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note.026 SIDE:G

 ドヤ顔のツキナさんに対する二人の微妙な反応の理由が気になるところだったけど……。
 そんな微妙な温度差を本人に言ってあげるべきなのか迷っている間に、ミスティスが強引気味に話を進めにかかってしまった。

「とー……とりま、狩場はどこにしよっか〜? このパーティー構成なら結構いろんなとこ行けそうだよね!」
「僕はパーティーの知識はまだないし、みんなに任せるよ」
「ふむ、そうだね……」

 オグ君が腕組みで思案する。

 一応、ソロでのレベリングのための予習として、情報サイトでアミリア周辺の狩場の基本的な知識……フィールドごとの敵の平均Lvだとか、どんな敵がいるのかとかぐらいは調べてある程度知ってるつもりだけど……。
 複数人のパーティーとなると初めてだから、どの程度格上への無茶が利くのかとか、編成的な相性とかもあるだろうし、そういう匙加減はまだちょっとわからないからね。

「そう言えば、二人のLvを聞いてなかったね。今いくつだい?」
「私は57〜」
「僕も57だね」
「それなら……プリースト(あたし)の支援もあることだし、アミ北とか行けるんじゃない?」
「ウルゴブ森かー、いいねっ!」
「確かに。支援込みで考えればちょうどいいぐらいだろう」

 通称「アミ北」――確か、単に「アミリア北の森」っていうのが正式名称だったかな。
 名前の通り、アミリアから北へ向かった先を塞ぐように東西に伸びている森林地帯のことだ。
 敵の平均Lvは70前後だったはずだから、今回も結構な格上が相手ということになりそうだけど、ツキナさんのプリーストスキルの支援があればなんとかなる……のかな?
 まぁ、三人の意見が一致してるから、大丈夫ってことだとは思う。

 森の西側と東側で生息する魔物が大きく分かれているのがアミ北の特徴で、西側はフォレストウルフの支配地域、東側はゴブリンの支配地域になっていて、それぞれ「ウルフ森」、「ゴブリン森」、両方合わせて「ウルゴブ森」という通称がつけられている。
 何で一つの森でそんなに綺麗に生息域が分かれてるのかと言うと、この二つの種族が森の支配権を巡って縄張り争いをしてるってことらしい。

 フォレストウルフは名前の通り、森林地帯を主な生息域とする狼。3〜10匹程度の群れ単位で行動するのが基本で、リーダー格の個体を中心とした連携で狩をするだけの知能を持っている。
 この魔物の危険なところは、群れが集まると、集まった群れ全体を指揮する個体が現れ、更に群れが大きくなると、またそれら全体を指揮する個体が現れ……と、群れが巨大化するにつれて強固に系統立てられた強大な軍隊組織が作られていくことなんだよね。
 そうして群れが肥大化すると、今度は群れの維持のために生息域を広げようと、周囲への侵攻が始まるらしい。
 こうなったフォレストウルフはかなり厄介で、人間の軍隊にも劣らない高度な統率と連携で、小さな町程度なら簡単に攻め落としてしまうぐらいなんだとか。

 ゴブリンの方は、まぁこの手のファンタジー的な世界観でよくあるテンプレ通りの、緑色の肌に醜く尖った大きな鼻と耳を持った小鬼のような種族だね。
 彼らは、この世界では「亜人」と分類される種族の一つとされている。この世界での「亜人」とは、「概ね人型をしていて、ある程度独自の文化習慣を持つものの、人語を解するほどの知能はなく、原始的で人類や他生物に敵対的な種族」という定義みたいだね。
 どうやら、亜人はある程度人類に近いからか、他の魔物と違って、ダンジョン内部なんかのエーテル濃度が高い場所でないと周囲のエーテルを知覚出来ず、かと言って、人類のような高度な魔法を扱う知能もないので、基本的に死んだら復活ができないみたいだね。
 それを繁殖力で補うことに特化したのが、この世界のゴブリンという種族であるらしい。
 ゴブリン以外に亜人に分類されるのは、オークとかトロールとか……まぁ、これもまたこの手の剣と魔法のファンタジー世界と聞けばありがちな、お馴染みのラインナップが揃っている。

 生物学的に雌であれば母体を問わない強靭な繁殖力でそのために人間も襲うとか、これまたほぼほぼテンプレ通りな諸々の世界観設定はあるけど、ともあれ魔物としてのゴブリンの脅威は、人間同様の様々な武器種を持つことによる集団戦法だ。
 群れの増大に従って「文明」を発展させ、彼らの装備も簡素な棍棒から木剣や槍になり、弓矢が現れ、鉄器になり……と、どんどん進化して脅威度を増していく。
 持っている武器種によって前衛後衛に分かれるぐらいの知能は持ってるから、こちらもある程度、対人戦に近い想定をした準備が必要になる。
 最終的に、初歩的な魔法を使う個体等も現れ始めると、拠点をまとめるリーダー格となる個体が発生するようになる。
 こうなればもう、前衛から後衛まで、一通りの兵科を揃えた立派な軍団の完成だ。
 そうして組織化されたゴブリンは、優秀な母体を求めて、人類に対して特に敵対的になる。
 何とでも交配可能とはいえ、繁殖の効率としては「より人型に近い」方が優秀なようで――つまるところ、「人類」に規定されている種族こそが、彼らにとって最も優秀な母体となるから、ということらしい。

 そんな二つの種族が、支配権を巡って争い続けているのがアミ北という場所だ。
 本来であれば、アミリアとしてはどちらも駆除できればそれに越したことはないんだけど、何しろ森の範囲が広大なので、一度に全てを殲滅しきるのは事実上不可能。
 かと言って、むやみに縄張り争いに介入すれば、勝ち残った方が一気に勢力を増して森を出て、アミリアに攻め込んでくる可能性が高い。
 そんなわけで、アミリアの対応としては、ウルフとゴブリン双方の討伐を常設依頼としつつ、戦力がどちらかに偏りそうなら群れや拠点の殲滅を斡旋依頼に回したりして、全体を常に間引きしながら、双方を延々と縄張り争いさせて森から外に出させない、という手段に落ち着いているのが現状だね。

「実は、今日ちょっと早めに昨日からログインして、装備をちょっと更新してみたんだよね〜。ウルゴブなら試し斬りにはちょうどよさそうだよ」

 そう言ってミスティスが軽く叩いて示してみせた、その左腰に目をやれば、確かに、剣の装飾が昨日とは違うものになっていた。
 改めて見てみると、鎧の下のピンク色でまとめられた基本の服は同じだけど、昨日は簡易な革鎧だった肘当てや足回りも金属鎧に換装されていて、胸当てや籠手も所々昨日とデザインが変わっている……ような気がする。
 昨日の装備をそんなにまじまじ見てたわけじゃないから、換装された場所以外の防具の差はちょっと確信が持てなかったけど。

「ふむ、異論はなさそうだね。今日の狩場はアミ北にするとしようか」

 というオグ君の確認に、全員が同意で返す。

「それじゃ、1回ギルド確認してみない? アミ北なら掲示板か斡旋で何かあるかもだし」
「サンセー♪」

 と、話もまとまって、僕らはギルドへと足を運んだ。


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