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note.204 SIDE:G

 順調だった戦線に異変が起きたのは、単調な繰り返しを見ているだけが続く待機時間に、内心あんまりよくないなぁとわかってはいつつも暇さ加減に耐え切れずに気が抜けてしまっていた矢先のことだった。

「ぐぁっ!」
「ギャッ!?」
「な、なんだ!?」

 戦場の数ヵ所で何やら悲鳴が上がり始める。

「え、な、何何?」
「ど、どうしたんでしょう……?」

 突然のことに、モレナさんと謡さんも困惑を見せる。

 本当にどうしたんだろう? ルーチンも安定して、今更何か崩れるような要素もないと思うんだけど……?
 と思っていたら、

「ぎゃあっ!」
「だ、大丈夫か!?」
「おいバカ前!」
「しまっ……うわあぁぁっ!?」

 ついにパーティーの一つが何かに傷を負わされて、その隙を突かれてゴブリンライダーの群れに飲み込まれてしまう。

「F1班、前へ!」
「ようやく出番ね!」
「っしゃあ!」
「いや、はしゃいでる場合か! 抑えるぞ!」

 即座にジャスミンさんから指示が出て、バックアップ班からパーティーが1つ前に出ていく。
 それを皮切りに、戦場のあちこちから似たような悲鳴が聞こえてくるようになり、更にいくつかのパーティーが同じように崩壊して交代となって、僕たちバックアップ班も含めた戦場全体に混乱が広がり緊迫感が戻ってくる。
 これは……一体何が起きてるの……?

「っぐ……!?」
「O1班、交代です!」
「クソッ! わかったぞ、メイルピッカーだ! 奴らの中にたまにメイルピッカーが混じってやがるんだ!」

 なるほど、ずっとウルフとゴブリンばっかりで完全に油断しちゃってたけど、このスタンピードの本隊はティッサ森の魔物たちだ。中でも特に空を飛べて且つ速度も速いキツツキ型の魔物、メイルピッカーがそろそろライダーたちに追いついてきて混ざり始めているんだ。

「――!?」
「ぐはっ……!」
「M1班、交代を!」

 メイルピッカーの一匹が、射線上のゴブリンもお構いなしに貫通して倒してしまいながら突撃してきて、突然目の前のゴブリンを突き破ってくる形で不意打ちを食らったパーティーがまた一つ崩れる。

「畜生! あのクソ鳥、魔物同士でも射線上ならお構いなしかよ!」
「このゴブリン共も抑えながら、この数の群れの中からあの速さの小鳥を警戒しろですって!? 無茶言わないでよ!」

 普段なら、メイルピッカーなんてティッサ森の魔物の中では弱い部類のなんてことない相手だけど……この状況にいつ来るかもわからないまま不意打ちで混じってくるとなると、それだけでかなりきつそうだ。それこそ今みたいに、死角からゴブリン諸共貫いて来られたんじゃ対処のしようがないもんね。
 とは言うものの、タネさえ割れればやりようはあるというもので。

「《セイクリッドクロス》!」
「これは……! 助かる!」
「そんじゃお礼に……《ルミナスシールド》! これでとりあえず刺されても耐えられるでしょ」
「サンキュ!」

 要は不意打ちの吶喊攻撃の物理ダメージさえ防げればいいわけだからね。セイクリッドクロスやルクス・ディビーナ、ルミナスシールドなんかの対物理ダメージスキルを、近くのパーティー同士でプリーストやフォースのいないパーティーにも融通し合ったりして、戦列全体で緩い協力関係が自然に作られていっているようだ。

 幸いにして、今のところはやられたのはプレイヤーが大半で、シスフェアンパーティーの人も大事には至らず無事に後送できているみたいなので、死者はまだ出ていないらしい。
 なんなら、ストリームスフィアですぐ帰ってこれるプレイヤー組はもう復活して戦線に戻ってるパーティーもあるみたいだね。

「スマン、戻ったぜぃ!」
「M1班、戦線復帰しました。バックアップ班はスイッチ完了次第一旦待機に戻って休んでもらって構いません」
「了解っ。じゃ、僕らは一旦下がるよ! 任せた!」
「オウ!」

