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note.188 SIDE:G

 モグラを倒して、引き続き探索を続けていく。
 と言っても、特に風景は代わり映えしないんだよねぇ……地中だから当たり前なんだけどさ。
 もうだいぶ深いところまで来た感覚はあるけど、ひたすら穴が続いてるだけで目印になるものが何もないから、今どれぐらい進んでいて、どれぐらい地下なのか、方向感覚もさっぱりわからない。

「は〜……さすがに代わり映えしなさすぎて気が滅入るわね〜……」

 そろそろやっぱり似たようなことを思っていたのか、ツキナさんがぼやく。

「まーしょーがないよねー、そもそもただの巣穴だからダンジョンと違って進む方向も決まっちゃってるし」
「ふぅ……まぁ、実際息は詰まるな。せめてもう少し空間的な広さがあればな……」

 それはあるかもねぇ……。狭さからくる圧迫感がかなり息苦しさの要因として大きい気がする。

 なんて話をしていると、

「はれ? 何か聞こえませんか?」

 ソフォラさんが手を当てて耳を澄ませる仕草で言って、みんな一旦立ち止まって押し黙る。
 確かに、静かにしてみれば何か聞こえて……え? これって……――

「水の音……?」
「……のようだな」
「どこかで流れてる?」

 水源を確かめに、少し小走り気味に進んでみると……あー……。

「あちゃー、そうきたか〜!」
「うぁー……どうすんのよこれ」

 ――道が下り坂になったところが完全に水で埋まってしまっていて、塞がれてしまっていた。

「おそらく、進む途中で地下水脈を掘り当ててしまったというところか……」
「えーっと……これ、どうするの?」
「この先がどこまで水没してるかもわからないんじゃ、潜るのも危ないですよね……。どうしましょう、師匠〜」

 完全に一本道の場所だから、どうにかしてここを突破しないと先には進めない。ここで立ち往生するわけにはいかないけど……。
 と考えていたら、

「お困りみたいね」
「リーフィー」

 現れたのは、さすがに暇だったのか、いつの間にか姿を消していたリーフィーだった。

「えっと、リーフィーならこれ、なんとかできる?」
「えぇ、もちろんよ。安心なさいな」

 自信たっぷりだから、何か策はあるってことなんだろうね。他に手立ても思いつかないし、それなら任せてみようか。

「みんな、少し下がっていなさい」

 全員言われた通りに、水場の淵に陣取った彼女の後ろまで下がる。
 深呼吸でもするようにして、軽く両手を広げて集中したリーフィーが、その手を前へと突き出すと、

「それっ!」

 「バガッ」っと轟音と共に水没部分の天井が崩れて――なっ、巨大な木の根っこ!?
 この通路とほぼ同じぐらいの太さの、とんでもなく巨大な木の根が突然天井を突き破って現れて、岩盤を突き崩しながら通路の奥へ向かってぐねぐねと伸びていく。そのまま根っこは伸び続けて、最終的に、再び上り坂になって水がなくなるところまでを完全に貫通したところで止まると、何事もなかったかのようにフォトンへと還って消えていった。

「まぁ、こんなものね。ふふん、どうかしら?」

 驚きを隠せない僕たちに、ドヤ顔でリーフィーが腰に手を当てる。

「ふへぇ〜……さ、さすがは守護精霊様です、こんなこともできるなんて……」
「今の、何をしたの?」

 なんで突然木の根が生えたんだろう?と思ったら、

「私の本体をほんの一部呼び寄せただけよ。あなたにあげたペンダント――私の依代がここにあるんですもの、この程度は容易いのだわ」
「そっか、今のはリーフィーの依代のあの大樹の根っこだったんだ」

 それは納得の理由と巨大さだね。

 完全に水没してしまっていた通路は、崩された瓦礫で埋め立てられて、ちょっと水が染み出している荒地、程度の平坦な地形になってくれていた。
 これはもう、リーフィーには感謝しきりだ。

「今日は本当にいろいろと助けられっぱなしだね。ありがとう、リーフィー」
「これぐらいはお安い御用なのだわ。それに、まだまだこんな程度じゃ返した内にすら入らないぐらい、私はあなたに恩を感じているのよ、マイス。また何かあったらいつでも呼んでちょうだい」

 僕のお礼にそう応えて、リーフィーはまた姿を消していった。
 まぁ、用がなければこんな単調で息苦しい地下よりは自分の聖域で遊んでいた方が楽しいということだろうね。

 そんなわけで、切り拓かれた道を辿って、更に巣穴の奥を探索する。
 しばらくは特に障害もなく進んでいくと、

「ん? なんの音?」

 壁の向こうから、ギャリギャリと明らかにドリルじみた何かで地中を掘り進んでくるような音が響いてくる。
 え、どういうこと!?
 この世界ではちょっと聞き馴染みのない音に戸惑っていると、突然に目の前の壁を突き破って現れたのは……

