note.215 SIDE:G
二巡目の戦いが終わって。ボス戦になったせいで、バックアップの途中からほぼ1時間半ぐらい戦いっぱなしになっちゃったけど、どうにか乗り切って休息エリアに戻ってくることができた。
「くぅ〜……んん……っはー、つっかれた〜〜〜!」
「ホントにね」
こればっかりは心底疲れ切った様子で大きく伸びをするミスティスに同意しかない。
「はい……本当に疲れました……」
「わ、私もです……」
「バックアップからずーっとボス戦はさすがにエグいって……。おかげでLvもエグい上がったからまだいいけど」
エイフェルさんたちも完全にグロッキーだねぇ。
「さ〜すがにちょっと……先に一旦キューケーしようキューケー」
というミスティスの提案に乗って、とりあえず前回の休憩でも陣取っていた辺りの一角に今回も場所を確保して、全員で腰を落ち着ける。
「はにゃぁ〜……もームリぃ……」
ゆっくり休める場所も確保できて完全に緊張の糸が切れたか、目を回して大の字に倒れてしまうミスティス。あー……頭上にひよこが回ってるのが見える見える……。
まぁ、明らかに途中何度かフルコンセントレイトも使ってたもんねぇ、無理もない。
僕たちも足を投げ出したり寝転んだりと思い思いに楽な姿勢になって、ひとまず休むことにする。
「あらら、みんなお疲れね。癒しの加護をあげましょうか」
「ありがとう、リーフィー」
「わぁお、ホントにこれ癒される〜」
「はぁ……身体が楽になりました。ありがとうございます」
「精霊さんってこんなことまでできるんですね……リーフィーさん、ありがとうございますっ」
「どういたしましてね」
リーフィーがいつもの疲労回復の加護をかけてくれる。気絶中のミスティスも寝息が安らかになったのがわかるね。
「は〜……なんか落ち着いてきたら小腹が空いてきたかも……炊き出しまたもらってきちゃおっかな〜」
「あ、私も欲しいです」
炊き出しのスープをもらいにモレナさんとエイフェルさんが立ち上がる。
僕もさすがに少し疲れたし、一緒にもらってこようかな。それに……
「僕も行くよ。ミスティスの分も持って来てあげたいしね」
多分、起きたらミスティスも食べることになりそうだしね。
「私の分もお願いしますっ。私はミスティスさんを見ておきますので」
「おっけー」
「うん、よろしく、謡さん」
というわけで、ミスティスの面倒は謡さんに任せて、全員分のスープをもらってくる。
ちょうど戻ってみんなで食べ始めたところで、
「はにゃ……いい匂いする〜♪」
匂いに釣られてミスティスも復活してきたので、改めてみんなで食事タイムにする。
「はふー……んまー♪」
「そういえばさー、ミスティス」
「んー?」
「なんか、さっきの戦いの途中で何回か、コンセの加速状態のまんまずっと動き続けてたタイミングなかった? あれどーやってんの?」
モレナさんはどうやらあの激戦の中でもミスティスのコンセントレーションの違和感に気付いていたらしい。
「あー、あえへ〜。もぐ……ん。よーするにさー、コンセってあれランナーズハイとか火事場の馬鹿力みたいなのをスキルで意図的に引き出してるんだよ。だからアレって自分の集中力全力で使えば別に効果時間に制限とかないんだよね〜。最初システムアシスト振り切って自分の集中力で継続させるとこだけちょっとコツが要るけど」
「あー、なーるほど。コンセ使った時のあの体感ってじゃあ、アスリートみたいな『ゾーンに入る』とかそういう状態と一緒なんだ。そんなガチの運動したことないから知らないけど」
「そーそー。通称『フルコンセントレイト』って呼ばれてる、システム外のプレイヤースキルってやつだよ。まぁマジで全力100パー出し切っちゃうってことだから、やりすぎるとさっきみたく終わった後ぶっ倒れるけどねー、にひひっ」
「システム外のプレイヤースキル……なるほど、そういうのもあるんだ。奥深すぎでしょホリクロ」
「あははっ。それがこのゲームのいいところだからね〜。こーゆーのって知ってるかどうかで結構戦い方もできること変わってきちゃうから難しいとこだけど、そーゆーのを自力で見っけるのも楽しみの一つだし、人に教わったりするのもそれはそれでコミュニケーションってやつだからさー。やっぱこのゲームのいいところで間違いないよ」
「ははぁ〜、まぁそこはものは考えようってやつかー」
「そーゆーことー」
まぁなるほど、ことオンラインゲームでこの手の小技があることって、悪く言えば情報格差が明確にでちゃうところではあるから良し悪しではあるけど、HXTの場合はそれもまたコミュニケーションの手段の一つとして上手く機能しているってことだね。事実、今まさにこうして話題の一つになっているわけで、こういう会話のきっかけになってくれている時点でその目論見は成功してるってことなんだろうね。
