note.022 SIDE:G

 拠点を壊滅させた僕たちは、その後も出会うゴブリンを狩りつつ、道中でもう一つ拠点も潰して、いよいよ森の東側区域のほぼ最奥というところまで差し掛かっていた。

「そろそろ東側のど真ん中って感じかしら?」
「ふむ、そうだね。この一帯を過ぎれば、後は森を東に抜ける方向だ」
「結局、ボスはいないわねぇ」
「ボスが一番稼げるのにねー」
「ねー」

 ツキナさんもミスティスも現金だねぇ。
 依頼の趣旨的には、そういうのが出てくる前に敵の戦力を殺げれば、いないに越したことはないんだけど……まぁ、それもゲームとしての設定上ってお話か。
 単純にゲームとして考えれば、あんな地味な施設潰しよりも、派手に戦えて、かつドロップも含めて一番報酬に期待できるボス戦が欲しいっていうのは、まぁ自然な話だよね。

 果たして、そんな会話の折に向こうに見えてきた、ゴブリン連中の本丸と思しき拠点はどうなんだろうか。

「待った、全員ストップだ」

 木立の向こう、木々の合間にゴブリン拠点と思われる木柵らしいものが見えたところで、オグ君がストップをかける。
 その目には、ホークアイの光がほんのりと灯っていた。

「どうも、あそこが連中の本拠地みたいだ。巡回兵のような奴が見えた。迂闊に近づきすぎると危ない」

 その言葉に、僕たちは無言のままに視線と頷きで返して、奴らに見つからないよう軽く腰を落とした。
 そして、慎重に拠点を観察できる茂みの裏まで移動して、こっそりと覗き込む。

「ん〜、ボスはいなさそうだねぇ、残念」
「ふむ、巡回兵が出てくる程の統制が取られているなら、統率する上位個体がいるものと思っていたけど」

 そう言えば、さっきからこうして外から様子見してる段階で、みんな結構適当にボスの有無を判断してるように見えるんだけど……。

「今更だけど、外から見える段階でボスがいるかどうかってわかるものなの?」
「あぁ、簡単な話さ。ゴブリンキングってのは、文字通り連中の『王』だからね。こういう平地の拠点の場合なら、明らかに他より大きな小屋があったり、中央で堂々とふんぞり返ってたり、何にせよ王として別格扱いされているから、見ればわかる」
「体格も他よりでっかくなるしね」
「なるほどね」

 そう言われてみれば確かに、見たところ巡回兵役がいるかどうかぐらいで、今回の拠点も今までの2つとそう変わったところはないね。
 ミスティスの言うような、体格の異なる個体も見える気配はない。
 ボスらしい奴はどうやらいないって判断でいいってことかな?

「だが、問題は巡回兵だな。奴ら、知能は低いとは言え狡猾だ。迂闊に中に飛び込んでしまえば、外の連中は機を見て不意を打つぐらいの知恵は回る」
「どうにか先に始末したいね〜」
「あぁ。けど、巡回兵は2組いるというのが厄介だ。両方同時に始末して、見張り櫓の無力化から突入開始まで一気にやってしまわないと。片方ずつやってたら、もう片方をやりに行ってる間に巡回が回ってこないことに感づかれる可能性がある」
「じゃ、二手に分かれましょ」

 ツキナさんの提案に、特に異論もなく全員で頷く。

「ふむ、そうだな。マイス、結局、昼間迷っていたスキルポイントは振ったのかい?」
「あ、ううん。アイスボムをLv1取ったぐらいで、残りはまだ保留してる状態かな」
「そうか。なら、ウィンドカッターに少し振るといい。風魔法は詠唱が短くて無詠唱が簡単だし、文字通り風を使った攻撃だから敵から視認されにくいんだ。ツキナの支援もあることだし、今回はLv5もあれば十分だろう。それで二手に分かれても連中に見つからずに巡回兵と櫓を始末できるはずだ」
「なるほどね。ありがとう、やってみるよ」

 ウィンドカッターはファイヤーボルトやストーンシュートに対応する、風属性の初級魔法だね。
 どのみち、マジシャン時点で覚えられる中級以下の魔法ぐらいは一通りの属性を揃えておくのはマジシャン系のスキル振りの定石だもんね。
 使いどころがあるなら、そちらを優先して取っておくに越したことはないよね。

