note.003 SIDE:G

「さ〜、いっくよー!」

 ミスティスさんの掛け声に、僕が杖を構えれば、すぐさま盾が打ち鳴らされる。
 状況はさっきと同じ、孤立しているスライムを見つけて、ミスティスさんが挑発(プロボック)で引き寄せる。

「猛り燃ゆる紅蓮の炎よ、我が意を示し、槍と形成せ。貫き、穿て。焼き尽くせ!」

 イメージングはもうできているし、回路構築の大体の感覚も掴んでいるので、さっきの感覚のままにLv2分の魔力を注ぎ込んで、一気に詠唱を完了させる。
 だけど、今詠唱しているのは、先ほどのレベルアップでLv3に上がったブレイズランスだ。
 当然、Lv2より魔力許容量も上がっているので、思った通り、発動させるには少し魔力が足りなかった。
 全体の魔力流量を推し量りながら、魔術回路に魔力を満たしていく。
 その時間は、ミスティスさんが十分に稼いでくれている。

 ミスティスさんの剣が、スライムに深く食い込む。
 ……が、攻撃が通ったというよりは、スライムの側がわざと受けた、という感じらしい。
 剣は確かに深く食い込んでいるが、その奥の核はしっかりと軸をズラして、その剣筋を回避している。
 そうして、剣を受け止めたスライムが、押し込まれた反動を利用するようにして、ミスティスさんの身体ごと一気に剣を体外へ弾き出す。
 ミスティスさんはその流れに逆らわずに、自らも後ろへ軽く飛んで、一旦スライムと距離を取ることにしたようだった。
 ……うん、魔力の充填も完了できている。
 撃つならここだ!

「ブレイズランス!」

 放たれた炎の螺旋は、今回も狙い違わずスライムの核を爆散させた。

「いぇ〜い、ナイスタイミング〜!」
「ふぅ……ちょうどいいところで詠唱完了できて、よかったよ」

 こちらに戻ってきたミスティスさんが手を掲げるので、僕もそれに応えてハイタッチを交わした。
 僕としては、こういうのはまだ気恥ずかしいんだけど……ホントにこういうところの距離感が近い人だなぁ……。
 まぁ、言いつつ、なんだかんだ慣れてきつつあるのも事実だけどね。

 それは置いといて……。
 この分なら……というか、Lv2の時点から薄々感じてはいたけど、ここでのスライム狩だけなら、これ以上ブレイズランスのLvだけ上げてても、ちょっとオーバーキル気味な感じがするよね。
 もちろん、最終的にはLv10を目指すんだけど……ここで経験値を稼げる間に、少し他のスキルに寄り道してもいいかもしれない。

 その後も、順調に狩は進んで、見る間にLvも上がっていった。
 そうしていく内、お互いの連携にも慣れてきたおかげで、ある程度なら不測の事態にも対処できるようになってきていた。

「――我が意を示し、槍と形成せ。」

 半分までブレイズランスを詠唱したところで、ガサリ、と後ろで草むらを揺らしてスライムが迫る気配。
 数時間前だったら、焦って詠唱を止めちゃいそうなところだったけど……。
 カァン!と盾が打ち鳴らされる音が響く。
 前方で戦っていたミスティスさんが、僕の後ろの二匹目に気づいて挑発してくれたんだね。
 その音に引き寄せられて、二匹目のスライムが僕の横を素通りしてミスティスさんへ向かっていくのを横目に見つつ、残りの詠唱を終わらせる。
 回路に魔力が満たせたところで、冷静にタイミングを見計らう。
 もはや僕には見向きもせずにミスティスさんに向かって一直線に進む二匹目と、元々僕たちが戦闘中だった一匹目、両方が僕の射線上でなるべく一直線に並ぶタイミングを待って……ここだ!

「ブレイズランス!!」

 パァンッ!と、破裂音を響かせる勢いで、ブレイズランスが宙を閃く。
 手前側、ミスティスさんへと向かっていた二匹目の核を正確に貫いた炎の槍は、核があった場所に大穴だけを残して、分厚い粘液の身体を貫通し、その奥、元々戦っていた一匹目に深々と突き刺さった。
 僕の狙いが甘かったのか、スライムの方が察知したか、ギリギリで核からは逸れた位置に刺さった槍だったけど、半分ほど突き抜けて、ちょうど槍の中心が核に一番近くなったタイミングで――爆発。
 粘液の守りがなければ脆弱な核が、内部からの爆発に耐えきれるはずもなく、水風船が割れるようにして飛び散ったその身体の破片ごと、一瞬でフォトンに分解されて蒸発した。

