note.001 SIDE:G

 辺り一帯に広がる草原地帯。
 ガサガサと、その一画を揺らしながらこちらに迫ってくる気配へ向けて、僕は魔法を詠唱する。

「炎の矢よ!」

 本来の詠唱文からは大幅に省略された短縮詠唱。
 詠唱はこの世界の魔法の要である魔術回路を構築するための、指示書のようなものだ。
 それを省略するということはつまり、魔術回路も中途半端にしか構築されないことになる。
 だけど、省略した部分の魔力をどう制御すればいいかは、これまでの経験から、とっくに身体で覚えている。
 僕の魔力制御に従って、背後の中空に炎の塊が生まれる。
 その熱量を背中に感じたのと、こちらに向かってきていた気配が草叢から大きく飛び上がって姿を見せたのは、ほとんど同時だった。

 飛び出してきたのは一角ウサギという、名前そのままに、額に一本の角が生えた灰色のウサギ。
 僕が一度先制して魔法による攻撃を加えていたから、既に手負いだ。
 詠唱の完了とともに右手の杖を一振りすれば、背後に生まれた炎がひと際燃え上がり、五つに分裂する。
 五つの炎は、僕自身を避けるように一旦広がる軌道を取ると、赤く軌跡をたなびかせながら空中の一角ウサギへと一直線に殺到した。
 火属性の初級魔法、ファイヤーボルトは、炎の矢を生み出して対象を射抜くという、まぁこの手のファンタジー世界ならありがちだろう、定番の魔法だ。

「ギピッ!」

 狙い違わず五つの炎弾が全て直撃し、吹き飛ばされた一角ウサギは、小さな悲鳴を最後に動かなくなる。
 これで一息つけるか、と油断した瞬間だった。
 右手から、再びガサガサと草叢を掻き分けてくる気配。
 ハッとしてそちらに振り向いた瞬間には、既にもう一匹の一角ウサギがこちらに向かって飛び跳ねたところだった。

「うわっ!?」

 詠唱反応、という特性を忘れていた……。
 魔力で獲物を探したり、魔力そのものを糧として生きるタイプの魔物は、自分の知覚できる範囲内で魔法の発動のような明確な魔力の流れを見つけると、獲物と見做して襲いかかってくるんだった。
 知覚範囲内にもう一匹潜んでいたらしいことに気がつかなかった。

 一角ウサギの攻撃パターンは至って単純だ。
 ジャンプ力を使った、噛みつきか角による突進か。
 どちらにしろ、ジャンプして真っ直ぐ飛び込んでくるだけの直線的なものだ。
 どうやら、今回は噛みつきだったらしい。
 咄嗟に庇って出した右腕に、二本並んだ一角ウサギの前歯が、着ていたローブの袖を破って鋭く食い込んだ。

「……ッ!」

 その痛みに思わず顔をしかめてしまう。
 けれど、痛み自体は見た目の傷の深さに比べればそれほどでもなかったりするんだよね。
 ともかく痛みを一旦無視して、右腕に深く噛みついたまま離れない一角ウサギをとりあえず引き剥がすために、ぐるんと勢いをつけて一回転。
 遠心力を使って、砲丸投げでもするように思いっきりぶん投げてやる。
 意図した通りに、一角ウサギが大きく振り飛ばされる。
 噛みつかれた腕の肉も少し持っていかれたけど、その痛みを気にしている暇はない。

「氷の轍よ!」

 手早く短縮詠唱で、直線状に地面から無数の氷の槍を生み出す初級魔法のフロストスパイクを発動させる。
 この魔法の一番のポイントは、発生する氷の槍が、指定した直線方向――つまり、術者から敵を遠ざける方向に向かって傾いて発生する、ということ。
 これに巻き込まれた敵は、槍に突き上げられて吹き飛ばされたその先に先回りするようにまた槍が生えて……と、連鎖的な追撃の多段ヒットによって、強制的に最大射程距離までノックバックさせられることになるんだよね。
 飛行タイプの敵やエリアボスクラスの巨大な敵でもなければ、ほとんど大半の相手はこの魔法で強制的に間合いをリセットすることができる上に、発生した氷の槍は単純に遮蔽物として、ある程度の遠距離攻撃も防いでくれるから、必然的に詠唱の必要な魔法による遠距離攻撃が基本のマジシャンにとっては、防御の要と言われるほど重宝する魔法だ。
 狙い通りにフロストスパイクの一段目が一角ウサギを弾き飛ばすのを確認しつつ、追撃のための詠唱に取り掛かる。

