note.064 SIDE:G

 エニルムの遺跡、ピラミッド前。
 2日ぶりの謎顔レリーフを何とはなしに見上げる。

「どしたん? マイス」
「あの、天地さんはあのレリーフ、何の顔だと思います?」
「あぁ、あれねぇ……。はて、深く考えたことなかったけど、言われてみりゃなんじゃろな? んー……」

 何の気なしに聞いてみたんだけど、顔を前後させたり見る角度を変えたりして思いの外真剣に唸り始めた天地さんが出した結論は――

「んー…………熊?」
「……あー……まぁ、はい」
「まぁ、気にしたら負けだよ、マイス」
「う、うん……」

 遠い目をしたミスティスにポンと肩を叩かれる。
 見る人によってここまで結論が一致しないというのもなかなかだね……。
 本当に何の顔なんだろう、あれ……。

「……うん、まいいや。さてとりあえず、うちは今回はこいつでサポートに回ろうかね」

 と、思考を放り投げた天地さんが取り出したのは、腰のリボルバーと比べるとかなり口径の小さな拳銃。
 僕もそう詳しいわけじゃないから当てずっぽうだけど多分、リアルでは「.22LR」とか呼ばれてるサイズの弾じゃないかな。
 なるほど、ここの敵のLvに合わせて手加減してくれてるんだね。

 このゲームの銃器のダメージ計算は、射手のステータスには関係なく、使用弾薬と銃本体の武器攻撃力から算出される防御無視ダメージになっている。
 ただ、じゃあ銃器を使えばLv差とかも無視してどんな相手にも勝てるのかと言われるとそういうわけでもなくて、算出された攻撃力が相手の防御力を上回っていないと跳弾されて0か1ダメージしか与えられないようになってるんだよね。
 そして、弾薬に使用可能Lvが設定されていて、弓と同様にDexでオートサイト補正が、弓にはない要素として、DexとStrで射撃時の反動制御が向上するようになっているから、レベリングも不要というわけではない。
 Lvやステータスが足りなくても撃つこと自体はできるけど、反動で照準が定まらなかったり本来より連射性能が落ちたり、酷いと肩を脱臼したり……リアルで反動の強すぎる銃を訓練なしに撃った時と同じような事故も普通に起きる。
 総じて、「便利」ではあれど、決して「万能」ではないんだよね。

 ちなみに、魔法が存在するおかげで、この世界にはそもそも「火薬」の概念がなかったりするので、代わりに魔石を砕いた「ジェムパウダー」を使った魔力爆発を装薬に使っているらしい。
 そのおかげで、同じ装薬量でも使う魔石の色で威力を変えられるようになっていて、黄色や赤の高価な魔石を使ったリアルより強力な弾薬も作られているんだとか。

「まぁ翻訳が正しいなら祭壇の先には3Fがあるんでしょう。となればおそらく2Fよりは難易度は上だろうからねぇ、真の試練とか言ってるわけだし。まずは2Fまでで、二人のお手並み拝見といこうかな」
「オッケー、まっかせなさい! 今のLvならプリ支援なくたってヨユーだもんね〜」
「おー? 言うねぇ」
「ホントに大丈夫かなぁ……?」
「まー一応うちもフォースなら持ってるから、最低限のヒールと多少の支援ぐらいはしてやるさ。腕試しだと思って気楽にやるといい」
「わかりました、よろしくお願いします」

 数日ぶりのプリ支援なしの戦闘が地味にちょっと不安になっちゃってたんだけど……一応、僕のLvだけなら108でここの適正Lvよりは少し上ぐらいにはなってるわけだから、ミスティスもいて、支援スキルもあるならなんとかなるはなんとかなりそう……かな?
 まぁ、天地さんの言う通り、腕試しと思って頑張ってみようか。

 そんなわけで、まずは1Fからだね。
 ここはさすがに、今となっては僕たち二人なら苦戦するような相手でもないね。
 前回は僕に道を任せてくれて闇雲な探索を楽しんでいたけど、今回は明確に祭壇が目的だ。
 案の定と言うべきか、ミスティスも天地さんも1Fのマップぐらいは完全に覚えてしまっているようで、迷いなく最短コースでサクサクと進んでいく。
 道中のトラップも天地さんがライトを使ってくれているし、罠師のエクストラスキルもしっかり効いている。
 時間にして10分もあれば、問題なく2Fへ続く階段の前に辿り着いていた。