「お〜、やるぅ! 結構慣れてきたじゃん」
「あはは、まぁ、なんとかね。でも、今のは助かったよ、ありがとう」
「い〜え〜。ま、前衛やるからには、あれぐらいのヘイトコントロールはできないとね〜」

 なんてやり取りをしつつ、ミスティスさんがスライムのいた場所から何かを拾い上げた。

「お、リンゴの種げっと〜」

 魔力を糧にしているスライムは、植物を取り込んだ場合、魔力が豊富な実の部分は消化するけど、魔力がほとんど含まれない種は消化せずに残すことが多いらしい。
 残った種は適当に体外に排出してしまうので、植物にとってはスライムは種子の運び役になる。
 この性質があるから、動物と呼べるものがほとんどスライムしかいないこの森でも、全体の生態系は保たれているんだとか。
 で、たまに排出される前の種がスライムの体内に残っていると、こうしてドロップ品として獲得できる、というわけだね。

 ……と、それはいいんだけど……。

「えーっと……ねぇ、これも回収するの……?」

 僕が指差した先には、さっきのブレイズランスで核を失ったまま、丸ごと残されたスライムの粘液だった……。

「おぉぅ……」

 と、その光景に目を瞬かせたミスティスさんだったけど、すぐにその目を輝かせて、

「あったりまえじゃん! っていうかナイスだよ! 全部回収するよ!」

 と言うが早いか、こちらに駆け寄ってくる。

 まぁ、ドロップ品には違いないと思うけどさ……。
 試しに手を突っ込んですくい上げてみると、ひんやりと冷たく、見た目通りのドロリと粘つく感触が手全体を包む……。
 うへぇ……これ、何か使い道あるの……?

「なんか嬉しそうだけど、こんなの回収してどうするの……?」

 試しに聞いてみると、ミスティスさんは、さも当然といった表情で、

「スライムの粘液って優秀なんだから! 核を正確に狙わないと、スライムって大概すぐに爆散しちゃうから、何気に結構貴重だしね〜」
「そ、そうなの……?」

 こ、これがそんなに珍しい素材だったとは……。
 なんだかミスティスさんの勢いが止まらなくなってるし……。

「そうなの! 水分が飛ぶと固まるから簡単な接着剤にもなるし、魔力をよく通すから魔法触媒にもなるし、少し手を加えればいくつか水に溶けない素材も溶かせるから錬金術の触媒にもなるし、何よりも……」
「何よりも?」
「保湿成分たっぷりで美容にいいの!」
「え、えぇぇ……」

 う、うん……他の効果の方が重要なような……っていうのは、言わない方がきっと賢明なんだろうね、女性の前では……。
 って、いや、待った、危うく忘れかけてたけど、これゲームだよね!?
 ゲームのアバターに美容も何もないような……?

「なによぅ、その顔〜。スライム製の美容液とか保湿クリームとか、結構な高級品なんだからね〜? 他の使い方も有用なせいで、そーゆー用途に回されるスライム素材って供給が少ないんだから!」
「は、はぁ、なるほどね……」

 思わず顔に出てしまっていたらしい……。
 なんというか、ここは素直に頷いておくしかなさそうだ……。

「ついでに、食べても美味しい!」
「えっ!? 食べれるの!? これを!??」

 これを食べるのは……なかなかに勇気が要るなぁ……。

「まぁ、見た目が結構アレなことになるのは間違いないけどね〜。でも、水と一緒にスライムで煮込むスライム鍋とか、絶品だよ! ……見た目はアレだけど」
「なんで『見た目はアレ』のくだりだけ2回言った上に目を逸らすのかな……?」

 僕の指摘に、もはや露骨に首ごと顔を背けるミスティスさん……。
 まぁ、なんとなく想像はつくけども……。

「ま、まぁともかく、スライムの粘液は優秀ってことだよ! もちろん、単純に素材としてギルドに捌いても結構な値段になるしね」
「ははぁ……とりあえず、いろいろ優秀なことは理解したよ」
「うむうむ、っというわけで……」

 と、ミスティスさんは、すくい上げるように躊躇いなく両手を粘液の塊に突っ込んで、まとめて一塊でストレージに放り込んで、

「うん、これでよし、っと」

 おそらく、スライムがきちんとインベントリに収まったことをストレージウィンドウで確認したのだろう、こちらからは見えないウィンドウを空中でいくつか操作して、うんうんと頷いた。

「よ〜し、それじゃ、もう少し続けよっか♪」

 粘液がよほど嬉しかったのか、幾分上機嫌で次のスライムを探し始めるミスティスさんだった。

 僕も後を追って、探索を再開する。
 次の相手はすぐに見つかった。
 まぁ、やることは変わらないね。
 ミスティスさんが挑発で引き付けてくれたら、僕がブレイズランスで仕留める。

「いくよっ、せーの!」

 盾が打ち鳴らされると、スライムがそれに反応し……て!?

