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note.162 SIDE:G

 鹿を倒せた後は、ちょうどいい泉に行き当たったので、ちょっと早いけど軽くお昼休憩を取ってから先へと進む。
 進んでいると、心なしか木々の密度が上がってきたような……。なんて思っていると、やっぱり気のせいではなかったようで、

「さぁ、そろそろこの森の深い場所に入るわよ」

 大妖精の少女が教えてくれる。

「それで、一つ私からお願いがあるのだけど……いいかしら?」
「うん?」

 彼女からのお願い……なんだろう?……まぁ、なんとなく察しはつくけども。

「この先は奴ら……トロール共の領域よ。だから、遭遇した分だけでいいから、可能な限り奴らを殲滅していって欲しいの」
「うん、任せて」
「あぁ、トロールは自然の大敵、だったな」
「おっけーおっけー!」
「お安い御用ね、というか元々そのつもりよ」
「ありがとう。まぁ、この森のエーテル濃度だと奴らもエーテルを認識できて復活してきてしまうから、正直半分ぐらいは憂さ晴らしだけど、それでも少しぐらいは懲らしめてあげなくっちゃ!」

 案の定、深層部に巣食うトロールのことだったね。
 オグ君の言う通り、トロールは好き放題に力任せの環境破壊を繰り返す「自然の大敵」……前回マリーさんにも聞いた話だ。
 まぁ、僕たちとしても見つけた敵をむざむざ逃してやるような理由はないし、出会う分には一匹残らず殲滅だ。

「加護を追加するわ。これで奴らを捻り潰してやって頂戴」

 そう言って、少女が追加してくれた加護に、みんなそれぞれに感謝を伝える。
 効果は……なるほど、攻撃力増加だね。ここで追加されるのがシンプルに攻撃力増加って辺りが逆に、トロールへの殺意の高さをわかりやすく示してるよねぇ。前回も思ったことだけど、トロールというのはよっぽど妖精たちから嫌われているらしい。

「それじゃあ、進むわよ」

 再び大妖精の少女が先導に立って、いよいよこのカスフィ森で「深層部」と呼ばれる領域へと足を踏み入れる。
 深層部に入った途端、それまで巨樹の合間を縫う普通サイズの木々と泉が織りなす、まるで森の中にもう一つミニチュアの森があるかのような、木漏れ日溢れる幻想的な風景だった様相は一変する。
 一本一本が高層ビルじみた、見上げる気にもならない巨樹――カスフィウム・デレクシアの密度が一気に上がって、昼間だというのに光の一筋すら入らず、ライトの補助魔法がなければ足元すらおぼつかない。そんな中ですら、どうにか光合成は成立しているのか、普通サイズの樹も森と呼べるレベルで林立している。とは言ってもやっぱりこの環境では生存競争が激しいということなのか、はたまたトロールによる暴力の結果か、外縁部ではあまり見なかった倒木が目に見えてあちこちにあって、道を塞いでいたり外皮だけが残った天然のトンネルを作っていたりしていて、まさにダンジョンと呼ぶに相応しい迷宮と化していた。他の植生も、普通に草花が多かった外縁部と比べると、苔やキノコの類がほとんどを占めている感じだね。外縁部のそれをも超えて一際大きな巨樹は、根っこの一本ですら城壁のような威容で、そこに周囲の普通サイズの木々や、苔むした大岩やら倒木やらが複雑に絡み合っていて、大妖精の少女の先導がなかったら絶対にどこかで立ち往生して迷子になってたと思う。

「う〜んクソ地形」
「クソ地形ね」
「……まぁ、人が簡単に足を踏み入れられる場所ではないな」

 早くもげっそりと肩を落とすミスティスに、ツキナさんとオグ君も続く。
 まぁ……大妖精から不整地踏破の加護をもらっているはずでこの悪路具合は、普通だったら戦闘どころかただ歩くだけでも一苦労だろうねぇ……。

