note.021 SIDE:G

 森の散策へと戻って程なくして、今度こそゴブリンの群れが現れる。
 それに最初に気が付いたのは、先頭を歩くミスティスだった。
 前方に何かを見つけたらしい彼女は、静止するようこちらに掌を向けつつ、すぐ傍にあった茂みの裏に身を隠すように屈みこむ。
 それに倣う形で僕たちも同じ茂みに身を屈めて、彼女が指先だけで小さく示す方向を覗き込むと、6匹のゴブリンが、立ち止まって頻りに周囲を警戒している様子だった。

「見て。あいつら、近くに何かいるっぽいことには気づいてるみたいだけど、私たちのことはまだ見つけられてないみたい」
「なら、こっちから先制しちゃいましょ」
「そうだね。……弓1、槍2、剣が大小合わせて3、か。ふむ、なら、気付かれる前に僕が弓を落とそう」
「おっけー。タイミングは任せるよ。オグが撃つのと同時に私も手前の槍に突っ込むね」
「了解した。そうすると……おそらく、その後、残りの奴らは突っ込んだミスティスを囲もうとするはずだ。マイス、君はミスティスの死角に回った奴をファイヤーボルトで仕留めて欲しい。無詠唱なら、奴らは発動まで気付かないはずさ。ツキナはいつも通りに適時支援を」
「うん、わかったよ」
「任せて」

 キョロキョロと見当違いの方向を警戒しているゴブリンたちに気付かれないようにだけ注意しつつ、手早く段取りを決める。
 それにしても、ツキナさんから先制攻撃の提案が出たのはちょっと意外だったかも。
 ログイン前のリアルでの様子だと、もうちょっと慎重派だと思ってたけど……やっぱり、ここがゲームだってわかってるからかな。

 まぁ、今はそこは置いといて、ゴブリンに見つかる前に作戦実行だね。
 オグ君が、弓手をロックオンして弓を引く。
 チャージングを発動することで、左手が一瞬光ると、その光は弓本体を薄く覆い、本来の張力の限界を超えて弓がしなる。

「じゃあ、カウントダウンでいこう。 2、1……今!」

 手筈通り、オグ君の合図で弓が放たれて、同時にミスティスが茂みを抜けて駆ける。
 オグ君もだいぶ手慣れてきたようで、最初に二角ウサギを相手にした時の倍はあるだろう距離を、過たず弓ゴブリンの頭を射抜く。

「!? ――!」
「――――!!」

 未だに僕たちに気付いていなかったゴブリンは、弓手を射抜かれたことで、矢の飛んできた方向から、ようやくこちらを認識した。
 が、その時には既に遅く、慌ててこちらに向き直ろうとした槍持ちの1匹は、武器を構える間すらなく、飛び込んだミスティスの横一閃で首を落とされる。

「――――!?」

 唯一の遠距離攻撃要員を初手で失い、さらにもう1匹も瞬く間に失ったゴブリンたちが慌てふためく。
 しかし、次の瞬間には、飛び込んできたミスティスが母体となり得る女性と判断したのか、ゴブリンたちの目の色が変わった。
 なるほど、最初に仲間を失ったことや、後方に控える僕やオグ君のことは既に眼中にないらしい。
 実にわかりやすい行動原理だね。

 一応、剣と槍で前衛後衛に分かれるぐらいの判断力は残っているようで、槍持ちが一旦後ろに下がると、大きめの剣を持った2匹が左右前方から大きく跳躍してミスティスへと斬りかかる。
 対するミスティスは、左の1匹を盾で受け止めて、同時に右の1匹と剣を切り結んでいなす。
 そして多分、2匹が僕たちの目線ぐらいまで大きく跳躍して仕掛けてきたのは、彼女の注意を上方に逸らす意味もあったんだろうね。
 その間に、彼女の死角になる真後ろの低い位置に忍び寄った、小さな剣を持った1匹が、右脚を狙って飛び上がる。
 更には、2匹を対処したことでガラ空きになった正面から、槍持ちが飛び込んでくる。
 その狙いも、やはり脚。
 どうやら、母体としての能力に傷を付けずに、かつ、逃げられないように、まず脚から狙う、ということみたいだね。

