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note.168 SIDE:G

「それじゃ……いくよっ!」
「うん、頼んだよ!」

 さぁってとっ! あんだけ大見得切っちゃったし、宣言通り、三分は持たせないとね!
 マイスの返答を背に、デカブツを見据える。

 天地からの口伝スキル、《フォトンブースター》。普段の呼吸で常時自然と取り込んでいる体内の余剰エーテルをフォトンに励起して放出することで、生身で空だって飛べちゃうぐらいの推進力を発生させるスキル。
 今日の最初は《コンセントレーション》(コンセ)を入れて、魔力で出力を集中させて瞬間的に起動する《クイックブリンク》(QB)が限界だった。そこからちょっとだけLvも上がって、妖精ちゃんの加護でステータスも上がった今でも、飛翔に使えるぐらいの《フォトンブースター》の維持となると本来なら《コンセントレーション》中の十秒が限界だけど……。
 普通なら極限状態に追い込まれた時に出せる、いわゆる「ゾーンに入る」とか「ランナーズハイ」とか言われるような、火事場の馬鹿力的な超集中状態、それをスキルとして意図的に起こせるのが《コンセントレーション》。んで、それを自前の集中力で無理矢理維持するプレイヤースキル、通称「フルコンセントレイト」! 当然、こんなの長くは続かない。正しく極限状態の、自分自身との集中力勝負。まぁ、持って三分かなー。これ終わったらそれこそ完全に集中力切れでぶっ倒れるんだろうなぁ……。
 だけど、だからこその、三分。マイスが無事に妖精ちゃんと契約を交わせるまで、三分間は絶対に稼ぐよっ!

 ま、三分もあったらこんな奴ら、全員倒しちゃうかもしれないけど……ねっ!

 さっき手に入れたアンフィスバエナは盾にくっつけちゃって叩くものがないから、ソードゴーレムを操作して《プロボック》(プロボ)を発動する。
 と同時に、背中の「メインブースター」とは別に、肩甲骨の一番飛び出たところ辺りからフォトンと魔力を追加で放出する。そうすれば、大気中のエーテルが魔力に惹かれて、追加のフォトンに変換されていく。収束するフォトンと一緒に、エーテルが急速に励起される音がジェットエンジンみたいに加速度的に高まる。そのまま「光の翼」に見えるぐらいまでフォトンが集まったら……よぉし、今っ!

 収束させたフォトンを後ろに向きをつけて解放してあげれば、「バゥッ!」っと爆発みたいな衝撃と共に、この超集中状態でも一瞬と感じる勢いで最高速度まで加速して、吹っ飛ばされるようなスピードで身体が前へと進む。
 《フォトンブースター》に魔力を加えて、体内エーテルだけじゃなくて大気中のエーテルもフォトンに変えて最大出力でぶっ飛ばす、これが《オーバーグライド》ッ! まぁ、発動中はずっと魔力垂れ流しで燃費すっごい悪いんだけど、見合った速度は出せるスキルだからね。

 プロボに釣られて取り巻きのトロール共が私のいた位置に走ってきてたけど、おっそい遅〜〜〜いっ! 一瞬で奴らの後ろまで駆け抜けてやったけど、まだアイツら私がもう後ろにいるのに気付いてないよ。アイツらさえ抜いてしまえば、目の前に迫るのはデカブツの右足だけ。デカブツもデカブツでまだ私の速度に反応できてなくて、足元は完全に無防備。

 さぁ、ここから更にまだもう一段階!
 体内のエーテルを魔力で誘導して……背中の「メインブースター」に集中……からの〜、発射! 《オーバーグライド》状態のまま《クイックブリンク》を重ね掛け。「ドンッ!」っと重低音を響かせて、私の身体は一瞬だけ音を置き去りにする。
 そのトップスピードを全部乗せて、すれ違いざまアンフィスバエナの《バッシュ》で斬り抜けるっ!! この速度域だともう、下手に動きのあるスキルを使ったって逆に減速しちゃうだけだからね。シンプルに《バッシュ》ぐらいがむしろ一番火力を出せる。

