note.023 SIDE:G

 肉体の放棄もしきれずに残されたゴブリンたちの死体を踏み分けて、静まり返った拠点を散策する。

「しかし、やはり数が多いな……」
「多いわね……半数以上はフォトンに消えたはずでこの量ってことでしょ?」

 オグ君の疑問に、ツキナさんも同意する。
 確かに、大多数はフォトンに還元されているはず……の割には、場所によっては足の踏み場に少し困るようなレベルでかなりの数の死体が残されているように見える。
 ここの拠点が今日発見した中では一番大きな拠点だったのは確かだけど、それにしたってちょっと数が多すぎるような気がする。

「やっぱりおかしいよねぇ?」

 ミスティスも敵の数への違和感は感じていたようだ。

「考えられる可能性としては、近くにまだ見つけていない別の拠点があって、増援を送り込まれていたか?」
「ん〜……考えるより、とりまこの死体の山どうするかじゃない?」

 細かい理由よりも、足の踏み場のなさの方にうんざりといった調子でミスティスは肩を竦める。

「ふむ、まぁそうだな。このまま腐るに任せるというのもあまり良くはない。施設潰しと一緒に一ヵ所にまとめて消し飛ばしてしまおうか。僕の大魔法ならまとめてフォトンに還せるだろう」
「オッケー」

 と、そんなわけで、物陰に潜んでいたり死んだふりで死体に紛れたゴブリンが残っていないかの確認も兼ねて、死体を適当に一ヵ所に積み上げつつ、拠点の機能を潰していく。
 粗方の作業は滞りなく進み、死体の処理も終わって一段落がついた頃。
 向かってくる何かに最初に気が付いたのはツキナさんだった。

「は〜……ようやく大体片付いて……え? 待って?」
「なぁに? 何か見つ……! 何か、来る!」

 近くにいたミスティスも何かに気が付いたらしく、ツキナさんを護るような位置について身構える。
 それとほぼ同時に、僕らにも「それ」が理解できた。
 何かが走ってくる……それも、かなり速い……!
 しかも、この足音の調子……四足?
 ゴブリンじゃない?
 そう思った瞬間、木柵を飛び越えて拠点へと飛び込んできた、その正体は……

「え? ウルフ?」

 ゴブリンの支配地域ど真ん中のはずのこの場所に、どうして……?
 それを疑問に思う間もなく、ウルフが「ワオォォォ――!」と遠吠えを上げると、どうやらウルフは1匹ではないようで、離れた場所で遠吠えが次々に連鎖していく。
 それが合図だったのか、一際大きな四足の足音が木柵をぶち壊して現れて――

「え、えええぇぇ!? ゴブリンが、ウルフに乗ってる!?」

 全く予想を超えた闖入者に驚く僕をよそに、

「ゴブリンライダーか!」
「レア物じゃ〜〜〜ん♪」

 想定の範囲内、といった様子で冷静に弓を構えるオグ君と、声を揃えて今日一番のテンションではしゃぐ女子二人。

「レ、レア物……?」
「あぁ、基本敵対関係のウルフとゴブリンだが、たまに何かの拍子に協力体制になる場合があるんだ。そうなった時の上位個体として出てくるレアボスがこいつさ」
「な、なるほど」

 油断なく弓の狙いを定めつつも、オグ君が軽く解説を入れてくれる。
 あー……そう言えば、情報サイトでここの事を流し読みした時に確かにそんな情報もあったような……。
 その時はソロの僕がボス狩なんて当面は縁がないと思ってたから、ボスに関するページは本当に斜め読みぐらいで流してしまってて、ほとんど記憶に残ってないや。

 ……っと、それはともかく、戦闘に備えないと。
 そんな思考の間にも、「ガルゥ!」とウルフが一声唸って威嚇するように姿勢を低く構えれば、その背中では今までより体格のいいゴブリンが、見た目ミスティスの片手剣ぐらいの長さとは言え、彼らの身長からすれば十分な長槍をぐるりと振り回して、同じく臨戦態勢に入る。

「――――!!」
「ガアァァァッ!!」

 ゴブリンが槍を振り掲げ、同時にウルフが大きく吠える。
 それに呼応して、突然全方位からウルフが現れて僕たちへと向かってきた。
 いつの間にか囲まれてる!?

