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note.161 SIDE:G

 猿の死体から状態良く残ったものを選んで、依頼品の尻尾を忘れずに回収して先に進む。

「これで、猿の尻尾の方は依頼達成か」
「あとはー……ワンチャン見つかればエンジェルズリリー、かな?」
「深層部でしか取れない高品質ものって指定だったわね」
「うん」

 朝ギルドで見かけたもう一つの依頼の内容を思い出していると、

「あら、あなたたち、今回もエンジェルズリリーを探しているの?」

 大妖精の少女が話に加わる。

「うん。今度は深層部で取れる良質のやつって指定されてるから、運良く見つかればいいなぁ、ぐらいのつもりなんだけどね」
「それなら、運が良かったわね。私がとびっきりの場所を知っているのだわ」
「本当!?」
「えぇ、任せなさいな。後で案内してあげるのだわ」
「わぁ、やったぁ! ありがとー」
「ありがと、妖精ちゃん!」
「今日は何から何まで、本当に感謝するよ。ありがとう」
「ありがとう、すごく助かるよ」

 これは本当に運がいいね。今日は彼女にお世話になりっぱなしで感謝しきりだ。

 と、そんな話をしつつ進んでいると、気配探知に引っかかる反応が一つ。これは……ハンターディアー……!
 彼女の自信の通り、今回はきっちり探知に成功しているね。

「お〜?」
「ふむ、この反応……奴か……!」

 みんなも当然もう気づいているようで、全員で反応があった方へと向き直って警戒する。
 ハンターディアーはどうやら、得意の隠蔽魔法で姿を隠しながら、身体を低く伏せて低木に隠れているみたいだね。脚をたわませて伏せた体勢は、身を隠すと同時にいつでも全速力で飛び出せる準備状態でもあるから、僕たちが気付かなければあそこから一気に飛びかかって襲ってくるつもりだったのだろう。
 だけど、今回は強くなった加護のおかげで僕たちの方が先に気付くことができている。

 互いに視線を合わせてのにらみ合い。
 ただ、こういう時のハンターディアーはかなり慎重になる狡猾さも持っていて、相手が自分の存在に気付いているとわかると逃げ出すことが多いんだよねぇ。
 案の定、奴も既にじりじりと後退りしていて、逃げる構えらしい。

 と言っても、それもミスティスがいなければの話。挑発の共鳴音が打ち鳴らされれば、

「ほ〜ら、かかっておいで〜」
「――!!」

 あっさりと引っかかって飛びかかってくる。

「《エンデュランス》!」

 瞬速の突撃を、ミスティスはエンデュランスをかけてしっかりと受け止める。
 回避ではなく防御を選択したのは、

「っ……! 角が読めなすぎ……!」

 まぁやっぱり、大きい上に複雑に枝分かれした角の刃の軌道と間合いが読みにくいからだね。
 ハンターディアーの方も、攻撃を読ませないように、細かく首を左右に振りながら突き上げてきていて、尚更回避が難しい。

 ミスティスは防戦一方になってしまっているけど、攻撃が彼女に集中している分、僕たちからは完全に隙だらけだね。
 とは言え、角の猛攻に加えて、直線の機動力もあちらの方が上であることで、ミスティスが距離を取れなくなっていて、ブレイズランスとか味方も巻き込むような攻撃は選択しづらくなっている。
 オグ君はバーストアローで問題なく横槍を入れてるけど、僕は……ここは新しいスキルかなぁ。

 となれば、まずは、

「《ウォーターボール》!」

 今まで使いどころがなかったけど、初級魔法の一つとして最大Lvの取得はしてあった、水属性初級魔法ウォーターボール。ファイヤーボルトとかの、一番の基本のボルト系スキルの水属性版だ。
 このスキルの特徴は、ヒット回数の累積で浸水確率が上がっていって、最大Lv分の10発を当てると確定で浸水の状態異常をかけられること。今回ももちろん最大Lvで10発きっちり当てて、大鹿を浸水状態にしてやる。