「へ……? っちょ、ウッソ待って多い多い、めっちゃ隠れてた!?」

 本当にどこにこんなに隠れていたのやら、見える範囲には一匹しかいなかったはずのスライムが、草叢の裏の死角やら樹の陰やらから突然わらわらと湧いてきた。
 僕の後ろにも一匹迫っていたようで、挑発に釣られて僕の横を素通りしていく。
 その数、総勢五匹。
 ……って、真面目にちょっとマズいんでは……?

「うわわ……ごめん、マイス! 一旦逃げるよ!」
「わぁぁ待って待って!?」

 ミスティスさんが全力でこちらに駆け戻ってくるので、慌てて僕も同じ方向に逃げるべく走る。
 っていうか、最初の時も思ったけど、この世界のスライムって見かけによらず脚速いよねぇ!?
 振り切ろうにもミスティスさんの挑発が効いてしまっているので、効果が切れるまで……は……?
 あれ?そっか、ちょっとテンパって一緒に逃げちゃってるけど、これって、今追われてるのは挑発(プロボック)の効果で引き寄せたミスティスさんだけだよね?
 逃げることに無我夢中で頭の中は真っ白だったはずなのに、自分でもよくわからない内に、ふとそこに思考が辿り着く。
 瞬間、驚くほど急速に、冷静な思考が戻ってきた。

 そうだよね、予想外の数が集まってきて僕もパニクっちゃったけど、あくまでも今追われているのは、挑発(プロボック)の効果でタゲが集中しているミスティスさんだけだ。
 なら、僕が魔法を詠唱する余裕はあるはず。
 そして今なら、ここで狩るだけならブレイズランスのLvは3で十分と判断して、さっき取得した新しい魔法――フレアボムがある。
 取得した時に一度ミスティスさんには伝えてあるはずだから、今言えば彼女も思い出してくれるはず……。

 一旦冷静になってみれば、ここまで思考を巡らせるのは、時間にするとほぼ一瞬だったように思う。
 まとまった考えをすぐさま実行に移すべく、ほとんど滑るように身を翻して僕は叫んだ。

「ミスティス! フレアボムだ! 範囲に敵をまとめられる!?」
「――!! そっか、おっけーだよ! やってみる!」

 言われて、案の定、彼女も冷静さを取り戻すことに成功したようで、一旦足を止めて迫りくるスライムに向き直ると、改めて挑発を発動させてタゲを自身に固定する。
 それから、何か考えがあるのか、タゲの固定を確認すると、真横に向かって走り出した。
 僕も咄嗟だったし、彼女もやってみるとは言ったけど……どうするつもりなのかな?
 ともあれ、ここは彼女を信じて、僕もやるべきことをやろう。

「猛り狂える灼熱の烈火、其が成すは燃えて渦巻く紅蓮の轟炎――」

 火属性中級魔法、フレアボム。
 空間上の指定した地点を中心として巨大な爆発を起こす、範囲攻撃魔法だ。
 ブレイズランスも爆発は起こすけど、それはあくまで、対象に刺さった後に内部からダメージを与えるため。
 単体への火力としては優秀だけど、爆発の範囲自体はそれほど広いわけではないんだよね。
 対して、フレアボムは最初から複数体への攻撃を意図した大規模な爆発を起こす。
 爆風が主なダメージ源だから、十分なダメージを与えるためにはある程度敵が一ヵ所に固まっている必要はあるけど、ブレイズランスと同じ中級魔法だから、後々には無詠唱も可能になってくることもあって、状況さえ整えれば優秀な範囲攻撃だ。

 初めてのフレアボムの詠唱。
 にも関わらず、不思議と僕の口からは澱みなく詠唱文が紡がれ、まるで使い慣れた魔法のように、回路の構築と同時に魔力が満たされていく。
 これが火事場の馬鹿力というやつなのかな?と、頭のどこかで冷静に状況を観察するかのような思考すらあった。

