note.041 SIDE:G

「やったか!?」
「マイスぅ〜、それはフラグだよー」

 半ば冗談交じりでお決まりの台詞を言ってみれば、ミスティスが速攻でツッコんでくれる。

「まぁ、今回に至っては秒速回収乙というやつなんだがな」
「ですよねー」

 まぁ、実際のところ、倒れたのにフォトンに還元されてない時点で半分以上察しはついてたよね。
 むしろ、先の展開は予想がついた上で、とりあえずお約束として一度これが言ってみたかっただけだったりする。

「と言っても、割とウィニングランだけど」
「まぁね〜」

 なんてツキナさんにミスティスが軽く答えたところで。
 「パカァンッ!」と、勢いよく金属音を響かせて、銅鐸の前面に描かれていた謎顔レリーフの口元の装甲が弾け飛ぶ。
 そこには、まるでその口に咥えられているかのように、三つ目の赤い核がはめ込まれていた。
 続けて、同じように両腕の石柱部分が前後に割れ弾けて、中から、石柱1本ごとにそれぞれ2つずつの大岩が転がり出てくる。
 口の中の核が「ビキーン!」と音を立てて再起動すると、核から直接魔力が流されるのが見えて、今や普通のゴーレムと変わらない大岩の連なった腕が浮き上がり、肩口に再接続される。
 なるほど、弱点である核や腕関節を晒してでも無理やり再起動しようっていう、最後の足掻きだね。

 ミスティスがまた挑発でタゲを固定し直して、戦闘が再開される。
 基本はやっぱり普通のゴーレムと同じで、片腕で核を隠しつつ、もう片腕で攻撃っていうのが基本パターンなんだけど、拍手するように両側から押し潰す攻撃や、前半と同じハンマー攻撃とか、いくつか両腕を使ってくる攻撃もあって、そこが隙になってるみたいだね。
 ミスティスはそれらを、時にジャンプで飛び越え、時に盾で受けて、的確に捌いていく。
 両腕攻撃の隙や、前半同様にハンマー攻撃を弾いた後ののけ反りモーション中を狙って、僕たちの矢と魔法が核へと刺さる。
 けど、銅鐸の方も、それぐらいの隙を晒せるだけの余裕はある、ということなのか、ダメージにはなっているみたいだけど、なかなかすぐ壊れてくれるものでもなさそうだね。

 と、不意に、ゴーレムが両腕を万歳するように大きく振り上げて――……と、跳んだーーー!?
 腕を振り下ろすと同時に、銅鐸はその巨体に見合わぬ驚異的な跳躍力で、自分の身長の倍以上はあろうかという天井近くまで高々と跳び上がってみせた。

「ッ! 着地と同時に横に跳べ!」

 オグ君からの鋭い警告に答える暇もなく、銅鐸の巨体が落下する。
 その着地の衝撃も巨体の重量相応に凄まじいもので、この部屋どころかダンジョン全体が揺れたんじゃないかと思わせる程の地鳴りと振動が僕たちを襲う。
 なんとか横に跳ぶことには成功したけど、なるほど、これはまともに棒立ちでくらったら、とてもじゃないけど立っていることもできなかっただろうね。
 だけど、攻撃はそれで終わりではなく、着地と同時に両腕も地面に叩きつけられて、その拳の延長線上に追撃の衝撃波が飛んでくる。
 マズい、これ片方は僕が狙われてる!?
 オグ君はこれを予期して横に跳ぶよう言ってくれたんだと思うんだけど、衝撃波の横幅が太くて僕の飛距離が間に合ってない……!

「ちょっ……!?」
「《セイクリッドクロス》!」

 咄嗟ながら、半ば本能的に、腕を交差させて顔を覆った防御姿勢で目を閉じてしまった僕だったけど、覚悟していた瞬間がやってくることはなく。

「っく!? え……?」

 予想していた衝撃波のダメージではなく、床に半身を打ちつけたことで目を見開いた僕の周囲は、柔らかに揺らめく光のベールに包み込まれていた。
 直前で、ツキナさんがセイクリッドクロスを僕に張ってくれたんだね。

「あ、ありがとう! ツキナさん!」
「これぐらいはお安い御用よ」

 あの状況で範囲攻撃にも動じずに、きちんと僕たち全体の状態を把握して、的確な支援が飛ばせる、というのはさすがだね。
 本当に助かった……。

「今のジャンプは、着地をくらったらスタン、その後の両腕はランダムターゲット2人に衝撃波が来る。多分、マイスはAgi的に少し厳しいが……まぁ、次を撃たせる前にカタをつけてしまえばいい。続けるぞ!」
「了解だよ!」

 せっかくなのでセイクリッドクロスを利用させてもらいつつ、攻撃を再開する。
 核が腕に守られている間は、ダウン狙いで足関節を狙いつつ、両腕攻撃がきた時にはがら空きになる核を狙っていく。
 そうして続けていると、僕の目でも明らかにタイミングの甘い伸びるパンチがミスティスに向かう。

「ほいさ〜」

 と、当然のようにそれを軽々とジャンプで躱したミスティスは、伸びきった右拳の上に着地。
 その右拳を足場に、目の前の下腕を構成する岩に向けて跳躍すると、そのすれ違いざまに足元を薙ぐようにバッシュを入れて、手首の関節を切断してしまう。
 そのまま、同じように下腕手首側、下腕肘側、肘関節……と次々に腕を構成する岩を足場にしていき、そのすれ違いざまに足場にした岩の関節を斬り落としながら右腕を駆け上がっていく。

「ほいっ……っとっ……ほいほ〜い♪」

 あっという間に右腕の岩を全てバラバラにしてしまったミスティスは、最後に肩口と胴体の関節に剣を差し入れて、それを支点に倒立。
 雑魚ゴーレムにやったのと同じように、その体勢でイグニッションブレイクを起動して、自身は再跳躍しつつ、肩の岩も吹き飛ばす。
 おまけと言わんばかりに、空中で器用に向きを変えつつ体勢を立て直すと、メテオカッターを発動して急降下。

「いっただき〜ぃ♪」

 魔力を纏った刃は、狂いなく左の肩関節へと吸い込まれて、左腕を丸ごと切断してしまう。
 ここがチャンスだね!

