note.027 SIDE:G

 薄暗い階段を降りきると、思っていたよりは広めの通路が僕たちを待っていた。
 地上と違って、きちんと形の整えられた石レンガで組まれた通路の横幅は、大体僕たち四人が横一列になってちょうど快適に歩けるかな、ぐらいかな?
 天井も、見た目4mぐらいの高さはありそうだ。
 なんとなく、勝手なイメージとしてもうちょっと狭い迷路みたいなのを予想してたところがあったんだけど……まぁ、考えればこれぐらいはさすがにないと、まともに武器も振り回せないもんね。
 ひとまず、最低限の戦闘とか往来には困らなさそうで一安心って感じかな。
 とはいえ、この閉鎖空間でさすがにフレアボムとかの範囲魔法はちょっといろいろ怖いから、中級魔法はできれば封印したいかなぁ、という印象だ。
 ブレイズランスぐらいなら、まぁいいかな?

 階段は薄暗かったけど、通路に出てからは思ったよりも明るい。
 見れば、両側の壁には一定間隔で例の謎顔レリーフが刻まれていて、その口の中に何か魔法的な灯りが灯っている様子だった。
 ……うん、その、いい加減気になってしょうがないんだけど、

「……すっごい今更だけど、ホントにあれ何の顔なの……?」
「なんか昔話の鬼っぽいよね。ほら、桃太郎とかに出てきそうな」
「ふむ、蛇っぽくないか?」
「え、猿じゃない?」
「…………」

 ……結局何なんだ……。

「まぁ、進もっか」

 うん、まぁ、深く考えたら負けなのかもしれない。
 早々に思考を放棄したミスティスが多分正解だと思う。

 と、そんなわけで、いつも通りにツキナさんに支援スキルをもらってから、それとなくで陣形を組んで、右手の壁伝いに通路を歩き出す。
 配置としては、ミスティスを先頭に、その半歩左後ろ、ミスティスが構えた盾に半分身を隠すような形でオグ君、で、僕とツキナさんがその後ろに続く、変則二列縦隊、という感じだ。
 通路は程なくT字路になっていて、どうやら典型的な迷路型のダンジョンになっているみたいだね。
 初心者が大体最初に攻略することになるダンジョンと言うだけあってか、時折通路の先で誰か戦っているらしい音が聞こえてきたりしている。

「せっかくだし、マイスが道決めていいよー。初ダンジョンなんだし」
「ありがとう。んー……じゃ左で」

 と、T字路の先の安全確認をしながらミスティスが言ってくれるので、適当に左を選んでみる。
 もしかしたらミスティスなんかは、この程度の初期のダンジョンは既にマップが頭に入ってたりするのかもだけど……ま、こういうのは事前に道がわかっちゃってるよりも、こうやって行き当たりばったりでとりあえず進んでみちゃった方が探索っぽくて楽しいよね。
 ミスティスもそう考えてなのかはわからないけど、行き先を僕に任せてくれるのは割と嬉しい。

 そうして少し進んでいると、オグ君が急にストップをかける。

「ふむ、そうだな、マイス。このエニルムは、言ってしまえば初心者の練習用ダンジョンのようなところだ。だから、ダンジョンとしてあるべき要素は大体一通りが揃っているんだ。たとえば……ちょうどそこの床、トラップが仕掛けられている」
「え、どの辺?」

 オグ君が床を指差すけど……んん〜……?何がトラップなんだろ?
 う〜ん……それなりに目を凝らして見ているつもりだけど……ちょっと僕にはお手上げだ。

「んー……ごめん、僕には見分けがつかないんだけど……」
「ふむ、まぁ、最初はやっぱりそんなもんだよな。ツキナ」
「はいはい、答え合わせね。《ライト》」

 ライトはクレリック時点で覚えられる初級聖術の一つで、まぁ名前そのまんま、魔法の光で照明を作る補助スキルだ。
 と同時に、ある程度のトラップを検知してくれる機能もあるから、そういうのを感知できる罠師のエクストラスキルを持っていないパーティーとかにも役に立つ。
 罠の他に、たまにいる、魔法的な隠蔽スキルで隠れていたりする敵も見つけてくれる。

 ぽわ、と、ツキナさんの杖の先端に光が灯って宙に浮くと、光はふわりと僕たちの前に出て、オグ君が指した辺りを照らしてくれる。
 すると……

「あ、見えた。これが?」
「そういうことさ」

 光に照らされた床には、周りは他の壁や床同様にきっちりと敷き詰められた石レンガで組まれていたけど、一ヵ所だけ、明らかに周りを囲むレンガとの間に隙間ができているブロックがあった。

「なるほど、これはだいぶしっかり見てないと危ないね」
「あぁ、もし気づけなければ、こうだ」

 と、オグ君がその場にしゃがんで、手でそのブロックを押し込む。
 その途端、「カシャン!」と音と共に、左側の壁の謎顔レリーフの両目から矢が発射されて、オグ君の頭上を抜けて突き刺さる。

「うへ……漫画とかでありがちだけど、実際見ると怖いね」

 高さ的にはちょうど僕の目線ぐらいで飛んできた矢に、当たらないとわかっていても、思わず僕は少し身を引いてしまった。

「と、そういうわけさ。このまま足元はツキナに照らしてもらっておくけど、自分でも明かりの範囲外をよく観察してみるといい。ライトなしの自力で何か見つけることができれば罠師のエクストラスキルが手に入るぞ」
「わかった、やってみるよ」

