note.024 SIDE:G

「ふぅっ」

 息を吐きながら、立ち上がって剣を一払いしてから盾の裏につけた鞘に納めるミスティス。
 マグナムブレイクからの流れるような一連の所作に、思わず見惚れて拍手をしてしまっていた僕に、

「オーゲサだなぁ、もう……あ」

 なんて頬を掻きながら照れくさそうに言いつつも、満更でもなさそうに僕に振り向いたミスティスだったけど、そこで何かに気付いたようで、その視線はすぐに僕から外れる。
 釣られて僕もそちらを振り向けば、ゴブリンライダーが最後に立っていた場所で、普通であればすぐにエーテルに還元されて消滅するはずのフォトンが、ぎゅるりと一点で渦を巻いて、再び何か形を取ろうとしているようだった。
 一瞬、まさかまだ戦闘が続くのかと警戒しそうになったけど、どうも第2形態とかそういう事でもなさそうで、とりあえずは成り行きを見守ることにする。

 そうして見ている間にもゴブリンライダーを構築していたフォトンは一点に収束し続け、そこに現れたのは虹色に光り輝いて宙に浮かぶ不思議な球体だった。
 同時に、Lvアップの時とは違ったファンファーレが流れて、「ボス討伐おめでとうございます! MVPは MISTIS さんです。スコア : ―― あなたのスコア : ――」というシステムメッセージが表示される。

「おぉ〜、MVPドロップだ〜♪」
「これがドロップ……?」
「あぁ、マイスはフォトンクラスターを見るのは初めてか」

 謎の球体にはしゃぐミスティスに、疑問を口にすれば、オグ君が答えて補足してくれる。

「これがこのゲームの、まぁ所謂『何故かダンジョンに置いてあったり何故かボスを倒すと落っことすふしぎなたからばこ』って奴さ」
「あー……な、なるほど」

 実にわかりやすい説明だね。
 フォトンクラスター……名前を聞けば、そう言えば情報サイトを流し読みしてた中にも記述があった気がする。
 世界観的な設定だと、所謂ボスや上位個体と呼ばれるような強い力を持った個体が倒された時に、その強力な残留思念によって、エーテルに還元されるはずのフォトンがフォトンのまま押し留められて発生する……とかだったかな?
 ダンジョン内で局所的に「エーテル溜まり」みたいな場所があると自然発生することもあるらしい。
 普通のフォトンは外側に拡散する方向に指向性がついているために白く光って、時間と共に発散してエーテルに還ってしまうけど、フォトンクラスターはこの「指向性」が定まっていないために、虹色に光りながらフォトンのまま留まり続ける。
 そして、その「指向性」の方向を決定づけるもの≒何らかの意思を持つものが触れることで、その意思に沿って形を成して、ランダムにアイテムを生成する、ということらしい。
 ランダムとは言え、基本的には触れたものの意思に沿うから、ある程度その人のジョブや個人的志向に合うものが選ばれやすいようで。
 特に、ボスが生成したクラスターの場合は、ボスの残留思念によって、誰の意に沿うか、というところから優先順位が着くらしく、この優先順位を決定するのが、このゲームにおけるMVP選定システムになってるみたいだね。
 触らずに時間がたてば、優先順位2位以下の人も順に触れるようになっていくみたいだけど、今回はミスティスがMVPだったから、今時点では彼女以外は触れても反応しないはずだ。

「MVPだったし、私がもらうね〜?」
「うん」
「おっけー」
「そうするといい」

 特に異論もなく、ミスティスが球体に触れると、フォトンクラスターはパッと見慣れた白いフォトンに弾けて、彼女の右手に向けて収束していく。
 どんなアイテムになるんだろう?

