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note.191 SIDE:G

 さて、ミスティスがタゲを引き受けて一人で戦ってくれてる間に、僕たちでジュエルイーターの身体のどこかにある、再生能力を付与している緑色の宝石を探し出して壊さなければいけない。
 実際、こうしている間にも既に幾度か斬り結んでいるけど、どれも即座に再生されてしまっていて、まともなダメージは与えられていないようだった。
 そのミスティスも、今は奴にかかっているバフに対抗するためにスキルによる超集中状態を自前の集中力で無理やり維持するフルコンセントレイト状態で戦っているはずだから、気力を使い果たしてしまうまでの制限時間もあるはずだ。彼女への負担の軽減のためにも、できるだけ早く緑色の宝石を見つけないとね。

 僕とオグ君で奴の左右に回り込んで、一番機動力のあるソフォラさんが背後に回ってくれる。
 複雑にとぐろを巻いて見え隠れする大蛇の体表の宝石を見逃さないよう、一つ一つ確認していく。
 緑色……緑色……これは青……これも青……これは赤だし……っ……緑の宝石は一体どこ!?

 奴の方も、タゲはちゃんとミスティスが引き付けてくれてるとは言え、散開した僕たちの意図には気が付いているみたいだね。頭は正面のミスティスを見据えたままながら、一瞬、奴の視線がこちらに向いた……ような気がした。そう感じられた途端、

「ッ!? なんだ!?」

 奴の全身の宝石に、魔力が充填されるかのようなエフェクトで光が収束する。そうして、1秒程で宝石が光で満たされた、次の瞬間――

「シャアァッ!」
「避けろっ!」

 というオグ君の警告と、果たしてどちらが早かったか。
 ――全身の宝石一つ一つからビームが!?

「うわぁっ!?」
「任せなさいな」

 咄嗟のことすぎて、その場で頭を引っ込めて蹲るぐらいしかできなかったんだけど、目を開けたらリーフィーがしっかり光の盾で護ってくれていた。

「あ、ありがとう、リーフィー。助かったよ」
「どういたしましてね。ま、これぐらいはできなくっちゃ、守護精霊の名折れよ」

 なんて、僕のお礼にも余裕の表情で答えてくれる彼女が本当に頼もしいね。

 見れば、赤の宝石からは着弾地点が赤熱する火属性の、青の宝石からは着弾地点が抉られる程の水圧の水属性のビームになっているらしい。
 直接僕を狙っているビームは1本だけなんだけど……そのせいで逆に、巻かれるとぐろに連動してランダムに動く周りのビームが邪魔で、避けられる場所がないよ!?
 ……と、僕は思ってしまったところだったけど、オグ君とソフォラさんは周りのビームもしっかり掻い潜りながらビームの照射から逃げきっていたから、僕のAgiが低すぎるだけだったみたいだね……。
 ついでに、逃げられるということは、こう見えて対象指定魔法というわけでもなかったみたいだ。
 ミスティスの方はと言えば、蛇本体から初手にも使っていた口からの雷魔法のビームを撃たれていて、さすがに回避よりもツキナさんのセイクリッドクロスに護ってもらうことを選択したみたいだった。
 当然、ステラに向けても攻撃は向かっていたけど、それもセイクリッドクロスがばっちり防いでくれている。

 ふぅ……ひとまず攻撃は止んだかな。
 だけど、肝心の緑の宝石は未だに見つかっていない。
 一体どこに……と焦りかけたところだったけど、どうやらソフォラさんが何か思いついたらしい。

「皆さん! 今から私が跳ぶので、同時にどこでもいいので宝石を壊してください!」
「オッケー!」
「わ、わかった!」
「了解だ!」
「私も手伝ってあげる」

 何をするつもりかわからないけど、何か策があるみたいだね。ここは言う通りにしてみよう。

 僕たちの応答を聞いて、何をするかと思えば、下端の弭槍を地面に突き立てて弓を固定すると、その弓を軸にぐるりと一回転、その勢いのままに弦に足をかけて、弦を足場にしゃがみ込むように力を溜めつつ、両腕を突っ張って背筋力で弓を引いて……自分を射出して跳んだー!?
 無茶苦茶にも程があるけど、おかげで部屋の天井スレスレまで飛び上がる程の特大ジャンプができている。
 すごい発想だけど……なんとなくわかった、これ教えたの多分ミスティスだよねぇ!? 明らかにこっちの世界の人がまともに辿り着くような発想じゃないよ!