「とりあえずLv5まで振ってみたよ」
「OKだ。なら、二手に分かれて巡回兵と櫓の見張りを殺ろう。僕の方は、最悪奴らにバレたとしてもウィザードに切り替えてしまえばゴブリン程度はどうとでもなるから1人でいい。3人で反対側を対処してくれ。基本は無詠唱のウィンドカッターでいけるはずだから大丈夫だとは思うけど」
「もしバレちゃったら、その時はごめん」

 なんて、思わず「ごめん」が口をついて出てしまうと、すかさず二人に怒られてしまう。

「もー、まだ始めてもないのに謝らないの」
「そうそう。パーティーなんだから、遠慮なく頼ってくれないと支援役の立場がないじゃない」

 そうだよね、要の火力役が僕になるから、ついつい僕が失敗したら……なんて考えちゃうけど、そうならないためのパーティーだし、もしそうなっちゃってもカバーを利かせるためのパーティーでもある。
 いちいち謝ってたら支援役の立場がないってのもまさにその通りだね。
 ちょっとまだ慣れないところはあるけど、もう少し素直に人を頼るっていうのを覚えないとだね……。

「そ、そっか、ごめ……ううん、ありがとう。よろしくね」
「よろしい! バックアップはあたしたちに任せなさいな」
「うん、二人とも頼りにさせてもらうよ」

 二人から笑顔で頷きが返ってきたところで、オグ君が改めて仕切り直した。

「よし、じゃあそろそろ行動開始だ。僕は左から回ろうか」
「じゃ、私たちが右ね」
「支援かけ直すね」
「あぁ、よろしく頼む。まぁ、タイミングまで厳密に合わせる必要はないだろう。適当に始末できたらパーティーチャットで連絡して、ここに再集合だ」
「わかったよ」

 ツキナさんから一通りの支援スキルをもらって、それぞれの方向に移動を開始する。
 門番の姿が見えない位置まで拠点を回り込んだ僕たちは、櫓からの射線を切れる木陰の茂みで様子を見る。
 櫓の見張り役は……うん、今ならこっちを見てないね。

「巡回兵からでよさそうだね」
「だね。一応、私、櫓を見とくよ」
「うん、お願い」

 じゃあ、櫓の監視はミスティスに任せて、僕はウィンドカッターの詠唱だね。
 詠唱文は「斬り裂け、風の刃よ」だったかな。
 詠唱文を意識した瞬間、喉まで出かかっていた記憶を思い出せた時のようなひらめきにも似た感覚が走り、脳内で一瞬で魔法陣のイメージが組み上がる。
 初めて使う魔法をいきなり無詠唱で発動するって、こんな感覚なんだね。
 それにしても、他の属性と比べて詠唱が短いのが風属性魔法の特徴とは言え、初級魔法の時点でこんなに顕著に短いものなんだね。
 他の初級魔法の短縮詠唱並みの詠唱文の短さだ。

 っと……ともかく、イメージ通りに魔術回路を構築して……と。
 あとは、回路の魔力流量を決めるイメージングだけど……風の刃、か……。
 う〜ん……要するに空気の流れを操るようなものだから、目に見えたり触ってどうこうできるようなものでもないだけに、いまいち明確なイメージが掴みにくいなぁ。
 あー……一つ思いついたのは、現実にもあるウォーターカッター、かな?
 あれはつまるところ、一点に集中させた水圧で対象を圧し切るものだから、それと同じように、気圧を「刃先」となる一点に圧縮して叩きつけてやる感じにすればよさそう……?
 刃の形は、まぁオーソドックスに三日月型のブーメランみたいな形のを飛ばしてやればいいかな。
 うん、こんな感じで。

 これぐらいなら、スキル名の宣言も必要ないね。
 あまり派手な動きにならないようにだけ注意しながら、軽く杖を振るってやれば、何も知らずにただ塀に沿って歩く巡回兵ゴブリンに向けて、少しずつ角度を変えた5枚の風の刃がほとんど音もなく飛んでいく。
 多分、当のゴブリンたちにも、自分が死ぬ瞬間まで、ちょっと強く風が吹いたかな?ぐらいにしか感じなかったはずだ。
 一瞬の飛翔時間の後、2匹の巡回兵は声を上げる間もなくまとめて細切れにされてフォトンの塵になっていた。

