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note.187 SIDE:G

 引き続いて巣穴の中を探索していく。
 一見して複雑な迷路っぽくも見えるけど、巣穴の主が塒である地中側から掘り進んできた結果と考えれば、Y字の分岐が合流している方、つまりは真正面にある道をひたすら進んでいけばいい、実質一本道だ。
 なんというか、本当にその場その場で魔晶鉄鉱を食べながら気ままに掘り進んだ結果って感じだね。上がったり下がったり、時に螺旋状にループしたり、かなりあっちこっちに伸びている。けど、どうやら全体としてはだんだん地下に下がっていっている感覚だね。やはりというべきか、塒にしている場所はかなり地下にあるらしい。
 ツキナさんのライトに周囲の光源を確保してもらいつつ、僕のトーチを進行方向に向けて魔物を警戒しながら進む。
 すると……

「あれ? 行き止まり?」

 道が完全に途切れてしまっていた。……と思いきや、

「いや待て、これを見ろ」

 何やら上り坂になっているらしい突き当りまで進んだオグ君が上を指差す。それに倣って、僕たちも坂を登って上を向くと……

「こ、これは……」
「うげぇ〜……」
「これってもしや……」
「た、縦ループになってるんですかぁ!?」
「あぁ、どうやらそうらしい。参ったな」

 あー……これ、蛇の通り道だったね……。それも、気の向くまま餌となる魔晶鉄鉱を食べながら掘り進んだ結果だ。これほどの巣穴を作る巨体の蛇なら食べ進む途中でちょっとループするぐらいは苦にはならないよねぇ。
 さて、これはどうしようと思ったけど、

「人類種って不便よねぇ、クスッ。私が手伝ってあげるのだわ」
「あ、リーフィー。ありがとう、助かるよ」

 そっか、リーフィーなら飛んで上までいけるね。

「ふむ、それなら話は早いな。少し待ってくれ」

 オグ君が取り出したのは……

「これ、登山用のハーケン?」

 崖登りとか本格的な登山で使う、壁面に打ち込んでロープを通すためのハーケンだね。

「あぁ。滅多に使うものでもないし、できれば使う状況はきて欲しくないが、まぁ今回は持ってて助かったよ。まさに備えあれば患いなしだな」

 そう言いつつ、取り出したロープのちょうど真ん中辺りにハーケンを結びつけると、オグ君はそれをリーフィーに渡す。

「これをループの中心に埋めてきて欲しい。頼んだ」
「えぇ、任せなさい」

 リーフィーがくるりと指先を回すと、ロープは空中に巻き取られるようにして宙に浮く。そのままロープと一緒にふわりとリーフィーが上へ上がると、程なくロープの一端が上から垂れ下がってくる。

「これでいいわ。上がってらっしゃいな」

 と続いてリーフィーの呼ぶ声。

「ふむ、では、まずは僕とマイスで行こう」
「うん」

 そうだね、先に僕たちが登っちゃわないと、うん、その、女性陣みんな今服装がスカートだからね。
 というわけで、僕とオグ君で先に上に登ってから、女性陣には上から手を貸したりもしつつ、降りる時は逆に僕たちを最後にして、なんとかループを突破する。
 こんなアスレチックみたいな壁登り、僕の運動神経とステータスじゃ苦戦するかと思ったんだけど……思ったよりはずっとすんなりいけたね。もしかして、不整地踏破の加護ってここにも効いてた?

「ふぅ……な、なんとかなった……。リーフィー、本当にありがとう」
「あぁ、助かったぞ」
「うんうん、リーフィーがいなかったらどうなってたことか……」
「ホントね。ありがと、リーフィー♪」
「守護精霊様、ありがとうございます」
「どういたしまして。うふふっ、いい信仰ね。加護の与え甲斐があるのだわ♪」

 そう嬉しそうに信仰の光を溢れさせたリーフィーが、いつもの疲労回復の加護をくれる。いつもながら有り難いね。
 もう一度彼女に感謝を伝えて、僕たちは探索を再開した。

 それから少し進むと、不意にパラリと天井から石が落ちてきて、まさか崩落するかと一瞬身を強張らせる。だけど、幸い違ったようで。
 パラパラと石が落ちて、ついに天井にヒビが入ったかと思えば、そこを突き破って現れたのは、4つ並んだナイフのように鋭い爪だった。続けてそれが更にもう一組。一対になった爪が掻き分けるように天井を崩すと、顔を覗かせたのは……モグラ?