「ちょうどいいから、他にもテキトーにいくつか思いつくプレイヤースキル教えとこっか。知ってると便利なの結構あるんだよねー」
「おっ、いーね!」
「わぁ、是非!」
「お願いしますっ!」
と、そんなわけで、目を輝かせた三人にミスティスの小技教室が始まる。
「まーまず誰でもできてわかりやすいのは逆ポタかな〜」
「逆ポタ?」
「ポータルスフィアあるっしょー? あれってフツー術者が一往復したら終わりじゃん?」
「うん」
「でも、あれって実は往復のスタート地点決めてるのって発動の瞬間じゃないんだよね〜」
「えっ? どういうこと?」
「あれさー、発動の瞬間じゃなくって、最初に転送に使われた瞬間にその時のスタート地点が記録されるんだよ。だから、ポータルスフィア起動したら、一度それとは別でジャンプボール使って街に戻っちゃって、街からポタに戻ると、街の方がスタート地点になっちゃうの。で、あとは帰りは全部ジャンプボールで帰ることにすれば、ポタ経由で街に戻らない限りず〜っとポタの転送先を残しとけるってわけ」
「えぇ〜……」
「そ、そんな抜け道が……」
「こー、しばらく同じダンジョンでレベリングしたいけど街から毎回は遠いな〜みたいな時覚えとくとすんごい便利だよー」
これは僕も知らなかったやつだ。普通に便利そうだし、覚えておいて損はないね。
「あと汎用性で言ったらー……ちゃんとプリがいる三人だとちょっとタイミングないかもだけど、投げポかな〜」
「投げポ……って?」
「ポーション投げの略ね〜。まーこれは今実際やって見せるのが早いかな。こー、消耗品をベルトとかに提げて身につけとけば触るだけで使えるってのがアイテムショトカじゃん?」
ポンポンと右腰を叩いて、ベルトに開けられているアイテム保持用の切れ込みに挟んで提げられたポーション瓶を示すミスティス。
「これさー、やってると気付くかもだけど、発動すんの触った瞬間じゃなくって、触った手が離れた瞬間なんだよねー、ほら」
「わ、ホントだ」
続けて、そう言いながらポーション瓶の一つに触れてみせるけど、確かにその段階では発動していない。その手が大仰にパッと離されると、その瞬間にポーションはフォトンに変換されて効果を発揮した。
なるほど、これは気付いてなかったなぁ。
「で、これって実は処理的には、『手が離れた時点で触れている物体に対して効果が発動する』んだよねー。だから普段の動作は『触った瞬間自分に発動』なわけ。てことはぁ……これ投げちゃったらどーなると思う?」
ミスティスはストレージから改めてセットしたポーション瓶をベルトから抜き出して、にんまりと笑いながらちゃぷちゃぷと揺らしてみせる。
「えぇっと……手が離れた段階では何にも触れてなくなるってことですから、対象が不在……ですよね?」
「そー。んでそーなると、次に触れたものが自動的に対象になっちゃうんだよ。だから……はい、エイフェル」
「へ? あっ、わわっ!?」
答えたエイフェルさんに、適当に投げ渡すような感覚でパスされたポーションを、彼女が慌てて受け止めようとするけど、
「わっ、あっ!? わ、私に効果が来ました!?」
「おぉー……」
「こ、こんな技が……」
その手に触れた瞬間にポーションはフォトンに変換されてしまい、エイフェルさんに発動エフェクトが出る。
こんなこともできるんだ……。ショートカットからアイテムを投げるなんて、思いつきもしなかった……。
モレナさんたちも目を丸くしている。
「にっしし〜、そーゆーこと〜♪ まぁ正直これはパーティーにクレリックがいない時とかの、ホント〜にホントーの緊急用って感じの使い方だけど、ホンットーにヤバい時があったら誰でも味方を助けてあげられる最終手段だから、覚えとけば機会はあるかもね〜って感じかなー」
「な、なるほどー……」
謡さんが頷きながら、また熱心にメモを取る。
「あ、ちなノーコン気を付けてね〜。敵に当たったらフツーに敵回復するよー」
「あー……」
付け足された一言に、状況を想像してしまったか、モレナさんが遠い目になる。
あー……うん、実際そんな状況でやらかすと洒落にならなそうだから……使う時は気を付けよう……。いや、まずそんな状況に追い込まれることがないようにを気を付けたいところだけど、うん……。
とまぁ、そんな感じで、
「あとはー……サークルトレインって言ってねー――」
と、その後もいくつかミスティスに小技を教えてもらっているうちに、あっという間に休憩の1時間は過ぎ去っていったのだった。