 まぁ、ミスティス一人が相手なら、それでよかったんだろうけどね。
 ここまでの流れは完全に事前のオグ君の予測通り。
 僕らの様子には全く気付いていない無防備な小剣持ちの背中に、すかさず無詠唱のファイヤーボルトを叩き込んでやる。

「――!!」

 背後から炎の矢に焼かれたゴブリンが、断末魔の叫びをあげる。
 けど、その身体がフォトンへ還る直前、結果的に後ろから炎に押し出される形になったこともあってか、辛うじて刃はミスティスの右太ももへと達して、スカートを大きく裂きつつ、ざっくりと切り傷をつけることに成功していた。

「……っ!」

 それによって一瞬、ミスティスの膝が落ちる、が――

「ヒール!」

 すぐさまツキナさんからのヒールが飛んで、開いた傷も、破れてかなり際どいところまで太ももを露わにしていたスカートも、何事もなかったように即座に元通りに治される。
 そうして、ミスティス自身は、膝が落ちたことを逆に利用して、一息に後方へと跳んで、目の前に迫っていた槍から完全に間合いを外す。

「!?」

 後ろからの一撃が決まったことで、そのまま体勢を崩すとでも思っていたのか、驚愕した様子の声をあげる槍持ちだったが、未だ空中にある身体でそれ以上何ができることもなく。
 跳躍の勢いが仇となって、標的を失った槍は地面に深々と刺さって、すぐに抜ける状態ではなくなっていた。
 そこに、ちょうどミスティスと位置を入れ替えるように前方へと飛び込んだオグ君が、至近距離から矢を叩き込む。

「《バーストアロー》」

 複数の矢を同時に射ることによる強攻撃スキル、バーストアローで2本の矢が同時に放たれて、綺麗に喉元と額を撃ち抜かれた槍持ちは、矢が刺さる衝撃のままに、どさりと後ろに崩れ落ちた。

 ちなみに、バーストアローはスキルLvによって最大4本まで同時発射できるようになるから、Lvが上がると、いつでも出せてそこそこ火力の出る単体火力っていう……マジシャンにとってのブレイズランスのような立ち位置にあたるスキルだね。

 さて、こうなってしまえば、残りは剣持ちの2匹だけ。
 母体欲しさと言えど、さすがに自分たちの身が危ういとなれば逃げ出す程度の知性はあるのがゴブリンという種族だ。
 単に統制がなかったのか、標的を分散させようという知恵なのかはわからないけど、互いにバラバラの方向に逃げようとする2匹。
 まぁ、いずれにせよ悪あがきだよね。
 片方は僕の無詠唱ファイヤーボルトで、もう片方はチャージングつきのバーストアローであっけなく撃ち抜かれて爆散した。

「ふむ、まぁ、こんなものかな」

 周囲を見回して、敵の全滅を確認したオグ君が構えを解く。
 逃げる2匹を僕らが仕留める間に自分でも先に確認してはいたのだろう、既に剣を肩に担ぐ形で楽に構えていたミスティスも、それを受けて剣を収める。
 僕はというと、一瞬とはいえ傷を付けさせてしまったミスティスの下へと駆け寄っていた。

「ごめん、ミスティス! 僕がきっちり仕留めきれなかったから……」

 とは言ったものの、当のミスティスはあっけらかんと笑って、

「あっはは、あんな程度、このゲームじゃ傷の内にも入んないって。見ての通り、ヒール一発で元通りなんだし」

 と、さっきやられたはずの右脚を軸にして、軽やかに一回転してみせる。

「それに、あれぐらいの想定外は誤差誤差。作戦としては完璧に流れ通りだったじゃん。気持ちは嬉しいけど、これぐらいでいちいち心配してたら身が持たないよ〜?」
「う、うん……」
「ま、最初の内戸惑う気持ちはわかるんだけどね〜。このゲーム、VRである前にRPGなんだから、戦えば被ダメがあるのは当然でしょ。今の内に慣れときなさい」
「そっ……か。うん、わかったよ」