 この隠密性と、破壊できない物に当たらない限りは問答無用で射線上を攻撃しながら指定地点まで飛び続ける貫通性能が、風属性魔法の大きな利点だね。
 熟練の冒険者や高位魔族と呼ばれるような上位の魔物になると、魔力の流れを読み取って、こういう風属性魔法でも視覚化できるらしいって話だけど……。
 僕はまだ、今自分で放ったウィンドカッターですら、目を凝らせばちょっと魔力……と言うよりは、空間の揺らぎというか、波みたいなものが感じ取れるかな?ぐらいでしかない。
 まぁ、相手がゴブリンともなれば……今の結果の通りってわけだね。

 ちなみに、スキル名の宣言は、実のところ物理スキル全般と、元の詠唱文から7割以上の短縮詠唱においては必須ではないんだよね。
 ただし、魔法においては、スキル名で意識的に発動を宣言することでイメージを補強する効果があって、精度や威力が上昇する。
 それと、このゲーム、他のこの手のRPGなんかと違って都合のいい敵味方識別機能がついてないから、パーティーでの連携の時には、範囲攻撃に味方を巻き込んでしまわないように、発動タイミングを味方に知らせる意味もあるんだよね。
 なので、そもそも中級以上の魔法は範囲攻撃であることも多いということもあって、魔法の場合は余裕があれば可能な限りはスキル名を宣言した方がいいと言われている。
 とは言え、いちいちスキル名を宣言して発動していては、無詠唱の利点の一つである連射性能が活かしきれなくなっちゃうから、そこは使い分けというところだね。
 物理スキルの場合は、宣言することでシステムによるアシストがかかって、身体を半自動的に動かしてくれる機能もあるから、今日のオグ君みたいな初めて扱う武器のスキル発動なんかは、自分で身体や魔力の操作がわからなくても宣言することでスキルがきちんと発動するように身体が勝手に動いてくれる。
 だけど、システムアシストは逆に言えば、システム通りの動きしかできなくなるので、さっきのミスティスの合わせ技みたいな応用アレンジができなくなっちゃうんだよねぇ。
 だから、物理職の場合は魔法とは逆に、戦術の幅を広げるためにも、スキルを成立させる動きを身体で覚えて、アシストなしで発動できるようにしておくことが重要と言われている。

 さて、今のフォトンの光を櫓の見張りに見られてなければいいけど……。

「櫓の方は?」
「ヘーキヘーキ、全然気付いてなさそう」
「よかった」

 気付かれてないならひとまず安心だね。
 と、そこに、オグ君からのパーティーチャットが届く。

『こちらの始末は完了した。そちらの首尾はどうだい?』
『あ、うん。後は櫓の奴を倒せばこっちも終わりだよ』
『了解した。僕は先に合流地点に戻ろう』

 オグ君は無事に終わったみたいだね。
 僕らもさっさと終わらせて合流に戻ろう。

「じゃあ、櫓のあいつをやるよ」

 宣言して、僕はもう一度ウィンドカッターの構築に入る。
 さっきでもうイメージは固まったから、もうほとんど意識するまでもなく、魔法陣の構築自体は一瞬だね。
 今度の射線は……櫓に見えているゴブリンの上半身を通る無限遠点をイメージする。
 ウィンドカッターはこう見えて座標指定型スキルだから、自分と指定座標までを直線で結ぶ形で攻撃射程もある程度調整が可能なんだけど、さすがにここからの目視だと櫓までの正確な距離は掴みにくいからね。
 こうしておけば、魔法陣に込めた魔力が尽きるまで自動的に直進してくれるはず。
 地面から櫓を上方向に狙う形だから、櫓を抜けた射線上は何もない空中だし、多少飛ばしすぎても何か余計なものを壊してバレるみたいなこともないはずだ。

