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note.080 SIDE:G

 ある程度ゴーレムの破片も集まったところでボス部屋に向かう。

「さ〜、一昨日ぶりのツリガネ君だね!」

 そうミスティスが気合たっぷりに叩くように触れれば、ゴロゴロと扉が開いていく。
 扉をくぐったところで、天地さんが支援スキルのかけ直しをしてくれる。
 部屋の奥まで進めば、魔法陣が起動して戦闘開始だね。

「サクッと終わらせるよー!」

 早速、挑発を打ち鳴らして駆けていくミスティス。
 対して、銅鐸からも右腕が飛ぶ。
 前回も最初はこうだった気がするけど、開幕は右腕のストレートパンチから入ってくるのは確定行動なのかな?

「っつぅ……! 《エンデュランス》!」

 こちらも前回同様、右ストレートを盾で受けたミスティスだったけど、やっぱりブレッシングの強化じゃないと、まだ完全に受け流すのは厳しかったみたいだね。少しノックバックさせられたのを察して、エンデュランスで無理やり耐えたという感じだ。

 ミスティスがタゲを取っている間、僕も前回同様に脚関節を狙っていく。
 まずは右脚から……!
 天地さんも銃撃で加勢してくれてるね。
 ミスティスの方も、エンデュランスがかかっていればひとまず問題なく受けることはできるみたいで、危なげなく銅鐸の攻撃を捌いていく。

 不意に、銅鐸が両手を組んで大きく振りかぶる。これはミスティスへのハンマー攻撃だね。
 重たい金属音を響かせて、振り下ろされた拳を受けるミスティス。
 エンデュランスはかかっているみたいだけど、それでも……

「ッ……! っぅ〜〜〜〜〜〜! 重っ……たっ……!」

 やっぱりブレッシングがないのは大きいみたいだね。
 どうしよう、押しきれるのかな?
 と、少し迷っていたら、

「ちっときつそうかね?」

 「ダンッ!」と、明らかに今までよりも重たい銃声が響く。
 見れば、天地さんが左腰の大型リボルバーを銅鐸の、人間で言えば頭にあたるだろう付近に撃ち込んだところだった。
 弱点ではないから、もちろんダメージにはなってないんだけど、やはりそれなりの威力はあるようで、ほんの少しだけ、銅鐸の身体が反動で後ろに振れる。
 見た目には、気のせいだったかな?ぐらいの、ほんの小さな揺らぎ。
 だけど、

「だあぁぁああらっしゃああぁぁ〜〜〜〜〜〜気合いいいぃぃぃ!」

 その少しでミスティスには十分だったみたいだね。
 うん、弾けたなら左手が開く!

「穿て! 《ブレイズランス》!」

 タイミングを逃さず、掌の核にブレイズランスを叩き込む。

「サンキュー、天地!」
「いぇーあ。まぁハンマーだけは1発援護が必要かね」
「うん、お願い!」
「k」

 続けて、立ち直った銅鐸が反撃とばかりに右腕を直角に曲げる。
 これはえーっと……ランダムターゲットだっけ?
 うん、合ってたね。
 ミスティスへのタゲを無視して攻撃が飛んでくる。
 けど、今回のターゲットは天地さんだったみたいだね。
 前回僕がくらった時は壁まで飛ばされてルクス・ディビーナのバリアを割られた攻撃だったけど……

「ん〜ん、残念。そいつはタゲを間違えたねぇ」

 うわぁ……さすが、と言うべきなのか、あの巨大な銅鐸の拳を左手の指一本でまるでなんでもないように受け止めてしまった。
 Lvの差がありすぎるとこういうことが普通にできてしまうのは、さすがファンタジーだよねぇ……。

 ともあれ、天地さんがしっかりと受け止めてくれたおかげで、伸びきった肘関節は隙だらけだ。

「《エアロブーメラン》!」

 すかさず風の刃を走らせれば、三方向に飛んだ刃の内の二つが上手い具合に肘関節の上腕側と下腕側のそれぞれの接続を断ち切って、拳を開いた右腕が地に落ちる。

「穿て、《ブレイズランス》!」
「そぉーいっ!」

 ブレイズランスの爆発と天地さんからの銃撃、続いてミスティスのマグナムブレイクが追撃で入って、一気に右手の核を割りきってしまう。
 うん、上手くいったね!