「来るぞ!」

 オグ君の言うが早いか、ミスティスが挑発で僕らからタゲを外してくれる。
 僕やツキナさんに向かおうとしていたウルフたちも、明らかに標的をミスティスに切り替えて走る方向を変えたのがわかった。
 けど、ウルフはざっと10匹はいる。
 ルクス・ディビーナのバリアがあるとは言え、これを全部はミスティス一人じゃ受けきれないよね。
 オグ君がチェインアローで自分に近い3匹を始末する、その反対側ではツキナさんが杖を振るって、

「《ホーリーレイ》!」

 振るわれた杖の先からは連続して白い光線がレーザーのように放たれて、自分に向かって来ていたであろう数匹を撃墜していく。
 ホーリーレイは、基本的には支援職のクレリック時点で唯一、相手を選ばず使える攻撃用初級聖術。
 光属性魔法は詠唱が長めの傾向があって、少しDexを意識しないと無詠唱が難しい中級以上の魔法と違って、初級だから無詠唱も簡単で、こうして咄嗟に出しやすいのが利点だね。
 反面、主にクレリック系用の支援スキルに分類される聖術は、あまり攻撃には向いてなくて、威力は控えめなんだけど……今はLv320台なツキナさんのLv差のごり押しで一発で倒せてる感じだね。

 本来は1回の光線で攻撃するだけの単純なスキルのはずだけど、一度のスキル宣言で連続して何発も撃てているのは、「連結詠唱」と呼ばれる、所謂プレイヤースキルに分類されるテクニックの一つだ。
 一度発動させた後の魔法陣は、当然ながら効果を発揮して流した魔力を使い終われば消滅するだけなんだけど、魔法の発動から消滅までのほんの一瞬の間だけ、「魔力を使い切った空の魔法陣」が残るタイミングっていうのがあるんだよね。
 そこを捉えて、空の魔法陣に再び魔力を注ぎ直してやることで、再度の魔法陣構築にかかるMPと詠唱時間を節約しつつ、即座に同じ魔法を連発して発動できる、と言うのが連結詠唱だ。
 具体的には、完全に成功すれば、無詠唱かつクールタイム無視、消費MP3分の2で同じ魔法を即時発動できる。
 「完全に成功すれば」とつけたのは、このタイミングがなかなかにシビアで、遅れると魔力が行き渡らなかった分の魔法陣が部分的に消えてしまって、その分の再構築が必要になってしまうから。
 当然、消えてしまった部分を的確に把握して再構築しなきゃいけないから、詠唱難度は普段よりも上がるし、全部捉えたつもりで最大まで魔力を流してしまったりして魔力暴発する危険性も上がる。
 魔法陣自体も複雑化する中級や上級魔法ともなると、流した魔力が全体に行き渡るにも相応に時間がかかるから、消滅までのタイミングも更にシビアになっていく。
 今回は初級聖術だったとは言え、ツキナさんはさらっとこなしたように見えて、実はかなりの高等テクニックなんだよね。
 僕は……ちょっとまだこれには手を出せそうにないかなぁ……。
 そもそも、僕の感覚ではまだ「空の魔法陣」の存在を認識することすらできていない。
 連結詠唱云々の前に、もっとLvを上げないとね。