 本来の戦闘班が戻ったパーティーには、ジャスミンさんから待機に戻る指示が出ているらしい。
 まぁ、僕たちバックアップ班も時間が来たら本格的に戦闘班として前線を張らなきゃいけないわけだからねぇ。本来の戦闘班が復帰できるんだったら、可能な限り体力は温存しておきたいところだよね。

 そんなこんなで、程なく崩れかけた戦線も再び持ち直したみたいで一安心だね。
 時折混ざるメイルピッカーも、慣れてしまえば所詮はティッサ森のMobの中では弱い方だ。

 それからは何が起こることもなく、安定したまま時間は過ぎ、ついにバックアップ班との交代の時間が訪れる。

「予定時刻が経過しました。これより1分間で戦列を交代します。戦闘班、バックアップ班は準備してください。休息班もバックアップ待機位置へ移動をお願いします」

 ジャスミンさんの指令で、全体が慌ただしく動き始める。

「あっ、出番ですねっ! 今のうちに支援スキル回しますよ!」
「はい! お願いします!」
「サンキュー、謡!」
「ありっと〜♪」
「ありがとう、助かるよ」

 本格的に動き出す前に、謡さんがプリーストの支援スキルを一通りかけてくれる。

「私の加護も先にかけておいてあげるわね」
「ありがとう、リーフィー」
「おぉ〜、いーね! ありっと〜♪」
「うっわ、何このバフ、ヤバ! あ、ありがとう、リーフィーちゃん!」
「わぁ……す、すごいです! ありがとうございます!」
「こ、これが守護精霊さんの力……! ありがとうございますっ!」
「うふふっ、お安い御用なのだわ」

 リーフィーからも、ジュエルイーター戦の時と同じ全ステータス上昇と個別ステータス上昇全種の二重バフをもらって、これで準備は万端だね。

 休息班ですぐに動き始めたパーティーが早くも僕たちバックアップ班の戦列にワープアウトしてき始める中、

「それでは、バックアップ班は全隊前へ! 戦闘班へ加わり、戦線を維持してください!」

 さぁ、僕たちの出番だね。

「よ〜っし、いっくよ〜〜〜っ! 《コンセントレーション》!」

 待ってましたとばかりにコンセントレーションまでかけてステータスを引き上げたミスティスが前線へと駆けていく。

「とっせえぇ〜〜〜いっ!!」

 僕たちの目の前で戦っている戦闘班をメテオカッターで一足飛びに飛び越えて、その更に先の敵集団の真っ只中にイグニッションブレイクを叩きつけるマグナムブレイクで景気づけとばかりに最前線に躍り出る。
 景気よく吹っ飛ばしすぎて、戦闘班のタンク役の人も一瞬ビクついちゃってたけど、

「ぬをっ!?」
「交代です! 援護しますよ!」
「お、あ、あぁ、すまない! 助かった!」

 すかさず横からモレナさんが常識的に援護に入ってくれる。

「はぁっ!!」
「《フレアボム》!」

 追い打ちにエイフェルさんのスプレッドアローと謡さんのフレアボムがミスティスの撃ち漏らしを一掃すれば、その後ろで戦っていた戦闘班の周囲が一時的に殲滅されて、撤退の余裕が生まれてくる。
 それなら僕は――

「《ファイヤーウォール》!」

 ――前線で敵を全部引き受けてくれているミスティスを一旦隔離するような形でファイヤーウォールを発動して、戦闘班の撤退まで後続の敵を堰き止める!

「今だ! 俺たちは退くぞ!」
「おっけ!」
「はいさー!」
「よしっ! んじゃ、交代組頑張ってね〜」

 戦闘班もこの隙を察してくれて、一気に離脱してくれる。
 彼らと立ち位置を入れ替えるように僕たちも配置についたところでファイヤーウォールを解除して、改めてミスティスに援護が届けられるようにする。

 周りの他のパーティーも、割と問題なくちゃんと交代できているみたいだね。
 僕のようにファイヤーウォールやアイスウォール、ガイアウォールなんかのウォール系の足止め魔法だとか、地面に突き刺した盾を媒介に魔力で一時的な「城壁」を作り出す、ソーディアン系上位職のガーディアンの大技、キャッスルウォールなんかがあちこちで展開されていく。

 ここまでできてれば、戦列の交代は無事にできたと見ていいかな。
 吶喊したミスティスは早速無双し始めてるし、ここから1時間、僕も頑張ろう。


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