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 さてと、ようやく2階だね。
 とは言えまぁ、ここからは言うほど目新しいものはないかな。
 渡り廊下を戻って、正面に続く階段を登って2階に上がる。
 2階の西側が理科室と理科準備室、食堂の上に当たる拡張された部屋の部分は広々とした図書室になっている。
 まぁ、この辺はどの学校にもあるものだもんね、図書室を軽く覗いてみたぐらいで、あとはサラッと説明して流す。
 そして、図書室の手前にあるのが……

「んで、ここがVR室だ」
「VR室?」
「あぁ、ま、さっき校長も言ってた通り、この学校はタルタロス研究所の実験場みたいなもんでもあるかんな。VR関係の設備は他より充実してるのさ」

 そう説明しつつ、九条君がARウィンドウをスワイプしてドアを開ける。
 と、その部屋の中は、人一人がちょうど入れそうな大きさの、前面半分が透明になった巨大な卵のような形のカプセルが等間隔で大量に並んでいる。

「わぁ、イージスポッドがこんなにいっぱい! すっご……もしかしてこれ、一クラス分まるまるあるの?」
「おう、この部屋だけで全部で40台だ」
「へぇ〜!」
「放課後は自由に使えることになってるから、電算部とかが使ってたりすることもあるな」
「ほぅほぅ」

 このカプセルは、Alert and Emergency Guard Isolate Shell(緊急警報防護隔壁)、通称イージスポッド。
 中に入ってゼウスギアと接続することで、フルダイブ中の意識のない身体を保護してくれる防護装置だ。
 拳銃弾でも傷一つ付かない程の防御性能を誇る特殊硬化アクリルラミネートは透明になっているから、急な病気の発作とかの内部で異常が起きた時でも外から確認して救助ができるようになっている。
 そして、ARクラウドネットワークの本来の使い方通り、ゼウスギアを含めた周囲のIoTネットワークに接続して、外部カメラや建物自体のセキュリティシステムと連携しての不審者や災害その他の異常の検知なんかもできる万全のセキュリティ対策も施せる。
 ついでにローカルサーバーとしての機能もあるから、この学校では主に専用のVR空間を使っての「実地授業」のためにこの部屋が用意されてるんだよね。

 まぁ、2階はこんなところかな。
 次は3階。
 3階は、西側が技術室、東側に美術室と、デッサン用の石膏像とかキャンバスとかがしまってある美術準備室、突き当りの拡張部屋は音楽室と楽器が保管されてる音楽準備室だね。
 この辺もまぁ、どの学校にもあるものだし、それぞれアナログ美術部だったり吹奏楽部だったりが使ってるしで説明だけでスルーだ。

 最後に、北校舎にだけある4階なんだけど、ここは僕たち一般生徒にはあまり用がないかな。
 西側に生徒会室があるぐらいで、残りは基本的にタルタロス研究所の許可がないと入れない第二サーバールームだ。
 何故「第二」なのかって、「第一」のメインサーバーは現代の一般的な建物と同じく地下に埋め込まれてるからだね。

 そんなわけで、4階の説明は口頭で終わりにして、校内案内は一通り終了だね。

「校舎の中はこんなところだなー。ま、つっても一回で覚えるってのも大変だろうから、なんかわかんない時はいつでも聞いてくれていいぜ」
「ありがとー、すっごい助かるよ〜」
「いいってことよ。んーじゃ、お次はいよいよ遠堺観光ツアーだぜ!」
「おー!」
「オススメの場所いっぱいあるんだ〜。楽しみにしててね!」

 なんて会話を交わしつつ、最後に回った技術室からそのまま西校舎の階段を玄関のある2階へ降りようとしたところで、4階から降りてくる二人組に遭遇する。
 実質生徒会室しかない4階から降りてきたのは、