 そしてまぁ、そんな中でも敵はこっちのそんな事情なんて構ってくれないわけで。

「――――!!」

 まるでその辺の草むらでも掻き分けるかのような感覚で周囲の木々を押しのけ圧し折りながら現れたのは、早速のトロールだ。

「お出ましね。頼んだわよ。叩き潰してあげて!」
「おっけー! いっくよー!」

 大妖精の少女が攻撃誘導の加護をかけてくれて、それに応えるようにミスティスが挑発を打ち鳴らす。

 初手で振り下ろされたトロールの棍棒を横に飛んで避けたミスティスが……空中で直角に曲がった!?
 そのままピアシングダイブで完全に攻撃範囲の死角からソードゴーレムと共に一撃を見舞う。
 あー、わかった、今のは攻撃誘導の魔力に自分自身を乗せたんだ。それで慣性やなんかも全部無視して突然軌道が変わったんだね。

「――!?」

 認識の埒外からの攻撃に、トロールもさすがに戸惑った様子を見せる。
 おかげで、後ろの僕たちからは隙だらけだね。

「《フロストヴァイパー》!」

 氷の蛇3体の集中攻撃で凍結させてあげれば、そこにオグ君からチャージング付きのブラスティックアローが追撃で入って一瞬だけ氷が割れて、蛇の攻撃判定が復活、再度のダメージが入ってもう一度凍結する。
 前回は大妖精の少女がやってくれた氷を割って攻撃判定を復活させるコンボだけど、オグ君もしっかり合わせてくれて、本当に有り難い。
 さて、凍ったのであればもちろん、次の手は一つだね。

「《キリエ・エレイソン》!」
「《サンダージャベリン》!」

 ツキナさんがキリエを乗せてくれて、サンダージャベリンの氷雷コンボを決める。
 オグ君も、コンボを邪魔しないように一瞬だけタイミングを遅らせてのブラスティックアローで追撃してくれる。

「――!!」

 凍結とサクラメント、キリエで6倍火力のサンダージャベリンにブラスティックアローの爆発を喰らって、怒りの咆哮を上げるトロール。相変わらず、これでまだ死なないというのはだいぶタフだねぇ……。
 でもそこへ、反撃の隙を与えずにミスティスが飛び込む。

「てぁーりゃっ!」

 ウルヴズファングでのダブルピアーシングから、離脱際にソードゴーレムと合わせてバイティングファング。上下左右から十字にクロスした斬撃のラインがトロールを斬り刻む。
 それに続けて、

「死ねぇーっ!!」
「――――――!!!」

 大妖精の少女が渾身の魔力爆発を叩きつけるけど、

「まだ落ちないか!」
「《ブレイズランス》!」

 それでもまだ立ち続けるトロールに、ブラスティックアローとブレイズランスで更に追い打ちをかける。
 最後に、バイティングファングから一旦後方に離脱しかけに見えたミスティスが、バックステップの空中で再び攻撃誘導の魔力に乗って、僕たちの攻撃の爆風に半ば突っ込むように、避けられないタイミングで距離を詰めて、

「せぇい……はっ!」

 インパルスピアーシングの一閃。

「――!? ――……!」

 さしものトロールもこれには血を吐いて、ようやくフォトンへと爆散したのだった。

「ふぅ、まずは一匹ね。お疲れ様」

 前回も一度やってくれた疲労回復の加護をかけて労ってくれる大妖精の少女にお礼を言っておく。正直地形の悪さと今の一戦でだいぶ疲れてはいたからかなり助かるね。

「や〜、無駄に硬いねぇ……」
「あはは……まぁ、爆発とか足止め系の攻撃攻めで封殺できたからまだよかったけど」

 これであの膂力で暴れられていたら、更なる苦戦を強いられていたことだろう。本当にタフな相手だ。

「安心して。私の依代本体も近づいてきたし、森の中心に入った分魔力濃度も高いから、次はもっと強い加護をかけてあげられるわ」

 そう言って、大妖精の少女が光の粒を散らしながらくるりと回る。
 一応、Lv的には適正の狩場ではあるはずだから、加護がなかったとしても戦闘は成立できるはずだけど……今のままだとさすがに、ちょっと気軽にトロール連中を駆除していく、とまではいかないからねぇ。
 彼女の望みを叶えてあげるにはもう少し火力が必要、というところかな。

 ともあれ、先に進もうか。


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