 収束したフォトンは、最初は球体のまま大きくなっていくばかりで、どんな形になるかも予測がつかなかったけど、全てが収束しきった途端、一気にふにゃりと形を変えると、もう一度勢いよくフォトンが弾けて、その姿を露わにした。

「これは……」
「おぉ〜、盾だー!」

 ミスティスがテンション高めにこちらに向けて掲げてみせてくれたそれは、狼の顔をモチーフに模ったらしい銀灰色の盾だった。
 大きさとしては、彼女が今使っている盾よりも二回り程は大きいように見える。
 構えればミスティスの胴体部分はすっぽり覆えてしまうぐらいの大きさはあるみたいで、多分基本職であるソーディアン時点で扱える盾としてはほぼ最大クラスと言ってしまっていいんじゃないかと思う。
 まぁ、ミスティスが元々どっちかと言うと小柄って部分も大きく見える原因かもしれないけど。

「うへ〜、ちょっと重た〜……」

 と、僕たちに見せるために無駄に高く掲げていたこともあったのか、疲れ気味の様子でぐでりと腕を下ろすミスティス。

「ちょっとってゆーか、見た目よりだいぶ重いよこれ」
「そんなに?」

 重さに負けたミスティスのふにゃふにゃっぷりに、ちょっと興味が湧いたらしいツキナさん。

「持ってみる?」

 と、試しにミスティスから受け取ってみれば、

「はぅわ!? こ、これ……は、確かに……Lvのごり押しでなんとか持ちあがってる、けど……っ」

 どうやら見た目以上の重さであることは間違いなさそうで、ツキナさんではバーベルでも持ち上げるかのように大股で抱え上げるように支えるのがやっとみたいだね。

「でしょ?」
「は〜……うん、あたしのStrじゃ無理だわ、これ」

 見かねたミスティスが盾を受け取ると、相当きつかったのか、ツキナさんは自由になった腕をぶるぶると震わせてほぐした。
 その横で、ミスティスはいくつかウィンドウを操作する仕草をすると、

「なになに〜……? 『ウォルフラムシールド』だってさ」

 と、アイテム詳細を読み上げてくれる。

「わぁ、すごいすごい、火属性耐性60%に炎上無効だって!」
「それはすごいね」

 追加効果にテンションを上げるミスティスに、僕も素直に同意する。
 実際、火属性攻撃を6割カットした上に状態異常も防げるのは僕らの今のLv帯を考えれば破格の性能だと思う。

「ウォルフラム……タングステンの別名か。ふむ、この世界にタングステンなんてものがあるのかはわからないけど、その重さに高熱への耐性効果……色味と言い、確かに特徴としては一致している」

 というオグ君の分析に、ミスティスからは「へぇ〜」と適当な相槌が返ってくる。
 ……うん、あれは多分よくわかってない顔だね。

「よくわかんないけど狼っぽいのはカッコイイし防御値もめっちゃいいし、しばらく盾はこれ1枚で使っていけそうだよー。……もうちょっとStr上げないとちょっと重さが気になるけど」

 あ、うん、やっぱりよくわかってなかったね……。
 なんて僕の内心には気付いているのかいないのか、カラカラと笑い飛ばすミスティス。
 ともあれ、だいぶ気に入りはしたようで、一旦ウォルフラムシールドをストレージに仕舞うと背中に背負っていた今までの盾から剣を取り外して、そちらの盾もストレージへ。
 それから左手にもう一度ウォルフラムシールドを取り出すと、そこに同じように剣をセットしなおして、改めて前に掲げてみせる。

「よーし、これでおっけー♪ ……あれ? これなんだろ……」

 と、そこで何かに気付いたらしいミスティスが、ガチャガチャと盾を見回すと、何やら手元に力を込め始める。

「ふんぬぐぐぐ……あっれぇ〜……?」

 しばらくそうして格闘していたものの、期待した結果にはならなかったようで、首を傾げる。

「何してんの……?」
「なんかねー、持ち手のところにもういっこ、握り手? トリガーみたいなのがあるんだけど、なんか引けなくって……」

 ツキナさんの問いに、ミスティスは手元を覗き込みながら答えると、

「あー……それあれじゃない? 多分魔力通せば動くんじゃない?」

 とのツキナさんのアドバイスに、

「なるほど!」

 何を思ったか、右手で支えながら拳を突き出すようにして盾を水平に構える。
 次の瞬間、「ガシュッ!」っと音を立てて、デザインで言うと狼の口の犬歯に当たるだろう場所から、前方――つまりは盾の下側に向けて、その通り狼の犬歯を模したのだろう、盾本体と同じ材質らしい鋭い金属杭が2本飛び出した。