「おっ、会長に副会長。ちゃーっす」

 現生徒会長の三年生、藤袴 葵先輩と、同じく副会長の荒妙 九華(このか)先輩だった。
 軽いノリの九条君に続いて、僕たちも挨拶しておく。

 うちの学校の生徒会の役員選挙は、その年卒業してしまう三年生を除いた全校生徒を対象とした自薦他薦問わずの純然たる人気投票だ。
 となると必然、極端に女子に……というか、美少女に票が集まるんだよねぇ。
 「事実上の校内ミスコン」と呼ばれる程度には。
 その傾向から、下手に男子に票を入れると美少女ハーレム状態になりかねないという、わかりやすい男子同士の間の嫉妬と、憧れの的のイケメン男子が生徒会に囲われかねないという、これまたわかりやすい女子からの嫉妬もあり、なおのこと「見た目に可愛い美少女」以外には票がいかないんだよね。
 ただ、開催時期が毎年の前年度2月……即ち、少なくとも周囲の人間同士ではお互い十分に人となりが理解されきった時期ということもあり、純然たる人気投票という点が逆に、見た目はよくても性格や能力に難があったりすると意外とすぐ情報が広まって票が集まらなくなったり、という面もあるらしく、現状このシステムで問題になったことはないらしい。
 ちなみに、今年の人気投票は塚本さんにも割と悪くない数の票が集まっていたらしく、「や〜、危うく生徒会なんてめんどくさそうなのやらされるとこだったわよ、まったく……」なんてクラスで愚痴っていたのを小耳に挟んだことがあったりする。

 とまぁ、そんな例に漏れず、2年連続で校内一の美少女の座に輝いているのが現会長である藤袴先輩。

「こんにちは、皆さん」

 この周囲を和ませるゆったりしたテンポの喋り口と涼やかな声に、2年連続で生徒会長になるのも納得の可愛らしく整った美貌、「人形のよう」と評される美しいプロポーションは、そこらのステージアイドルにもまず負けないだろうというレベル。
 鴉の濡れ羽色、という表現がぴったりな艶やかなストレートロングの黒髪を、横髪から一房ずつ後ろに回して一つに束ねたハーフアップの髪型に、常にぴっちりと着こなした制服姿は、まさしく清楚を絵に描いたような、理想の大和撫子そのもの。
 加えて、教師陣からも信頼の厚い品行方正、ほとんど何をさせてもそつなくこなしてしまう才色兼備、試験の成績は常に全教科満点のトップでありながら運動神経も抜群の文武両道、おまけに生徒会の仕事がない時は料理研究部にも呼ばれるほどの料理上手と、非の打ち所がない完璧超人。
 まさに全校生徒の憧れの的であり、高嶺の花。
 これだけ揃うと、一見してなんとなく近寄りがたい別世界の人みたいな印象を持たれてしまいそうなんだけど、そんな彼女にも唯一欠点があって、それが極度のあがり症ということ。
 そのせいで、学校行事での生徒会長挨拶とか、肝心なところでドジが多くて、そういう演説が必要な場面の度に数々のポンコツ伝説を作り上げ、毎度荒妙先輩にフォローしてもらうのがもはやお決まりの恒例行事になっている。
 ただ、そういう「完璧超人すぎないところ」が、むしろ逆に彼女に親しみやすさを感じさせる魅力の一つにもなっていて、2年連続の不動の人気に繋がっている。

 一方の副会長、荒妙先輩は、ARカスタムで鮮やかなワインレッドに染めたスポーティーなショートカットに、わずかに釣り目気味のぱっちりとした目と日焼けした肌が印象的な、会長とはまたベクトルの違う美少女。
 プロポーションは会長よりもよくて、遠目にも目を引く巨乳に、健康的な肉感あふれる下半身のライン、それでいてキュッと引き締まったウエストは、モデル……というより、グラビアアイドルとかに向いてそうな体型。
 それに加えて、

「よ〜ぉお前ら、今日も元気そうじゃねーか。どうしたこんなとこで」

 この男友達みたいな絡みやすいノリで、主に男子からの人気がものすごく高いんだよね。
 自分の体型に自覚があるのかないのか、本当に男友達みたいなノリで雑にスキンシップもしてくるし。
 服装も、一応は制服着用組なんだけど、コルセット風のボディスは着けてないし、ブラウスも第一ボタンが閉じてないし、上着のボレロも今は腰に袖で結んで巻き付けてるだけと、かなりラフに着崩した着こなし。
 ARカスタムで染めた髪と日焼けした肌も相まって、一見、会長とは正反対のチャラい感じの不良生徒にも見えてしまいそうだけど、素行はむしろいい方だし、意外なことに会長とは小学校以来の大親友なんだそうだ。
 さらに、これまた見た目だけでは想像できないけど、成績も会長に次いで常に1位タイか2位を維持しているぐらい優秀なんだよね。
 特に、運動に関しては会長よりも優秀で、たまに生徒会の仕事がない時に運動部の助っ人に駆り出されることもあるほど。
 副会長の座にいるのも、決して男子人気や会長と仲がいいというだけじゃなくて、本人の実力も正当に評価されての厳然たる結果だ。