 よっし、手応えあっ……、かったあぁ〜〜〜〜〜〜い!? 気持ち的にはもう足首斬り飛ばしてやるぐらいのつもりだったのに〜〜〜!
 片足だけ着地してブレーキしつつ、その足を軸にブースター操作も加えて反転する。
 見れば、一応それなりの出血があるぐらいの傷はつけられたっぽい。デカブツが呻いて、傷を抑えて蹲る。
 初手でいきなり親玉に傷を負わされて、明らかに取り巻きもこっちを警戒してるし。うんうん、ヘイトはバッチリ私に集中してるね。

 ま、一発で決めきれないなら何発でも叩っ斬ってやるだけってね!
 しっかり両足を着地させて、慣性をバネに反動で地面を蹴る。それと同時にもっぱつ《オーバーグライド》!
 おんなじとこもっかい斬って嫌がらせしたげよー……って狙うつもりでQB用意したのに、アイツこっちに振り向くついでに踏みつけようとしてくんじゃん! それも、このまま飛び込んだらちゃんと踏み潰せるタイミング……ってことは、今の初撃だけでもう結構見切られてるし。やるね……!
 まさかこの速度が一発でここまで見切られるとは思ってなかったから、勢いでQBもう起動してぺしゃんこコースで加速しちゃったよ! だけど、こっちだって考えなしじゃないよ。奴の足元に入った瞬間、続けて右肩、背中とQB二連発! ブースターの推力偏向も駆使して完全に直角に左に曲がった直後に更に直角に前に出て、デカブツの股下を抜けてやる。
 体内で魔力を収束させる合間があるから同じ方向には連発できないけど、別々の方向のQBを発動可能状態で待機しておくことはできるから、こうやって別方向のQBを挟んでやればクールタイムをキャンセルして連発できるってわけ。

 回避が上手くいったおかげで、デカブツは踏みつけを失敗して隙だらけ。そこにオグがチャージングを乗せた《スパイラルアロー》をヘッドショットで叩き込む。的がデカいからヘッショも狙いやすそうでいいねぇ。
 っと、どうせプロボでタゲはしばらく私だから、追撃はオグにお任せ〜♪ 結果的に折り返してちょうど取り巻き連中の集団に突っ込んじゃったし、ヘイト稼ぎに取り巻きとも少し遊んであげないと、プロボ切れた途端にタゲ流れちゃうのは最悪だしね。

 MPが持たないからデカブツを潜り抜けたとこまでで《オーバーグライド》は解除済み。QBの加速だけでちょうど正面にいた取り巻きの一匹に突っ込む。
 正面のソイツは突然の急加速に対応できてなかったけど、横からは見えてたっぽくて先読みされた位置に右から棍棒が降ってくる。ま、五匹もいるんだもん、そう簡単にはやらせてくれないね。
 両肩から前に向けて吹かして、後ろQBで急停止。振り下ろしを躱しつつ、ついでにブースター操作で上昇する。奴の顔の高さまで飛翔したら、妖精ちゃんの攻撃誘導の加護の魔力の流れに乗って前へ! この攻撃誘導、一旦流れに乗っちゃえば自分の動作は関係なく敵の方向に進んでくれるから便利だよねぇ。……おかげでこうやって攻撃動作が先行入力できるっ!
 《オーバーグライド》の速度に追い付けなかったソードゴーレムも合流させて、プロペラみたいに十字に配置。《スピニングブレイド》の要領で正面の奴の顔に向けて斜めに《ワイドスラッシュ》で連続の回転袈裟斬り! そのまま半回転捻りで側宙に移って――顔面を斬られてのけ反って顔を抑えた、その手ごと踏みつけて奴の顔面に着地、足蹴に跳んで《クイックブリンク》っ! 顔を斬られた奴が苦し紛れに棍棒で薙いでくるけど、残念、もう間合いの外だよ〜だっ。