「おぉー! なにこれすごいすごい! ありがとツキナー!」
「いーえー。でも何それかっこいー!」

 はしゃぐ女子二人に加えて、この機能にはオグ君も何か琴線に触れるものがあったようで、

「いいな、すごくいい……! 隠し武器にパイルバンカーは漢の浪漫だ……! くぅっ、こういうのがあるとやはり僕も剣士を選ぶべきだったか……!?」

 なんて拳を握って唸っていた。
 実際、僕から見ても男の子として、なんというか、こう……わかりみが深い、と言うのかな、この気持ち。
 うん、思わず全力で首を縦に振ってしまっている程度にはオグ君に同意したい。

 そこで、ふとミスティスが何か気が付いたようで、ウィンドウがあるのだろう位置を覗き込みながら、操作を加える。

「んん〜……? あー、ごめーん、これちゃんと書いてあるじゃん、説明文スクロールできた。えーっとなになに……? 固有スキル『ウルヴズファング』……MP20消費でこれ使えるんだってさ」

 あはは、と笑って誤魔化すミスティス。

「なるほど。しかし、だいぶアタリだったな、今回は」
「だねー」

 と、オグ君の言に全員が頷く。
 ゴブリンライダーの他のドロップに何があるのかは知らないけど、この性能を見るだけでも、少なくともドロップ品の中でもかなり上等なものであるだろうことは僕でも察しがつく。
 それ以前に、ゴブリンライダー自体がまず出現率の低いレアボスであることも考えれば、大当たりと言っていいと思う。

 それにしても、ボス狩かぁ……。
 昨日までは、それこそ情報サイトでもボスのページは読み飛ばしてしまっていたぐらいには、当面の間は僕には無縁だと思っていたはずのものを、達成できてしまった。
 ミスティスの左手で鈍く金属光沢を放つウォルフラムシールドの姿に、今更ながらその事の実感が湧いてきて、思わず握った自分の拳へと視線が落ちる。
 そこからふと顔を上げれば、いつの間にか目の前で僕の顔を下から覗き込むように見ていたミスティスのいたずらっぽい笑顔と目が合って、

「わひゃ!?」

 変な悲鳴を上げてのけ反ってしまう。
 ち、近いってば!

 当のミスティスはと言えば、そのいたずらっぽい笑みをにんまりと深くして、

「にっひっひ〜♪ どうよどうよ? 初めてのボス狩の感想は〜」

 なんて聞いてくる。
 改めて、そう問われてみれば……。
 突然の襲来だっただけに最初はかなり慌てたし、言うまでもなく、僕が今まででこのゲームで経験した中では一番の激戦だったことは間違いない。
 その分、緊迫感もものすごくて、こうして今改めて聞かれたことでその緊張も解けたのか、どっと疲れが押し寄せてくる。
 だけど、その疲労感さえも、なんだか今は心地いい。
 この気持ちを素直に総評して言えば……

「うん、疲れたけど、すっごく楽しかったよ。ありがとう、みんな」
「フ……そうか。楽しんでもらえたなら何よりだ」
「そうね。そう言ってくれるとプリースト(プリ)としてもやりがいがあるってものよ」

 僕の素直な感謝に、みんなも笑顔で返してくれる。

「うんうん、やっぱりボス狩はMMOの華だもんね〜。これが楽しめないのはHXT(ホリクロ)の戦闘職の半分は損してるよ!」

 と、ミスティスも満足気に頷いていた。
 さすがに半分は言いすぎでは……?とは思わなくもないけど、一方で、そう言ってしまう気持ちもわかる気はするね。

「よーっし、ボスも無事倒せたことだし、帰って精算しよー!」
「賛成〜」

 ミスティスが音頭を取って、各自ジャンプで帰還する。
 森が深くて時間がわかりづらかったけど、アミリアに戻ってきてみれば、既にほんのり西の空が色づき始める時間帯だったみたいで、時間的にもちょうどいいぐらいで帰ってこられたみたいだね。

