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note.090 SIDE:G

 ようやく骸骨の正体を掴んでまともなダメージを狙えるようになり、骸骨もダウンから復帰して、改めて仕切り直しだ。

 骸骨が剣をまた両手で構えて、今度は真っ直ぐ大上段に振り上げる。
 と――

「これで終わりだぁっ!!」

 跳んだー!?
 あれ?でもこのパターンもなんだか覚えが……これも多分、銅鐸の跳躍攻撃と同じだね。
 ミスティスもそれを察したか、一旦突撃をやめて急停止、軽くバックステップで距離を取り直している。
 この着地に合わせて……ジャンプっ!
 で、銅鐸と同じなら……!やっぱり来た!
 着地と同時に叩きつけるように打ち下ろされた剣から衝撃波が飛ぶ。
 銅鐸は両手でランダム2人だったけど、骸骨は全体攻撃になってるのかな?僕たち三人全員に向けてそれぞれ衝撃波が飛んでいる。
 しかも、

「っ!? 《エンデュランス》ッ!」

 余裕を持って避けようとしたミスティスだったけど……衝撃波が曲がった!?
 どうやら追尾機能付きに強化されてるみたいで、軌道を変えて追ってきた衝撃波を、ミスティスは慌ててエンデュランスをかけて盾で受ける。

 天地さんの方はただ受け止めるように左手を前に出しただけで、完全にノーダメージで防ぎきっていた。
 ……うん、さすがにそろそろこのぐらいじゃもう驚かないかな……。

 そして僕は……うん、追尾機能があろうがなかろうが、銅鐸の時点で避けられなかったものが今回も避けられるとは思っていない。
 冷静に、

「《ファイヤーウォール》!」

 ……っ!銅鐸の時より威力も上がってる!相殺しきれてない!?
 追加でもう一枚!
 さらに追加でフロストスパイクで……なんとか打ち消しきった……!

 なんてほっとしたのも束の間、

「オオオオォォォォォォォッ!!」

 咆哮に釣られて骸骨を見れば、真っ直ぐ上に掲げられたその左手に巨大な火の玉が生み出されていく。

「おぉぅ、こりゃまたなんぞでかいのが来るな?」

 とまぁ、天地さんは余裕の表情って感じだね。

「マイス、下がって!」
「あ、うん、ありがとう!」

 ミスティスが盾を構えて僕の前に出てくれる。
 あの高さから撃たれたんじゃ、フロストスパイクの防御壁としての効果もあまり期待できなさそうだし、他に今の僕でできる防御手段なんてない。
 ここはありがたくミスティスに護ってもらうのが一番よさそうだね。

 燃え上がりながら膨れ上がっていた火の玉が、成長を止めて完全な球形にまとまる。
 これは……来る……!

「オォォォッ!! 《フレアストライク》!!」

 フレアストライク……既存の魔法にはない……オリジナルスキル!?
 僕たち三人を呑み込んで余りあるだろう大きさの巨大な火球が、その大きさのまま迫ってくる……!
 これもはやミスティスに護ってもらうとかそういう次元じゃないんだけど!?
 一瞬焦りかけたけど……あれ?弾速自体はそれほどでもない?
 というか、かなり遅いね。
 シャボン玉かなにかのような速度でゆっくりと降りてくる。
 骸骨自身も、左手を掲げた体勢で動かないままだ。

「あー……なるほど? これあれだな? DPSチェックだな?」

 仕掛けを察したらしい天地さんがマグナムシュートを撃ち込むと、一瞬だけど、火球全体が揺らぐ。
 DPSチェック……つまり、着弾してしまう前にあの火球に規定のダメージを与えて迎撃すればいいってことだね。

「えぇー……あんな上にあるんじゃ下から近接届かないじゃん!」
「まぁしゃあない下がってくるの待ちってことで、っははっ」
「むー……」

 火球はまだようやく骸骨の首元ぐらいの高さに差し掛かろうかという辺りで、遥か上空だ。
 ちょっと手持ち無沙汰気味になっちゃったミスティスがむくれる。

「あ、でもこれで届くじゃん」

 思いついたミスティスが剣先を火球に向けると、ソードゴーレムが飛んで、火球を斬りつける。
 特に魔力が乗ってるとかでもない純粋な物理攻撃だけど、効くのかな?とちょっと心配だったけど、火球はしっかり揺らぐのが見えたから、ちゃんと効いてるみたいだね。

「おっし、いけるいけるぅ♪ おりゃー、さっさと降りてこ〜いっ!」

 どうやら攻撃に参加できそうとわかったミスティスが、剣先をくるくると回してソードゴーレムでスパスパと火球を斬り刻んでいく。

 さて、僕はと言えば。
 う〜ん……要するに火の玉なんだから……水か氷で相殺してあげるのが多分、一番効果的……だよね?
 ここは新しい魔法の出番かな。

 選択するのは水属性中級魔法「ハイドロプレッシャー」。
 指定方向に水流を生み出して、ダメージと共に相手をノックバックさせつつ、水に濡れることによる雷魔法ダメージと凍結確率の増加に加えて移動速度と回避率を低下させる状態異常の浸水を付与する範囲攻撃魔法だ。
 凍結とかバインドみたいな完全に足を止めるような効果こそないけど、一時的な時間稼ぎにはなるから、そこからさらに氷雷コンボに繋げて浸水と凍結の重ね掛けで雷魔法のダメージを最大化するコンボの布石とかに便利なスキルだね。
 いつものように詠唱文を思い浮かべて、脳内で魔法陣を組み上げると、残りを詠唱する。

「不断の流水、押し流し、圧し潰せ! 《ハイドロプレッシャー》!」

 スキル宣言と共に発動すれば、僕の目の前に大きく魔法陣が展開されて、そこから堰を切ったように水が溢れ出て火球へと伸びていく。
 こんな現実ではあり得ないような角度のついた上方向でも、設定された最大射程までは放物線にならずにちゃんと真っ直ぐ水柱を保って伸びてくれるのは、まぁファンタジーだよねぇ。

 火球と水流がぶつかって、一瞬で火球が水蒸気に包まれる。
 その蒸気が晴れると……おぉ?なんだかだいぶ火球の大きさが縮んだような?

