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note.193 SIDE:G
「次はどこから来る……!?」
「どっからでもかかっておいで~っ!」
地中へと潜ってしまった大蛇を警戒するオグ君に、余裕を見せるミスティス。
まぁ、定番はやっぱり足元を警戒かな?と思ったんだけど、掘り進む音が知らせてくる位置はそうでもないようで……?
「シャアァッ!」
壁面の一ヵ所から顔を出してきた大蛇は、そこから頭だけを出して、口を開いてビームをチャージし始める。
「させるか!」
「させませんっ!」
いち早く反応した弓手二人から、その頭目掛けて矢が射られて、チャージの妨害に成功する。
すると、
「シシャッ……!」
大蛇は頭を引っ込めて、再び地中を掘り進む音をさせ始める。
なるほど、今度は身体の宝石を壊されないように、地中から頭だけを出してもぐら叩き形式で攻めてこようとしてるってことね。
とは言え、地中を掘る音で次に頭を出す場所は大体の予想がつくし、ビームにもチャージの間がある。これなら次は僕にも反応する余裕はあるかな、なんて考えていたら……
「フフン、バカね。そこは私の領域よ!」
音がする方向へ進み出たのはリーフィーだった。
「シャアァッ!」
頭を出してきた大蛇に向けて、リーフィーが両手を向ける。
「お見舞いしてあげるっ!」
「ギシャアアアァァアアァァァァァアッ!?」
彼女の足元に魔法陣が展開されると、蛇の身体全体を巻き込みながら複数の根っこが絡まるように生えてきて、絡みつきながら成長していくことで、蛇の身体を締め上げつつ地中から蛇を無理やり引き摺り出してしまう。
おぉ、このまましばらくはもぐら叩きのいたちごっこ状態かと思ってたから、これは助かったね。
それに、全身を絞り上げたおかげで宝石もかなりの数が割れたみたいで、バフもデバフも大半が消滅して、残っているのはMinのデバフとVitとDexのバフだけになっている。さすがはリーフィー!
「おぉ~、ナイス、リーフィー!」
「ありがとう、助かったよ、リーフィー」
「ま、こんなものね」
一仕事終わったとでもいうようなドヤ顔でリーフィーが僕の下に戻ってくる。
一気に大ダメージを喰らって大蛇もまたダウンしているようだし、残っている宝石ももうかなり少ない。このまま畳み掛けよう。
「よ~っし、そろそろ全力でいくよーっ!」
「加護もかけ直してあげるわね」
「ありがと~!」
感覚のズレを理由に一旦消してもらっていたDexバフも改めてかけ直してもらって、ミスティスももう全力で動けるみたいだね。
「《チェインライトニング》!」
「てぇ~~~あっ!」
僕のチェインライトニングに続いて、蛇の身体に飛び乗ったミスティスが、その体表を駆け抜けながら目に付く宝石を両剣で片っ端から叩き割っていく。
「終わらせるぞ!」
「これでっ!」
側面からも、オグ君はチェインアロー、ソフォラさんは、マルチロックが可能になったホーミングアローの上位版のハンタースキル、マルチアローで残る宝石を砕いていく。
ダウンから戻った蛇も、そろそろなりふり構わないってことか、今までほとんど使ってこなかった尻尾での物理攻撃なんかも織り交ぜてくるようになってきたね。
だけど、それももはや悪足掻きにすぎない。
今や大蛇の方はバフもデバフもほぼなくなって、逆に僕たちにはリーフィーのかけてくれた加護のバフだけが残って大幅に強化された状態。完全に最初と立場が逆転しちゃったね。
そしてついに、全ての宝石が砕けて、最後まで残っていた大蛇のVitバフも消滅する。
「シャアアアァァァァッ……!」
蛇自身もすっかり満身創痍と言っていい様相だ。
「さっ、そろそろ〆るよっ!」
そう宣言して、ミスティスが飛び込む構えを見せた……んだけど……
「今度はなんだ!?」
突然、ガラガラと何かが地中を掘り進んでくる音と共に、部屋全体が地震のように揺れる。
何がくるのか、僕たちが身構えたところで、
「!?」
部屋の中央の地面を突き破って現れたのは……巨大な白蛇!? いや、違う。よく見れば、その体表は白というよりは青を帯びた灰白色の、鈍い金属光沢を放っている。
灰蛇はジュエルイーターの真下から飛び出すと同時にその首筋に喰らいつき、そのまま天井から生えた宝石の結晶の一つにジュエルイーターの頭を叩きつけると、吐き捨てるように口を放して地面への落下でおまけとばかりの追撃を入れる。
既に半ば死に掛けだったところにトドメを刺されて虫の息になったジュエルイーターを灰蛇が見下す。
「こいつは……!」
「元々あっちのダンジョンに棲んでいる方のアイアンイーターか!」
「だと思います。おそらく、あの強力な補助魔法のせいで今まで手が出せずにいたのを、私たちの戦闘で術式が消滅したのを感じ取って襲撃に来たんじゃないでしょうか」
「うへ~……じゃあこっから連戦……?」
ミスティスの心配は僕も考えたところだったけど……そう思った矢先、アイアンイーターは僕たちのことなどまるで存在していないかのように見向きもせず、再び地面を掘って去っていってしまった。
地中を掘り進む振動が完全に感じられなくなるまでしばらく一応は警戒してたんだけど、結局それっきり、辺りは静まり返る。本当にただジュエルイーターに一矢報いるためだけに来た、ということなのかな……?