 そして、ミスティスの方はというと、どうも真横ではなく、スライムたちの周りを、大きく円を描くように走っているようだ。
 それもどうやら、一番後ろにいた一匹を中心点にしているらしい。
 挑発(プロボック)でタゲを固定されて、ただ最短距離で真っ直ぐにミスティスを追うだけの単純な動きしかしないスライムたちは、彼女が描く円の内側――後続にいた個体ほど、円の中心に近いせいか、走り回る彼女に向かって狭い範囲を方向転換しようとするばかりで、移動範囲を限定されているようだった。
 反対に、彼女の近くにいた個体は、必死に彼女に追いすがろうと、その旋回速度に追い付こうとして、結果として不規則な楕円軌道を走らされていた。
 ミスティスは時折振り返って、自分に一番近い先頭のスライムの位置を確認しながら、速度も調節して走っているらしい。
 そうして、スライム全体の位置関係を確認しながら、旋回半径や中心点を絶妙に調整しつつ、何周かを回り切る頃には、気づけば全てのスライムが円の中心付近の一点に、ひしめき合うように集められていた。

 すごいなぁ、なるほど……。
 ただ単純に真っ直ぐ獲物に向かうだけのスライムの行動パターンを上手く利用して、各々の進路で散らばっていたスライムたちを、あっという間に一ヵ所にまとめてしまった。
 今の動き方は参考になるなぁ。

 ……なんてことを、頭の片隅で思考しつつ、僕の詠唱も滞りなく完了する。

「――爆ぜろ烈火よ! 燃えて拡がり、焼き尽くせ!」

 イメージはもう出来上がっている。
 風船に空気を入れるように、一定の空間に極限まで炎を押し込んでいく。
 極限までその密度が高まった瞬間、風船は耐え切れずに破裂して、貯め込んだ炎を破壊と共にまき散らす……そんなイメージだ。
 魔力の充填も、暴発することなく完了。
 あとは発動させる座標を決めるだけで、いつでも撃てる状態だ。

「へっへ〜ん! どんなもんよ! んじゃマイス、あとよろしくぅ!」

 すっかりスライムたちをまとめ終わったミスティスが、円運動を止めて、僕の後ろまで真っ直ぐ走り抜ける。
 それを追ってスライムたちも馬鹿正直に、僕の方へとほとんど一塊になって一直線に突っ込んでくる。

 ……どうでもいいけど、あれでよくお互いの粘液部分は混ざらないね。
 多少スライム同士で接触するようなことがあっても、互いの個体が融合してしまうようなことにはならないようだ。

 っと、ホントにどうでもよかったね。
 ともかく、全ての準備は万全だ。
 これなら間違いなくスライム全員をまとめて吹き飛ばせるだろう、理想的と言っていい配置。
 狙いはもちろん、塊の中心にいる一匹の核部分!

「フレア……ボム!!」

 袈裟斬りに杖を振り下ろしたと同時に、足元に展開されていた魔法陣が一瞬輝きを増す。
 発動したフレアボムは、狙い通りに密集したスライムの中心点で炸裂した。
 真ん中にいたスライムの身体をほとんど呑み込むようにして、一瞬で膨れ上がった火球が、次の瞬間――爆発。
 轟音と共に撒き散らされた衝撃波は、まだ距離があったはずの僕たちのところまで、ほとんど衰えることなく届いたほどで、僕は思わず腕を前に出して顔を防御していた。
 爆音に驚いた小鳥や小動物たちが、慌ただしく逃げ去っていく。
 それらも全て静まると、撒き上がった土煙も晴れてくる。
 土煙が収まってみれば、全部で五匹いたスライムの内、三匹は痕跡すら残さずに消し飛んでいて、残った二匹も、その身体の粘液を3分の2以上が消えて、ほとんど核が露出してしまっている状態で、全体が溶け出すように力なく形を崩していた。
 更に、身体のところどころではまだ炎が燃えていて、わずかに残った粘液をも燃やし尽くそうとしていた。

 ……と、不意に、僕の上空を後ろから何かの影が横切って、思わず見上げると、

「てやぁぁぁぁあああッ!」

 上空高く跳躍したミスティスが、僕の頭上を飛び越えたところだった。
 大跳躍から、自身の体重と落下の勢いを乗せた大上段の唐竹割り。
 ソーディアンの攻撃スキルの一つ、メテオカッターだ。
 軌跡の残像すら残して上空から振り下ろされた刃は、もはやほとんど守りの用を成していない粘液ごと、片方のスライムの核を一刀の下に両断する。

