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note.205 SIDE:G

 戦列を入れ替えて、僕たちの戦う番が始まる。
 とは言うものの、敵の構成はまだ変化はないから、しばらくは安定して無双状態だね。
 まぁまずは、一応前回のエニルムで一度共闘しているとは言え、まだ二度目ではあるし、お互い上位職にもなっていろいろ勝手が変わっているところもあるだろうエイフェルさんたちパーティーとの連携の確認を兼ねた小手調べって感じかな。
 とは言え……

「とぉ〜〜〜や〜〜〜♪」

 相手が相手だけに、ほとんどミスティスの独擅場になっちゃってるんだけどね。

「ほい、ほい、やぁー〜〜〜、ほいっ、とやぁ〜っ!」

 カヌーのオールを漕ぐみたいにして、右、左と横一線にすり抜けざまに斬り捨てつつ群れの真っ只中に飛び込むと、地面に突き刺した両剣を軸にぐるんと全身を使って遠心力を乗せた蹴りで全周を薙ぎ払い、その後ろから飛び込んできた後続を両剣を引き抜くついでに手元を回してダブルバッシュに近い二連斬り上げでカウンターして、そこからトルネードダイブに繋いで更に前線を前へと押し込んでいく。
 なんかもう、本当に一人だけやってることが無双ゲーなんだよね完全に……。

「んっと、これだと……アタシがメイン盾引き受けるのがよさそうだね。タゲは全部もらうよ! 後ろは任せてミスティスはそのまま無双しちゃってー!」
「ほいきた、まっかせて〜!」

 モレナさんの宣言に、ミスティスもノリノリで返す。
 続けて、モレナさんが挑発を打ち鳴らすと、更に加えて、

「――……、わあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」

 気合を入れるように、天へと向けて咆哮と呼んでもいいぐらいだろう雄叫びを上げる。
 これは、ソーディアン系上位職のブレーダーとウォーリアー、ガーディアンに共通して存在する挑発の上位スキル、ウォークライだね。
 魔力を乗せた雄叫びで、挑発同様に範囲内の敵に音と魔力の共鳴によるヘイト稼ぎと自分へのタゲ固定効果を付与する。
 上位スキルなだけあって単体でも挑発よりヘイト効果が高い上に、挑発との併用も可能だからタゲ固定を更に強固にもできる。加えて自分を鼓舞する効果として、発動後はタゲが自分に向いている敵が存在する間、あらゆる行動が周囲の敵に与えるヘイト効果が大幅に上昇して全ステータスが5%上昇するバフもかかる。
 とまぁ、効果だけ見れば挑発の上位互換ではあるんだけど……VRゲーム故の唯一最大の欠点は、いくら自己バフ目当てでも、戦闘の度に毎回叫ぶのは疲れるから常用はしてらんないってことだよね。なので、基本的にはヘイト管理をしっかりしてれば事実上自己バフを永続できる、ボス戦だとか今みたいなスタンピードレベルの超対多数戦なんかのここぞって時に使うスキルと認識されている。
 これだけの敵が絶え間なく押し寄せ続けてくる今の状況なら、それこそヘイト管理にだけ気を付けて常にタゲをもらってる状態を維持できれば、自己バフも永続できるんじゃないかな。

 モレナさんの咆哮を受けて、挑発がかかった範囲の敵の流れが明らかに変わる。

「うりゃあーーーっ!」

 モレナさん自身もマグナムブレイクで飛び込んでいって、完全にその流れを自分のものにしていく。
 前回の時にミスティスから教えてもらったオリジナルスキルのコツをもう掴んだということなのかな。僕たちと大差ないだろう、ブレーダーになってからまだ間もないはずなのに、もうメテオカッターとイグニッションブレイクの合わせ技、マグナムブレイクを使えるんだね。

「さぁさぁみんな! アタシが相手だよ! 《エンデュランス》ッ!」

 ともあれ、基本はオーソドックスに剣と盾を使いながらも、あれから更にブレーダーとしては重装気味になった鎧に任せた多少の被弾も辞さない攻撃的なスタイルは相変わらずみたいだね。

「行きますっ!」
「《ルクス・ディビーナ》 《エアロブーメラン》!」

 エイフェルさんと謡さんも、上位職になってできることが増えた以外の大まかな戦闘スタイルは変わってなさそうだ。
 吶喊するモレナさんをエイフェルさんが弓で援護、そんな二人を謡さんがプリーストスキルで守りつつも、余裕がある時や二人だけでは手が足りない瞬間のカバーとしてマジシャンに切り替えての魔法攻撃も差し込んでいく。
 目に見えて変わったところと言えば、タゲを全部引き受けつつも被ダメ覚悟で敵陣に飛び込むモレナさんを援護する前提で、二人とも常にモレナさんを中心として彼女の死角を潰すような十字砲火を組める立ち位置を維持する機動的な立ち回りが確立されているところかな。
 ブリーフィングでモレナさんが自慢してた通り、三人の連携も前回と比べてかなり完成してきているのが僕の目で見てもわかる。

 ただ、先にプリーストを取得したと言っていた謡さんだけど、まだマジシャンの方は上位職になれていないし、ジョブエクステンドの解禁もまだだから、こうまで忙しい戦闘が続くとどうしても職の切り替えでちょっとまだ隙が生まれるところがある感じで、一つの役割に専念できる二人と比べると負担が大きそうだね。
 これなら――