ともあれ、結果的には無傷の僕たちに対して、もう生きてるのが不思議なぐらいボロボロになったジュエルイーターだけが残された状態だ。
だけど、それでも尚ジュエルイーターは戦いを諦めていなかったらしい。
「フ……シ…………」
息も絶え絶えになりながら、もはや口を開く余裕すらもないのに、半分以上割れかけの額の宝石にそれでも魔力を集めようとする。
ほとんど消えかけで弱々しく明滅しながらも、額にはじりじりと魔法陣が描かれていく。
敵ながら見事な執念と言うより他ないね。
とは言え、最後まで見届けてやる義理もないよね。
トドメの一撃を入れてやろうと構えようとして――
「もう、終わりにしましょう」
――一歩前へと進み出たのはソフォラさんだった。
左足を前に、肩幅より僅かに広く踏み出して、右足を後ろに引いて身体を横に、腕を真っ直ぐに伸ばした頭上で矢を番えて、体を開きながら腕を下ろして弓を引く。これが、あるべき本来の型でのシャープシューティングの発動モーション。
弓が引かれると同時に、弓矢全体が後ろに尾を引いて流れる魔力の光を纏っていく。
弓が完全に引き絞られて――瞬間、ピタリと、全ての時間が静止した。
「会!」
「パァン!」という音速の壁を超えた音と、それを示す円錐形の衝撃波が広がり、もはや矢というよりは銃弾と聞き間違うかのような鋭い発射音と共に弓が裏返り、閃光が迸る。
光芒は一分のズレもなく正確に大蛇の額の一点を貫いて、パキンと音を立てて今度こそ完全に宝石が砕かれる。
「……――!!」
着弾の衝撃で仰け反らされて、大蛇の頭が地に伏せる。
構築途中だった魔法陣も、しかしそこには魔力暴発を起こすだけの魔力すら充填できてはいなかったらしい。魔法陣は宙に揺らいで、薄れていくように消えてしまった。
直後、油断なく残心の構えを取るソフォラさんの前で、ジュエルイーターの巨大な全身が真っ白く光に包まれて、ガラスが割れるように爆散してフォトンへと還元されていく。
これで終わった、かな……。
部屋の中央で、散りかけたフォトンが渦を巻いて、フォトンクラスターへと収束していく。
ここまでは見慣れたボス戦後の光景だったけど……今回は、加えてもう一つ。
「術式解釈:完了。術式生成――」
部屋の全域を埋め尽くす巨大な魔法陣が展開されて、その外周円から魔力でできた鎖が次々と撃ち出される。
すると、部屋の中央に倒したはずのジュエルイーターの輪郭だけが淡く光って浮かび上がり、かと思えば、その輪郭はたちまち魔法陣からの鎖で拘束されていく。
「――――!?!?」
何やら驚きと、慌てたような様子で大蛇の輪郭が暴れようとするけど、鎖の拘束は相当強力らしい。魔法陣が段々と縮まっていくのに合わせて、ほとんど抵抗することすらできないまま、輪郭は地面に……というよりは、魔法陣に呑み込まれていく。
そうして、見る間に大蛇の輪郭は魔法陣の中に沈みきってしまい、魔法陣もそのまま収縮しきって消滅していった。
「――完了。実行術式変換:完了。《自動筆記:解釈記録》全行程完了。《自己複製演算》処理終了」
ステラの宣言を最後に、彼女の人間体の方がフォトンへと還り、本の方の彼女が僕の手元に帰ってくる。
それと同時に、僕のシステムログにはジュエルイーターの召喚と、ジュエルイーターの固有スキルらしいいくつかの魔法を取得した通知が流れる。
これで封印も完了ということかな。