 杖を振るい、風の刃が飛ぶ。
 直前、何かに気付いたかのように櫓のゴブリンがこちらに振り向きかけた……ように見えたけど、もう遅いよね。
 その振り向きの動作すら完了できる前に、風の刃でゴブリンの上半身が細切れに弾け飛ぶ。
 ……今のは、死ぬとフォトンに還るこの世界のシステムじゃなかったらだいぶスプラッターな光景になってたね……。
 幸いにも死体として残ることはなかったらしく、残された下半身も後を追うようにフォトンとなって蒸発していった。
 刃が櫓を抜けた時に一瞬「ヒュオッ」と風音が鳴ったのだけは少しヒヤッとしたけど、そもそも櫓自体が外を見張るためか、拠点の一番端っこの目立たない位置にポツンと建てられてたおかげで、特にそれが内部のゴブリンたちに気付かれた様子はないようだった。

「バッチリだねっ」
「グッジョブ、マイス!」
「ふぅ……うん、ありがとう」

 一息ついて、二人からの労いの言葉を素直に受け取る。
 オグ君にも一度連絡を入れておこうかな。

『オグ君、こっちも終わったよ』
『了解だ。門番や、内部の様子も特に変わったところはない。そちらも上手く片付いたみたいだね』
『うん。今から合流するね』
『あぁ、待ってる』

 それじゃあ、僕らも戻ろうか。

 門番に見つからないよう、少し大回り気味に迂回して、最初に拠点を見つけた時と同じ方向――ちょうどオグ君の背後から近寄る形で合流する。

「オグ」
「あぁ、無事に来たね」

 ツキナさんの呼びかけに、オグ君が眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら応える。
 多分、眼鏡は装備品としてのアクセサリーで、オグ君自身はリアルでは普通に裸眼が普段だけど、元々の顔の造形がいい方なだけに、眼鏡の位置を正すその仕草はかなり様になっている気がするね。

「さて、後はこれまで通りの手筈でいいだろう」
「とりま突っ込んで、ヤバかったら私が挑発(プロボ)ね」

 特に異論が出るはずもなく、お互いに頷く。

「支援入れるわ」
「あぁ、頼む。この距離ならチャージングで届くだろう。門番はチェインアローで始末するから、それと同時に行こう」
「オッケー、いつでもいけるよ!」

 ミスティスが身構えて、いつでも走り出せる体勢を取る。
 支援スキルのエフェクトが収まると、門番ゴブリンに向けて弓を引くオグ君の、左手を中心にチャージングの光が灯って、弓全体に魔力が行き渡る。

「スリーカウント、2、1……今!」

 合図で弓が放たれると同時に、その軌跡を追うようにミスティスが飛び出していく。
 過たず門番の1匹を貫いたチェインアローは、ここまでの間に熟練度でLvが上がったのか、もう1匹の門番と、更にたまたまちょうど近い位置にいたもう1匹へと3連鎖するようになっていた。

 先に門番がいなくなったことで、ミスティスは一気に拠点の奥深くまで浸透して、開幕から勢いよくメテオカッターからのイグニッションブレイクの合わせ技を叩きつけていく。
 後を追う僕たちの前にも、ミスティスが開けた穴を塞ぐように新たなゴブリンたちが現れる。
 けど……!

「猛る紅蓮よ、槍と成し穿て!」

 これぐらいならかなりスラスラと詠唱できるようになってきたブレイズランスを、一旦立ち止まりながらも発動。
 僕が立ち止まった段階で察して射線を開けてくれたオグ君とツキナさんの間を抜けてゴブリンたちを蹴散らしていく炎の柱に、ちょうど後ろをついていく形で僕も追走する。
 そうして、先に暴れているミスティスを援護できる位置まで踏み込むと、ちょうどオグ君に向けて側面から1匹が襲い掛かる。
 それを迎撃したオグ君だったけど、その隙に別方向からもう1匹が飛びかかってくる。
 けれど、それも事前にかけてあったルクス・ディビーナのバリアに弾かれて、ゴブリン相手で1回2回程度ではバリアも壊れないとわかっているオグ君も、冷静にチャージングつきのチェインアローで反撃。
 弾かれた1匹も消し飛び、更にその後ろに続こうとしていた2匹も連鎖で射抜かれていた。

