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note.089 SIDE:G

「では行くぞっ!」

 挑発を打ち鳴らしたミスティスに応えるように言い放つと、距離を詰めようと駆け出した彼女に骸骨が剣を振り下ろす。

「《エンデュランス》!」

 負けじとミスティスは盾で受け止める。

「〜〜〜〜〜〜っ!! おっ・もっ・たっ・いっ・けどおっ!!」

 一見、圧し負けて膝を突きそうになったようにも見えたけど、それはむしろ、押し返す勢いをつけるためにわざとそうしていたようだ。

「だりゃあああぁぁぁぁぁいっ!! っしゃー気合ぃい!」

 膝を折ったところから全身を使って一息に跳ね上げて、ミスティスは見事に骸骨の剣を弾き返してみせる。

 そのおかげで隙ができたところで、僕のブレイズランスと天地さんのマグナムシュートが骸骨の頭に刺さる。
 続けて、すかさず飛び込んだミスティスが右脚の脛辺りに斬りかかる。
 けど、どれもあまりダメージは入れられていないようだ。

 骸骨の右脚が反撃とばかりに蹴りを放ち、ミスティスが弾き飛ばされる。

「っ!?」

 一応、咄嗟に盾で受けはしたものの、斬りかかりにいったその空中で反撃されて、思いっきりノックバックをくらって僕たちの近くまで押し戻されてしまう。

「フハッ! 甘いわ!」

 骸骨が左手からブレイズランスを僕たちそれぞれに向けて同時に放つ。
 それをミスティスは盾で受け、僕はついでに左脚狙いで反撃してやるつもりでフロストスパイクで迎撃。そして天地さんは、もはや当たり前のように軽く後ろに飛んだだけで回避してしまっていた。
 う〜ん……対象指定魔法って基本必中っていう認識だったんだけどなぁ……。本当にどうやって避けているのやら……。

 それにしても、スケルトン系の魔物のセオリー通り、頭部の破砕を狙ってるんだけど……あんまり効いている気がしないね。これは……何か攻略法を間違ってる……?

「やー? なんかちげぇな?」

 天地さんも何か違和感を感じたのか、頭部以外を狙って弾丸を撃ち込んでいく。
 ここまで全弾にパワーシュートを乗せっぱなしみたいだけど……まぁ、天地さんのLvなら、パワーシュートの常時発動分程度のMPは余裕で賄えるってことだろうね。

 ともあれ、なんだか違和感があることには間違いないので、僕も攻撃方法を変えていく。
 とりあえず試しに……

「万象の捕食者よ、《フロストヴァイパー》!」

 両方の足首と背骨の腰元ぐらいを狙って、三匹の蛇を放つ。氷の蛇はそれぞれに締め上げるように巻き付きながら、両脚の付け根と鎖骨辺りまでの背骨を這い上がっていく。

「ッグゥ!?」

 少し焦ったような反応を見せる骸骨。これは、攻撃範囲のどこかに弱点がある……?
 と思って注意深く蛇の通り道を見ていると……うん?今、膝蓋骨――膝の皿の骨を蛇の攻撃判定が通った瞬間、少しぐらついた……?
 蛇のエフェクトではっきり確認はしきれなかったけど、膝関節にはダメージが入った感覚があった気がするね。

「ほぅ?」

 天地さんもそれを見逃さなかったみたいだ。
 蛇が通りすぎたところで、改めてマグナムシュートを一発、膝の皿に向けて撃ち込むと――やっぱり!
 ダメージがしっかり入っていることを示すように、わずかに骨がぐらつく。

「チカ!」

 天地さんが呼びかければ、ミスティスも今の光景はしっかり見ていたのか、頷きが返ってくる。

「オッケー、帰っておいでっ!」

 ミスティスが剣先で骸骨の右膝を指しながら呼びかけたのは……なるほど、さっき石棺に投げつけたっきりだったソードゴーレム!
 彼女の指示に従って、ソードゴーレムが骸骨の背後から膝関節へと突き刺さる。ソードゴーレムはそのまま膝関節を貫通して断ち斬り、膝蓋骨を吹き飛ばしながらミスティスの手元に戻る。

