note.192 SIDE:G
ソフォラさんのシャープシューティングが決まって、大蛇の再生を司っていた緑色の宝石は無事に壊れて、大蛇がダウンする。
これは特大のチャンスだね! ここで可能な限りの攻撃を入れて、できるだけ宝石を減らしたいところ……!
どうせなら一手で複数の宝石を壊していきたいところだけど……うん、イメージ的にはいけるはず。宝石の一つ一つをターゲットのポイントと考えて……こう!
「《チェインライトニング》!」
振るった杖の先端から放たれた稲妻は、僕がイメージした通りに大蛇の体表の宝石をターゲットにして次々と連鎖していく。うん、狙い通り、これなら宝石が一気に壊せる!
オグ君とソフォラさんもバーストアローやブラスティックアローを連射して、ミスティスもトルネードダイブやらの移動技を駆使して壊せる範囲で宝石を壊していく。
すると……わ、急に身体が軽くなった?
もしやと思って確認すると、なるほど、ある程度の宝石を壊したおかげで術式が維持できなくなって、全ステータス低下のデバフが消えてくれたみたいだね。おかげで、デバフ効果の相殺に使われていたリーフィーの加護の全ステータス上昇がバフとして有効になったんだ。
加えて、
「《マグニフィカート》!」
ダウンの時点で詠唱に入っていたようで、ツキナさんがマグニフィカートを展開してくれる。
これで消費MPとクールタイムも軽減されて格段に楽になった。
とは言え、向こうもさすがにこのまま黙っていてはくれないね。
「シュァラアアァァァァッ!!」
「わっ!?」
大蛇が咆哮と共に残った宝石を光らせると……うわっ、全身から放電が!?
バリアを張るかのように奴の全身からドーム状に電撃が発されて、全員がその爆発の範囲外まで弾き飛ばされる。
ただまぁ、どちらかと言うと距離を取り直す方が主目的だったか、ダメージはそれほどでもなくて、紙装甲の僕でもルクス・ディビーナのバリアすら割れていない程度だね。
仕切り直しになったこの隙に、MPポーションをアイテムショートカットで使って、チェインライトニングの連発で使いすぎてしまったMPを回復しておこう。
だけど、結果的に両側面に回った状態で距離を離されて、僕とオグ君はちょっと位置取りが分断されてしまった状態だ。
そこを隙と取られたか、また全身の宝石が光って、正面のミスティスたちと僕とオグ君、それぞれに向けてまた大量の魔法陣が展開される。
またあのさっきの弾幕が来る!?……と思ったんだけど……うん、あれ?
やっぱり宝石をある程度壊したおかげか、最初と比べると目に見えて魔法陣の数が減ってるね。この程度ならリーフィーに防げないはずもない。逃げ場を塞ぐための狙いを付けていない散弾状の弾幕が仇になって逆に直撃弾は少ないから、オグ君の方も護りはセイクリッドクロス一つで十分そうだね。
それに、
「シュルルルルッ!」
弾幕は発動したものの、緑の宝石が壊れたおかげで魔力の混色も一気にバリエーションが減って、火と水と雷の3属性しかなくなっているから、弾幕の圧自体もだいぶ減っている。
弾幕そのものは余裕を持ってリーフィーに光の盾で護ってもらって……僕自身はその間に魔法陣を構築しておいてっと。
僕の意図を察してくれたか、弾幕が収まると同時にリーフィーが一旦姿を消して射線を開けてくれる。
なら、大技が終わったこの隙がチャンス!
「《チェインライトニング》!」
「――――!!」
再度のチェインライトニングでまとめて宝石をいくつか割ってやる。
大技の後隙に対するカウンター的な感じに入ったこともあって、ついでに軽くひるんでくれたね。
このチャンスをみんなが逃すはずもなく、
「ナイス! とっしゃあぁっ!」
「いいぞ、今だ!」
「隙ありです!」
トルネードダイブ、バーストアロー、ブラスティックアローとそれぞれ追撃が入って。
「えぇいっ!」
僕の後ろに陣取ったリーフィーも、根っこの召喚で追撃してくれる。
「――――!!」
宝石の砕ける音と共に、大蛇が声になっていない咆哮を上げる。
それと、視界の端でまたデバフのアイコンが一つ減ったのがわかった。見れば、どうやらDex低下が消えたらしい。
それはよかったんだけど……
「はわっ!?」
追撃を入れようとしていたミスティスが、珍しく攻撃をスカしてしまう。
どうしたんだろう?と思ったら……
「なんかDexだけ急に上がったの違和感がすんごいんだけど!」
あー……うん、なんかわかる……。僕も魔力の操作感覚が普段と微妙に狂ってて……う〜ん……この例えで合ってるかはわかんないけど、こう……粘土で形を作ろうとする時に、まだ大雑把な外形しかできてないのに突然先の細い方のヘラだけ渡されて、まずはもっと大きいところから作っていきたいのに無駄に細かく作業量を増やされてる感じというか……うん……。いやまぁ、最終的に詠唱速度は上がってるんだけど、魔力操作の感覚としてね、うん。
「ふむ、弓手としては特に問題ないんだがな」
まぁ、弓手ならDex上昇は単純に火力増強だからねぇ。
「あらら、じゃあミスティスの分は一旦調整してあげましょうか」
「あー、ごめんね〜、助かるよ〜」
指先を回したリーフィーが、ミスティスのDexバフを一度消したらしい。
「よ〜しとりまいけるっ!」
調子を戻したミスティスが再び飛びかかっていく。