「燃ゆる炎よ、矢と成せ射抜け。ファイヤーボルト!」

 今度は短縮せずに、最後まで詠唱してファイヤーボルトを発動。
 背後に再び大きな熱量が生まれ、さっきの倍、十発の火の弾となって一角ウサギに向けられる。
 Lv10はファイヤーボルトの最大Lvだ。
 もう少し僕自身のLvが上がれば、この程度の初級魔法ならLv10でも短縮どころか無詠唱が可能なんだけど……今の僕で短縮詠唱で済ませられるのはLv5までが限界になる。
 フロストスパイクの最後の氷槍が一角ウサギを吹き飛ばす。
 まだ空中にあるその小さな身体を、絡め取り焼き尽くすごとく十発の炎弾が襲いかかった。

「ギィィィィ……」

 黒焦げになった一角ウサギは地面に落ちると、ガラス細工のように砕け散り、即座に光の粒子へと変換されて蒸発していった。
 この光の粒子は「フォトン」と呼ばれていて、この世界の素粒子のようなものである「エーテル」というエネルギーが、濃縮されて物質を構成できるようになった状態のものだそうだ。
 肉体が過度のダメージを受けることで、魂の自己防衛本能が傷を負った肉体を放棄すると、残された肉体は今のように、フォトンに還元されて消滅する、ということらしい。

 ――というのが、世界観的な説明として語られているけど……まぁ、要するにご都合主義のお約束というやつだよね。
 そう、この世界は現実ではない。
 VRMMORPG「ホーリークロステイル」(HXT)の仮想空間の中なのだ。
 先ほど一角ウサギに噛みつかれて抉られた傷の痛みが、僕でも無視できる程度に収まっているのも、これがゲームであるからに他ならない。

 もう一度周囲を警戒して、詠唱に反応した敵がこれ以上いないことを確認した僕は、今度こそ、ふぅ、と大きく一息ついた。
 傷の治療の前に、ドロップ品としてまるごと残されていた、先に倒した方の一角ウサギの死体を回収する。
 火属性魔法を使ってしまったから、毛皮は丸焦げで使い物にならないだろうけど、肉は食用にできるし、角は錬金術の触媒になったりするので、街に戻ってから売却すれば、多少の懐の足しにはなるだろう。

 こっちの一角ウサギが、二匹目のようにフォトンに還元されなかったのは、世界観的な説明だと、魂と自己の認識だとかっていう哲学的な話になるらしい。
 詳しいことは知らないけど、肉体を放棄する時に、「自己」と認識された部分は魂と共にフォトンに還元されるが、肉体の傷ついた部分が、もはや「自己」ではない、として切り捨てられると、単なる「物」としてその場に残される、とのことだ。
 そうして肉体を棄てて逃げた魂はどうするのかというと、安全な場所で周囲のエーテルから肉体を再構築して復活――ゲーム的に言えばリポップする、ということらしい。
 なんというか、なんとも上手いことこじつけてあるな、とは思う。

 回収した死体をストレージに放り込むと、その場で適当に腰を下ろして、先ほどの傷口を確認する。
 一角ウサギの歯形の形に大きく抉られた傷口は、一番深いところでは骨が見えるぐらいに達していたようだ。
 何の処置も施していないため、当然ながらこうして見ている間にもダラダラと血が流れ続けている。
 
 こんな傷、リアルだったらのたうち回って動けないようなレベルだろう。
 けど、今実際に感じている痛みは、せいぜい思いっきり転んで派手に擦りむいちゃったかな、ぐらいなんだよね。
 まぁ、痛みまで忠実に再現されていたら、プレイヤーが死ぬことも普通にあるこのゲームじゃ大惨事どころじゃないから、そこら辺はやっぱりゲームはゲームってところかな。