「グオッ!?」

 右の膝下を失った骸骨が、残った大腿骨で膝を突くようにしてダウンする。

「とぉーぅっ!」

 項垂れるように下がった頭に対して、ミスティスは追従モードになったソードゴーレムと合わせてピアシングスラストで二連打、天地さんもすかさずマグナムシュートを撃ち込む。
 でも、う〜ん……なんだかやっぱりあんまりダメージになってない気がするんだよねぇ……。
 疑問に思って、なんとなくだったんだけど、ブレイズランスではなくフレアボムを選択して、頭部を爆破してやる。
 と……

「《フレアボム》! …………!!」

 今のはダメージがあった!?
 それを確かめようともう一度追撃しようとしたんだけど……転がっていた膝蓋骨がぶるりと一瞬震えたかと思えば、軽く浮き上がって膝のパーツそれぞれと魔力が繋がって、膝関節が復活してしまう。

「ヌゥッハハァ! まだまだぁっ!」

 再び立ち上がった骸骨は、胸の前に掲げた左手に炎を生み出す。
 そして、

「次はこちらからだっ!」

 その炎を叩き潰すように、平手で地面へと叩きつけた。
 次の瞬間……その左手から五方向に炎が衝撃波になって飛んできた!?
 だけど、あれ……?これってもしや、事前に床にひび割れを作る予備動作がなくなってる分、見切りづらくはなってるけど、銅鐸の平手攻撃と一緒で、指が置かれた延長線上に衝撃波が飛ぶってだけだね?
 手元をしっかりと見て、余裕を持って回避……成功っ!
 うん、どうやら思った通りみたいだね。
 まぁ、名前がエニルム・ルーラーってぐらいだから、おそらくあの銅鐸の親玉ってことなんだろうね。攻撃パターンも純粋に銅鐸の強化版ってことなのかな。

「せぇいっ!」

 ひとまずは弱点とわかった膝関節に向けて、ミスティスが斬りかかろうと飛びかかる。
 けれど、そこに上から骸骨の剣が振り下ろされてきて、やむを得ずミスティスはそちらを盾で受けることにして、それに弾かれるまま逆らわずに一度距離を取り直す。

 そこで隙ができたとみたのか、骸骨が剣を両手で握り直して、袈裟斬りでもするように斜めに構える。
 と……

「真っ二つだ!」

 ゴルフスイングみたいに横薙ぎで斬り払いにきた!?

「わわわわわぁっ!?」

 ほとんど本能的な判断で、刃から逃げる方向に飛び込みつつ、半ばヘッドスライディングのようにして頭を抱えてその場に伏せる。
 瞬間、僕の横を、逆に刃に向けて突っ込んでいくような影もあって……?

「《エンデュランス》っ!!」

 飛び込んだ影の正体はミスティスだった。
 あの巨大な剣を、エンデュランスで完全に受け止めた……!
 「ガギィィィィィ!!」と、金属同士が擦れ合う凄まじい音がして、ミスティスの装備が火花を散らす。
 それでも、左の盾と右の剣、ついでに横に浮いてるソードゴーレムの三本で、骸骨の刃を完全に押し留めることができていた。

「やるな……!」

 骸骨が剣を引く。

「あ、ありがとう、ミスティス」
「なんの、任せなさいな!」

 思わず投げ出してしまっていた杖を拾って、立ち上がりつつお礼を言えば、ミスティスは少し得意げに、しかし油断なく骸骨に対峙する。

「行くよっ!」

 ミスティスが再び骸骨に斬りかかったのを合図に戦闘再開だ。

 一応、タゲは基本ミスティスに固定されてくれているみたいで、少し余裕ができて冷静になったところで、ここまでで感じていた違和感についてもう一度考え直してみる。
 後半戦が始まってから、僕たちはほとんど骸骨にまともなダメージを与えられていない。
 だけど、膝を落としてダウンした時、他の二人の攻撃はやはりダメージがなさそうだったのに、頭部全体を巻き込んだ僕のフレアボムだけはダメージが入っていた……。
 つまり、頭部のどこかに本来の弱点がある可能性が高い……?
 それと、フロストヴァイパーを這わせた時の焦ったような反応……あれはもしかしたら、膝が弱点の一つという以外に、何か別の理由があったんじゃないか……?
 頭部の近く……あのフロストヴァイパーで、膝以外で焦った理由……背骨……首筋!?
 そうか!