 ミスティスがかなり派手に暴れてくれてるおかげで、残りの敵はもうほとんどミスティス1人に集中してる感じだね。
 彼女の死角を取ろうとしていたり、入りが浅くて倒し損ねたりした奴を潰してやったり、集団で出てきた連中を先回りして範囲攻撃で崩してやったりして、僕たちも援護に加わる。
 ゴブリンたちも後ろから横槍が入っていることは理解しているのか、こちらに向かってこようとする奴はいるんだけど、結果的にミスティスに背を向けることになるのを、逃すことなく彼女に狩られていくから、結局僕たちにまで手を回す余裕はなくなってるみたいだね。
 魔法5回ごとのサクラメントのかけ直しに、各種支援スキルの維持にと、ツキナさんの支援も的確で、だいぶ助けられている。
 おかげで戦闘それ自体はまだ余裕があるんだけど……。

「ちょっ……どこにこんなにいたんだか知らないけど、数多すぎ! MP持たないんだけど!」

 戦闘そのものには余裕があるように見えて、途切れることのないゴブリンたちの物量の前に、ミスティスが息切れを起こしかけている。
 これはちょっと……あんまりよくないかな?

「ごめん! 退くよ!」
「k」

 さすがに音を上げたミスティスが挑発(プロボック)を打ち鳴らして、オグ君がそれに答える。
 僕たちは手筈通りに拠点の壁の外まで一旦退却、ミスティスはできるだけ多く引き付けるつもりか、むしろ前に突っ込んでいく。
 引き付けてくれるのは助かるけど、全周囲まれた状態からミスティス自身は脱出できるのかな?
 ……と思った僕の心配も杞憂で、周りを取り囲んだゴブリンの間合いに入るかどうかの完璧なタイミングで、ミスティスは大きく跳躍。
 直前で目標を失って、同士討ちになった挙句に後続によって将棋倒しになるゴブリンたちを尻目に、空中で半回転捻りを加えて僕たちの方に向き直って着地して、ミスティスはこちらに真っ直ぐ駆け抜けて、自分も拠点を脱出する。

 そうして僕らに無事合流したミスティスは、剣を持ったままながら、右手で腰のベルトに提げた青いポーション瓶――MPポーションに、半ば叩くようにして触れる。
 すると、ポーションは瓶ごと一瞬でフォトンに変換されて、彼女の身体に吸収されていく。
 これはオーブの基本機能の一つで、まぁ、旧来のコンソール型ゲームで言うところのアイテムショートカットのようなものだ。
 システム的には、直接手で触れているアイテムの効果を即座に発揮させる、という機能になっている。
 「直接」とは言うものの、手袋や甲冑で覆われているってぐらいなら、わざわざ外さなくても認識してくれるし、同じ原理でちょっとした革袋の上からぐらいなら、手で触れた対象が識別さえできていれば認識してくれる。
 それでも、「手で触れる」のは絶対条件になるので、ストレージから直接、というわけにはいかないんだよね。
 だから、冒険者であれば大抵は、ポーション類なんかの咄嗟で使いたいアイテムは、こうしてベルトに提げておいたり、ツキナさんみたいな小さいポーチなんかを使って、いつでも触れられるようにストレージに格納せずに携帯している。

 ゴブリンたちの方はと言うと、同士討ちと将棋倒しで幾分かの数がフォトンへと還されたものの、大混乱になりつつも、集団の外側にいた奴らからなんとか態勢を立て直してこちらに向かってくる。
 その間にも僕たちからも何発かチェインアローやフレアボムを撃ち込んでやったりして、それなりに数は減らせたものの、元の物量が圧倒的すぎて、まだまだかなりの数が、自分たちの拠点の門を壊し潰す勢いで押し寄せてくる。
 ……というか、門がもう壊れて突っ込んできた!?

「猛り狂い、渦巻き爆ぜろ! 《フレアボム》!」
「く……不味いな」

 ひとまずフレアボムで先頭集団を吹っ飛ばす僕の隣で、オグ君もチェインアローを連射してくれているけど、全く追いつかない。

「りゃあああっ!」

 ミスティスもイグニッションブレイクで纏めて切り崩そうとするけど――

「ヤッバ……! ごめんっ!」

 何匹かこっちに抜けてきた……!
 オグ君がチャージングつきのチェインアローを放って頭数を減らしてくれる。
 けど、それだけじゃ間に合わない!