 ……と、それはそれとして、我慢できる程度でも痛いものは痛いし、出血によって今もHPはじわじわと減り続けているわけで。
 腰に提げたポーチから、ポーションを取り出して、傷口にかける。
 すると、消毒薬のような沁みる感覚と、水が蒸発するような、シュワッっという音と共に、傷口に触れた液体がフォトンへと変換されて、傷を覆い隠していく。
 傷口に沿って薄く覆う程度だった光の粒子は見る間に盛り上がって傷を塞いでいき、光が全て消えると、破られた服まで含めて何事もなかったように綺麗に元通りに治っていた。
 一応、跡形もなく塞がってしまった袖をまくって確認してみるが、服同様に腕自体も、傷跡一つなく、元通りの滑らかな肌を取り戻していた。
 軽くさすったりしてみても、違和感はない。
 視界の左上隅に意識を向ければ、常に表示されているHPとSPを示す上下2色に分かれたステータスバーの内、HPを表す上側の緑色のバーも全快まで回復している。
 そのことを確認したところで、余ったポーションを一息に飲み干して、少し渇きを覚えていた喉を潤す。
 身体にエーテルが満ちる感覚と共に、わずかながら感じていた肉体的な疲労感が引いていくのが自覚できた。

 この世界のポーションは、エーテルが大量に溶かしこまれた水薬だ。
 傷口に触れさせることで、含まれたエーテルが魂に反応してフォトンとなり、肉体を再構築――ゲーム的にはHPを回復してくれる。
 都合よく破れた服まで修復できるのは、これもまた魂と自己の認識が関係している。
 というのも、僕たち人間の「自己」の認識には、着ている服や装備品といったものまで含まれているらしい。
 このおかげで、アイテムであれ回復魔法であれ、傷を癒せば同時に負った服の破れや解れなんかもまとめて回復するし、死亡や復活も衣服や装備品ごと行われるから、衣服だけ残されて素っ裸で復活、のようなことにはならないようになっている。
 これもまぁ、ゲーム的にはご都合主義ってやつだよね。
 そして、飲料として飲むことで、肉体的な疲労も回復してくれる。
 HPやSPと違って数値化されているわけではないが、感覚的にはスタミナが回復する、と言えばいいだろうか。

 ただ、それでも――と、思うことがある。
 こうして少し思い返すだけでも、ゲーム的なご都合主義設定がいくつも散りばめられていることは、間違いなく事実だ。
 そもそも僕自身、今まさに、自宅の自室から、バイザー型インターフェース「ゼウスギア」を通してこの世界にログインしているわけで、規定の操作に従ってログアウトのコマンドを選択すれば、すぐにこの意識は自室のベッドの上でバイザーを被っているリアルの自分の身体へと引き戻されるはずだ。
 しかし、それらの事実を差し引いても、この世界は、なんというか……現実感がありすぎる、とでも表現するべきだろうか。
 何が違うのか、明確に答えることはできないが……この世界と現実の世界中に張り巡らされた仮想空間とは、何かが違うのだ。
 そんな、奇妙な「ずれ」のような感覚を、僕は以前から、このゲームの中の世界に抱いている。

 なんとなく全身を脱力させて、その場に大の字で寝転がりながら、僕の意識は再び思考の底へ沈んでいく。
 こうして寝転がってみれば、視界に拡がるのはリアルのそれよりもずっと澄み渡った、突き抜けるような空の青。
 手をかざせば、陽射しを受けて手指の末端にわずかに透ける血の色。
 背中側に意識を向ければ、頭髪や衣服越しにチクチクと心地よく刺さる草の感触。
 どこからか聞こえる小鳥たちの歌声と共に、不意に吹き抜けた柔らかな風が頬を撫でれば、瑞々しい草花の匂いが鼻腔をくすぐる。
 それらのどれ一つ取っても、僕にはリアルとの区別がつけられない。
 現在の仮想空間技術は人間の五感を完璧に再現しているのだから当然だ、と笑われるかもしれないが、僕の感覚では、リアルの仮想空間と本物の現実の間には、何か決定的な差があるように思えるのだ。
 これも何が違うのか明確な答えは出せない、曖昧な感覚ではあるんだけど。

 ――と……そこまで考えたところで、サクサクと草を踏み分けて近づいてくる足音に気が付いた。
 これは明らかに人間の足音だ。
 誰だろう。と、上体を起こしかけたところで、

「そこっ!」
「わぁ!?」
「ひゃぅ!?」

 鼻先に剣の切先が突き付けられて、思わず悲鳴を上げて後ずさってしまった。
 と思えば、その剣の持ち主も、こちらの反応に驚いたようで、たじろぎながらも剣を引いたようだった。