 っとまぁ、宣言通り跳んだのなら、僕たちも彼女に応えよう。

「とっせぃっ!」
「《ブレイズランス》!」
「いくぞ!」
「喰らいなさいな!」

 ピアシングスラスト、ブレイズランス、バーストアローと、リーフィーは根っこを槍のように召喚して、それぞれの攻撃が宝石を砕く。
 とは言っても、当然のようにその傷はまたすぐ再生されてしまうんだけど……

「見つけた! そこです!」

 そうか、僕にも今一瞬見えた!
 再生の術式が発動したと同時に、とぐろの内側、その隙間から緑色の光を放っていたのは……なるほど、とぐろの中に隠された尻尾の先端……! 外に見えてる体表をいくら探しても見つからないわけだよ。
 一斉攻撃で複数の宝石を同時に壊した分、再生にも多少の時間がかかっているみたいだから、あのとぐろの中では今もまださっき見えた宝石が光っているはず。

 上空のソフォラさんが一際長い矢を取り出すと、弓束に足をかけて、最初に見た時と同じライダーキックのような姿勢で無理やりチャージングを発動させて足先で矢を番えて、全身を使って両手で弓を引く。そのまま限界まで弓を引き絞ると、チャージングの分だけじゃない、鏃に光が集中しながら、弓矢全体から後ろに流れていくような魔力の光があふれ出て……これは――

「外しませんっ!」

 ――ハンタースキル最強の貫通強攻撃スキル、シャープシューティング……!

 「ドパァン!!」という音速を突破した証である破裂音と共に、視覚化される程のソニックブームの音響波が鏃から円錐形に広がって、後方……天井の宝石の結晶のいくつかを粉々に砕き散らす。
 僕の目ではもはやレーザービームとしか思えないような音と魔力の閃光を残した一撃は、大蛇のとぐろの中心部を一直線に貫いて。
 同時に「パリン」と何かが割れた音が、僕の耳にもはっきりと届いた。
 直後、

「ギシャアアアアアァァァァァァッ!!」

 大蛇が苦悶と共にのたうち回る。
 とぐろが崩れたことで露わになった尻尾の先端には、予想通り粉々になった緑色の結晶の破片が僅かに残っていた。
 そしてこれも予想通り、緑の宝石が壊されたことで再生能力も失われたようで、シャープシューティングの射線上でまとめて貫かれた身体の数ヵ所に開いた大穴も、今度は再生する様子もない。
 ついでに、再生しきれなかったいくつかの宝石も明らかにヒビが入ったまま輝きを失っているから、その効果も失われたようだ。

 シャープシューティング……ハンターのスキルでは最大の攻撃倍率と、確定でクリティカルになることから、クリティカル倍率まで乗算された事実上防御無視の確定ダメージとなること、加えて今し方見た通り、音速を超えた矢から発生するソニックブームによる追加の範囲攻撃もあり、地形以外は全て無視して必ず最大射程まで届く必中の貫通性能まで備えた、ハンタースキル最強と言われる直線範囲指定型の強攻撃スキルだね。
 ただし、攻撃判定の本体はあくまでも矢の一本でしかない上に、システムアシストも最終着弾地点を示すドット一点のみで、あくまでも対象指定ではなく範囲指定型スキルなのでロックオンのアシストも利かず、エイムは完全に自力でやらなければならない。ついでに言うまでもなく、ハンターのスキルツリーの中でも一番深い位置にあるから、覚えるだけでも一苦労だ。
 ゲームとしてのシステムアシストがあるプレイヤーの間ですら「スペック上は最強だけど威力相応に扱いが難しい」と言われるこのスキルで、アシストなんて概念も存在しないだろう内界人(シスフェアン)のソフォラさんが、そもそもまともな弓の使い方じゃないあんな無茶な体勢から、足場もなく自身も動きっぱなしの空中からあんなに正確に狙った一点を撃ち抜くなんて……!
 さすが、ミスティスが免許皆伝と言う弓の腕は伊達ではないということなんだろうか……。

 矢を放ったことで手放す形になった弓を、足先で引っ掛けての後方宙返りで蹴り上げて器用にキャッチしつつ、ソフォラさんが軽やかに着地を決める。
 それとほぼ同時に、その背後で大蛇が頽れるようにダウンした。

 これは特大のチャンスだね! ここで可能な限りの攻撃を入れて、できるだけ宝石を減らしたいところ……!
 まずはリーフィーの助言通り、青の宝石を優先してデバフを剥がそう。


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