「っし! いーね」
「やりぃ! あとは左っ!」
「うん!」

 右手の接続を復活させた銅鐸に、改めて対峙する。
 と、これも腕を一度切断した後の確定行動なのかな?銅鐸が右腕を振り上げる。
 これは覚えてるね。
 まずはミスティスに向けて拳が振り下ろされて、地面に亀裂を刻む。
 まぁ、これをミスティスが避けるのは問題なさそうだね。
 そこから連続で、同じ場所に平手が打ち下ろされて、指の置かれた方向に衝撃波が飛ぶ。
 この衝撃波は、先に刻まれた放射状の亀裂の延長線上に立たなければOK、だったね。
 うん、わかっているなら落ち着いて対処できる。

 さぁ、攻撃続行だね。
 攻撃を続けていた右脚の接続にもそろそろだいぶダメージが入っているはずだ。
 ハンマー攻撃さえこなければ、ミスティスのタゲ取りに問題はなさそうだからね、ここで畳みかける!

「万象の捕食者よ! 《フロストヴァイパー》!」

 右脚をターゲットに、フロストヴァイパーを発動する。
 本来であれば、自動索敵で多数の相手を同時に凍結させるのがフロストヴァイパーの使い方だけど、こうして凍らないボス単体相手なら、凍結しないことが逆にヒット数を増やす結果になる上に、3体の蛇全てのダメージを集中させることができるから、こういう状況限定で強力な多段ヒット単体攻撃として使うこともできるんだよね。

 3体の氷の蛇が、ギリギリと締め上げるように螺旋を描いて右脚の接続に絡みつく。そうして、右脚の魔力の流れがほとんど見えなくなるぐらいに縛りつけられると、更に蛇たちが一斉にその流れを断ち切るように魔力流に噛みついた。
 それがトドメになって、ついに右脚の接続が消滅して、銅鐸が膝を突く。
 開かれた左手の核に、僕からブレイズランス、ミスティスからウルヴズファングが突き刺さり、天地さんの銃撃も刺さる。
 この集中砲火であっさりと左手の核も破砕、銅鐸の胴体がふらりと制御を失って沈黙する。

 さて、ここから後半戦。銅鐸の謎顔レリーフと両腕の装甲が弾け飛び、本体の核が再起動して再び身体が接続される。
 これも前回通り、ミスティスが挑発でタゲを取り直したら戦闘再開だ。

 まぁ、そこからしばらくは順当に、危なげなくミスティスが攻撃を捌いていく間に、僕たちは左脚を狙う。
 一応、この脚関節のダウンも専用の特殊状態異常っていう扱いらしくて、同じ側の脚でのダウンは1回ごとにダウン時間も縮まって、脚の耐久値も増えていくみたいだからね。今回は、せっかく前半は右脚ダウン1回だけで突破できたから、当然、次の狙いは左脚だよね。
 もちろん、両腕攻撃の隙に核にダメージを与えていくのも忘れない。

 だけど、問題は……来た!
 銅鐸の両腕が大きく振り上げられる。
 腕が振り下ろされたその反動で、銅鐸が跳躍する。この着地に合わせて――ジャンプ!
 同時に叩きつけられた両拳から、僕とミスティスに衝撃波が迫る。
 ミスティスの方は、まぁ問題なくサラッと躱してるね。
 だけど、僕は前回ブレッシングのステータス補正込みでもAgi不足で避けられなかったんだよねぇ。
 まぁ、それはわかっているので、そもそも最初から避けようなんてつもりはない。避けられないのがわかっているなら……全力で受け止める!

「煉獄! 《ファイヤーウォール》ッ!」

 衝撃波の横幅より少し広くとって、射線をファイヤーウォールで遮る。
 これで少しでも相殺が……できた!
 けどまだ足りない!
 ファイヤーウォールでかなり勢いを削がれて、横幅もだいぶ小さくはなったけど、衝撃波はまだしっかりと炎の壁を突き破って向かってくる。

「ッ!」

 まぁ、それでも横幅がだいぶマシになったから、後は賭けだ。
 無詠唱のファイヤーボールを追加で撃ち込みつつ、全力で横に跳ぶ……!