 さて、僕自身の対応はと言えば。
 僕に向かっていたはずの数匹に関しては、僕に向かう軌道の途中からタゲをミスティスに切り替えて走っているから、一瞬とは言え猶予はある、と判断して、元々ミスティスを狙っていた分の頭数を減らしてやることを優先する。
 選択する魔法は……さっきLv1だけ振っておいた中級氷魔法「アイスボム」。
 名前の通りフレアボムの氷魔法版だけど、文字通り単純な爆発だから1回の攻撃判定で終わっちゃうフレアボムと違って、発動地点に氷の風がしばらく渦を巻くから範囲内に多段ヒットするし、1ヒットごとに凍結判定があるから、かなり高確率で凍結の状態異常を狙うことができる、この状況にぴったりの優秀な足止めスキルだね。
 反面、欠点は、凍った敵にはダメージを与えることができないせいで、凍結させるまでにかかったヒット数で与える総ダメージにムラができちゃうこと。
 そのせいで、ダメージソースとしては不安定だから、あくまでも中級魔法故の無詠唱で手軽に高確率で凍結の状態異常をばら撒くことでの、その後の追撃への布石としての側面が強いスキルだ。

 ここまでの道中で試しにLv1振っただけだから、今初めて使う魔法だけど……さっきのウィンドカッターの感覚でいけば、初めての魔法でいきなり短縮詠唱でも発動できるはず。
 詠唱文は「凍てる氷礫、荒ぶ氷刃、此処に結せよ。其が形成すは氷禍の牢獄、万象凍止める不壊の氷壁。爆ぜよ、渦巻け。触れる全てを氷獄の贄と成せ」か。
 ――と、思い浮かべた瞬間、ウィンドカッターの時と同じように、脳内に魔法陣のイメージが組み上がる。
 なるほど、これなら……これぐらいまでは自力で作れるかな。
 短縮可能な部分を組み上げて、残りを詠唱。

「氷刃結せよ、氷禍の獄。万象不壊の氷獄と成せ! 渦巻け、《アイスボム》!」

 水属性魔法の常として、対となるフレアボムと比べると詠唱も長く、構築の消費MPも少し多めだけど、回路の許容流量は同じLv1の時のフレアボムと変わらないし、発動のイメージも単純にフレアボムの氷版でいいから、詠唱以外は手間取らないね。
 思い描いた通りにあっさりと発動できたアイスボムは、ミスティスの右後方から彼女を間合いに捉え、今まさに跳躍した2匹のウルフの軌道上に、球形に拡がる氷の渦を展開する。
 突然発生した小さな吹雪とでも言うべき空間に、まともに突っ込んだ2匹は声を上げる間もなく氷塊と化す。
 おまけで、その時点では範囲外だったから大丈夫だろうと踏んだのか後続から飛びかかったもう1匹も、少し時間をかけてフレアボムと同程度まで拡がった氷の爆風に呑まれて凍り付く。

 どういう理屈かわからないけど、状態異常としての凍結って、空中の敵にかけると地面に落ちることなくそのままの位置で空中で固まるんだよねぇ。
 まぁ、普通に落下しちゃう結果落ちてすぐに割れちゃう、みたいなのでもそれはそれで困るから、ゲームなんだしそういうものってことで、深く考えちゃいけないのかもしれない。

 すぐさま、僕からタゲを逸らされたことで出遅れた1匹に向けて無詠唱でファイヤーボルト。

「いい判断だ」

 言いつつ、オグ君がチェインアローで残りの後続組を一掃。
 僕も追加でファイヤーボルトをもう一発撃って、1匹を叩き落す。

「はぁぁぁぁっ!」

 最後にミスティスが、残った右前方から飛び込んできた数匹をまとめてワイドスラッシュで斬り飛ばして、更にその魔力を纏わせたままにぐるりと一回転。
 回転斬りに派生させて氷塊となったウルフも諸共に横一閃、取り巻きを全滅させる。
 ついでにその回転の勢いのままに、ウルフたちとタイミングを合わせるようにして突撃してきていたゴブリンライダーのゴブリン側の槍を剣で弾きつつ、フックを入れるような感じでウルフの方の鼻っ柱も横合いから盾でぶん殴って文字通りに出鼻を挫く。