「ごっ、ごめんね! まさか人がいるだなんて思わなかったから!」
「いや、その、こんなところで寝てた僕も僕ですし…」

 バツが悪そうに平謝りしてきたのは、僕と同い年ぐらいに見える少女だった。
 肩に触れない程度のショートカットに切られた、明るいピンク色の髪に、利発で好奇心旺盛といった印象を受ける、わずかに釣り気味の同じ色の瞳。
 服装は、このLv帯では平均的と言える、革鎧と鉄製の胸当てと籠手の簡易な防具に、左腰に剣を携えた剣士スタイルだ。
 イメージカラーなのか、鎧の下に着こんだ長袖の上着や動きやすさ優先の短めのスカートも、ところどころに白や黒をワンポイントに使いつつ、全体的に淡いピンク色で統一されていた。
 こんなに鮮やかな髪と目の色はさすがにこの世界でも珍しいので、おそらくはNPCではなくプレイヤーだろう。

「あはっ。でも、気持ちはわかるよー。ここら辺はMobの密度もそんなじゃないし、今日みたいに晴れてると気持ちいいもんねー。あ、隣いい?」
「えっ、あ、ど、どうぞ……」
「ありがとー、えへへ」

 周囲を確かめるようにキョロキョロと見回していたかと思えば、何か勝手に納得したらしく、うんうんと頷いてからの、唐突な申し出。
 思わずOKしてしまったけど……距離感が近い近いっ!
 さらに少女は、僕の恰好を一通り見回して、内心ドギマギしっぱなしのこちらの心境などお構いなしに言葉を続けていく。

「ふむふむ……見た感じ、マジシャン? だよね? ソロ中かな?」
「えぇ、まぁ……。えっと、その……」

 なんというか、第一印象通り、グイグイくる人だなぁ……。
 そもそも人と会話することからして苦手なのに、女の子相手で、しかも向こうからこうも遠慮なく近寄られるなんて……正直、どうしたらいいのやら……。

 思わず一瞬身を引きそうになってしまったけど、でも……と思い直す。
 僕がこのゲームを始めた理由は、元はと言えば、半分はこの人見知りを治したいからだったじゃないか。
 まぁ、もう半分は単にゲームとして面白そうだったからだし、結局、これまで自分から誰かに話しかける勇気は持てないまま、ズルズルとソロを続けてきちゃったわけだけどさ。
 それに、僕自身も今ようやく自覚したんだけど――ここまでのやり取りを果たして「会話」と呼んでいいかは微妙だが――どうやら僕は、自分で思っていたよりは、「誰かと喋る」ということ自体は好きらしい。
 ただ、初対面の相手になると、自分から会話を始める切欠が掴みきれずに、なんとなく人の輪から外れていってしまうのだ。
 しかし今回は、相手の方から踏み込みにきてくれているのだ。
 その相手が女の子であることには、まだ少し……いや、かなり気後れしている部分はあるけど……ここはなんとか乗り切らなくては、それこそ一生この人見知りは克服できない予感がする……。

 そんな僕の一瞬の葛藤を知ってか知らずか、少女は何かに得心したように、ポンと手を打った。

「あぁ、そっかそっか。ごめんごめん、名前まだ言ってなかったじゃん。私はミスティス! よろしくね!」
「えっと、マイス、と言います。その、よろしくお願いします……」

 名乗りと一緒に、自然に差し出された彼女の手を、こちらも名乗りつつおずおずと握り返す。
 すると、手は握ったまま、彼女は顔をしかめて、

「むー、かた〜い! 敬語なしで! もっかい!」

 と、ずいっと身を乗り出しながら迫ってくる。
 う〜ん……まぁ、こうまで言われたら、素直に従うしかないよね。

「えーっと……よろしく、ミスティス……さん」

 と、なんとか言えたものの、彼女はまだ不満そうで、

「むむぅ……さん付けもなんか落ち着かな〜い。……けど、とりま今はいっか。うん、じゃ、改めてよろしくねっ」

 ようやく、一応は納得してくれたらしく、笑顔でもう一度握手を握り返された。
 僕も、内心でほっと胸をなでおろす。
 本人に悪気はないのはわかるんだけど……僕としては、慣れるまでしばらくかかりそうだなぁ。

「あ、それで、マイスはここでー……ソロ狩?」
「あー……うん、そんなところで……そんなところ、かな」

 思わず敬語が出そうになったところで、ミスティスさんが頬を膨らませたのを見て、慌てて言い直す。
 やっぱりまだ慣れないなぁ……。
 けど、そんな僕の胸中にはお構いなしとばかりに、彼女は目を輝かせた。