 そして、そんなある種雲の上の人な二人に、全く臆せず普通にちょっと親しい先輩ぐらいのノリで絡みにいけてしまう九条君は、やっぱり僕みたいな人見知りの陰キャとは住んでる世界が違うなぁ……とつくづく思う。

「探偵部の皆さんに……そちらは高坂 大樹さんですか。珍しい組み合わせですね」
「あ、はい」
「高坂は昨日から探偵部に加えたんすよ。なんの気なしに調査中の噂について聞いてみたら、案外いい意見くれたんで、気に入ったんっすよね」
「ほっほ〜ぅ? ここに来て探偵部増員かぁ。いいじゃねーか!」
「あと、楪も加えてあります」

 僕と楪さんの探偵部加入を聞いて、副会長が何故かニヤリと笑みを浮かべる。
 そう言えば、九条君たち「探偵部」の活動を、副会長が何かと気に入っていて、条件さえ満たせれば生徒会権限で正式な部活動として認めさせてしまおうとしているらしい、という話を三人が教室でしていたのは覚えがあるね。
 うちの学校の部活動の新規登録要件は、最低5人以上のメンバーと、持続性の担保のために一年生を最低一人含めることの二つだから、なるほど、僕と楪さんが入ったことで、あと一人一年生を加えれば条件を満たせちゃうのか。
 まぁ、その話をしてた時点では、九条君たちとしては幼馴染三人で遊べればいいだけだから別に登録を目指す気はないって感じだったと思ったけど……副会長的にはこれで野望に一歩前進ってところなのかな?

「なるほど、ではそちらが今日からの転校生の……楪 結さんですね?」
「ぅえっ!? また名前覚えられてる!? えっ、私もしかしてなんか噂とかになってる?」
「『また』? あー、わかった、さては校長に会ったな? 安心しなよ。全校生徒の顔と名前全部把握してる校長とコイツの頭がおかしいだけだ」
「ちょっと九華! 私と校長を同列で語るのやめて!? あと言い方!」
「葵お前たまにすっげぇナチュラルに毒吐くよなぁ」
「へ? あっ……」

 思わずといった様子で口元を隠す会長。
 いや、うん、その、何とは言わないけど校長先生に関しては申し訳ないけど否定しきれないから僕からは何も言わないかなぁ……。
 うん、なんかみんなも微妙に目が遠くなってるし……。

「えぇっとぉ……あっ、そうだ、申し遅れました。私は生徒会長をしています、藤袴 葵です。お見知り置きくださいね、楪さん」
「おぉ、そういや自己紹介してねーな。アタシが副会長、荒妙 九華だ! よろしくな!」
「葵先輩が会長さんでー、九華先輩が副会長さん! 覚えた! えっと、名前覚えてもらってるけど一応改めて。本日転校してきました、楪 結です! よろしくでーす!」

 微妙に取り繕った会長に続いて、副会長と楪さんもお互いに自己紹介する。

「んでそういや、何しにここまで上がって来たんだ? 生徒会に用事か?」
「あぁいや、ちょうど楪に校内案内してただけっす」
「お〜、そーかそーか。んで、次はどこの案内だ? アタシらも付き合うぜ」
「やー、言うて校内は大体一通り回ったところっすね。なんでこのまま今日は遠堺観光ツアーにしようと思ってたんすけど、来ますか?」
「おお、いくいくぅ!」
「それはいいですね。私たちも今日はこの通り、時間に余裕ができたので、少し寄り道して帰るつもりでしたし、せっかくですからご一緒させてください」
「決まりっすね。っし、んじゃ早速出発だ!」
「おー!」

 なんとも予想外な展開だけど、会長と副会長も加わって、結構賑やかな観光ツアーになりそうだね。
 それにしても、なんというか、外から見てるだけの普段のイメージだと、どうしてもこう、清く正しくな良家のお嬢様みたいな雲の上の人感が強くなりがちな藤袴会長だけど……副会長との親友同士のやり取りとか、割と天然で暴言が出ちゃってたり、それを誤魔化す茶目っ気とか、自ら寄り道を画策してたりとか、こうして実際に接してみると、案外と普通の女の子なんだなぁ……。
 なんて感想を抱くと同時に、元から接点のある人からすれば、こういうところも彼女の魅力の一つなんだろうなぁ……と、改めて不動の人気っぷりに納得もしてしまう。

 と、まぁ、ともあれ、ここからはいよいよ遠堺観光ツアーの開始だね。
 僕も正直、廃墟以外はだいぶインドア派だから、市内といえども結構行ったことない場所も多いからねぇ。
 僕も一緒に案内を受ける側ぐらいのつもりで楽しませてもらおうかな。


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