 エクストラスキルの罠師はその名の通り、罠に関するあれこれが使えるようになるスキルだね。
 取得条件は今オグ君が言ってくれた通り、補助スキルの助けなしに自力で罠を見破ること。
 スキルLvでより高度に隠蔽された罠も見つけられるようになっていくのと、確かアーチャー系の一部上位職で覚えられるトラップ系のスキルに対しても、敵に見破られにくくしたり、設置モーション時間の短縮やダメージを増加させたりとかのボーナス効果があったはずだ。

 罠スキルへのボーナスはアーチャーじゃないと関係ないけど、罠を自力で見破れるようになるというのは、絶対にできて損はないよね。
 頑張って探知範囲外を捜してみよう。

 ライトの光を先導代わりに、改めて探索を再開する。
 曲がり角は、まぁ他の人が既に戦っている場所を邪魔してもしょうがないので、戦闘音が聞こえてきたらその方向は避けつつ、何もなければ僕が気分で方向を決めていく。
 それほど空間把握に自信はないから完全になんとなくでしかないんだけど、一応自分なりに脳内で通ってきた道を思い出しつつ、最低限、同じ場所をぐるぐるしちゃったりとかはしないようにしているつもりだ。

 そうして進む間にも、一応、罠師の取得を期待して、ライトの範囲外に目を凝らしてみてるんだけど、まぁ、最初にオグ君に指差してもらっても気付かなかっただけあって、早々歩きながらで見つかるようなものでもないようで。
 気がつけば、ついつい罠捜しに躍起になってしまって、落ち着きなくきょろきょろと辺りに気を散らしてしまっていたんだけど……

「あー、蛇かぁ」

 という、ちょっと残念そうなミスティスの声で敵のことを思い出して、慌てて身構える。

 ボトリと天井から降って現れたのは、グリンポイズン――ダンジョンの外にも生息してる、グリンスネークに似た毒蛇だね。
 ただし、当然のこと同じグリンポイズンでも、ダンジョン外の個体よりもLvが上がって強化されている。
 グリンスネークが普通の黒い瞳をしているのに対して、こちらは黄色い瞳。
 全長は大体2mないかなぐらいで、太さは見た目僕の二の腕ぐらい、僕らに対峙して頭をもたげた戦闘体勢の今は、ミスティスの腰下ぐらいの高さだ。
 攻撃手段は、身体をたわませてからの素早い噛みつき攻撃と、遠距離攻撃として口から吐く毒液がある。

「こいつ、背ぇ低いし的ちっさいし、剣だといまいちやりづらいんだよねー」

 と、ちょっとめんどくさげに、ミスティスは太もも辺りを狙ってきた噛みつきをバックステップで避ける。

「僕がやろう。《ラピッドショット》」

 そのステップと入れ替わるようにオグ君が前に出て、噛みつきを避けられて隙を晒した側面から蛇を射抜く。

 ラピッドショットはロックオン中のみ使用可能で、3本の矢を素早く点射する多段攻撃スキル。
 最大4本の矢を同時に叩き込むバーストアローの方が、スキル倍率的にも単発火力では上なんだけど、同時発射故に散布界が広くなりがちで、狙いが大雑把なバーストアローに比べて、ロックオン専用スキルなこともあって、ピンポイントに安定した火力を発揮できるから、今回のように的が小さい相手や、弱点になる位置を正確に狙い撃ちたい時に連射の利くメインダメージソースとしてよく使われるスキルだね。

 首筋付近を三発射抜かれて、大きく体勢を崩しつつも、倒れるまでには至らなかったようで、グリンポイズンは威嚇するように「シャアッ」と喉を鳴らしながら頭をオグ君へと向けて、毒液を発射する。

「おっと、浅いか」

 言いつつ、オグ君は後ろに跳んで、下がったミスティスの裏まで戻ることでそれを回避する。
 オグ君が倒しきれなかったのを見て、僕も追撃の魔法を既に構築している。
 後ろに下がった彼の脇から射線を通すようにして、

「《コールドボルト》!」
「!! シャ……シャララララ……」

 僕の宣言と共に、鋭く尖った氷の礫がグリンポイズンを襲う。
 10本の氷の矢は着弾した体表面に一瞬、霜を作りながら砕けて、グリンポイズンは今度こそぐったりと頽れて動かなくなった。
 うん、ダンジョン内での初戦、まずは戦果は上々、と言ったところだね。

 コールドボルトは、まぁ、名前で大体察しはつくよね。
 ファイヤーボルトの氷版、初級の氷魔法だ。
 まぁ、ファイヤーボルトが既にLv10で無詠唱可能なんだから、氷に変わっただけのコールドボルトが同じに撃てない道理はないよね。

 あえてコールドボルトを選んだのは、グリンポイズンは鱗とか牙とか、いろいろ素材にできるからだね。
 フォトンに爆散させずに倒せるんなら、火属性魔法で丸焦げにしちゃうのはもったいない。

「ん〜ん、ナイスだね二人とも〜」

 オグ君の矢と、表面に少し霜が残っただけの、ほとんど綺麗なままの蛇の死体をストレージに回収して、ミスティスは笑顔で親指を立てた。

「これなら、蛇は盾役に徹して、二人におまかせでいいよねっ」
「あぁ」
「うん、任せて」

 確かに、あの姿勢の低い蛇を剣で相手しようとすると、床に向かって斬りつけるみたいな格好になっちゃうもんね。
 蛇に関しては、僕たちが引き受けてあげるのが適材適所ってやつだよね。

「よ〜し、ならこの調子で次つぎぃ〜♪」

 なんて、元気に剣を振り上げるミスティスに続いて、僕たちは再び探索を再開した。


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