「ぐぅ……な、なんとかなったー……」

 全力で跳んで、横っ飛びに床面に身体を打ち付けることにはなったけど、幸いなんとかファイヤーボールで衝撃波は相殺しきれてたみたいだね。

「おぉ、なかなかいい判断だ」
「前回もこれくらって、ステータス的に避けれないことはわかってたんで……成功してよかったです」
「OKOK。ん〜じゃ、残り終わらせっかー」
「はい!」

 よし、攻撃再開!
 あのジャンプ衝撃波に対処できることがわかれば、もう怖いものはないね。

 ……と思っていたんだけど……。
 しまった、もう一つ、ランダムターゲットの右ストレートがあったね。
 しばらく続けていると、今度は拳が僕に向かって飛んでくる。
 こ、これは……ファイヤーウォールよりは、ファイヤーボールで少しでも勢いを削ぐ!

「《ファイヤーボール》!」

 一応、多少狙い通りに勢いを落とす効果はあったようには見えたけど、案の定避けるのは無理そうで、思わず両手をクロスさせて防御体勢で目をつぶる。

「《ルミナスシールド》!」

 天地さんからのスキル宣言。

「ッ……!?」

 目を開いてみれば、僕の目の前に、六角形をいくつも重ねたような波紋を広げる光の盾ができて、拳を防いでくれていた。
 それでも拳の勢いは殺しきれず、少しノックバックはさせられたけど、僕自身が感じた衝撃はほとんどなかったし、HPへのダメージも、それなりに削られはしたけど十分耐えられる範囲ですんでいる。
 対象者の「物理耐性」を上昇させることで、物理ダメージを割合で軽減してくれるフォースの中級聖術、ルミナスシールドだね。

「ふーぃ、間に合ったか。《ヒール》」
「た、助かりました、ありがとうございます」
「何、お安い御用だ」

 プリーストでなくても、クレリック系職というのは本当にありがたい存在だよねぇ。つくづく感謝しかない。

 さてさて、それはそれとして、もう銅鐸本体の核にもだいぶ罅が入ってきたね。
 次の攻撃チャンスがあれば押しきれそう、かな?

「さぁて、まぁ今日の本題はここじゃないんだ、そろそろ仕舞いにするかいね」

 同じように考えたのか、そう言って天地さんが一旦拳銃をリロードする。
 そして、こちらももうかなりのダメージが蓄積してきただろう左脚に照準する。

「《フルバーストファイア》……シュートッ!」

 スキル宣言と共に、拳銃とは思えない、ほとんどマシンガンのような速度で弾丸を一点に集中させる。
 ハンドガンやサブマシンガン、一部のアサルトライフル程度までの軽火器の使用に特化したアーチャー系上位職であるガンナーで覚えられる、1マガジン分の弾を通常よりも速い速度で全弾発射する高速連射スキル、フルバーストファイアだね。
 本来フルオート機能のついてないハンドガンなんかでも一時的にマシンピストルのように使えるし、元からフルオート可能なサブマシンガン等では通常より更に連射が速くなるようになっている。当然、その分反動制御はシビアになるけどね。
 反動の制御さえクリアすれば、今の天地さんのように火力を一極集中させたり、横薙ぎにして弾幕を張ったり、使える幅はそこそこ広いけど、半端な残弾で撃てばもちろん残弾数分しか発射されないし、必ず1マガジンを撃ち切ってしまうから、十全に威力を発揮するには必ず使用前後にリロードの隙が生まれてしまう、少し使いどころの難しいスキルでもある。

 弾丸の雨が容赦なく左脚に突き刺さり、一気に銅鐸がダウンする。
 うん、せっかく天地さんが作ってくれたチャンスだ、ここで決めるよ!

「――、《ブレイズランス》!!」

 フル詠唱のブレイズランス。
 続けて、天地さんもフルバーストファイアをもう1セット。
 そして最後はやっぱり――

「オッケー、これで――終わりぃっ!」

 両方ともウルヴズファングを使って、ピアシングスラストからピアシングダイブに繋ぐダブルピアーシングで二度のパイルバンカーがミスティスから叩き込まれて、銅鐸はあえなくフォトンに爆散していったのだった。


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