「おぉー。ここにソロで来るってことは、Lvは?」
「47だけど……」
「おぉぉー。いいねいいねっ。私が今48だから、大体一緒ぐらいだー」

 また何やら勝手に納得したように、うんうんと頷くミスティスさんは、こちらに向かってパッと顔を輝かせる。

「よしよし、それじゃ、私とパーティー組もっか!」

 うん、なんとなく予想がつくようになってきたとは言え、何がよしよしで何がそれじゃあなのかはさっぱりわからなかった。

「え、えぇ!? えっと、それはつまり……君と、僕で?」
「今この場には私とマイスしかいないんだから、当たり前でしょ。いやー、私もいい加減ちょっとソロには限界感じてたから、ちょうど後衛役が欲しかったのよね〜」

 と、また一人で納得した様子のミスティスさん。
 う〜ん……その申し出は嬉しいけど……。

「えーっと、僕まだパーティーとか組んだことなくて……」
「あー、もしかしてソロ専だった? ごめんね?」
「あぁ、いやいや、そういうことじゃなくて……。その、僕はまだ、このゲーム始めてそんなに長くないから……」

 一足飛びでズレた結論を出そうとしたミスティスさんだったけど、僕がそこまで訂正したところで、ようやく察してくれたようだ。

「おぉー、なるほどなるほど。初心者さんだったんだねー」
「うん、だから正直、パーティー以前にソロの基本もまだ覚束ないというか……多分、僕じゃ組んでも足引っ張っちゃうんじゃないかな……」

 僕の一番の懸念はそこだったんだけど……彼女はどうやら気にした様子もないようだった。
 むしろ笑顔を向けて、

「ふふ〜ん、心配ないよ〜! 実はね、私はこれ、2ndキャラなんだよねー。だからむしろ、初心者ジョートー! 私が基礎から教えてあげちゃうから、おねーさんに任せなさ〜い、えっへん」

 と、オーバーリアクション気味にふんぞり返って、拳で胸元を叩いてみせた。
 突然おねーさんなんて言ってるけど、見た感じ僕と同い年じゃないかなぁ……という無粋なツッコミは一旦置いておこう……。
 それはともかく、なんとなく、こういうゲームには慣れてるんだろうなーって雰囲気はあったけど、2キャラ目を作るほどやりこんでた人だったとは。
 そういうことなら、ここは有難く、お言葉に甘えさせてもらっておくのがいいのかな。
 HXT(ホーリークロステイル)はリリースからそれなりに経っているゲームだから、情報サイトなんかの類も既に充実してて、必要な情報の大体は探せばすぐに出てくるものではあるんだけど……。
 それでも、経験者から直接教えてもらえる機会というのは貴重であることには違いないよね。
 それに、人との会話に慣れるっていう、個人的な目標にも合っているわけだし。
 ここは素直に、彼女の厚意を受け取らせてもらおうっと。

「それじゃあ……よろしくお願いします」

 と、頭を下げれば、

「ふっふ〜ん、まっかせなさ〜い♪」

 と、自信満々の答えが返ってくる。
 問題は……こう言っちゃ失礼だけど、ここまで話した感じからして、ミスティスさんって人に何か教えるとかってあんまり上手そうには見えないよね……。
 なんだろう、ちょっと別の意味で不安になってきたかも……。

「さ、そうと決まれば、早速……はいっ、要請飛んだ?」
「うん、大丈夫」

 ミスティスさんから送られてきたパーティー加入要請を承諾すると、視界の左上でステータスバーが二段に増える。
 増えた二段目の、自分のものより一回り小さなバーの上には「MISTIS」というキャラ名と、左側にはパーティーリーダーを表す星のマークがついていた。
 彼女の側でも、僕がパーティーに加入できたことを確認したようで、うん、と一つ頷いた。

「おっけー。それじゃ、ちょっと場所変えよっか。ここじゃ2人で狩るにはMobが少なすぎるし、せっかく初めてのパーティーなら、もっとパーティーらしいことしたいもんねっ」

 ニコッと笑顔でそう言うと、ミスティスさんは僕の返答を聞く前にスタスタと歩き始めてしまう。
 慌ててその後を追いつつ、一応聞いてみる。

「えっと、場所を変えるって、どこへ?」
「まぁまぁ、いいからおねーさんに全部任せなさい♪」

 う〜ん……本当に大丈夫かなぁ……?


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