 天井に開いた穴からズルリと抜け出してきたのは、巨大なモグラだった。ただ……なんかモグラにしては身体が長くない?と思ったら……立ち上がった!? ……じゃない、よく見たら足が6つある!? 後ろの4つの足だけで立ち上がって、ケンタウロスみたいな体勢になったモグラが、長い爪がある前足を振り上げて構える。名前はリッパーモールか……。

「あぁ、モグラか〜。まぁ、いくよ〜」

 いつも通り、ミスティスの挑発で戦闘開始だね。

「とぉいっ」
「!!」

 正面から一足飛びに斬りかかったミスティスだったけど、斬撃は両手の爪をクロスさせたモグラにガッチリ受け止められる。
 モグラ型の短い腕でどうやって……と思ったら、どうも手首の可動域がかなり広いらしい。そんな前脚全体を使って、モグラは器用にミスティスと剣戟を繰り広げる。初手を受け止められたところから、手元を回した下の刃の逆袈裟は右手で止められて、即座に刃を逆回転させて上の刃の袈裟斬りに切り替えたところを払い除けるように左手で流される。その流れに逆らうことなく刃を上下入れ替えて下の刃で側頭部を狙った斬撃は挙手するような仕草で差し込まれた右手に止められて、空いた左手で引っ掻くような斬撃を狙ってくるのを、今度は逆にミスティスが刃を回して受け止めて、即座に右手の引っ掻きに繋いできたのを盾部分を翳して受ける。

「やるね……!」

 思いの外いい勝負……と言いたいところだけど、タゲはミスティスに完全に固定されているから、僕たちからの横槍は入れ放題だね。

 と、そこで予想外に前に出たのはソフォラさんだった。

「いきますっ!」

 自分の身長よりも巨大な和弓を手に、半ば壁を走るようにして、跳躍。モグラの横を駆け抜けて空中へと躍り出ると、天井近くまで跳んだその空中から、無防備なモグラの背中にバーストアローを撃ち下ろす。

「!?」
「隙ありぃ〜!」

 背後からの攻撃に仰け反ったモグラの隙を突いて、爪を跳ね上げたミスティスがダブルバッシュを叩き込む。そこへ間髪入れずに背後にソフォラさんが着地して、

「やぁっ! たっ!」

 弓の下端に付けられた槍のような穂先で、袈裟斬りから半ば斬り上げに近い形の突きへと繋いで、モグラの四足歩行部分の背面を大きく斬り裂く。

 えーっと……こういうの、弭槍(はずやり)って言うんだっけ……。これもだいぶマニアックな武器の一つだった気がする。

「チャンスだな」
「《ブレイズランス》!」

 この隙を見逃す手はないよね。オグ君からチャージングを入れたバーストアローと、僕のブレイズランスが飛んで、

「てぇいっ!」

 最後に、穂先を地面に突き刺して大弓を固定したソフォラさんが、大胆に弓束に足を掛けて、ハイキックのような姿勢で全身を使って弓を引くことで強引にチャージングを発動させると、スナイピングショットで――一閃。
 後頭部から脳天を貫通されて、モグラはフォトンへと爆散していったのだった。

 う、う〜ん……最後のアレ、その、モグラの後ろからこっちに向かってあんな撃ち方だったから、こっちからだとスカートの中がもろに見えるアングルで、思わずぎょっとしてしまったんだけど……いやまぁ、もしかしたら見えてることは前提でスパッツってことなのかもしれないけど……うん、深くは考えないことにしようか。

「おっけ〜ぃ」
「ふぅ、やりました、師匠ー!」

 嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねるソフォラさんと、ミスティスがハイタッチを交わす。

「うんうん、いいねぇ。その弓の使い方もだいぶ板についたね!」
「ありがとうございます! 師匠のおかげです!」

 ミスティスが頭をポンポンして褒めてあげれば、ソフォラさんはもっとして欲しそうにその手に頭をすりつける。
 それに応えてミスティスが頭を撫でてやっていると、

「ふむ、なるほど弟子と言うだけはあるな。戦い方もやはり君譲りということか、ミスティス?」

 とはオグ君の言。

「そーゆーこと。ふふん、我が自慢の弟子だからね♪」
「はいっ、自慢の師匠です!」

 ミスティスはいつものように勝手に納得したように頷いて、ソフォラさんは鼻息荒く目を完全にシイタケにして輝かせながら、二人とも息ぴったりに答える。本当に仲がいいね。

 ってことは、あの大きな和弓に不釣り合いな高速戦闘に、弭槍なんて珍しい装備、脚を使った独特すぎる弓の引き方……全部ミスティスの1stキャラの片鱗、ということなのかな。
 そういえば、そもそもの話……

「そういえば、この世界で和弓っていうのも珍しいですよね? というか、こんな形式の弓、元々この世界にはないんじゃ?」

 と疑問に思ったんだけど……

「はい、これも元々師匠からのお下がりなので!」
「お下がり?」
「うん、これは元は私が昔に使ってた弓だからね〜」
「あぁ、やっぱり?」
「ちなみに、作ったのはミィナだよ」
「あ、そうなんだ、なるほど」

 まぁ案の定、プレイヤー製だよね、この形の弓は。この洋風ファンタジー世界で和弓がそうそうあるはずないもんね。プレイヤーでなら、リアルでも経験者の人とかでこっちでも作って使ってるって人はいるみたいだけど。

「よっし、んじゃーガンガン次いくよーっ!」

 うん、ともあれ進もうか。


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