 ギルドの扉をくぐって真っ直ぐ依頼確認用窓口に向かえば、朝と変わらないニコニコ笑顔でプエラリアさんが出迎えてくれる。

「たっだいま〜、エリィちゃん!」
「ミスティスさん! それに皆さんも、ご無事なようで! おかえりなさいませっ♪ それで、依頼の方はどうなりました?」
「ふっふ〜ん♪ それはオーブを確認すればわかるよ〜」

 なんて会話を交わす間にも、プエラリアさんの手元では澱みなくマザーオーブに操作が加えられていき、ミスティスが自信たっぷりの台詞を言い終わる頃には、マザーオーブは既にこちら側へと差し出されている。
 差し出されたマザーオーブにミスティスが触れると、彼女のオーブと、それに一拍遅れて僕たち三人のオーブも一瞬淡く光を発する。
 そして、それに呼応するように、マザーオーブの側も同じように淡く光る。
 パーティーリーダーであるミスティスがマザーオーブに触れたことで、メンバーである僕たちの分も含めて、今回の依頼での戦闘結果がまとめてマザーオーブへと送られた証だ。
 それらの情報が整理された、僕たちの最終的な成果が表示されているのであろうマザーオーブを見て、プエラリアさんが目を丸くした。

「拠点が3つに……わゎっ、ゴブリンライダーなんて湧いてたんですか!? すごいです皆さん、大手柄ですよっ!」
「えっへっへ〜、すごいでしょー? もっと褒めてー!」
「えぇ、すごいですっ! たくさん褒めちゃいます! なでなでしちゃいます」

 目をキラキラさせてカウンターに身を乗り出すミスティスの頭をプエラリアさんがよしよしと撫でる微笑ましい光景が目の前で繰り広げられる。

「えっと、ゴブリンライダーってそんなに強かったんですか?」

 プエラリアさんのあまりのべた褒めっぷりに、ちょっと気になって聞いてみる。

「強いというか、早く倒さないとヤバかった、という話ですね」

 と、それに答えてプエラリアさんが人差し指を立てて解説してくれる。

「そもそも、ゴブリンとウルフの対立の均衡によって森の中に封じ込めているのに、ゴブリンライダーの統率があったら均衡どころか両者が結託しちゃいます。そんなのほっといたら最悪です。即、連合軍になって暴走(スタンピード)クラスの大侵攻です。本来、ゴブリンライダーが湧いてるなんてわかってれば、最初からライダー討伐を最優先にして、もっと確実に倒せる人に依頼するべきだったんですけど……今回は、ライダーの発生が、私たちの定期調査よりも後だったんでしょうね。とは言え、結果的に早期にライダーを見つけて討伐できました。皆さん、本当に大手柄です。ありがとうございましたっ」

 そう締めくくって、プエラリアさんはぺこりと頭を下げた。

「い、いえいえ、最悪の事態が防げたのなら僕たちとしても安心しました」

 まさか頭を下げられるほどとは思っていなかったから、ついつい少し慌て気味に謙遜してしまったけど、もう一つ気になったことも浮かんだので質問してみる。

「そうなると、ゴブリンとウルフたちの同盟はどうなるんですか? 何か手を打たないと新しいリーダーとかが出てくるんじゃ……」
「あぁ、そこは心配しなくても大丈夫ですよっ。彼らは元はと言えば犬猿の仲ですから。それがゴブリンライダーという上位個体の統率があってこそ、命令に従っていただけです。上位個体の統率がなければ、またすぐ仲違い……それも、一時的とは言え手を結んでいたことで、ゴブリン側としては自ら宿敵を自陣に引き入れてしまった状態です。今回の皆さんの成果も含めれば、きっとすぐに森の勢力図は元通りの均衡状態でしょうね」
「なるほど」