 あー……まぁ、確かに、RPGであると考えれば当たり前の話なんだよね。
 戦いが発生すれば、当然被ダメも発生する。
 そして、多少のダメージを受けても、ポーションやなんかのアイテムだったり回復スキルがあれば、減ったHPも元に戻る。
 この世界がゲームである、と理解すれば、単純なお話だよね。
 う〜ん……どうしても、例の「ズレ」のせいか、無意識にHXT(この世界)も現実だと考えがちなのかもしれないなぁ。
 これはミスティスの言う通り、今の内に割り切って慣れておくべきところなのかもしれない……。

 そんな僕の葛藤をよそに、森の探索は続く。
 とは言うものの、討伐自体は順調そのもの。
 一度だけ、2匹のみでの行動という珍しいパターンのウルフに遭遇した以外は順当に、散発的に遭遇する、さっきと同じような4〜6匹程度のゴブリン集団を狩っていく。
 そうして、ゴブリンとの戦闘にも味方への被ダメの発生にも、ようやく意識的に慣れてきたかな、と思い始めた矢先に、それは見つかった。

「あ、あれ!」

 と、ミスティスが指差すまでもなく、前方の遠目に見えてきたのは、ゴブリンが守る集落のような拠点だった。

「ようやくお出ましってやつね。今のうちに支援かけ直すわ」

 ブレッシング、アスペルシオ、サクラメント……と一連のスキルが再度かけ直されて、そこに加えて更に2つ。

「《ディバイン・プロテクション》 主よ、祝福を。《ルクス・ディビーナ》」

 ディバイン・プロテクションは、防具の防御力を一時的に上昇させる、アスペルシオやサクラメントの対になるような立ち位置のスキル。
 ルクス・ディビーナは、スキルLvで決まる一定回数、もしくは一定値までの累積ダメージを無効化するバリアを張るスキルだ。
 一瞬で防御回数を使い切ってしまうような多段ヒットには弱いのが弱点だけど、バリア耐久値さえ残っていれば耐久値を超えるダメージを受けても最後の1回は無効化してくれることや、攻撃されても回避に成功すれば当然回数も耐久値も減らないことから、どちらかと言えば耐久型より回避型のキャラに嬉しい性能だね。

「ん〜、とりあえずもうちょっと見える位置まで近づきたいなー。そこの樹の裏とかどう?」
「ふむ、そうだな。とりあえず、あそこから様子を見てみよう」

 ミスティスが指差した場所は、拠点から身を隠すのにちょうどよさそうな大木と、すぐ傍には茂みになっている低木もあって、拠点内部の様子を窺うにはちょうどよさそうだった。
 ひとまず全員で、拠点から見て茂みの裏側になる方向から、見つからないよう頭を下げて大木のところまで近づく。

 樹の陰から拠点を覗き見ると、ゴブリンの高さに合わせた木柵に囲まれ、門番役と思われる槍持ちのゴブリン2匹に守られた門と、門を挟む形で見える範囲に2ヵ所の簡易的な見張り櫓に弓持ちゴブリン、と哨戒兵こそいなかったものの、ほぼギルドでの偵察画像と同じ光景が広がっていた。
 それを確認した僕たちは、一旦茂みの後ろに完全に隠れるようにしゃがみ込んで作戦会議に移る。

「ふむ……大体事前情報通り、というところか」
「どうしよっか。テキトーに突っ込んじゃう?」
「まぁ、そうだね。僕が先にここから弓手だけ仕留めてしまえば、あとは考えずに突っ込んでも問題ないとは思う」
「えぇぇ……そんな適当でいいの?」

 ほとんど作戦ともいえないようなあんまりな作戦に、思わずツッコんでしまったけど、

「問題ないさ。見たところ、上位個体もいないようだしね。上位個体の統率がないゴブリン連中なんて、いくら数がいても烏合の衆には変わりない。適当に突っ込んで端から殲滅して、数が多いようなら一旦拠点の外まで退いてしまえばいい。連中に迂回とかそういう知能はないから、あの狭い門から馬鹿正直に数匹ずつ出てくるだけになる」
「な、なるほど」