「これは……ミミズ……?」

 ……で、いいんだろうか……?
 一応ミミズらしい環状の節に分かれた赤茶けた肉色の体色に、全くミミズらしくない中型の蛇ぐらいはあるだろうサイズと、ファンタジーなワームあるあるな口の奥まで輪状の歯列が何重にも連なったわかりやすい特徴はあるんだけど……それよりも一番の特徴は……なんて言ったらいいだろう、身体全体が、まるで六角柱をねじったかのような螺旋状の構造をしていることだった。壁から出てきた瞬間の様子を見るに、あの歯列とこの螺旋状の構造とで、まさにドリルのように高速回転しながら地中を掘り進んできたということらしい。
 う〜ん……さすがのファンタジー生物だね。

「スクリューワーム……! この地域の地中に棲んでる魔物です。倒しましょう!」

 ソフォラさんが軽い解説を入れてくれる。この辺りの地中にいる魔物なら特段問題もなさそうだね。
 じゃあ、ちゃちゃっと倒しちゃおうか。

「う〜……ちょっとキモイけど……ほいじゃいくよ〜」

 このサイズでミミズ型となると拒否感はあるのか、微妙に嫌そうながらもミスティスが挑発を打ち鳴らす。

 挑発されたミミズは、いかにもミミズといった動きで身体全体を縮こまらせるように撓ませると、大きく伸び上がって、竜巻を纏うかのように「ギュイィィィ!」と音を立てる勢いで空中を高速回転しながらミスティスに向けて吶喊する。

「わぉ、思ったよりは速いねぇ。ミミズのくせに」

 とは言いつつも、だいぶ余裕を持って盾で受け止めてみせるミスティス。
 まぁ確かにミミズと思ってるとびっくりする速度ではあるけど、突撃の速度自体は僕でも普通に目視できる程度でしかない。地中を掘り進められる威力とは言えど、重金属の盾を貫けるはずもなく、ミミズは弾かれて宙を飛ばされる。
 そんな隙を僕たちが見逃すわけもなく、僕とステラからのブレイズランスとオグ君からのブラスティックアローでノックバックさせられて、ミミズはべしゃりと地面を転がった。

 いい感じだね。追撃でさらに畳み掛けよう……と思っていたら、ミミズが地面に潜った!?
 一瞬逃げられたのかと思ったけど、潜った地面からはあのギャリギャリと掘り進む音が遠ざかるどころか大きくなって、むしろこちらに近づいてきているのがわかる。
 これは……お決まりの地下から来るパターン!

 小さく跳んで、トン、と、わざと音を立てるように着地して、ミスティスが前に出る。
 奴の狙いはタゲを引いてるミスティスだろうからね。そして、きっと地面からの振動か何かでこっちのことを感知しているはずだ。これでより確実に、一番目立つ動きをしたミスティスの方にタゲは向かうはずだね。

「――ここっ!」

 ミスティスがバックステップで飛び退る。と、ドンピシャのタイミングで、その元いた場所の足元からミミズが地面を突き破って高速回転で飛び出してくる。
 え、地味にどうやってタイミング見計らったの今の!?
 まぁ多分音とか振動の感覚とかで判断したんだとは思うんだけど、わかるものなのかな……。

 地中からの攻撃をスカされて、ミミズが無防備に空中に飛び上がる。
 バックステップと同時にミスティスが両剣を回してのライジングファングでそのミミズを天井まで打ち上げた。
 って……あれ!? なんかさっきより身体がデカくなってない!?
 飛ばされて天井に叩き付けられたミミズに、ソフォラさんがバーストアローを撃ち込む。
 けど、やっぱり気のせいじゃなくさっきより巨大化してるし、明らかに防御力が上がってるよね!?
 一応ダメージにはなってそうだけど、見るからに傷が浅い。素直に矢が刺さってれば、天井に磔にできそうな勢いだったのに……。

「なんか急にさっきよりかったいんだけど!」

 ミスティスも違和感には気付いたみたいだね。

「地面に潜った後のスクリューワームは掘って噛み砕いた石を体内に溜め込みます! 石を吐き出す遠距離攻撃に気を付けて!」

 ソフォラさんが警告してくれる。
 なるほど、掘り進む時に呑み込んだ石を体内に溜めてたから身体が膨れて大きくなったんだ。防御力が上がってるのは体内の石に阻まれてるからってことか。

 と、空気を吸い込む音と共にミミズの身体の中心辺りが更に膨れて風船のようになる。これは……警告通りの石吐き攻撃……!

「!!」
「ほいほ〜いっと」

 ロケット風船を手放したみたいに、ミミズが身体を急速に萎ませながら、口から大量の石を散弾のマシンガンみたいに吐き出してくる。
 もろに喰らってたらほとんどこの狭い通路の全面に飛び散る勢いで避けるのも難しいぐらいだったけど、散弾が拡がる前にミスティスが前に出て、僕たちに当たる軌道の弾は全部スピニングパリィで受け止めてくれる。
 攻撃が止むと、ミミズの身体はすっかり元通りに縮んでいた。

 まぁ、こうなっちゃえばなんてことはないね。
 空気を吐き出しきった一瞬の隙を突いて、僕とステラ、オグ君から一斉射撃。
 最後にソフォラさんからの、和弓独特の綺麗な弓返りまで見せつつのスナイピングショットが貫いて、ミミズはフォトンへと還っていったのだった。


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