note.051 SIDE:G
外周を取り巻いている迷路の中を進んでいく。
中央を走る回廊を目印にしつつ、なんとな〜くで外周の迷路地帯を右回りに進んでいく感じで探索する。
全体として、中央の広間を中心に「田」の字型に通路が走っている、その外枠の部分を適当にうろついてる感じだね。
そうして、最初に遭遇したのは、バランスボール大ぐらいの岩が集まってふわふわと浮いた物体。
その中心にはゴーレムの核である赤い石。
ゴーレムを呼び寄せる偵察ユニット、ゴーレムトルーパーだね。
とは言え、発見即警報、というわけでもなく、まずはある程度自力で遭遇した脅威を排除しようとしてくるんだよね。
こちらを認識したらしく、ふわふわと上下動しながら核を光らせるトルーパー。
ミスティスがいつも通り挑発をかけた……のはよかったんだけど。
縦薙ぎにレーザーを撃ってきた!?
狙いはきちんとミスティスに向かってて、挑発のタゲ固定自体はちゃんと効いてるみたいなんだけど、如何せん、浮いた頭上からレーザーで縦薙ぎにされたせいで、攻撃はミスティスに防がれた後も、そのまま後ろに通り抜けて僕たちのところまで向かってくる。
「うわぁ!?」
ここまで攻撃が飛んでくるとは思っていなかった僕は、思わず変な悲鳴を上げて飛び退ってしまう。
一瞬回避が遅れたせいか、レーザーは僕自身には当たらなかったけど、ルクス・ディビーナのバリア範囲には接触したみたいで、飛び退いた僕のすぐ横で、僕を護るような形の光の球体が一部実体化してレーザーを遮る。
あ、危なかった……。
「そう言えば、こいつのレーザーは直線範囲の貫通攻撃だったな」
範囲攻撃かぁ……そう言えば、まともに遭遇するのは初めてな気がする。
「まぁ、だがそれだけだ。奴の攻撃手段はあれしかないから、奴を起点に、ミスティスを中心にした十字の直線範囲内にいなければ後ろには当たらない」
「わかった!」
つまり、後衛として後ろにいる限りは、あいつとミスティスを結ぶ直線上に立たなければ大丈夫ってことだね。
立ち位置には気を付けないと……。
……っていうか、コアだけでこんなことができるなら、普通のゴーレムもこのレーザー撃ってきてもよさそうなものだけど……まぁ、そこは初心者用に調整されてるってことなのかなぁ。
「ねーこいつきらーい」
ミスティスはなんとか攻撃を当てようと斬りかかっているんだけど、ただでさえ剣では辛い対空戦闘で、相手も小さい的でふわふわと不安定に浮いているせいで、全部ひょいひょいと避けられてしまっていて埒が明かないって感じだね。
そして返しのレーザーは、薙ぎ払い攻撃になっているせいで盾で全てを受けきることもできずに、盾の範囲から漏れた分はルクス・ディビーナのバリア任せだ。
「ふむ、ゴーレムを呼ばれても面倒だ。一気に決めるぞ、マイス」
「うん、いくよ! 穿て、《ブレイズランス》!」
1FでのLvアップで更にもう少し短縮できるようになったブレイズランスを詠唱。
その発動に合わせて、オグ君もラピッドショットを同時に放つ。
立て続けにヒットした三本の矢と、炎の槍の爆発で、防御手段も特にないトルーパーの核はあっさりと砕け散り、外殻部分の岩と一緒にフォトンに還っていった。
「うー……あいつめんどくさいから、次からはタゲだけ取ってあとは任せるよー……」
むー……と、頬を膨らませるミスティス。
当人には悪いとは思いつつ、そんな仕草もちょっと可愛らしいと思ってしまった。
「はは。まぁ、そこは適材適所と言うやつだな」
「うん、任せてよ」
まぁ、見るからに露骨にソーディアンとは相性が悪そうだもんね。
そんなにHPが多いわけでもないみたいだし、僕たちで引き受けてしまうのが一番手っ取り早そうだね。
そんな調子のミスティスだったけど、次に曲がった通路の先にゴーレムを見つけると、
「あいつで憂さ晴らししてやるぅ〜!」
と、完全に八つ当たりで突っ込んでいく。
「あはは……」と苦笑するしかない僕に、ツキナさんも同じような苦笑を返してきて、オグ君も軽く肩を竦める。
まぁ、どのみちあのゴーレムは倒すんだし、僕らも援護しにいこうか。
僕たちが駆けつける頃には既にゴーレムと接敵したミスティスは、右腕から繰り出された伸びるパンチを、地面スレスレを前方に飛び込んで、下をくぐることで回避する。
更にそのすれ違いざまに、身体を仰向けに反転させるようにしてワイドスラッシュを発動。
4つの岩が連なるその腕を、真ん中で切断してしまう。
そのまま背中から着地しつつ、身体を丸めて後ろに転がることで、ゴーレムの背後を取ったミスティスは、その反動をバネに跳躍。
ゴーレムの残った右肩口にイグニッションブレイクを差し込んで、残りの右腕の2つの岩も吹き飛ばしてしまうと、自分はその爆風の反動を利用して更に上へと跳んで、ゴーレムの左首筋の肩関節手前ぐらいに着地する。
膝を折って着地した、その低い姿勢のまま、振り向きざまにワイドスラッシュ。
頭の岩を切断すると、剣を逆手に持ち直して、左の肩関節に刃を突き入れる。
ゴーレムの方も、ここまでやられて黙っているはずもなく、残った左腕を、人間で言えば力こぶでも作るかのようにぐるりとループさせて、肩に乗っているミスティスを上から押し潰そうとする。
けど、その拳が振り下ろされるよりも前に、ミスティスは関節に食い込ませた剣を支点にして再び跳躍。
剣は刺したままに、器用に手元を元の順手に持ち替えながら、ちょうど逆立ちするような体勢になったところで――イグニッションブレイクを起動。
左腕も肩口から爆破されて、支えを失った左腕はミスティスを捉えることなくゴーレムの背後へと落下した。
その爆発の反動で、ミスティス自身は難なく僕たちの元へと離脱してきている。
うわぁ……八つ当たりえげつな……。
と、内心若干引きつつも、トドメの仕事は忘れない。
「穿て! 《ブレイズランス》!」
オグ君からもタイミングを合わせてしっかりとスナイピングショットが撃ち込まれて、ゴーレムは成す術なくフォトンへと爆散していった。
「ふぅ〜、んんー! スッキリした!」
剣を収めると、鬱憤は晴らしたとばかりにミスティスは大きく背伸びする。
「す、すごかったね、ミスティス。なんていうか、軽業師とかみたい」
と、見たままの感想を伝えれば、
「ん〜? あー、実際、軽業師っていうエクストラスキルは持ってるからね〜。跳躍力と空中での機動性能が最大15%上昇するってやつ」
ミスティスはカラカラと笑って答えた。
なるほど、そんなエクストラスキルもあるのね。
ミスティスって普段から結構空中戦を多用するけど、このスキルの存在も理由の一つって感じなのかな。
このゲームのエクストラスキルって本当に多彩だ。
「とりま、次いこ次〜♪」
なんて、すっかりテンションを取り戻したミスティスを先頭に、僕たちは再び外周の迷路を進んでいった。