「おぉー、効いてる効いてるぅ♪ このまま続けよー!」

 うん、やっぱりこの方向性でいいみたいだね。
 ミスティスがソードゴーレムで刻み、天地さんがフルバーストファイアを連射。
 僕は再びハイドロプレッシャーを詠唱してやる。

 二回目のハイドロプレッシャーで、最初と比べるとだいぶ火球も小さくなったね。
 この程度なら……!

「氷刃、氷禍、万象不壊の氷獄よ! 《アイスボム》!」

 火球に重ねるようにしてアイスボムを発動してやる。
 最初、おそらく内部で氷が蒸発していたのだろう、水蒸気の煙を吐き散らしながらグラグラと揺らいでいた火球は、アイスボムの爆風が広がるのと入れ替わるようにしてみるみる縮んでいき、その氷の渦の中に完全に呑まれてしまうと、最後は水蒸気に包まれた真っ白な球体と化して、アイスボム本来の破裂と共に小さな水蒸気爆発を起こして消滅していった。

「よしっ!」
「やったね! ナイス〜!」
「っしゃー、OKOK」

 ひとまず危機は乗り越えられたことにそれぞれ安堵する。

「凌ぎきるか……っ!……グハッ……!」

 大技を破られた骸骨は、力を使い果たしたように膝から崩れ落ちた。
 膝が地面に着いた、その衝撃に揺られたように頭蓋骨が後ろに転がり落ち、核を剥き出しにした状態でそのまま両手を突いて四つん這いに項垂れてダウンする。
 なるほど、大技を撃ち破れれば、逆にこちらの攻撃チャンスになるわけだね。

 僕からブレイズランス、天地さんからフルバーストファイアの総攻撃が飛び、

「てああぁぁぁっ!」

 ミスティスがダブルピアーシングで追撃を入れる。
 核はもう見るからに罅割れだらけで、今にも砕けそうなぐらいだね。
 だけど、そのギリギリのところで頭蓋骨が浮き上がり、接続を復活させてしまう。

「グ……ゥッ……まだ、終わらぬぞォッ!!」

 立ち上がった骸骨は、再び最初のように剣を一振りしてから左手に炎を灯す。
 惜しいけど、あともう少しだね。

 まぁとは言え、さっきのフレアストライクまでで行動パターンは一巡したみたいで、ここからはもうほとんどウィニングランという感じだね。
 要所要所で撃ってくる平手からの炎衝撃波や連続火の玉だけ気を付けて対処しつつ、全体横薙ぎはミスティスに止めてもらって、僕らは合間合間にダウン狙いで膝への攻撃を集中していく。

 ……と、僕らが膝を落とすよりも早く、決着の時はやってきた。

「ォオッ! ――!?」

 ミスティスの位置に向けて刺突を繰り出した骸骨だったけど、彼女はそれをひらりと跳んで回避、剣先は虚しく地を穿つ。
 その刃の腹の上に着地したミスティスは、そのまま一息に骸骨の腕を肩口まで駆け上がっていく。

「も〜らい〜〜〜ぃっ!」

 慌てて骸骨が剣を引き抜いた時には既に肩の上、首筋に迫ったミスティスが、ワイドスラッシュで頭蓋骨を斬り飛ばす。

「ヌオォッ!」

 核が露出した……!ここでトドメを刺す!

「終わりだな」
「《ブレイズランス》ッ!!」

 マグナムシュートと炎の槍が突き刺さり、最後は――

「おっしまーーーーーーいっ!!」

 ワイドスラッシュの後、即座に跳躍していたミスティスからのマグナムブレイクが直撃。
 大爆発と共に核は粉々に砕け散り、ミスティスはその勢いのままに背骨を下まで一刀両断にして着地。

「ま、こんな感じかな♪」

 こちらに向き直って剣を一振りすれば、

「ヌグッ……クッハハァッ……! 見事! 我が秘宝、汝が手に……」

 その背後で骸骨が両膝を突き、頽れながらフォトンへと爆散していった。
 これは……かっこいい……!

 ……うん、ここまでは間違いなくかっこよかったんだけどなぁ……。

「うへぇ〜……やっぱ1日にボス2連戦は疲れるぅ〜〜〜……」

 盾に剣を戻して、次いでソードゴーレムの方も腰の鞘に収めたミスティスがふにゃふにゃと溶ける。
 こういうところはやっぱりミスティスだよねぇ……。

「あはは……でも、おかげですごく助かったよ。お疲れ様」
「や〜、おつおつ。まぁ実際結構タフだわな、タンクの連戦は」

 座り込んだミスティスの高さに合わせて下した手で天地さんがハイタッチを交わす。
 ミスティスはそれに応えると、そのまま足を投げ出して、大の字で寝転がってしまう。

「おつありー、ホントだよまったくも〜……」

 なんて、台詞とは裏腹に、やりきったという様子でどこか心地よさげなミスティス。

 その頭上では、ボス撃破の証であるフォトンクラスターが渦を巻こうとしていた。
 そう言えば、骸骨が言い残していった「秘宝」とやらも気になるし、ここからはお楽しみの報酬タイムだね。


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