 お次は後ろの正面にいた奴に吶喊……に見せかけて、攻撃誘導に乗って右の奴っ! こっちに来ると思ってた奴が何にもないところに棍棒振り下ろしてるけど、残念だったね〜。
 逆に、突然自分の方に来られた右の奴は、自分も顔を狙われると思ったか、頭を守るように高い位置を薙ぎ払いにくるけど、ごめんね〜、それもハズレだよ〜♪ 一瞬だけブースターを切って斜めに落下、薙ぎ払いの下を潜って、奴の方に向き直るついでの《ワイドスラッシュ》で腹の辺りを回転斬りっ! 回転をそのまま《ツイストザッパー》の空中版の《トルネードダイブ》に繋いでやって、奴の胴体を斬り刻みながらブースターで再上昇。キッチリ頭の先までなます斬りにしてやったところでブースターの操作で後ろに離脱して反転する。

 今度はまた反転した正面にいた奴に向けてQBで加速! と同時にブースターを一旦切って一気に落下、地上を進む。頭ばっかり狙いも芸がないし、そろそろ見切られてそうだからね。案の定、急に高度が落ちて、奴ら一瞬私を見失ってくれたみたい。
 だけど、最初に顔を斬った奴とさっき攻撃をスカした奴はちょうど横から見てたからその軌道も見えてたみたい。左右からそれぞれ私を叩き潰そうと振り下ろされる棍棒を、右、左とQBで切り抜ける。そのまま超低空を滑翔、正面の奴も迎撃に大上段から棍棒を叩き付けてくるけど、大振りすぎてタイミングが素直すぎだよ〜。前QBでタイミングをズラして、はいハズレ〜♪
 飛び込んだ懐から地面を蹴って跳躍しつつ、QBの加速もついでに乗せて、《ピアシングスラスト》! すり抜けざまの脇腹辺りをぶち抜いてあげるっ!

 これで一旦私が奴らの集団の中から抜けた形になったところで、戦闘開始から後ろで始めてたツキナの詠唱が完成したみたい。

「――! 《マグニフィカート》!」

 地面指定の広域上級聖術《マグニフィカート》。空間中のエーテルをフォトンに励起しやすい状態にして、範囲内にいる間消費MPとクールタイムを減らしてくれる。いいねぇ、これでブースターやグライドのMP消費もかなり楽になるよ。
 それにこのスキル、空間そのものが輝くっていうか、空間全体で光の粒がキラキラ瞬く感じになるから、すっごい綺麗で好きなんだよね〜♪

 その《マグニフィカート》の発動と同時に、オグが真上に向かって矢を放つ。

「行けっ! 《アローレイン》!」

 天空に向かって放たれた矢は、一瞬の光の後に雨となってトロール全員に降り注ぐ。
 この手のファンタジーゲーのあるあるだね、上空から無数の矢の雨を降らせるハンタースキルの《アローレイン》。あのデカブツ含めたトロール全員に当てられるぐらい範囲も広いし、上から降ってくるからコイツらみたいな人型相手ならヘッドショットにもしやすいし、弓手の正統進化たるハンターのスキルなだけあって、弓のスキルの中では最高峰の範囲攻撃スキルなんだよね〜。ホントは最大3秒続くスキルだけど、今のはほとんど一瞬で終わっちゃったから、多分ここまでのLvアップでとりあえずLv1取っただけってところかな。

 だけど、今は逆にその短時間のおかげで、私が集団から離脱した隙をキッチリ埋めて足止めしてくれて、その上でその間に反転してすぐ次に移れる! 背中で《オーバーグライド》をチャージしながらー……ブースター操作と組み合わせて、右肩の前からだけ《クイックブリンク》っ! 片側だけ後ろQBすると、移動方向の慣性は残したまま一瞬で旋回ができるんだよねー。
 180度反転して、《オーバーグライド》起動っ! QBも乗せて……最大速度の《ピアシングダイブ》! からのついでに《ウルヴズファング》っ! よ〜っし、まずは一匹ぃ!!

 って、ちょわわっ、喜んでる暇もないね! 着地際を狙って、親玉からケンカキックが飛んでくる。左肩でQBを起動して、右へ飛んで着地をキャンセルしつつ回避っと。慣性に乗って距離を取りつつ、ブースター操作と重心移動で奴らの方に向き直って、一旦着地する。

 さぁて、一匹倒して、残りは親玉に取り巻き4! まだまだいくよ〜っ!


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