 とまぁ、ここまでは浸水状態をかける仕込み。本命は――

 詠唱文から、脳内で魔法陣を構築する。あー……多分使い慣れれば無詠唱になるんだろうけど、さすがに初めて使う中級氷魔法はちょっと詠唱の補助が欲しいかな。この辺までは大丈夫だから……

「氷刃纏いて、穿て堅氷。《アイスパイク》!」

 ――ブレイズランスやサンダージャベリンに連なる、「槍」系の対単体中級氷魔法、アイスパイク。
 単純にブレイズランスの氷版で、シンプルに氷の槍を打ち出して、刺さったところで爆発させる単発高火力タイプのスキルだね。
 どちらかというと火力重視のスキルで、本来なら一応爆発部分に凍結判定はついているけど判定は1回だし、氷魔法の中では比較的凍結確率は低いスキルなんだけど……

「――……!!」

 今回は先に凍結確率を上昇させる浸水の状態異常をかけていたから、狙い通りに凍ってくれたね。

「ナイス! 助かったよ!」

 回避できない連撃で思うように動けていなかったミスティスが、ここぞとばかりに離脱する。
 これで大鹿に対して射線が空いた、となれば、凍結で氷塊と化した相手に選択するスキルはもちろん一つ。

「《キリエ・エレイソン》」
「《サンダージャベリン》!!」

 ツキナさんがキリエも乗せてくれて、浸水と凍結の二重効果に、サクラメントとキリエも加わって倍率マシマシになった雷撃が大鹿を直撃する。
 そこへ、オグ君もタイミングを逃さずにチャージングを乗せて追撃の矢を射かける。

「《スパイラルアロー》!」

 スパイラルアローは螺旋状に魔力を纏わせることで威力と弾速を上げた矢を放つハンターの単発強攻撃スキルだね。
 このスキルのポイントは、着弾後も一定間隔で攻撃判定が発生して、スキルLvで決まる最大攻撃回数分までヒット数が増える多段ヒットスキルであるところ。敵に当たっても、攻撃判定の発生回数が最大攻撃回数に達するまでは矢が敵を貫通して突き進んでいくんだよね。これによって、小型の敵が複数の場合には貫通する直線範囲攻撃として機能しつつ、今回のハンターディアーみたいな大型の敵に対して撃てば、攻撃判定が全段1体に集中することによって、ハンタースキルの中でもトップクラスの高火力スキルに変貌する、汎用性の高いスキルだ。

 最後に、この隙に跳躍していたミスティスからのメテオカッターが振り下ろされて――

「そぉ〜〜〜やっ!!」

 ――だけど、その刃に乗せられていたのは、いつものイグニッションブレイクではなくて――ウェイブエッジ……!
 結果、上空数メートルから地面までを穿つ巨大な魔力の刃が縦一文字に刻まれて、着弾と共に前方へと走り、

「――――!!」

 大鹿を一刀両断する。

 ちなみに、この合わせ技はメテオウェイブという名前で公開スキルとして登録されているらしい。まぁ、組み合わせとしては単純だから誰でも思いつきそうだしね。

 ……うん、端的に言ってオーバーキルだね。三人の誰か一人分だけでも多分倒せてたんじゃないかなこれ。実際、鹿は完全にフォトンに爆散していっちゃったし……。
 まぁでも、逆に攻撃が激しすぎて頭部は千切れ飛んで残ってくれたおかげで、一番有用な素材であるその角は良好な状態で残ってくれたから……まぁ、結果オーライ?
 ちょっとグロいことになってるのはまぁ、アレだけども……。

「あにゃ〜……ちょっとやりすぎ?」
「……だな」

 やっぱりちょっとオーバーキルだと思ったか、頬を掻いたミスティスの言にみんなも頷く。

「ま、この森の奥でも十分戦える戦力はあるということね。頼もしいわ」

 大妖精の少女がくすりと笑う。
 うん、まぁ、それが示せたならそれはそれでよし……かな?


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