「猛り狂い、渦巻き爆ぜろっ!」

 咄嗟で出した、宣言なしのフレアボム。
 数匹それに巻き込まれてくれるけど、如何せん無秩序に突っ込んできているだけのゴブリンの動きが逆に効果的に突入タイミングをずらすように働いて、まだ3匹が被弾を逃れて抜けてくる。
 その間にも、前線は前線で次々と後続がきている状態だから、オグ君はミスティスの援護にかかり切りの状態。

「《フロストスパイク》!」

 無詠唱で出したフロストスパイクだったけど……射線が甘かった!?
 1匹しか減らせてない……!
 残った2匹は僕をスルーして、一直線に後ろのツキナさんへ――

「ごめんツキナさん! 抜けられ――」

 タタン! タタタァンッ!

 「抜けられた」、と僕が言い切るよりも先に後ろから聞こえてきたのは、剣と魔法のファンタジー世界にはあるまじき、森に木霊する乾いた破裂音。

「へ……?」

 と、僕が間抜けな声を上げて振り向いてしまったのも無理はない。
 というか、この瞬間だけは、ゴブリンたちまで含めて全員の時間が止まっていたような気がする……。
 何しろ、振り返ったその先にいたのは、蒸発していくフォトンの向こう、硝煙を燻らせる二丁のサブマシンガン(・・・・・・・・・・)を構えて、不敵に笑うツキナさんの姿だったのだから。

 ――そう、HXTのバックストーリーで語られる、扉から齎された「異界の力」の正体とは、他でもない僕たちのリアルそのままの「銃火器」のこと。
 そして、ツキナさんがエクステンドしているフォースがプリーストのエクステンドとして人気の理由の一つは、クレリック系上位職で唯一、短機関銃までの小型の小火器を扱えるという一点に尽きる。
 本人のステータスに依らずに一定の攻撃力を確保でき、更にはアスペルシオ等、装備品そのものの性能や敵に与える最終的なダメージを直接底上げするものが多いプリーストの支援スキルとも相性がいい銃器は、個人での戦闘能力が低いプリーストの弱点を最も効果的に補ってくれるんだよねぇ。

 ゆらり、と、一度少し俯いたツキナさんは、スゥ、と大きく息を吸い込む。
 瞬間、跳ね上げられ、ゴブリンたちに向けて見開かれた彼女の目は、確かにギラリと光を発した……ように僕には見えた。

「プリーストなめんなあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 裂帛(れっぱく)の雄叫びと共に、サブマシンガンをフルオートでぶちかましながら躊躇なくゴブリンへと突っ込んでいくツキナさん。

「――!??? ――――!!」
「――――!! ――!!!?!?」

 完全に震え上がったゴブリンたちが、瞬く間に逃げ惑い、散り散りになって、容赦なく、蹂躙されていく。

「あー……始まっちゃったかー」
「まぁ……今回は結果オーライ、じゃないかな、うん、そういうことにしておこう……」

 と、ミスティスとオグ君は遠い目でその凶行を見送っている。
 あー……なるほどねー……。
 出発前の、ツキナさんに対する二人の微妙な反応はこれのせいかー……。

「えーっと……プリーストってこういう職でいいんだっけ……?」
「いいや……大丈夫だ、君の疑問と感性は正しい」

 思わず口に出ていた僕の疑問にオグ君が(かぶり)を振って答える間にも、文字通り逃げる間すらなくゴブリンは殲滅されていく。
 絶え間なく続いた銃声がようやく収まると、残っていたのは蒸発していくフォトンと、肉体の破棄すらできずに死体となったゴブリンたちの山だけだった。

「ふー…………あ……」

 動くものが他にいなくなって、ツキナさんもようやく我に返ったみたいだね。

「あっははー……やっちゃった、ごめ〜ん……」
「いや、まぁ、今回はこれでよかったんじゃないか。うん、あのまま物量で押し潰されるよりは」
「というか、結果敵はいなくなったんだし、これはこれでよかったんじゃないかな」
「結果オーライってやつだよね〜」

 バツ悪げに謝るツキナさんだったけど、みんなそんなに気にしてないと思う。
 まぁ、そもそもの話、僕の魔法でちゃんと仕留められてればツキナさんの方までは抜け出されなかったわけだし。

「ふむ、経過はともあれ、これでこの拠点も殲滅はできたか。一応、まだ隠れてないか中を一通り見ておくとしよう」

 と、オグ君の仕切り直しに僕らも頷いて、ひとまず拠点の内部の確認に移ったのだった。


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