「《ヒール》っ、――あっ!」
「《ブレイズランス》!」

 モレナさんへのヒールを飛ばした一瞬の隙に、ちょうどそのモレナさんの背後をすり抜けるような形でライダーの一騎が飛び込んできてしまったのをブレイズランスで援護する。

「あ、ありがとうございますマイスさん!」
「いいよ。謡さんはプリーストに専念してあげて。攻撃は僕が後ろにつくよ」
「はいっ、それでお願いします!」

 頷いた謡さんが改めて杖を構え直す。

 ――僕は三人の連携を邪魔しないように、謡さんの後ろについていく形で彼女の代わりに攻撃魔法役を担ってあげるのが一番よさそうかな。

 ウォークライのヘイト値バフ効果で周囲の敵が全てモレナさんに惹きつけられていく流れの中、そこに立ち塞がるかのように最前線でミスティスが大暴れして、撃ち漏らしや彼女に接敵しない方向からの敵のタゲは全部モレナさんが引き受けてくれているから、後ろの僕とエイフェルさんで火力支援、普段なら兼任の攻撃魔法役を僕が引き受けているから謡さんはプリーストとして支援役に集中できる、という全体の陣形がなんとなく出来上がってきた感じだね。
 相手は当面ウルフとゴブリン、たまにくるメイルピッカーも予めわかってさえいれば、この布陣を崩せる要素は何もない。
 それに、僕にはまだ手が余っている。

「ステラ、リーフィー、二人とも自由にやっちゃっていいよ!」
『ん。任せて欲しい』
「その言葉を待っていたのだわ。うふふっ、それじゃ、遠慮なくいくわよ!」

 僕の指示で、ステラとリーフィーも遊撃として戦線へと加わった。
 ステラはさっきまでで記録したスキルも含めて、中級までの魔法を次々使い始める。まぁ、さすがに他のパーティーも含めてかなり人も密集してるこの状況で巻き込みの危険がある上級魔法までは使ってないけど、それでも殲滅速度はミスティスに負けず劣らずだ。
 リーフィーも根っこの召喚や魔力爆発をフルに使って、本当に宣言通り遠慮なく敵を蹴散らしていく。
 二人とも一見無秩序に戦線を拡大しているように見えて、その実しっかり僕たちや前線のミスティスの背後なんかをカバーしてくれていたりして、すごく頼もしいね。

「おーおー、どこのパーティーか知らねえが、派手にやるじゃねえか」
「ハッ、負けてらんねー! 気合入れんぞ、ッシャア!」

 僕たちのパーティーが結果的に少し突出気味になったことで、周りのパーティーも対抗心が出てきたみたいだね。戦力的にもまだまだ余裕のある空気感も手伝って、みんな今までにも増して押せ押せの勢いで前線を押し上げていく。

 そんなこんなしている内に、特段何か異変が起こるようなこともなく、気付けばあっという間に1時間はすぎて。

「規定時間の経過を確認。戦列の交代を始めます。バックアップ班は前へ! 戦闘班は戦線の引継ぎができたところから順次撤退してください。休息班はバックアップ列への待機をお願いします」

「やぁやぁ、お疲れ様。ここからは僕らの出番だ」
「あ、はい、お願いします!」
「るおぉぉーーーーーーーーあっ!! 任せろぃ!」

 ジャスミンさんのアナウンスに続いて、後ろの班のリーダーらしき人が呼びかけてくれた声にちょうど一番後ろにいた僕が答えると、タンク役の人がウォークライの雄叫びと共に自分の身長ぐらいはありそうな大剣を振り回して敵の波を蹴散らしながらモレナさんの前まで斬り込んでいく。見るからに典型的なウォーリアーって感じの人だね。
 モレナさんにもまだヘイト値バフがあるとは言え、さすがに同じウォークライなら発動の瞬間の雄叫びのヘイト効果が一番高いから、これで敵のタゲはあのタンク役さんに移ったはず。事実、ひたすらモレナさんに向かっていた敵の流れの中心が明らかに変わっている。

「あっと、もう交代かぁ。ミスティスーっ!」
「ほいほ〜い、オッケー!」

 少し離れた前方でまだ戦っていたミスティスをモレナさんが呼んであげる。
 それに答えたミスティスは、下から掬い上げる方向に高速回転させた武器で微弱な吸い寄せ効果を発揮しつつ、旋風と共に敵を大きく打ち上げる長柄武器用ウォーリアースキル、ウィンドミルで相手していた奴らをまとめてかち上げて一瞬のスペースを作ると、その隙を逃さず僕たちの元へと戻ってくる。

「よ〜し、撤収! 次の人頑張ってね〜♪」
「後はよろしくお願いします!」

 そうして、戻ってきたミスティスと律儀にリーダーの人にお辞儀したエイフェルさんに続いて、僕たちは滞りなく休息エリアへと撤退できたのだった。

 これで、僕たちにとっての最初の1時間……バックアップも含めたら2時間が終わりかぁ。
 相手がウルフとゴブリンだったのもあって、総じてまずは小手調べって感じだったね。おかげでまぁ、前回のレクチャーの時に少しだけ共闘したとは言え、こうして本格的にパーティーを組むのは初めての5人での、基本的な立ち回りと連携の確認にはちょうどよかったんじゃないかな。
 今の僕たちのLvからするとすっかり低Lv扱いのウルフとゴブリン相手と言っても、さすがに1時間も絶え間なく戦い続けていると数の暴力というやつで、Lvも一気に6つ上がって158だ。けど、これはまだまだ序の口。何しろ、これはまだ前座の前座、そもそも今回のスタンピードの本隊であるはずのティッサ森の魔物たちは足の速いメイルピッカー以外は姿を見せてすらいないんだからね。そう考えると……この先僕たちの出番があと何巡回ってくるかはわからないけど、終わる頃にはものすごいLvになっているんじゃ……?
 ミスティスもパワーレベリングって言ってたけど、これは最終的にどこまで一気にLvを上げられるかも期待できそうで、楽しみになってきたね。


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