように薙ぎ払って、近づくにつれて必然的に激しくなっていく攻撃は、しかしてミスティスには当たらない。

「ひょっ! といっ、はいっ! よっ!」

 鞭のように繰り出されて、ウェイブエッジに近い衝撃波を伴った一撃を右へ回避。その移動先を読んで右、左と放たれる突きも、逆方向にステップして避ける。右へ跳んだその先に待ち構えるように大顎が迫れば、更に右へと側宙で飛び越えて、虚空に喰らいついたその頭を踏み台に、一足飛びに前方へと跳躍する。

「隙ありだ!」

 結果的に隙を晒すことになった側頭部に向けてオグ君がブラスティックアローを放つ。
 狙いすましたその一撃は、ちょうど大蛇の目を射抜いていた。

「――――――!!」

 鏃が炸裂し、視界を失った激痛と怒りで大蛇がのたうち回る。ここが攻撃チャンスだね。

「《フロストヴァイパー》!」

 僕のスキル宣言と共に氷が霧となり、三匹の蛇の姿に収束して、大蛇へと襲い掛かる。
 さすがに変温動物と言えどこの巨体が相手では凍結させるまでには至らないけど、凍らないのなら逆に、スキルの攻撃判定の回数は最大限活かしきれるということ。
 氷の蛇はまるで三匹で協力して締め上げるかの如く大蛇に絡みつき、大蛇の方も弱点であろう冷気が堪えたか、本当に締め上げられているかのように、逃げるように頭を上へ向けて苦悶の声を上げる。

「も〜らい〜っ!」

 次の瞬間には完全に肉薄していたミスティスが、ソードゴーレムを交えたツイストザッパーでその下顎をかち上げると、跳躍したその頂点で、今度は上から叩き付けるように前転で一回転。

「はゃっ!!」

 その軌道上に大きな三日月型の斬撃が生まれる。

 空中専用のブレーダースキル、クレセントスラッシュだね。
 空中で出せる中では隙が少なくて火力も十分な使いやすいスキルの一つだけど、上から叩き付ける形になる技の性質上、相手を下に撃ち落としてしまうので、空中コンボの〆に使われることの多いスキルだ。

 強烈な斬撃を喰らって、大蛇の頭も地面に叩き付けられる。
 間髪入れずに、ピアシングダイブで垂直降下して、ウルヴズファングで脳天をぶち抜いてからミスティスが離脱する。

 右目を失った上に空中コンボで弄ばれて、完全に怒り狂った大蛇が一際強く尻尾に魔力の光を灯す。

「シャァルルァァァッ!!」
「っ! 《コンセントレーション》!」

 魔力による強化を纏った尻尾が、再び僕たち全員を横薙ぎにする軌道で迫る。
 それに反応して、ミスティスはコンセントレーションの集中状態を発動すると、瞬間移動を二回使って、後方に二段階左折する機動で僕たちを守れる位置に一瞬で割り込んで、

「《エンデュランス》ッ!」

 エンデュランスでノックバックも消して、がっちりと尻尾を受け止めてみせる。

 今の連続瞬間移動の二回目……ちょうど僕の目の前を通り抜ける形になったんだけど……彼女が僕の前を通過した瞬間、「ドンッ!」という重低音と共に、何か爆発したみたいな風圧というか、衝撃波みたいなものを感じた。
 相変わらず僕のステータスではどうやってあんな瞬間移動みたいな動きになってるのか全然目で追えないんだけど、今感じた爆発は何かヒントではありそうだね。これだけじゃまだ一体どういうスキルなのかは見当がつかないけど。

 ともあれ、ミスティスがなんとか尻尾を抑え込んだそこへ更に、

「シャラァッ!」

 尻尾を拮抗させて釘付けにされた状態の側面から大蛇の顎が襲い掛かる。
 だけど、それは僕たちがさせないよ!

「《ブレイズランス》!」

 その大きく開かれた口の中に向けて、ブレイズランスを放り込んでやる。

「――――!? ゴシャアアァァッ!!」

 咄嗟に口を閉じた大蛇だったけど、一足遅かったね。
 口が閉じられたことで逆に爆風の逃げ場がなくなって、威力を逃すことなく体内でブレイズランスが炸裂。口から黒い煙を吐き出しながら大蛇が悶絶する。
 続けて、

「そこだっ!」

 爆発で跳ね上げられて無防備になった喉元を、オグ君がチャージングを乗せたスパイラルアローで穿つ。
 多段ヒットで動きが止まった隙に、今度はミスティスが肉薄して、

「てあ〜〜〜りゃっ! とぁっ!」

 ピアシングスラストで跳躍して、喉元にウルヴズファングを叩き込んでから、クロスディバイドへと連携、加えてそれにウェイブエッジを乗せることで、×字の斬撃が光波となって大蛇の喉笛を貫いて切り裂いた。