「とっ、ほっ、ったぁ〜〜〜!」
頭上からの連続の咬み付きを軽やかに避けながら距離を詰めて、三撃目を盾部分で受け流しつつ、その流れを殺すことなく手元を回してカウンターで斬りつける。
ヘイト維持の意味も込めての宝石ではなく本体への攻撃だけど、再生能力もなくなってバフデバフの効果でも逆転しつつある今ならこれが意外と馬鹿にならないダメージの蓄積になってるんだよね。
もちろん、僕たちの宝石への攻撃も本体へのダメージにはなってるんだけど、本体へのHPダメージで見るとそれ以上にミスティスが火力を出していて、なんだかんだでそろそろボスのHPゲージも半分を割りそうな勢いだ。
そろそろHP半分……何かくるかな?と思ったら、
「シィアァァァァァッ!!」
案の定、何か大技がくるらしい。
螺旋状にとぐろを巻きながら頭を擡げた大蛇が咆哮する。
「ぅわっちと!?」
その体勢から正面のミスティスに向かって咬み付きにかかる。
それ自体は彼女は難なく避けられたんだけど、どうやら本命はそれではなかったようで、大蛇は咬み付きからそのまま地面を真っ直ぐに這って、後ろのツキナさんやステラすらスルーして最外周の壁際まで行くと、ぐるりと部屋の全周を一周して僕たちを完全に囲い込む。
奴の身体の全長がちょうど最外周を一周する分になってるみたいだね。なんだかウロボロスみたいになった状態だけど、
「何をする気だ?」
オグ君が警戒したのも束の間、
「これは……逃げ場を無くすつもりか!」
大蛇が円周をぐるぐると回りだして……いや、違う! これは、外側からだんだんとぐろを巻いてきてる!?
ステラは蛇の身体よりも高い位置に浮遊してる状態で詠唱してるから無事だけど、地上にいる僕たちは全員とぐろの内側に閉じ込められた形だ。
そのまま、大蛇がとぐろを巻いてじわじわと円を狭めてくる。
なんというか、僕たちを絞め殺そうとしてるにしては遠回しすぎるなぁと思っていたら……うわっ、僕たちの側に向いてる宝石が光りだした!?
「ちょちょちょっ!?」
「不味いな……一旦散開! 宝石同士の間に入るんだ!」
確かに、このまま中央にいるよりは蛇の身体ギリギリで宝石同士の間に入ってしまえば、少なくともビームの射線の方向を見える範囲に限定できるからまだ避ける余地もできそうだね。
これは指示通り宝石同士の間に入ろう。
みんなそれぞれに手近な宝石の合間に陣取ると、
「うわ、と……?」
案の定ビームが来た!?と思ったんだけど……なるほど、多分自分の身体に当てて自滅しないためだろうね。ビームは直接僕たちを狙ってきたわけじゃなくて、とぐろの中心点に集中させてビーム同士で相殺しているみたいだ。
つまり、今回の対処は正解だったみたいだね。
ただ、ビーム同士がぶつかる中心点はビームの相殺で連続して小さな爆発が起こり続けてるから、近寄れなくなっている。このままとぐろが狭まる程キツくなってくるってことか……。
とぐろに巻かれながら、ビームに追われるようにじりじりと移動する。
動ける場所が宝石と宝石の間の僅かなスペースしかないから、ただでさえ厳しい……。その上で、とぐろが狭まってくると、案の定安全地帯もどんどん狭くなってきて……ヤバい、と思ったんだけど……あれ? ビームが何本か消えた……?
……あー、そういうことか。どうやら、ビーム同士を上手く相殺させるためかな。とぐろが内側に巻かれてきた分、使える宝石の数が減ってきたら、正多角形になるような配置でしか撃てないらしい。おかげで、ビームの隙間に入るスペースは常に最低限残されている感じだね。
正多角形になるように細かくオンオフされるビームの配置にだけ気を付けながら、続けてとぐろと一緒に回転する。
と……今度は何!?
部屋の元々の広さの半分ぐらいまでとぐろが巻かれたところで、ビームの射線以外の全身の宝石も全て光りだす。
光が集まりきった直後、
「っ、わぁっ!?」
蛇本体が放電してきた!?
中心はビームが爆発し続けているし、広くスペースを取りたいから、できるだけとぐろの外周、蛇の身体に近寄りたかったんだけど……蛇本体が電撃の鎧を纏い始めたせいで、一気に避けるスペースがキツくなったんだけど!?
本体の放電と左右のビームとその相殺による中心の爆発とで、全周をダメージゾーンに囲まれた僅かな安全圏を慎重にとぐろに合わせて回る。
けど……そろそろこれ以上は中心の爆発に挟まれて詰められないよ!?
というところまで追い詰められて、どうしようと思ったところで、ようやくビームと放電が止まる。
危なかった……と思ったのも束の間、
「シャォアアァァアアァッ!!」
「来るぞ!」
首を一際大きく擡げた大蛇が、僕たちが結果的に集められることとなったとぐろの中心部目掛けて真上から大口を開いて咬み付きにくる。
でも、かなり大きく首を持ち上げた分、とぐろは解けてるから、回避のスペースは十分にあるね。
空いた外側に逃げ込んで咬み付きを逃れると、大蛇はそのまま中心地点を真下に掘り進んで地中へと潜っていく。
地面に突っ込んだ時に砕かれた瓦礫が多少飛んできたりはしたけど、ルクス・ディビーナのバリアで吸収しきれる程度だ。
ひとまず、大技は凌ぎきれたみたいだけど……今度は地中に逃げ込まれちゃったね。
さて、問題は次に奴がどこから攻めてくるか、かな。