 そういうことなら、まぁ、いい……のかなぁ……?
 なんか不安な気もするけど……さっきまで遭遇したゴブリンたちの、一度ミスティスにタゲを定めたらもう脇目も振らないみたいな単純思考っぷりを見てると、確かにそんな展開も予想がつくような気もする。

「とりあえず突っ込んじゃって、数がヤバそうなら、私が1回挑発(プロボ)しちゃうから、それを合図にみんな一旦外まで退避ね。引き付けるだけ引き付けたら私も全力で外まで逃げるから、みんなは援護お願いね」
「おっけ」
「了解した」
「わかったよ」

 大筋の方針が定まったところで、早速オグ君が立ち上がって、樹の陰から見張り櫓の様子を窺う。

「さて、まずは邪魔な弓手の掃除、といきたいところだけど、おそらく角度的にあちらを狙うと矢が門番の前を通過してバレるね」
「じゃあ、それを突撃の合図にしちゃえばいいんじゃない?」
「そーねー。どうせ突っ込む時には真っ正面からバレるんだから、一緒一緒」

 と、気楽な調子のツキナさんとミスティスに、

「それもそうか」

 と、こちらも軽い調子で肩を竦めるオグ君。

「さて、じゃあ、始めようか」

 改めて、オグ君がロックオンとチャージングをかけつつ、手前側の見張り櫓に向けて弓を引く。
 チャージングの発動で手元に魔力の光が灯るけど、その光は反対側の櫓からはちょうど樹の裏に隠れる位置で、上手く隠せている。

「《スナイピングショット》」

 一瞬だけ魔力の閃光を残しながら、これまでよりも鋭い風切り音を上げて矢が射られる。
 スナイピングショットは、弦に通した魔力で矢を加速させることで、射程、弾速、精度と威力を上昇させた強力な一撃を放つ、ロックオン中にのみ使用可能な狙撃用スキル。
 なまじ精度が上がる分、手元の僅かなブレも最終的に大きな誤差に増幅されてしまうから、照準に繊細な操作が必要になるのが難点だけど、ほとんど撃った瞬間には着弾しているレベルの圧倒的な弾速と、基本職であるアーチャーとしては破格の高火力が魅力だね。

 そのスペック通りに、引ききられた手から矢が放れた、と思った瞬間には、既に手前の櫓のゴブリンの頭部は弾け飛んでいて。
 残されたゴブリンの身体は、半ば吹き飛ばされるようにして後ろに倒れながらフォトンへと爆散したみたいだったけど、それがちょうど櫓の内部に倒れ込む形になったみたいで、そのフォトンの光は仄かに櫓が光ったかな?ぐらいにしか確認できなかった。
 あの様子なら、見張りが1匹やられたことは他のゴブリンたちには気付かれてなさそうだね。

「ないっしゅ〜♪」
「ふむ、まずは上々」

 オグ君も、だいぶ射撃に慣れてきたみたいだね。
 弓手として先輩のミスティスが素直に褒めるんだから、多分、筋はいいってことなのかな?

「さて、あとは向こう側か。手筈通りいこう」

 矢を番え直すオグ君に、僕たちもそれぞれ応える。

「少し遠いな……。《ホークアイ》」

 傍目には少しわかりにくい変化だけど、スキル宣言と共に、ほんのりとオグ君の目の色が変わる。
 ホークアイは魔力による視力強化スキル――要するに、望遠鏡だ。
 今回はスキル名宣言があったけど、スキルとしては任意で効果のオンオフが可能なパッシブスキルに分類されるから、慣れれば宣言なしでも発動できる。

 弓が引き絞られるのに合わせて、ミスティスもいつでも飛び出せるように構える。
 僕たちもその後ろを追わなきゃいけないんだから、いつでも駆け出せる準備はしておかないとね。

「《スナイピングショット》」

 櫓に向けて閃光が走る、と同時に、門番に向けてミスティスが突撃する。

「――!?」
「――! ――!」

 突然の閃光に驚いた門番役が、その軌跡を辿ってこちらに振り向いて、警報らしき声を上げる。
 僕たち人間には、ただギャーギャー喚いてるようにしか聞こえないけど……一応、彼らなりに言語として成立はしているらしい。
 それに反応して、ちょうど近くにいたらしい1匹が門番と共に迎撃に出てくる、が――