 オグ君がすかさずチャージング付きでスナイピングショットを叩き込み、さらにラピッドショットの連打で追撃していく。

「猛り燃ゆる紅蓮の炎よ、我が意を示し、槍と形成せ! 貫き、穿て。焼き尽くせ!!《ブレイズランス》ッ!!」

 チャージング付きのスナイピングショットに続き、フル詠唱のブレイズランスに貫かれて、銅鐸の核に一気に罅が入る。
 けど、まだ倒しきるまではいかない……!
 そこへ、ミスティスがピアシングスラストを発動させて跳び上がる。

「いい加減終わりにするよ――!」

 深々と剣先が突き込まれて、既に半分以上は罅割れていた核は、ついに全体に罅が回る。
 ミスティスは、剣を引き抜きつつ、銅鐸の身体を蹴って上空へと再度跳躍、さらに後方宙返りでもう一度反転して、追撃のピアシングダイブを敢行する。
 だけど……刺突に突き出してるのは剣じゃなくて盾を持った左腕……?

「――ツリガネ君!!」
「《キリエ・エレイソン》!」

 ピアシングダイブの起動直前にツキナさんからバフスキルを受けて、ミスティスはそのまま盾で殴りかかるようにして突っ込み――
 盾の縁での吶喊、同時にウルヴズファングを起動して全力の刺突を叩き込み、そのまま銅鐸の後方へと飛び抜けた。
 ミスティスが銅鐸の胴体を貫いた、その閃光が走ると同時、パリンと核が割れる音が響く。
 着地した体勢で一拍を置いたミスティスが牙杭を盾へと戻して立ち上がる後ろで、今度こそ支えの力を完全に失った銅鐸が、両腕の岩をばら撒き、自重で足の大岩を砕き潰しながらゴシャリとその場に崩れ落ちる。
 次いで、ミスティスが剣を一払いして盾の裏の鞘に収めたところで、半ば爆発にも近い破砕音と共に銅鐸はフォトンの光へと蒸発していった。

 ピアシングスラストからピアシングダイブに繋ぐ、連続刺突オリジナルスキル――後から聞いたところではダブルピアーシングと名付けられている技らしい。
 相手を蹴って離れる方向に跳んだ状態から再度反転してピアシングダイブに繋がなければいけないという特殊な空中制御を要求されることから、空中で身体を横倒しにしなければならないスピニングブレイドと並んで、オリジナルスキルの中ではかなり難易度の高いスキルとのこと。

 それにしても、スピニングブレイドといい、ミスティスはあっさりとこなすけど、システムアシストなしでやるのはだいぶ高等技術のはずなんだよねぇ。
 もはや、どうしてこのソーディアンが2ndキャラなんだろうかと疑問に思えてくるぐらいだ。
 まぁ、エイフェルさんへのお手本に見せた弓も凄まじかったから、アーチャーが1stキャラというのも納得は納得なんだけど……。

 そして、ツキナさんが直前にかけたキリエ・エレイソンは、スキルをかけた対象者が次に与えるダメージを一度だけ2倍にする、プリーストスキルの中級聖術。
 対象者が行う攻撃行動に対して発動するから、2倍の部分は相手の防御計算より前にかかるおかげで、相手の防御値次第では実際の最終ダメージは2倍以上になることも多いという、かけるタイミングさえ間違えなければ強力な支援スキルだ。
 多段ヒットスキルが対象になったとしても、スキル1回で一つと数えてくれるから、攻撃の全段を倍にしてくれるのも利点だね。
 ただ、クールタイムが長いことと、さすがに範囲攻撃スキルにかけても最初にダメージ判定された1体にしかかからないことになっているので、今回みたいに高火力単体スキルに対してタイミングよく合わせてあげるのが一番効果的な使い方だね。

 ……とまぁ、剣を収めて後ろの僕たちに向き直ったまではかっこよく決めてたミスティスだったんだけど……

「うぇー……キッツぅ〜……。プレッシャーヤバぁ〜〜〜」

 振り返った瞬間にふにゃふにゃになってへたり込んでしまった。
 さすがにスライムの時のように泣き出すまでにはならなかったけど、結構消耗させられたみたいだ。
 実際、傍から見てても結構な迫力だったもんね、あの拳。

「はは。適正Lvだと結構タフな火力してるからな、あの銅鐸。タンクお疲れ」
「おつあり〜……ほんっと、普段からタンク引き受けてる人はソンケーだよー」

 オグ君に労われつつも、疲労感からか肩を落とすミスティス。

 と、そんなやり取りをよそに、銅鐸が爆散した場所ではフォトンが渦を巻いて、クラスターが生成されようとしていたのだった。


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