 天啓のようなひらめきと共に、違和感の正体に思い当たる。
 そもそもとして、ここまでゴーレムが主体だったこのエニルム遺跡の敵の傾向からして、このボスだけいきなり全然系統の違うアンデッド系で出てくるなんてことあるのかな?
 いやまぁ、ここが実は王墓みたいなもので、骸骨は埋葬されてた主の亡霊みたいな話ならあり得るのかもしれないけど……。それならもっと違う名前があった気がするんだよね、「エニルム・キング」だとか、あるいはスケルトンなりリッチとかのアンデッドっぽい名前とか。
 おそらくは……!

「わかった! こいつ、スケルトンじゃないんだ! 多分ゴーレム!」

 僕のひらめきで、ミスティスも天地さんも大体察したみたいだね。

「なるほどな? つまり、こいつの弱点はおそらく……!」
「首筋の裏、頭の付け根……! それなら……まずはもっかい膝を突かせるっ!」

 ミスティスが左膝に向けて斬りかかろうと向かっていく。

「通さぬッ!」

 対する骸骨は、左手に炎を宿すと、そこから連続で火の玉を放つ。
 ミスティスはそれを的確に左右へのステップで掻い潜り、

「とあぁぁっ!」

 跳び上がりながらのピアシングスラストで左膝を貫く。
 そのまま骸骨の後方上空へと突き抜けたミスティスは、その空中で半回転捻りを入れて反転してピアシングダイブを起動、膝裏から再度の刺突を叩き込む。
 ちょっと変則的だけど、ダブルピアーシングの派生形って感じだね。

「ヌグゥッ!」

 膝関節への強烈な二連撃に、骸骨が怯んでよろめく。
 ここは畳みかける……!
 ゴーレムコアスペラーを浮かせると、骸骨の股下をくぐらせるようにして、左膝の裏に回り込ませる。

「クッ!?」

 骸骨は辛うじてそれを目で追うことはできたみたいだけど……まぁ、膝の裏側って結構な死角だよね。
 特に、中途半端によろめいてバランスを崩した今なら、ね。

 回り込ませたゴーレムコアスペラーを起点に、左膝に向けてブレイズランスを放つ。

「ック! ……ヌゥ……!」

 それがトドメになって左膝が吹き飛び、骸骨がガクリと膝を突いて項垂れる。
 となれば、あとは答え合わせ……!

 ゴーレムコアをそのまま骸骨の背後に回らせて……狙いは首筋!

「《ブレイズランス》ッ!」

 ダメージが……うん、入った!
 同時に、その爆発で頭蓋骨が吹き飛ばされる。
 そこに現れたのは予想通り、背骨の先端、首元に据えられたゴーレムの核だった。

「ビンゴー!」

 天地さんがすかさずフルバーストファイアを叩き込む。
 更にそこへ、

「とぉーーーりゃぁいっ!」

 ミスティスのスピニングブレイドが追加されて、ガリガリと核を削っていく。
 続けて、僕がもう一撃ブレイズランスを入れたところで、頭の接続が復活する。

 落ちていた頭蓋骨が一瞬カタリと震えたかと思えば、ひとりでに浮き上がって元通り首と繋がる。
 膝の関節も同時に再接続したようで、完全に復活した骸骨が立ち上がる。

「ッ! ……まだだッ!」

 台詞にもだいぶ焦りが見えてきたね。
 実際、かなりダメージを入れられた手応えもある。

 ようやく攻略法もわかったし、反撃開始だね。


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