note.079 SIDE:G

 翌朝。
 いつものストリームスフィア前で、僕とミスティスは朝の挨拶がてら雑談していた。
 それもほんの数分のこと、昨日一昨日と別パーティーで不在にしていたオグ君とツキナさんも現れる。

「やぁ、おはよう、二人とも」
「たっだいまー、おはよ〜」
「おかえりツキナ〜♪ おっはよー」
「うん、おはよう」

 なんというか、最初の日にたまたまミスティスと待ち合わせるのにストリームスフィアの前でとりあえず往来の邪魔にならないようにと思って立ってただけの場所なんだけど、気が付いたらなんだかすっかり溜まり場というか、朝夕の定位置みたいな感じになってるねぇ。
 まぁ、誰の文句があるわけもなし、集合場所としてわかりやすければ何でもいいんだけど。

「二人とも、昨日の話はもう聞いたかい?」

 あー……別行動だったはずの昨日のことで、オグ君がわざわざこう話を振ってくるってことは……昨日の話と言うのはまぁ、エニルム3Fのことしかないよねぇ。

「あ〜、それなんだけどね〜」

 ミスティスもそれは察したのだろう、にんまりと笑みを浮かべて、距離を詰めるようちょいちょいと二人に手招きしつつ、パーティーを渡す。
 二人がOKしてパーティー欄に名前が揃ったところで、パーティーチャットに切り替えて続きを話す。

「実はそれ、私たちも一緒に行ってきたんだよね〜♪」
「なっ!? 何だって!?」
「えええええぇぇぇぇぇぇ!?」

 おぉ、二人ともいい反応をしてくれる。
 知らない人にまで悪目立ちはしたくないけど、こう、身内での盛り上がりぐらいは欲しいところだったから、ちょっと意地の悪い話かもしれないけど二人の反応は実に期待通りだ。

「ほ、本当なのか?」
「うん」
「天地と一緒にね〜」
「彼に会えたのか。いや、そうか、昨晩あの情報を流したということは、昨日はそのためにこの近くまで来ていたということか」
「そうそう。二人でピシラ行こうとしてたらちょうど通りがかってね〜。ちなみに、この鎧と剣が戦利品だよー♪」

 ミスティスは左腰の剣を左手で示しつつ、胸当てをコツンと叩いてみせる。

「そう言われてみれば、装備が一式更新されているな、なるほど」
「ねぇねぇ、どんなとこだったの?」
「ん〜っと……あー、うん、大体はもう掲示板に出てるぐらいの場所かなー。Mobは新しいゴーレムが2種類と、トルーパー青ゴブ青スラって感じで、ふつーにレベルアップしたエニルム遺跡って感じ」

 食いつき気味に訪ねるツキナさんに、今時点での掲示板を斜め読みしながら答えるミスティス。
 僕もざっと流し読みしてみると……なるほど、さすがにマップはまだ埋まってないところがあるけど、既に出てくるMobや、罠Lvが3であること、一部に隠し部屋のギミックがあったりすること、ぐらいの基本的な情報は早くも既に出揃ってるという感じだね。
 後はもうそれこそマップの完成とかボスを含めたドロップ品の網羅とか、時間をかけて数をこなしていくしかないような項目ばかりといったところだ。
 さすがに早いねぇ……。

 まぁ、もっと高Lvの場所とかだったら月の魔力でバフがかかる夜中の攻略が躊躇われたり、そもそもLvが足りなくて検証できる人が少ないみたいな事態も考えられたんだろうけど、まぁ、今回は所詮エニルムって感じだもんね。
 元がLv100ぐらいの初心者用ダンジョンで多少敵にブーストがかかったところで中堅層以上の人たちには関係ないだろうし、場所も手近となれば、この手の攻略・検証が大好きな人種の人たちが手放しで飛び込んでいったのだろう。

 そう言えばと少し意識的にスレを漁ってみたけど、例の隠し部屋のモンハウやボスの撃破報告もちらほら出てきてはいるけど、僕たちが手に入れたゴーレムコアそのもののドロップ報告はまだなさそうだった。
 単にドロップ率が低くてまだ出ていないのか、もしかしたらいくつかは出てるけど抜け駆けを試みて誰も報告していないのかはわからないけど、いずれにしても、やっぱり僕たち三人が一つずつをそれぞれ獲得できたのは初回クリア者のボーナス報酬のようなものに近かったのかもしれないね。
 う〜ん……これは何かと荒れそうな感じがするから、まだしばらくは黙っておいた方がよさそうな感じだねぇ……。

「ふむ……一度この目で見たいという好奇心はないではないが、今はまだ検証班の連中で溢れているだろうしな。落ち着いた頃に観光ついでに行くぐらいがちょうどよさそうだ」
「あー……まぁそうかもね〜」