「やっ!」

 ウルフが堪らず数歩たじろいで、ぶるぶると頭を振って体勢を立て直す間に、ミスティスはライダーの方に袈裟斬りに飛び込んでいく。
 ライダーの方もその剣の腹を横薙ぎに薙ぎ払っていなし、そのまま両者の剣戟の応酬が始まる。

「よし、僕らはウルフの方を狙うぞ」

 ウルフ側にチャージング付きでバーストアローを放ちつつ、オグ君が言う。

「奴らのHPゲージは共有だ。どっちを狙ってもダメージは通るから、前衛はゴブリンに集中、後衛はウルフにゴブリンの援護をさせないよう抑えるのがこいつと戦う時のセオリーさ」
「わかった!」

 言われた通り、狙いはウルフ側に。

「猛る紅蓮よ、槍と成し穿て。《ブレイズランス》!」

 まずは今できる最大火力で一撃。
 だけど、さすがはボスだね。
 ブレイズランス一撃程度ではびくともしていないらしい。
 続けて詠唱し直して、MPの限りブレイズランスを連発しても、微塵も揺らぐ様子はない。

 オグ君の弓も、ステップや微妙な体勢の位置調整だけで骨や筋肉の厚い上腕なんかで受け止められたり、届く範囲であれば爪の一撃で叩き落されたり、かと言って顔を狙ったものは噛み砕かれたりしていて、なかなか有効打は与えられていないようだ。

 「……っ! こいつ、強い!」

 ゴブリンの方も一筋縄ではいかないらしくて、ミスティスとの攻防は一進一退の様相だ。
 ウルフとの連携もかなり厄介で、例えばウルフがオグ君の矢を撃ち落とすために上半身を一瞬伸び上がらせて爪を振り下ろす、その動作と同時に、ゴブリンも槍を逆手に持ち替えて、上から下に叩きつけるような突きを繰り出して威力を上げてきたり、と知能も技量も明らかに他の雑魚ゴブリンとは一線を画しているように見える。
 今のところミスティスは無傷に見えるけど、それもツキナさんの支援が的確なおかげだ。
 事実、ここまでに何度かルクス・ディビーナのバリアが破られる瞬間を見ている。

 できることなら、ブレイズランスを連打するのが今の僕に可能な最大火力なんだけど……さすがにルクス・ペルペチュアの追加回復があってもMPが持たない。
 ファイヤーボルトなら連発しながらでも僅かながらMPの回復が間に合うから、とにかく攻撃に隙を作らないようにファイヤーボルトを基本に、MPに余裕ができた時にブレイズランスを挟んでいく。

 僕も腰元のポーチの中にMPポーションをセットしてあるから、やろうと思えばある程度は無茶も利くけど、使いどころは考えないといけない。
 何しろ、戦闘中にショートカット使用するためにはアイテムに直接触れないといけないわけで、かと言って、あまり腰やら腕やらにガチャガチャとポーション瓶やら何やらをぶら下げたり袋詰めにするというのも、見た目にも不格好だし、当然動きも、体積的にも重量的にも阻害してしまう。
 故に、つまるところ、一度にショートカットとしてセットしておけるアイテムスロットの数というのは極めて制限されているのだ。
 大体多くて4つか5つぐらいかな。
 使ったアイテムを自動的にストレージから補充してくれる、というような便利機能のついた魔道具は割と高級品だったりするので、基本的には予めセットしておいたアイテムを使い切ってしまったら、後はストレージから取り出すしかない。
 そして、ストレージからの取り出しには、ほんの僅かとはいえ、タイムラグが発生してしまう。
 そのほんの僅かが致命傷にもなりかねない瞬間、というのはこの世界においては少なからず存在するんだよね。
 だから、普段からショートカットにどのアイテムをセットしてどのタイミングで使うか、というやりくりと見極めは常に意識しておくべき、と言われている。

