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note.206 SIDE:G

 対スタンピード迎撃戦の戦線ローテーション、その最初の1巡目の出番が終わって、無事に休息エリアに戻ってこれた。
 見回せば、同様に僕たちと同じローテーション班だった人たちが、各々のパーティーごとに売店区画に物資の補充に行ったり休憩用に敷いてある茣蓙の一角に自分たちのスペースを確保したりと、思い思いに身体を休めていた。
 さすがにまだベッドが必要な程の重傷者まではいなさそうだったけど、忘れた頃に来るメイルピッカーの不意打ちなんかで少なからず被害は出ていたようで、クレリック系職のいない少人数パーティーや逆に大人数すぎて支援の手が足りなかったようなパーティーを中心に、傷を抑えながら救護所に向かう人たちも幾ばくかいるようだった。

「んん〜っ! とりま終わったー♪」
「ふぅ……ようやく一息つけますね」

 大きく伸びをするミスティスに、胸をなでおろすエイフェルさん。

「どするー? 一旦補充する?」
「う〜ん、補充と言っても、相手が相手だけに言うほど物資も使ってませんし……あれ?」

 モレナさんに答えてそこまで言いかけた謡さんが何かに気付く。
 ……というか、これには僕も気が付いた。

「この匂いは……」
「なんか美味しそうな匂いがするー♪」

 分かりやすく鼻をすんすん言わせながら釣られていくミスティスに続いて、僕たちも匂いの元を視線で探すと、救護所のすぐ隣にそれは見つかった。

「さぁみんな! お昼ご飯に美味しいスープはどうだい? 精がつくよう、肉も野菜もたっぷり入れたよ!」
「まだちょっと早いかもだけど、君たちが次にここに戻ってこれるのは3時間後だからね〜。今食べておかないと後でお腹空くぞ〜?」
「ちょうど今出来立てだよ! お代は取らないから、遠慮なく並びな!」

 どうやら今ちょうど出来上がったらしいスープの炊き出しを作っていたのは、普段はアミリアの宿や料理屋で働く料理人の人たちだった。中には僕が定宿にしている宿屋の女将さんもいて、救護所での治療を終えて出てきた人たちに一足先にスープを振る舞ってあげているのが見える。

 そっか、この戦いが始まったのが9時を回ったかどうかぐらいだったから、そこからもう2時間が経って時間的には11時になってるんだね。で、次のローテーションが始まったら僕たちがここに戻ってこれるのは14時過ぎになっちゃうわけだ。
 それは確かに、今食べておかないとバックアップの待機中とかにお腹空いてきたりしたらいろいろ辛そうだね……。
 それに何より、

「わぁ♪ 早く食べよ〜!」
「アタシも匂い嗅いだらお腹空いてきちゃった」

 ミスティスを筆頭に、みんな既に完全に匂いに釣られて自然と足が動いてるもんね。ここは素直に、今のうちにしっかり食べて1時間後に備えようか。

 そんなわけで、みんなでスープの配給をもらって、休憩スペースの空いている一角に適当に陣取る。

「はふ……んん〜! おいし〜♪」
「あったまりますねぇ〜……」
「お肉も野菜もゴロゴロで食べ応えサイコー!」
「スープも味が染みてて美味しいです」

 と、みんなそれぞれに感想を言い合う。
 実際、味付け自体は塩だけのシンプルなスープながら、大切りに入れられた肉や野菜の旨味もしっかり溶け込んでいて、2時間気を張っていた後ということもあって、ものすごく安心できる味に仕上がっている。これは、料理人の皆さんに感謝だね。