 というプエラリアさんの回答に、

「うんうん、それなら安心だねぇ」

 横で聞いていたミスティスも、いつものように一人で納得している。

「そういうわけで、皆さん大手柄ですから……ゴブリンの討伐数も期待以上でしたし、報酬、期待しちゃっていいですよ?」

 そう言って渡してくれた報酬の引き換え請求書の額面は、実際ものすごい金額になっていた。
 すごい……四人分に分割されてるはずなのに、僕の前回のスライムを売った時の金額より遥かに多い。

「わぁ……やったやった、大収穫大収穫ー♪」

 早速現金な女子二人がはしゃいでいる。

「ふむ、なるほど随分な額だ」

 と、オグ君も感心していた。
 ゴブリンの数も期待以上だったってことは、やっぱり最後の拠点のあの数が結構効いてたってことかな。

「それでは、他に売却品などあれば取引用カウンターへ、請求書は精算用カウンターでお引き換えください。ご利用ありがとうございましたっ!」

 プエラリアさんのニコニコ笑顔に見送られて、一旦素材取引用のカウンターへ。
 数は少ないけど、毛皮やら牙とか爪やらが素材にできるウルフの死体を換金して、さらに報酬の足しにしておく。
 後は精算用カウンターで請求書を引き換えるだけだね。

「こんにちは。……そろそろこんばんはかしら? この時間帯ってちょっと迷っちゃうわよねぇ」

 なんて言いながら出迎えてくれたのは、アミリアギルドの看板三人娘の最後の一人、ジャスミンさんだ。
 デーモン族であるジャスミンさんは、その種族名から想像できる通り、頭の両脇から横向きに伸びた山羊の角と、背中にはコウモリのような大きな翼、先端が鏃のように膨らんだ細長い尻尾が特徴的だ。
 角はほぼ真っ直ぐなようでいて、でもぱっと見ちょっと歪んでる?ぐらいのゆるい螺旋を描いて伸びている。
 ……前から思ってるんだけど、寝返りとか邪魔じゃないのかなぁ……。
 赤みの強い赤紫色のストレートヘアに、左目に泣き黒子のある切れ長の金目、整ったプロポーションの長身に、アシアノさんほどではないけどギルド職員の制服の上からでも目を引く巨乳。
 デーモン族の威圧的な見た目もあって、黙っていると近寄りがたい感じのキツイ性格と思われがちだけど、その実は世話好きで気さくな面倒見のいいお姉さん、という印象の方が強い。
 それに、尻尾の動きも含めて実に表情豊かで、なんというか、見ていて飽きない人だ。
 今も、下唇に人差し指を当てて、こんにちはかこんばんはかで「むむむ……」と唸るその仕草は、「?」マークを作りつつ時折ひょろりと動く尻尾と相俟って、少女のような愛らしさすら感じられるぐらいだ。

「……っとっと、ごめんごめん、お仕事よね」

 僕たちが挨拶を返すと、ジャスミンさんは我に返って請求書を受け取る。
 ちなみに、返した挨拶は僕とツキナさんが「こんにちは」でミスティスとオグ君が「こんばんは」だった。

「あっ、アミ北のやつ、受けてくれたのね。助かるわ〜。……って、ゴブリンライダー? 大金星じゃない!」

 と、やっぱりここでもゴブリンライダーを倒したことはべた褒めだった。

「でしょでしょ! 褒めて褒めてー!」
「頑張ったわね〜。おーよしよし、えらいえらい」

 なんて、ミスティスはジャスミンさんにも頭をポンポンと撫でてもらってご満悦だった。
 なんていうか、この辺り、みんなミスティスの扱いをよくわかっているというか……うん。

「それじゃ、これが今回の報酬ね」

 どちゃり、とかなり重そうな音を立てて、ジャスミンさんは四つの麻袋をまとめてカウンターに置いてくれる。
 お礼を言って受け取るけど……そ、そこそこ重たい……。
 前回のスライムの時より遥かに多い金額なんだから当然と言えば当然なんだけど。
 これを四つ一度に片手でサラッと持ってきたのは、さすがデーモン族……高位魔族と分類される上位種族なだけはあるね。
 とまぁ、自分の分の麻袋をストレージに放り込んで、加算された金額が額面通りなことを確認する。