「シッ!」

 片膝をついた着地姿勢から、即座に右前方に踏み込みつつ、横一閃。
 残った最後のスライムも、核を上下に両断されて力尽きた。

 数秒、剣を振り切ったままの残身から、ふぅ、と一つ息をついて姿勢を正し、ミスティスはもう一度剣を振り払ってから鞘に戻した。
 その姿に思わず見惚れてしまって、僕が一瞬立ち尽くしていた、次の瞬間――。
 ふにゃり、と彼女の表情が崩れたかと思えば、盾をその場に取り落として、

「ふへえぇぇ……怖かったよマイスぅぅぅ〜〜〜!」
「えぇぇぇ……ちょ、ミスティス!?」

 その場に頽れて泣き出してしまった。
 えーっとえーっと……ど、どうすればいいかな!?
 女の子に目の前で泣かれるなんて経験は人見知りの僕には初めてだよ!?
 えぇっと……ともかくまずは落ち着かせないと……。
 さっきまでとは別の意味で頭が真っ白になりかけつつも、とりあえず彼女の下に駆け寄る。

「えーっと……ミスティス? 大丈夫? とりあえず落ち着いて?」

 どうしたらいいかわからなかったけど、ひとまず僕もしゃがんで、へたり込んでしまった彼女に視線を合わせて呼びかけてみる……けど……。
 ミスティスって、こう、向こうからの距離感が最初から近すぎて、こういう時になると逆にこっちから接する距離感が図りにくいよね、僕としては……。

 まぁでも、彼女が感じただろう恐怖感はわかる。
 何しろ、ここのスライムって、個体差はあるけど、普通に僕たちの身長ぐらいの高さはあるぐらいには大きいから、人間ぐらいは普通に丸呑みできる大きさがあるんだよね。
 実際、最初の戦闘ではミスティスも押し潰されかけたわけだし。
 それが一度に五匹ともなれば、もうそれだけで視覚的にも結構な威圧感がある。
 後ろにいた僕も思わず焦って一緒に逃げ出したぐらいなんだから、目の前で、しかも明確に自分にタゲが向いた状態で追い回された彼女の恐怖は推して知るべしだ。

 そんなことを考えてたからかな。
 気がついたら、僕は子供をあやす時みたいに、泣きじゃくるミスティスの背中をそっとさすってやっていた。
 それでようやく、彼女も落ち着いてきたようだった。
 これでよかったのかな?

「うぅ…………ぐすっ……ありがと、マイス」
「どういたしまして。えっと、立てる?」

 少し頬を染めた顔で涙を拭ったミスティスに、僕が先に立って手を差し伸べる。
 ミスティスも、その手を取って、はにかんだ笑顔で立ち上がった。

「ありがとね、えへへ。……ごめんね、ちょっと恥ずかしいところ見せちゃった」
「いやいや、僕も最初怖くて一緒に逃げてたしね。あれはしょうがないよ」

 そうして、自然とお互いに笑い合う。
 ……と、不意にミスティスが、その笑みをいたずらっぽいものに変えて、

「そういえば〜……呼・び・か・た♪ ようやく『さん付け』外れてくれたねっ!」
「へ? えっ、あ……」

 指摘されて、自分でも初めて気が付いた……。
 無我夢中でやってる間に、思わず呼び捨てになっちゃってたのか……。
 自覚してしまったことで、急に気恥ずかしさで顔が熱くなってくる……。

「えぇっと、いや、だから、その、あれは咄嗟だったからでっ! さっきのはその、えっと……」

 あぁもう何言ってるんだろう僕は……。
 顔が赤くなっているだろうことが自覚できてしまうだけに、悪循環でさらに気恥ずかしさがこみ上げてくる。

「ぷっ……ふふっ……あははははははっ!」

 そんな僕の様子がよっぽど可笑しかったのか、ミスティスがお腹を抱えて笑い出してしまった……むぅ……。

「そんなに笑うことないじゃないかぁ……」
「ごめんごめん、あはっ。けど、私にはホント、そんな遠慮とか要らないんだからね? ってことでぇ……せっかく呼んでくれたんだから、もう『さん付け』禁止ねっ!」
「えぇ〜……そんなぁ……」

 僕の反応に、ミスティスはまたクスクスっといたずらっぽく笑う。
 うぅ……これはまた慣れるまで大変そうだなぁ……。
 でもまぁ……おかげでミスティスはすっかり元通り、調子を取り戻してくれたみたいだ。
 それならそれで、まぁいっかな。


戻る