「シュゥ……ル……」

 怒涛の連撃で、ある程度再生はしていても完全な治癒ではなかった傷口が開いて、出血と共に力なく大蛇が頽れていく。

 とは言え、奴もまだ諦めたわけではないらしい。
 大蛇はとぐろの中から頭だけを出すと、首を撓ませて力を溜めて、

「シュルアァッ!!」

 これまでで一番速い、超速の咬み付きを繰り出してくる。
 僕の目じゃもう追えないぐらいの凶悪な一撃だったけど、

「《エンデュランス》!」

 ミスティスはしっかりと反応して、アッパーカットでもするみたいに上に向けた盾につっかえ棒のように咬み付かせることで、難なくその一撃を受け止めていた。

「ざ〜んねんっ♪」
「――――――!!!」

 いたずらっぽく一つ笑ったミスティスは、その状態のままにウルヴズファングを起動。射出された鉄杭が目の少し前辺りを内側から貫通し、大蛇は口を閉じることもできないままに声にならない悲鳴を上げる。

「っと」

 悶絶してデタラメに暴れ出した大蛇に、巻き込まれないようにミスティスが離脱する。
 そうして射線が開いたところに、

「《キリエ・エレイソン》!」
「これでトドメだ!」
「『《アイスパイク》』!」

 キリエが乗せられたチャージング付きのスパイラルアローと、ステラと同時のアイスパイクが突き刺さり、

「おっしま〜〜〜いっ!」

 最後に久々のメテオカッターからのイグニッションブレイク、マグナムブレイクが天高くから着弾して、大蛇は今度こそ爆風の中に光と共にフォトンへと爆散したのだった。

「いぇ〜い、しょーりっ♪」

 小躍りするミスティスと、みんなでハイタッチを交わす。と、

「おぉ〜、クラスターだぁ」

 大蛇を構成していたフォトンが一点に渦巻いて、虹色の球体を形作る。
 中ボスからもフォトンクラスターが出ることはあるんだよね。ただ、エリアボスと違ってドロップ率は100%ではないから、今回は運がよかったわけだけど。

「ん、MVP私みたい。もらうね〜?」
「うん」
「あぁ」
「おっけー」

 中ボスの場合はMVP通知はMVPを取った本人にしか表示されない。今回はミスティスだったみたいだね。
 ちなみに、取得優先権も貢献度順に一人ずつ解禁されていくエリアボスと違ってMVP取得者以外に順位はなく、MVP取得者が触れなかった場合は時間経過後に一斉に全員が取得可能になる。

 ミスティスが触れたクラスターが、その手の中に収束していく。
 これは……

「あー、両剣(ダブセ)かー」

 彼女が少し困惑したそれは、まるで二つの剣を柄頭同士で繋げたかのような、少し長めの柄の両端から刃が伸びた、特殊な形状の剣だった。いわゆる両剣――ダブルセイバーとか呼ばれるタイプの武器だね。
 デザインとしては、柄の両端は点対称になるように互い違いに配置された蛇の頭になっていて、その蛇の口からシンプルに両刃の直刀型の刃が伸びている感じだね。

「〈双蛇剣アンフィスバエナ〉……シンプルにStrとAgi+5%ずつかぁ。あ、成長武器なんだ。へぇ〜」

 成長武器というのは文字通り、装備している間持ち主と一緒に経験値を取得して、上位の段階へと成長していく武器のことだ。こういう、MVPドロップなんかのドロップ品にたま〜にあるタイプのレア装備らしい。最終段階になるまでの間は装備の更新が不要になるし、持ち主と一緒に成長していく分愛着も湧きやすいという点で、希少性はあるものの人気の高い特性なんだとか。

 アンフィスバエナって確か、身体の両端ともが頭になった東洋タイプの蛇型の竜って感じの伝説だったはずだから、この剣も成長したら今は蛇の頭の装飾が竜の頭に進化したりするんだろうか?

 ただまぁ、彼女の困惑の理由はそこではないようで。

「や〜……まぁ、確かに私の本来の戦闘スタイルに近いのはこっちなんだけど、ねぇ」
「本来? ミスティスの『本来』って弓なんじゃなかったっけ?」
「んまぁそうなんだけど、トルーパーとして近接やる時はダブセが一番近いんだよね〜」
「なるほど」
「それはいいんだけどほら、今だとダブセって正直盾に合わせづらくってさー」
「あー……」

 なるほどね。確かに、見るからに片手で扱えるという感じではなさそうだもんねぇ。盾に合わせると考えても逆側の刃がむしろ邪魔になりそうだ。
 それにしても、弓に両剣かぁ。なんだか珍しい組み合わせな気がするけど、本当に一体どういう戦闘スタイルなんだろうか……。いつか見る機会はあるのかなぁ。

「ま、せっかく成長武器だし、後で使えないか考えよっかな」

 と、ミスティスが一旦両剣をストレージにしまったところで、

「それじゃ、そろそろ進みましょう。ここまで来れば私の依代ももうすぐそこよ」
「お〜!」

 大妖精の少女が再び先導に立って、僕たちは探索を再開したのだった。


戻る