「本日もご利用ありがとうございました。それじゃあね」

 ジャスミンさんににこやかに見送られながら、僕たちはギルドを後にする。

「ふ……くぅ〜……今日は稼げたね〜」

 ギルドを出るなり、大きく伸びをしたのはツキナさんだ。

「だね〜、Lvも76とかなってるし、初めてレアボスも見れたし、大満足だよ〜」
「ミスティスもレアボス初めてだったの?」

 ミスティスの1stキャラがLvいくつぐらいなのかはわからないけど、それなり以上に育っていれば、一度ぐらいはレアボスとか遭遇する機会もありそうな気がするけど……。

「まぁ、1st(1キャラ目)は結構長いから、レアボス自体は初めてじゃないけどね〜。でもゴブリンライダーは初めてだったね。ほら、このくらいのLv帯じゃないとアミ北とかいかないじゃん」
「あー……なるほどね」

 ちなみに、僕のLvも同じく76になっている。
 今朝時点だとLv57だったっけ……一気に20近くもLvアップできてしまったことになる。
 なんだかすごいペースで上がってる気がするなぁ。
 けど、このゲームの平均Lv帯が300〜500ぐらいなのを考えれば、この辺のLv帯はまだまだ、こうしてちょっとパーティーが組めればすっ飛ばしていける程度、ということなのかもしれない。

「そういえば、オグはどうだったー? 弓楽しい?」

 ミスティスがふと思い出したように尋ねる。

「あぁ、なかなか悪くないな。育ってウィザードにエクステンドしてやれば、思っていた通りのことはできそうだ」
「そういえば、なんで(アチャ)取ったの? 同じマジシャン系列(マジ系)の中でエクステンドした方がシナジーよくない?」

 ツキナさんの疑問は僕も思っていたことだ。
 確か、単に僕のパーティーのために合わせたわけじゃないって今朝言ってたはずだし、何かオグ君なりの理由があるんだろうけど……。

「あぁ、そのことか。簡単な話さ。魔法耐性持ちに対応できる物理攻撃が欲しくてね。とは言っても、IntとDexの大魔法型ステータスだと、取れる策は少ない。それで、ハンターをエクステンドして、Dexを火力に回して、Intで増えたMP任せにスキルを撃ちまくればいいんじゃないかと思ってね」
「なる〜」
「あぁね〜、基本パーティー前提のオグなら、確かにピッタリだね!」

 なるほど、確かに考え方は理にかなってるね。
 パーティーで動く前提なら、元々持っていたステータスを活かしつつ、後衛という役どころを動かさずに物理も魔法も対処可能になるのは、パーティーメンバーとしてもありがたいことに思える。

 なるほどなぁ……。
 職の取得はやっぱりみんな、ちゃんと考えあっての事ってことなんだろうね。
 僕もそろそろ、最初に取る上位職ぐらいは考えておかないといけないのかもしれない。
 HXTでLv1からキャラを作った時に、最初の上位職に転職可能になるタイミングの目安は大体Lv100〜150前後ぐらいと言われている。
 今のペースでレベリングが進んだら、Lv100ぐらいはそう遠い話じゃないよね。
 とは言え、上位職どころか、スキルの取得予定すら定まっていないというのが現状なんだけども……。
 う〜ん……まぁ、ここで焦ってもそれはそれでしょうがないか。
 そもそも、本格的にマジシャンらしいパーティープレイができたのも今日が初めてだもんね。
 今後もこうしてみんなと遊んでいければ、パーティー内で僕がやりたいこと、やるべき役割、というのも見えてくるかもしれない。
 その時が来たら、またじっくり考えよう。

「さてっと。そろそろ今日は解散でいいよねー。みんなおつかれさまー」
「うん、お疲れ様」
「おつかれ〜」
「あぁ、お疲れ様だ」
「明日また8時にここ集合でいいよね?」

 との提案に、特に異論が出るようなこともなく、この日はそれぞれに解散となったのだった。


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