note.189 SIDE:G
「う〜……ミミズキモ〜……」
「あはは……相変わらず師匠は虫がダメですねぇ」
あのサイズのミミズはやっぱりアウトだったか、グロッキーにぶるりと身体を震わせるミスティスに、ソフォラさんも苦笑いを見せる。
「まーアイツは動きが知ってるミミズと違いすぎて途中からどーでもよくなってたけど……」
「それはそうね……」
なんて、遠い目になるミスティスとツキナさん。
まぁ……うん、結構なファンタジー生物だったよねぇ、うん。
「ま、気を取り直して次いってみよー!」
とまぁ、切り替えの早いミスティスに続いて再び巣穴を進んでいく。
そろそろかなり深くまで潜って来たはずなんだけど……。
なんて思っていたら。
「――――」
「! 今の、聞こえた!?」
ミスティスの呼びかけに全員が頷く。
幽かな音ではあったけど、今のは多分、何か大きな生き物の呼吸音……に聞こえたね……。
つまりこれは……!
「はい、いますね。きっとアイアンイーターです……!」
確信を持ったソフォラさんの言葉に、全員で頷く。
ようやく、と言うべきかな。狭くて息苦しい道のりだったけど、ようやくそうまで苦労して潜ってきた目的であるアイアンイーターの下に辿り着いたわけだね。
それはそうと、ふと疑問に思ったんだけど……
「ところで、今更だけど今回の討伐の後って、そのアイアンイーターはどうするの? 今回は倒せても、結局肉体を捨てて逃げられたらまたここに戻ってきちゃうんじゃ?」
アイアンイーターも魔物である以上、傷ついた肉体の破棄と再構築は自由にできるはずだからね。ここを塒としてしまっているなら、肉体を破棄した後に戻ってくるのは結局この場所ということになってしまわないだろうか。
「それはその通りなんですよねぇ……。でも、ここまでの道中で出てきた魔物は全て、この地域の地中に普通に棲んでいる魔物たちばかりでした。ということは、まだこのアイアンイーターは巣穴がダンジョン化する程には定住していないということです。ですので、要はこの場所が定期的に邪魔が入って棲むにはめんどくさい場所だと思わせれば、ひとまずここから追い払うことぐらいはできると思います。なので、しばらく依頼を出し続けて、集中して倒し続ければ……」
とまで言いかけたところで、
『その必要はない』
口を挟んだのはステラだった。
『私の力で封印する。私の書の中に封じてしまえば大丈夫』
「わ、そ、そんなことできるんですか!?」
『ん。任せて欲しい』
そこはかとなく自信に満ちた顔のステラのこの受け答えもそろそろ定番になってきたね。
まぁ、実際今のところ彼女がこう答えて問題が起きたこともないから信頼はしてるけども。
「それじゃあ、是非お願いします!」
ソフォラさんがペコリと頭を下げる。
どうやら、ステラの封印能力――解釈記録の初実践ということになりそうかな。
えーっと、そういえば、
「その場合、戦闘中は僕がステラと一緒に何かやらなきゃいけないのかな?」
と思ったんだけど……
『ううん、平気だよ。術式への解釈と記録は全部私がやる。だけど、私は術式の解釈に集中しなくちゃいけなくなるから、マスターたちと一緒に戦ってあげることはできなくなる。その間、みんなには私のことを護って欲しいの。
それから、生きた生物の術式への解釈は、対象の意思に抵抗される。だから、抵抗の意思を弱めるために、みんなは対象を討伐して欲しい』
「封印するのに、討伐しちゃっていいの?」
『ん。問題ない。なんなら肉体の器の抵抗力が一番強いから、魂だけの方が解釈は楽になる。遠慮なく倒して』
「わかったよ、任せて」
ということらしいから、僕たちは封印に集中するステラを護りながら、普通に奴を討伐してしまえばいいみたいだね。
そんなわけで、巣穴の奥へと向けて、ここからは慎重に歩を進めていく。
進むにつれて、最初は本当に静かに耳をすませば微かに聞こえるか、ぐらいだった音もはっきりしてきて、やがて明確に「シューーー……」といういかにも爬虫類らしい呼吸音とわかるまでになる。
そうして程なく。