 それはそれとして、そう言えば……うん、件のミィナさんから借りた複合杖ね……。
 1時間実際に使ってみての感想だけど……とりあえずの基本素材で作った試作品ってことだったけど、これあれだよね、最初の一発でわかったけど間違いなく霊綺水晶と樫材の組み合わせだよね……うん、この、癖がなさすぎて魔力を流してるのに無を取得してる気分になる虚無感……。
 いや、まぁ、うん、そこはもうこの際置いとこう、うん……。
 そこは一旦置いとくとして……改めて、魔力の流量や操作感は今までのエニルムスタッフと比べちゃうともう本当に段違いだね。今までが泥だんごを雪玉式に大きくしていきながら成形、ぐらいだったとしたら、バスケットボール大ぐらいのスライムを一塊で一気に、より自由に扱えるようになった、ぐらいの、文字通りの桁違いだ。
 肝心の試作要素のナックルガード部分に関しては……まぁ、立ち位置的に最後方の僕がこれを本来の目的であるナックルガードとして使わなきゃいけないような状況にはあまりなって欲しくないところではあるよね、うん……。
 ただ、実際に魔力を流してみてわかったけど、このナックルガード、本来の意図とはちょっと違う目的に使えそうだ。
 というのも、実質的に杖の本体部分……ミィナさんが言ってた複合杖のパーツ分けで言うならボディ部分が2本あるようなものだから、魔力の流れる経路――つまりは魔力回路を明確にできるんだよね。手元からヘッドに流れて、魔法を展開する時にはヘッド部分で増幅、変換して出力。で、今までの普通の杖だとボディ部分が一本道なのもあって魔力の行きと帰りが曖昧で、そもそもここから手元に戻ってくる全体の魔力の経路まであんまり意識したことがなかった。だけど、この杖だとボディのルートが二通りあるから、手元から始まって、ヘッドでの増幅を経て折り返し、ナックルガード部分を通ってボトムまで流れてからもう一度折り返し、明確に杖の全体に余すところなく行き渡るように流れた上で手元に帰ってくる、杖それ自体が一つの完成された魔力回路になっていることが明確に把握できる。
 まるで杖全体が自分の身体の延長になったかのような一体感……。それに、こうして魔力回路が明確なら、昨日聞いたジュエルカスタマイズの効果の固定とかにも役に立つんじゃないかな。
 うん、これはナックルガード云々というよりも、こっちの方面の有用性の方が断然重要だね。あとでミィナさんにも伝えておこう。

 なんてことを思い返したりもしつつ、スープを味わっていると、エイフェルさんが急に改まった様子を見せる。

「あのっ、ミスティスさん」
「ん〜?」
「あのですね、つかぬ事をお聞きするのですが……」

 一旦言葉を切って、少し自信なさげに視線を彷徨わせたエイフェルさんだったけど、意を決したのか、先を続けた。

「ミスティスさんの1stキャラってもしかして……あの『白き閃光』のチカさんだったりしませんかっ!?」

 えっ?
 僕も含め、当人たち以外の三人がきょとんとした表情になったのも束の間、

「そだよー? おぉ〜、よくわかったねぇ」

 別段何でもないという風に、ミスティスは言い切った。

「「「「ええぇぇぇーーーっ!?」」」」

 突然の四人の叫びに、周囲が何事かと注目してくるのを、一旦愛想笑いで受け流して……改めて話に戻る。

 「白き閃光」――そう呼ばれるトッププレイヤーがいる、という情報自体はまぁ、HXTの情報を調べたりする中でもゲーム内でも自然と耳に入っていた。
 現在公開されているプレイヤーLvのランキングでは9位、ただ、それを補って余りある本人の突飛な発想力とそれを実現する圧倒的プレイヤースキルによって、実際の戦闘力はLvトップの天地さんと並ぶか、見方次第ではそれ以上とすら噂される、文句なしのトッププレイヤーの一角。
 最強プレイヤー議論でも常に名前が挙がる筆頭で、天地さんの「漆黒の星」との対比として「白き閃光」、もしくは、その特徴的すぎる戦闘スタイルから「アルバトロス」の二つ名で呼ばれている。
 ……そう呼ばれるプレイヤーがいる、という事は話には聞いていたけど、トップ層の廃人プレイヤーの世界とか僕には縁遠い話すぎて興味がなかったせいで、その具体的なキャラ名までは把握していなかった。
 でもまさかミスティスの1stキャラ、チカがその「白き閃光」!? あぁ……いや、確かに、「ぶっ飛んだ発想力とそれを実行できてしまう圧倒的プレイヤースキル」という評価と、ミスティスのこれまでの戦闘スタイルを思い返してみれば、然もありなん、としか思えない部分は心当たりがありすぎる……。

「わぁ……! あのっ、私、あなたのこのPVを見てこのゲームを始めたんですっ!」

 そう目をキラキラさせてエイフェルさんが表示したウィンドウに映し出されたのは……これは確か、僕もこのゲームを始める直前だったか直後ぐらいに出た、去年の夏イベのダイジェスト映像を使った予告PVだったね。

「おー、これかぁ。去年の夏イベのやつね〜。なつかし〜」

 一目見て何か思い出すものがあったか、ミスティスはいつもの調子で勝手に納得したようにうんうんと頷く。
 えーっと、僕も見た覚えはあったけど、どんな内容だったっけ。まぁ、せっかくだし見返してみようか。


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