 さぁ、いよいよ2F、ここからだね。

「じゃまぁ、軽く支援だけ回そうか。《エンハンス》 《ストーンスキン》 《クイックスピード》 《クイッケン》」

 右手の拳銃とは別に、左手に魔導書を取り出した天地さんがフォースの支援スキルをかけてくれる。
 エンハンスはAtkとMAtk、ストーンスキンはDefとMDef、クイックスピードは移動速度と回避率、クイッケンは攻撃速度と詠唱速度を、それぞれ上げてくれる中級聖術だね。
 ただ、クイッケンの詠唱短縮は術者の最終的な詠唱時間を割合で減らす効果だから、このスキルの効果だけで楽に無詠唱とはならないようになっている。
 アスペルシオやセイクリッドクロス、キリエ・エレイソンのように、装備の能力や、最終的なダメージに影響するスキルが多いプリーストのスキルに対して、こういう対象者の二次ステータスを直接底上げするようなスキルが多いのがフォースの支援スキルの特徴だね。
 それと、この4種のスキルのように、1つのスキルで複数の効果を発揮することが多いのもフォースの特徴だ。
 フォースはクレリック系でありながら片手剣や一部の銃器も装備可能になっていたり、攻撃用の聖術もそこそこ充実していることからもわかるように、ある程度自身も前線で戦闘に参加する魔法剣士的な中距離戦闘を想定して設計されてるみたいだから、無詠唱も現実的な中級聖術までの範囲で、戦闘の合間の僅かな時間でも手早く有効な支援が可能なように作られているということらしい。
 ただ、純粋な支援役として見た場合、ブレッシング一つで全ての基礎ステータスを上昇させながら、セイクリッドクロスや、範囲内の味方のHPを持続的に回復しつつ闇属性の敵にはダメージも与えられるサンクチュアリのような、強力な効果を発揮する上級聖術も複数持つプリーストにはやはり安定性や咄嗟の対応力で勝てないとされている。

「よ〜っし、まずは『石の炎』を集めないとね!」
「うん」
「ま、手が足りなきゃ援護射撃はするから、とりあえずは二人の戦いを見せてもらおうかな」
「はいっ!」
「まっかせて〜!」

 まずはしばらくゴーレム狩だね。
 外周の迷路を少し歩けば、さっそくゴーレムのお出ましだ。

「じゃ、いっくよー!」
「うん、いつでもいいよ!」

 いつも通り、ミスティスの挑発から戦闘開始だ。

「ほいっと〜」

 中距離から伸びてきた右腕を、軽く躱して距離を詰めるミスティスだったけど、引き戻された腕がぐるんと一回転して、上から叩きつけるように振り下ろされる。
 けど、それを難なく盾で受けたミスティスは、

「うわっち! ……なんてねっ」

 振り下ろされた腕を跳ね上げた勢いでそのまま跳躍、がら空きになった肩関節をピアシングスラストで貫いて右腕を斬り落とした。
 ついでに接続の切れた肩部の岩を蹴り飛ばすことで、本体から引き離して再生を遅らせると共に、自身は後方へ離脱する。
 蹴り飛ばされる瞬間に、まだわずかに接続が残っていたのか、飛ばされた腕を見送るように一歩後退しつつ右肩を後ろに引くゴーレム。
 その体勢のまま、頭の岩で核を守ることにしながら、残った左腕をミスティスへと伸ばそうとする。
 でも、そのまま右向いてくれてると、僕から見れば左腕は隙だらけなんだよねぇ。
 ミスティスに向かって叩きつけようと、振り上げられた腕が上がりきって止まった瞬間を狙う。

「穿て、《ブレイズランス》!」

 ブレッシングがないからギリギリで無詠唱にはならないけど、クイッケンのおかげもあって、詠唱と言ってもほぼ一瞬だね。
 放たれた炎の槍は、4つ連なった左腕の岩の、ちょうど真ん中の関節を爆破して、肘から先を吹き飛ばしてしまう。
 ゴーレムはそれに反応できなかったみたいで、そのまま短くなった腕を振り下ろして空を切る。

「ナ〜イス! せいっ」

 切断されてちょうどいい位置に下がってきた上腕の岩を足場に跳躍して、ミスティスは残った左肩口にイグニッションブレイクを差し込んで、その爆発の反動で上へ跳ぶと、

「そやぁ〜!」

 バッシュの魔力を纏わせた剣を逆手に持ち替えて、着地しつつ首の位置に突き立てて、核を守る頭の岩の接続も切断する。
 そうして守りを完全に失ったところで、ミスティスの離脱に合わせて僕のブレイズランスを入れれば、核が砕け散ったゴーレムはフォトンへと還っていく。

「オッケー、ラックショー!」
「ふぅ、結構なんとかなるね」
「まぁもう大体適正Lvだからね〜」
「実際、連携もいい。これならまぁ、3Fで多少Lvが上がるぐらいは全然余裕っしょ」
「うんうん、いけるいけるぅ♪」

 天地さんにも褒めてもらえたし、思った以上にいい手ごたえだね。

「っと、これ拾っとかなきゃいけないんだっけ。いつも放置だから忘れちゃいそうだよ」
「ははっ、あるある」

 ミスティスが足元に落ちたゴーレムの破片を拾い上げる。
 そうそう、今回はこれが目的だから、忘れないようにしないとね。

 ともあれ、これなら2Fでゴーレムを相手する分には特に問題はなさそうだね。
 さくっと集めて、銅鐸退治に向かおうか。


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