「とぉ〜やぁ〜〜〜」

 そんな妙に暢気な調子の掛け声で放たれたミスティスの、魔力によって範囲と威力を増幅された横薙ぎ一閃――ワイドスラッシュで3匹まとめて斬り倒される。

「命中。行こう」
「うん!」

 櫓の弓手が倒れたことを確認して駆け出すオグ君に、僕とツキナさんもそれぞれ応えて後に続いた。

 僕らが拠点の敷地に入った時には、既にミスティスはだいぶ奥まで踏み込んでいて、そこかしこから湧いてくるゴブリンを相手に、視界に入ればワイドスラッシュで、囲まれそうになれば、剣に纏わせた魔力を地面に思いっきり叩きつけて爆破する全周範囲スキルのイグニッションブレイクで吹き散らして殲滅していく。

 大半のゴブリンはミスティス目当てだったけど、幾分かは後ろの僕たちに気が付いて、こちらに向かってきていた。
 けど、一番近くまで来ていた1匹にオグ君の矢が刺さり……と思ったら、そのゴブリンの身体から飛び出してくるように新しい矢が出現して、別のゴブリンへと突き刺さる。
 敵に当たると矢が複製されて別の敵へと連鎖する、アーチャー時点での数少ない複数攻撃スキル、チェインアローだね。
 今回は2体だったけど、スキルLvによって最大5体まで連鎖可能になる。
 1回の攻撃で倒せるのは2匹とはいえ、ロックオンなしでも使えて、ほとんど通常攻撃と同じノリで撃っていける手数の多さもこのスキルの魅力だ。
 オグ君から次々と矢が放たれるたび、こちらに向かってくるゴブリンは瞬く間に数を減らしていく。
 途中からさすがにゴブリンたちも業を煮やしたのか、タゲをオグ君に集中しようとしたみたいだけど、それによって逆に、馬鹿正直にオグ君に真っ直ぐ突っ込むだけの単調な動きになっていて、結局全てのゴブリンが難なくチェインアローで射抜かれてしまっていた。

 さて、露払いはオグ君が全部やってくれたから、僕は落ち着いてミスティスの援護に集中すればよさそうだね。
 ここまでで多少Lvが上がってることもあって、支援込みでの繰り返しの使用で、フレアボムの詠唱も今日の最初よりもう少し短縮できるようになっている。

「猛り狂い、渦巻き爆ぜろ! 《フレアボム》!」

 彼らの住処なのだろう、竪穴住居のような小さい建物から出てきたばかりだった集団を、住居ごと吹き飛ばしてやる。
 その爆発で、ちょうど足止めを食らう形になった別の集団が、爆風にたたらを踏みながらも僕の方にタゲを切り替えて突っ込んでくる。
 だけど、足止めと突然のタゲ切り替えで足並みが乱れていて、集団がすっかり僕に向かって縦に伸びててまばらだねぇ。
 これだと多分、フレアボムよりも……

「猛る紅蓮よ、槍と成し穿て。《ブレイズランス》!」

 狙いは中央最後尾、味方を追いかけるようにして向かってきていた1匹。
 ついでに、構築する時のイメージを、槍の鋭さそのものよりも、炎の柱としての太さと、そこに纏う炎の螺旋を意識したものに変えてやる。

「――――!?」
「――! ――!!」
「――!?」

 敵の配置を見て、なんとな〜く思いつきでやってみたんだけど、思った以上に上手いこといったね。
 僕の狙い通り、螺旋を纏って太さを増したブレイズランスは、向かってくる全員を掠めるように通り抜けて、最後尾の1匹を呑みこんで爆発した。
 射線上の他のゴブリンたちも、身体の半分以上を炎に呑まれて消し飛ばされたり、燃え移った火が全身に回って丸焼きになったりして、全てフォトンへと還っていく。

 その前方では、ミスティスが剣を大上段に構えながら上空高く飛び上がる。
 スライムの時にも使った、上空からの斬り下ろしスキル、メテオカッターだね。
 だけどさらに、その刃にはイグニッションブレイクの魔力が纏われていて――

「いっけぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜♪」

 それはもはや、着地と言うより着弾と呼んだ方が表現として適切だったと思う。
 着地と同時に、今の僕の支援込みのフレアボムにも勝るとも劣らない轟音を轟かせながら巨大な爆発が起きて、ゴブリンの集団1つが丸ごと消滅する。
 メテオカッター分の落下の勢いまで乗せられたことで、イグニッションブレイクの範囲と威力が大幅に上昇した形だね。
 ちなみに、たまたま瞬間が見えたんだけど、爆発直前にメテオカッター部分でちゃっかり1匹両断していた。

 さっきの僕のブレイズランスのイメージ変更とか、今のミスティスの合わせ技とか、発想次第で無限に応用できるスキルの柔軟性もHXTのウリの一つなんだよね。
 果てには、条件は厳しいけど、オリジナルスキルを作る機能まであったりするから、これも突き詰めると結構奥が深いんだよねぇ。

 今のミスティスの大技を最後に、敵の数もそろそろ打ち止めみたいで、ゴブリンたちの数が目に見えて減りつつあった。
 後ろで適時ミスティスへのルクス・ディビーナのかけ直しや全体支援の維持に集中してくれていたツキナさんも、余裕が出てきたのか、クレリック系の上位職の一つ、フォースが持つ攻撃スキルで火力に加わりだすと、残りのゴブリンもあっという間に殲滅されていく。

 フォースは、クレリック系ながらある程度の物理攻撃力も持ち合わせる、いわゆる魔法剣士に近い万能職。
 その万能さの分IntやDexといった魔法関係の補正は他の魔法職と比べると控えめで、突出したところのない器用貧乏なステータス補正だけど、攻撃魔法もある程度使えたり、片手剣なんかの、クレリック系では普通は装備できない刀剣類もいくつか扱えることや、プリーストとは系統の違ういくつかの支援スキルも持つことから、純支援型で作ると単体での戦闘能力がどうしても低くなりがちなプリーストにエクステンドするサブ職として、プリーストのダブルエクステンドと並ぶ人気の職だね。

 そうして、僕が放ったファイヤーボルトを最後に、辺りに静寂が戻る。

「えっと……これで終わり、かな?」
「そーねー」
「あぁ、終わりで問題ないだろう」

 攻撃役二人がそう言うんだから大丈夫そうかな?と思ったんだけど、そこにツキナさんが付け加えて、

「あとはー……施設潰しよね」
「めんどくさいけどね〜」
「施設潰し?」

 この拠点そのものを使えなくしないといけないってことかな?

「そう、このレベルの拠点を放置すると、連中に再利用されてしまう。だから、二度と使えないよう、拠点としての機能を完全に潰しておく必要がある」
「これが洞穴とかだったら入口崩すだけでいいから楽なのにな〜……」

 確かに、ゴブリンサイズとはいえ、それなりの広さはある中にまばらに配置された住居なんかを全部潰していくのはちょっと手間だね。

「まぁ仕方ないさ。やらないことには追加報酬も出ない」
「だよねぇ〜……」

 と、心底めんどくさそうなミスティス。
 見回せば、戦闘で壊れた部分は多少あったとは言え、かなりの数の施設がまだ再利用できそうな状態なのがわかってしまって、さすがに僕も少しげんなりしてくる。

「ま、こんなのさっさと終わらせて、次いきましょ。もう1個ぐらいは拠点潰して追加報酬稼ぎたいでしょ」
「それもそーだね」

 報酬の話が出たからか、ミスティスが気合を入れなおすように姿勢を正す。
 現金だねぇ……。
 まぁ、歩合制だし稼げるだけは稼ぎたいって気持ちは僕もあるのは確かだけどね。

 と、そんなわけで、それとなく四人で散らばりつつ、10分ほどをかけて、主のいなくなった住居を一つ一つ潰していった。
 僕が持っている魔法の中だとフレアボムぐらいしかちょうどいいのがなかったから、毎度詠唱するのはなかなかに骨が折れるねぇ。
 まぁ……ある種の反復練習か何かだと思えばこれも悪くはなかった……かな。


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