 最初のうちは、ちゃんとウルフにダメージを与えられているのか不安だった僕たちの攻撃だったけど、身体を抉るオグ君の矢の数は着実に増えているし、定期的に撃っているチャージングつきのバーストアローやブレイズランスに対しても、事もなげだった最初と比べると、見た目にはまだ揺らぎこそしないものの、一瞬踏ん張って耐える、というような場面も見えるようになってきた。
 ゴブリンの方も長期戦になってきたことで、ツキナさんという回復役がいるかいないかが、少しずつ、しかし決定的な差となって表れ始めているようだ。
 一つ一つは小さいながらも、身体のあちこちに傷が目立ち始めるゴブリンに対して、ツキナさんの支援で未だ無傷のミスティス。
 ゴブリン自身の動きにも、心なしか焦りが感じられるような気がするね。

 そうしてついに、その瞬間は訪れる。

「《ブレイズランス》!」

 僕の放ったブレイズランスの爆風に、それまでなんとか耐えていたウルフが、初めて大きく傾いだ。

「ガルァァァッ!!」

 よろめいたことそれ自体は一瞬のことで、大きく脚を開いて体勢を立て直し、怒りの籠った咆哮と共に僕を見据えるウルフ。
 一瞬ヘイトが僕に移ったみたいだけど、すぐにミスティスが盾で受けたゴブリンの槍を弾き返して一瞬の隙を作ると、すかさず挑発を発動。
 魔力を共鳴させた音は相当に耳障りらしく、怒りの矛先は再びミスティスへ移る。
 でも、この間が決定的な隙だったんだよねぇ。

「もらったぞ!」

 オグ君からの、チャージングつきの最大火力、スナイピングショット。
 軌道上に閃光が残るほどの弾速で放たれた矢は、ウルフに反応させる間すら与えずに、その右目を射抜き潰す。

「グルァァガアァァアァッ!!」

 着弾の衝撃と、右目から走る激痛、視界を潰された怒りで、ウルフが滅茶苦茶に暴れ回る。
 これはチャンスだね。
 ここまで、ファイヤーボルトでMP回復の余裕を持たせつつ、1発撃てるだけのMPが溜まったら即ブレイズランスを撃ってしまっていたから、今のブレイズランスでまたMPは空っぽなんだけど、ここがアイテムショートカットの使いどころだ。
 ポーチに触れて、MPポーションを使用。
 ポーチから溢れ出るように飛び出したフォトンが僕の身体に吸収されると、体内で魔力が湧き出る感覚と共に、視界の端でもMPゲージが4分の1程一気に回復したのが見える。

「猛り燃ゆる紅蓮の炎よ、我が意を示し、槍と形成せ。貫き、穿て。焼き尽くせ。《ブレイズランス》ッ!!」

 あえて短縮なしの全文詠唱。
 もちろんこれも意味があって、スキル名宣言と同じく、詠唱そのものにもイメージを明確にして魔法の威力を上げる効果が少なからずあるんだよね。
 そうして放たれた僕の全力のブレイズランスは、真っ直ぐにウルフの横っ腹へと突き刺さり――

「ガルッ、グルアアアァァァァ!!」
「――――!?」

 背に乗せたゴブリンごと、その身体を炎で包み込む。
 火属性攻撃で発生する状態異常、炎上だね。
 ゲームシステム的な効果としては、見た目通りのスリップダメージに加えて、移動速度の大幅低下と移動以外の行動不能。
 同じ火属性や、一部を除いた水属性の敵、砂や岩なんかの燃えにくい身体を持つような一部の土属性の敵、そもそも燃える実体が存在しないゴースト系の敵等、意外と効かない敵は多かったりするんだけど、その分、かかる相手には強力な効果を発揮してくれる状態異常だ。

「やった!」
「よし、いいぞ!」

 思わず小さくガッツポーズをしてしまった僕だったけど、オグ君は油断なく追撃の矢を射かける。

「――! ――――!!」

 文字通り身を焦がす炎をなんとか消す時間を稼ぐつもりなのか、ゴブリンが槍を振り上げ号令のような叫びを上げると、どこにまだそんな数が隠れていたのか、周囲から次々と追加のゴブリンたちが現れる。