 内心興味ありげではあったけど、スレの様子から今時点の混雑具合を察したか、ツキナさんも渋々オグ君に同意、という風に頷いた。

 それでひとまずエニルムに関しては一段落して、話題が移る。

「まぁ、エニルムについては追々として……。マイスとミスティスのLvはいくつになったんだい?」
「僕は113だね」
「104〜」
「む? Lvが離れたな。何かあったのか?」
「いや〜、昨日は一緒にエニルムだったんだけど、一昨日がね〜。私がちょっと1stの方で呼ばれちゃってさー」
「あぁ、チカで呼び出しをくらったのか。なるほど、把握した」

 Lvの話はともかくとして、今日の僕たちからの提案はもう決まっている。

「それでね? 今日の行き先なんだけど、私たちもそろそろ王都まで行ってもいいんじゃないかな〜って思ってるんだけどどーよ」

 ミスティスの言に頷いておく。

「あー、それもそうね〜、Lv100は超えてるんだし」
「ふむ、そうだな。王都まで行けるようにしておけば行ける場所もかなり広がる。狩場のLvにしてもこの辺りだけではカスフィ森がせいぜいだからな。そろそろ一度行っておくべきLvか」

 そうなんだよね。
 狩場のLv的にも、このアミリアを拠点に徒歩で行ける範囲となると、カスフィ森のLv120〜130近辺が最大だ。
 それ以上のLvの狩場は王都まで行くか、エニルムの街を越えてさらに僻地まで足を延ばすかしかない。
 となると、まぁ地理的にもこの国の中心地に近い王都の方が、広がる選択肢は必然的に多くなるわけで。
 Lv100の達成は、王都行きを考える一番の目安とされている。

「んじゃ〜、行き先は王都でってことで」
「うん」
「おっけ」
「了解した」

 全員が頷いて、王都行きが決定する。

「となると……ふむ、まぁティッサ越えのルートになるよな」
「とーぜん!」

 ティッサ越えというのはアミリアから王都に向かう時の手段の代表的な二つの内の一つだ。
 アミリアと王都の間にはティッサ森というダンジョン指定された森林地帯がある。
 これを真っ直ぐ突っ切るのがティッサ越えと呼ばれるルート。
 もう一つはティッサ森を迂回する街道ルートだ。

 街道ルートの方はティッサ森を大きく迂回しているので、距離的には森を真っ直ぐ突っ切るより長いんだけど、きちんと街道として整備されているし、途中に小さな宿場町もあるから馬の交換もできるとあって、馬車で1日あれば到着できるようになっている。
 お互いの街から定期便も出ているので、それに乗れば、まぁ王都に行くだけならわざわざダンジョンを通るよりもよっぽど安全に速く行き来できる。

 ただ、王都側から来る方はまだしも、アミリアで冒険者を志して王都へ向かおうという初心者が街道ルートで楽をするというのは、別に義務というわけではないが、不文律としてあまりいい顔はされない。
 何故なら、ティッサ森のLv帯は100前後、アミリアからの初心者が王都に向かおうとする理由は、大半が今の僕たちのようにLv100を超えてきてアミリア周辺の狩場だけでは物足りなくなって選択肢を広げるためであることが多く、その目的で王都に行くならティッサ森ぐらいは突破できないとお話にならないという認識がかなり大きいからだ。

 更に理由はもう一つ、距離的には迂回せず真っ直ぐ行ける分近くはあるものの、ダンジョン指定されている領域なだけあって、道中、魔物との複数回の戦闘は必然だ。
 整備された街道でも馬車で1日かかるような距離を、距離的に近道とは言え魔物と戦いながら徒歩で行くわけだから、その工程は必然的に2日がかりになる。
 アミリアを拠点に周辺の日帰りできる範囲を活動域としていた初心者にとっては、おそらく初めてになるだろう、野営の必要な長旅ということになるわけだ。
 当然、相応の準備や心構えが必要になるし、いざ森の中で野営となればそれなりのいろいろな知識を必要とする。
 そういう、長旅への基礎的な知識や経験を積んでおくためにも、アミリアから初めて王都へ出る初心者はティッサ森を踏破しておくべき、という風潮が出来上がっているわけだね。

 あとまぁ、おまけのもう一つは極めてプレイヤー的な理由なんだけど、せっかくのゲームで馬車に揺られてるだけで一日終わりとか暇すぎてしょうがないから、だったらダンジョン突っ切れば経験値も稼げるし、ちょっとしたキャンプ感覚で一晩野営する方が絶対に楽しい、ということらしい。

「なら、マイスとミスティスには少し準備が必要か」
「だね〜、私もこっちのキャラだと遠出は初めてだから、ちょっといろいろ買い揃えないと」

 もちろん、僕たちもティッサ越えのルートということになる。
 そのための必要な物資をまずは買い揃えないとね。
 まぁ、みんなと組むようになってのここ数日でお金は大いに稼げているから、多少の出費は問題ない。

「とりあえずはてんとう虫かな」

 ミスティスに全員で頷いて歩き出す。
 この街で冒険者として必要最低限を満遍なく買い揃えると言えば、やっぱり一番はマリーさんのところだね。
 まずは雑貨屋「てんとう虫」へ向かおうか。


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