「あれだ」
潜めた声でオグ君が指差した前方には、明らかに開けた空間へと繋がった出口が見えていた。
全員無言のままに、互いに頷く。
「マイス。僕らが部屋に入ると同時に、おそらく奴からは先制の一撃が飛んでくるはずだ。だが、その一撃は僕らを直接狙うよりも、戦いの間僕らの退路を断つという意味の方が大きい。軽くしゃがむだけでも簡単に回避できるから、慌てる必要はない」
「なるほど、了解だよ」
この事前情報はありがたいね。この手の初見殺しは予めわかってさえいればなんてことないもんね。
「よっし、じゃあ先手を取られる前に一気にあの部屋まで突入だよ!」
一歩前に出て剣先で部屋への出口を指したミスティスにそれぞれ答えて、部屋まで一気に駆け抜ける。
通路を抜けて、開けた先に広がっていたのは――
「これは……!」
「わぁ……!」
「きれ〜い!」
――ドーム状になった壁面中にそこかしこから色とりどりの宝石の結晶が生えて、まるで星の海の中にでもいるかのような煌びやかな空間だった。思わず、その主よりもこの光景の方に目を奪われて、周囲を見渡してしまったほど。
僕たちが通って来た通路以外にもあちこち穴が空いているのは、この部屋を拠点に色々な方向に鉱石を食べ進んでいたってことなんだろうね。
だけど、そんな余裕があったのも一瞬のこと。すぐにそんな場合ではないと思い知らされることになる。
「こいつは……待て! 何かおかしいぞ!」
オグ君に言われて、慌てて部屋の中央、そこに鎮座する主へと目を向けると、そこにいたのはとぐろを巻いて球状になった巨大な蛇の姿。……なんだけど……あれ? なんか聞いてた話とは微妙に違うような……?
全身のそこかしこに斑に赤や青の宝石の結晶が生えて……?――
「ッ!! 不味い、散開!」
とぐろの隙間の奥で、ギラリと不気味に赤い目が光った――と思った瞬間。
「わああぁぁぁっ!?」
僕たちを貫くような軌道でとぐろの中心から一筋の閃光が走った、次の瞬間、その光に沿った直線上に――巨大なレーザービーム!?
オグ君のおかげでなんとか全員散り散りに射線を回避できたけど、危なかった……!
軌道上にまだパチパチと帯電が残ってるから、雷魔法だったってことかな。
次いで、とぐろの中からこちらを睥睨するかのように現れた大蛇の頭には……目が三つ!? いや、違う。額にも第三の目かのように、赤い宝石が生えてるんだ。
「シュルルルル……」
蛇らしく舌を出しながら一つ息を吐いた大蛇は、頭を僕たちと同じ高さまで下げると、口を開いてさっきの雷ビームをチャージして……しかし、僕たちを狙わずに射線を逸らしていく。何をするのかと思えば、ビームで部屋の全周をぐるりと焼き払って、他の通路も全て出口を崩してしまう。
なるほど、僕たちの退路を完全に断ったということだね。これで、少なくとも勝負に決着をつけない限りはこの部屋から逃げることはできなくなった。
ともあれ、こちらとしてはどっちみち退く気はないし、最初の一撃で散り散りになってしまった陣形を立て直す間ができたから、むしろありがたいね。
それはいいけど、全身に宝石を纏ったこいつは……本当にアイアンイーター……?
と、疑問に思ったんだけど、
「これは……変異希少種、ジュエルイーター!?」
「えっ、何それ!?」
やっぱり違ったみたいだね。
ミスティスでも驚くぐらいだから、相当なレアものみたいだ。
「わ、私もお父さんから昔の話を聞いただけで、実際見るのは初めてです。ただ、見ての通り、魔晶鉄だけじゃなくて宝石も食べて取り込むので、強力な魔法を使うと……」
ソフォラさんがそこまで言いかけたところで、
「シュルゥ……シャラララララァッ!!」
こちらを見下すように首を擡げたジュエルイーターが、威嚇するように大口を開いて舌を震わせ息を吐く。
「チッ、詳しく詮索している余裕はないか……! 来るぞっ!」
「うん、いくよっ!」
どうやら向こうはもう僕たちに暇を与えてくれる気はなさそうだね……!
オグ君に応えてミスティスが挑発を打ち鳴らす。
さぁ、戦闘開始だね!