「まだいたの!?」
「無駄な足掻きだ!」

 ツキナさんはさすがに少し呆れ気味だったけど、オグ君はあくまでも冷静だ。

「あ〜……はいはいっと」

 こちらも往生際の悪さに少し呆れ気味のミスティスが挑発を打ち鳴らすと、釣られて一直線に彼女に向かうゴブリンを、オグ君がチェインアローで撃ち抜いていく。
 僕もゴブリンの数を減らしつつ、同時にボス本体にも当たるような射線でウィンドカッターを発動する。

「ガァッ! グアアァァァッ!」
「――――――!!」

 ウィンドカッターそのものによる追加のダメージに加えて、風の刃によって新たな酸素も送り込まれて、火の勢いは弱まるどころか、更に激しく燃え上がる。
 これも狙い通りで、風属性魔法には、炎上のダメージと効果時間を上昇させる追加効果があるんだよね。
 これを積極的に狙って、無詠唱が簡単で、ちょっとした合間でも連発できる風属性魔法と、コンスタントに扱いやすく、そこそこの火力を出せる火属性魔法に属性を絞って、風属性魔法の手数と火属性魔法の火力、炎上によるスリップダメージの最大化を主軸に戦うのが風炎型と呼ばれるマジシャン系のスキル振りのテンプレの一つ。
 ステータスをDexに振らなくても無詠唱が簡単だから、回避行動中の僅かな合間でも手数を増やしやすいとあって、ソロ志向の強いAgi型のマジシャンに人気の型だ。

 と、僕がウィンドカッターを連射して炎上中のゴブリンライダーに追撃する間にも、ミスティスに迫る取り巻きゴブリンたちだったけど、直前、ミスティスは、一度この拠点を離脱した時と同様に大きく跳躍。
 やはり同様に直前で目標を見失ったゴブリンたちは、彼女が立っていたはずの場所で正面衝突して同士討ちしていく。
 ただ違うのは、今回の彼女の跳躍は、離脱するためではなく――

「マグナァム……ブレイク〜♪」

 そのまま真上から、ここまで幾度か見せていたメテオカッターとイグニッションブレイクの合わせ技で落下。
 衝突事故で一ヵ所に集まったゴブリンたちを全てまとめて消し飛ばしてしまう。

 マグナムブレイク――後で聞いたところによると、イグニッションブレイクにメテオカッターを合わせて範囲と威力を増大させるこの合わせ技は、HXTの売りの一つであるオリジナルスキルシステムによって、この名前で既に浸透しているらしい。
 このゲームのエンドコンテンツに位置付けられる要素の中でも特に条件が厳しいとされるオリジナルスキルの作成だけど、その中でも、こういう既存のスキル同士の合わせ技や派生技みたいなのは比較的作りやすいようで。
 このマグナムブレイクの他にも、空中で身体を捻って、横倒しになった状態からワイドスラッシュを発動して、縦回転による連続攻撃を行うスピニングブレイドとか、いくつか有名なものがあるとのことだ。

 ゴブリンたちを消し飛ばしたマグナムブレイクの爆風は、未だ燃え続けるゴブリンライダー本体にも襲いかかり、ウルフの前脚を浮かせるほどに大きくのけ反らせる。

「グガオォォッ!」

 ミスティスは、着地の反動をバネに、もう一度大きく跳躍して、

「そろそろ……――」

 身体を丸めた後方宙返りから宙を蹴って、ゴブリンライダーに向けて急降下しつつ、渾身の刺突を繰り出す。

「――終わりだよ!」

 上空からの高速刺突スキル、ピアシングダイブ――。
 迸る魔力と、彼女自身の速度で以て、空中に鮮やかな軌跡を描きながらゴブリンライダーを貫いて、ミスティスはその後方に着地する。
 刃を真っ直ぐ前に突き出したまま、片膝を着く形で静止したミスティスに一拍遅れて、ゴブリンライダーは最期の咆哮と共にフォトンへと爆散した。


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