note.005 SIDE:G
上がったLvのことも気になるけど、それより先に、爆風で転んだミスティスさんを助け起こさなきゃ。
急いで彼女の下に駆け寄った僕は……自分でも驚くほど自然に、彼女に手を差し伸べていた。
「ごめん、ミスティスさん! 大丈夫だった?」
「あっはは、ありがと♪ ヘーキヘーキ! あでも、最後はちょっと危なかったかな?」
僕の手を取って立ち上がったミスティスさんは、そう応えて破顔してみせた。
けれど、僕はと言うと……今更ながらに、女の子と手を繋いでしまった気恥ずかしさが襲ってきて、しばらく彼女を直視できなかった。
「ご、ごめん、もうちょっと早く撃てればよかったんだけど……」
「いーのいーの。最初は大体そんなもんでしょー、魔法のことはよくわかんないけど。
あ、けど、毎回これだとさすがにちょっと私が持たないかな〜」
あー……うん、そりゃそうだよね、さすがにさっきのアレは、僕が前衛役だったら多分パニックだ……。
まぁでも――
「そこは大丈夫。今ので大体感覚は掴めたから……多分、次からは、魔力を流しながら回路構築してもいけると思う」
うん、今は完全に初めてみたいなものだったから、加減がわからなくて、回路構築、イメージング、魔力循環と手順を踏んで確かめながらになっちゃったけど、イメージングの部分って、一度脳内で確立させちゃえば、それを忘れないようにすればいいだけだから、実際の詠唱の段階ではほとんど無意識レベルで省略できるんだよね。
最終的な全体の魔力流量も、なんとなくは把握できたことだし……ちょっとまだ不安だから、今思ってるこの感覚から少し少な目にして注いで、足りない分は回路が完成してから注ぎ足す感じになるかもだけど、詠唱と同時にある程度魔力を流しながら回路を構築することは十分にできるはずだ。
さっきの感覚を忘れない内にしっかりと掴んでおくように、僕は杖を持ってない左手を何度か握りなおした。
……うん、よし、後は慣れの問題だ、頑張ろう。
「そっか、おっけーおっけー。そういえば、Lv上がってたっけ、おめでと〜!」
「ありがとう……って、ミスティスさんも上がってたよね、おめでとう」
「おめあり〜♪」
そうそう、お互いLvが上がったんだったね。
HXTの育成システムは、レベルアップごとに、職業ごとに応じた補正のかかったランダムな値が自動的に加算されていく仕組みだ。
同時に、小数点以下切り上げで現在のLvを10分の1にした値の「ステータスポイント」が手に入り、これはプレイヤーが自由にステータスに割り振ることができる。
情報サイトなんかでは、HXTも他のこの手のゲーム同様、一つのステータスにひたすらポイントを振り込み続ける「極振り」が一般的と言われている。
けど、このゲームの場合、レベルアップ時のランダム上昇システムに加えて、Lvに上限が存在しないことと、同じステータスに割り振るほど、ステータスを1上昇させるために必要なステータスポイントが増えていくので、後半になるに従って、必ずしも極振りだけが最適解とは言えなくなってくるらしい。
……まぁ、と言うのは、今の僕たちにとってはまだまだ当面先の話だけどね。
現時点ではもちろん、魔法攻撃力を上げられるInt一択だよね。
Lv47から48に上がったので、獲得したステータスポイントは5。
今の僕の割り振り具合だと、Intを1上げるには2ポイント消費する。
ってことで、今回のポイントはIntを2つ上げておしまいかな。
それと、スキルポイントの方も忘れずに振っておかないとね。
HXTはキャラクターLvと職業Lvを分けていないので、単純にLvが上がるごとに1ポイントずつスキルポイントが配られることになっている。
それを取得可能なスキルツリーの中から選んで割り振っていくわけなんだけど……。
このゲームの場合、キャラがある程度育った中盤以降は、常にスキルポイントの余裕を10〜30程度作っておくのが定石と言われてるんだよね。
というのも、このゲーム、職業の選択がとんでもなく自由なのだ。
冒険者への登録や、依頼の斡旋等を取りまとめている統括組織である「ギルド」を経由して、一定条件の下でもらえる許可さえ下りれば、任意のタイミングで、自由に職業を変更してしまえるんだよね。
職業は、衣装を含めた装備品に紐付けされていて、紐付けの組み合わせ方は装備ウィンドウやアイテムストレージから自由に変更が可能。
戦闘中ですら、それらを切り替えることで戦闘スタイルを職業ごと別物に切り替えることもできる。
ステータスの適正の問題を度外視すれば、例えばソーディアンが突然クレリックに変わる、なんてこともできてしまう。
そのステータス適正に関しても、実はどうやら、普段ステータスウィンドウで確認できる自分のステータスは、レベルアップ時のランダム上昇同様に、職業ごとの補正値がかかった状態で表示されているようで、言わば「職業なし」の状態の「素のステータス値」というものが内部的に存在しているらしい。
そして、職業を切り替えると、その「素のステータス値」を基にして職業補正も再計算されるようになっていて、あまりに大きく適正から外れたステータスでもない限りは意外となんとかなってしまうんだとか。
ただ、レベルアップ時のランダム上昇部分にも職業補正がかかっている以上、1つの職業を長く続けるほど、素のステータスにも偏りが生じるようで、職業切り替えの頻度によっては職業の適正不適正も発生してくるとのことだ。
更に、このゲームには、生産職というものがデフォルトの職業の中には存在しない代わりに、生産職に当たるものとして、特定の行動条件で発生する「エクストラスキル」、「エクストラジョブ」というものが無数に存在する。
トリガーとなる行動を行うことで、対応するエクストラスキルが発生するんだけど、この段階ではスキルポイントの割り振りはできないようになっていて、エクストラスキルは対応する行動の熟練度だけでLvが上がる。
そして、この熟練度Lvが最大になることで、エクストラスキルはエクストラジョブに派生する。
そうなると、職業として確立されるから、関連するスキルツリーが一気に増設されるんだよね。
そんなわけで、キャラが育っていくほどに、様々な職業が追加される可能性が高くなっていくこのゲームでは、新しい職業を取得した時に、ある程度そこに即座に割り振れるスキルポイントの余裕を持っておくと何かと便利、と言われているわけだね。
とは言え、これも今の僕たちにはまだちょっと早い話かな。
今はひとまず、ブレイズランスのLvを上げていこう。
……うん?とすると……そうか、ブレイズランスのLvがこれで3になるわけだから、許容魔力流量もそれだけ上がるはず……。
ってことは、Lv3の詠唱で、さっきの感覚でLv2分の魔力をそのまま流しちゃって、足りない分を注ぎ足す方が多分楽だね。
うん、次はそれでやってみよう。
ステータスウィンドウを閉じると、ミスティスさんもちょうどポイントの割り振りを終えたところみたいだった。
「よ〜し、おっけー! そっちも準備よさそうだね?」
「大丈夫、いつでもいけるよ」
「じゃ、次いってみよ〜!」
「うん、行こうか!」
こうして、少し危ういながらもどうにか狩は成立できるらしいことを確かめた僕たちは、しばらくスライム狩に興じることになった。