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note.010 SIDE:G

 一路ギルドへと向かった僕たちは、入口の扉をくぐると、まずは依頼掲示板をチェックする。
 手に入れた素材の中に、依頼品として収集依頼が出されているものが紛れている場合が往々にしてあるからだ。

 掲示板に張り出されている「自由掲示依頼」は、基本的には収集や、簡単な調査依頼などの、ギルドが直接介入するまでもない、比較的優先度の低いもので、受注する時の手続きも特に必要ないので、受ける意思がある、もしくは、手持ちに既に該当する素材がある場合には、自由に依頼書を剥がして、その依頼書と共に受付で結果を示せば達成にできる。
 「自由掲示」の名前の通り、依頼者側の手続きもかなり簡略化されていて、簡単な手続きをすればギルドの仲介を受けることもできるが、基本的にはそれすら必要なく、専用の用紙に必要事項を書き込んで掲示板に張り出すだけでOKになっている。
 そのため、簡易的な冒険者間の取引募集にも使われていたり、家事手伝いや人探しなどといった、一風変わった依頼が張り出されていることも多い。

 もう一つ、似たシステムに「常設依頼」がある。
 こっちは、ギルド側で依頼として常時受け付けている収集や討伐の依頼で、ポーションの素材になるエーテル草やマナ草だったり、紫から青ぐらいまでの、探せばそこら辺で拾えるジェムだったりの、必需品の調達依頼や、ゴブリンやフォレストウルフといった、普段は目立って害になるほどではないが、拠点を作られたり群れが大きくなりすぎると厄介で常に間引きが必要、というような魔物に対しての討伐依頼が多い。
 常設依頼は木札で壁にかけられていて、対応する依頼が書かれた札を品物と共に受付に持っていけば完了となり、終わった後の木札は元の場所に戻すことになっている。

 ちなみに、依頼の形式にはあと二つ、「斡旋依頼」と「指名依頼」がある。
 この二つは優先度も危険度も高い依頼が登録されていて、依頼するにもギルドへの正式な手続きが必要になっている。
 当然、その分難易度に応じて報酬も増えることもあって、これらの依頼を安定的に成功させられる実力を手に入れることが、一人前の冒険者の証と言われることも多い。

 「斡旋依頼」は受付で申請することで任意に受けられる依頼で、受注時にパーティー申請することで、複数人でも受けることができる。
 依頼内容は、申請した個人なりパーティーなりの実力をギルド側で判断されて、相応しい難易度のものが提示されるようになっている。
 ただし――これは斡旋依頼以外にも言えることだけど――ギルドは依頼の内容に一切の制限をかけていない。
 だから、時には盗みや殺しといった汚れ仕事も結構舞い込んでくるんだよね。
 そして斡旋依頼は、ギルド側で申請者が達成可能であると判断されれば、内容を問わずに全ての依頼を提示する。
 そうなると、同じ目標に対して立場の異なる複数の依頼者から同時に依頼が提示されることもあって、例えば、同じ人物に対して襲撃と護衛の依頼が同時に提示されることもある。
 問題は、ここでどちらかを引き受けてしまった時点で、選ばれなかった方の依頼は当然ながら、相応の実力を持った他の誰かに回されることになるわけで……。
 つまり、斡旋依頼では冒険者同士での殺し合いという状況が普通に発生し得るのだ。
 しかも、ギルドは依頼遂行中に発生したトラブルには、死亡も含めて内容を問わず、一切不干渉を貫いている。
 依頼上で発生する限りにおいては、それらのPKを含む殺しはゲーム運営としても認められているから、依頼を受諾した時点でこの手の衝突は回避できないってことだね。
 そうでなくても斡旋依頼には、強力な魔物の討伐依頼なんかの、自由掲示や常設の依頼には出せない危険度や機密性の高い依頼が登録されているので、ギルド側で難易度が選別されていると言えど、受諾には相応の覚悟と実力が求められる。

 最後の「指名依頼」は文字通り、依頼者側から個人やパーティーを直接指名して出される依頼。
 と言っても、指名依頼は「一定期間内に一定以上の成功率で、一定回数以上の斡旋依頼を遂行している」もしくは「特定の依頼者からの依頼を一定回数成功させている」ことが受注条件になっていて、前者については、この基準ライン自体もかなり厳しめに設定されているので、指名依頼を指定される時点で、その人は既にそこそこ名前が売れていたり、依頼者と顔見知りだったりというパターンも多い。
 ついでに、指名依頼の受注ができるようになった段階で、例えば「汚れ仕事NG」とか「護衛専門」とか、指名される依頼の内容については冒険者側で事前に大まかに指定できるようになっている。
 もちろん、「指名依頼自体NG」もOKだし、受けるかどうかも冒険者側の裁量に任されている。
 しかしながら、指名依頼に含まれる任務は、斡旋依頼よりも更に難易度が高いものがほとんどで、並大抵の冒険者では太刀打ちできないような凶悪な魔物の討伐に、相応の実力を持った者が指名されるパターンや、依頼主とある程度の信頼関係が築けているからこそ依頼できるような、機密性の高い依頼が大半を占める。
 その分、斡旋依頼よりも更に高額な報酬が約束されているから、そもそも意に沿わない依頼は最初から弾けることもあって、指名依頼がきた時点で断る人はほとんどいない。

 っと……まぁ、依頼の種類についてはこんなところかな。

 夕暮れ時のこの時間帯は、ちょうど僕たちみたいなその日の狩の精算目的や、依頼の達成報告なんかで、ギルドに人が増える時間だ。
 暗くなる前のこの時間帯の内に、そういう細々した精算を終わらせて、その日の路銀を手に入れたら、そのお金で宿を取るなり夜の街に繰り出すなり、というのが、PCでもNPCでも、この世界の冒険者の典型的なライフスタイルになっている。
 この日も、ギルド内はいつも通りにPC、NPCの入り交じった冒険者たちの活気に溢れていた。

 さて、今日の掲示依頼は……と……。
 う〜ん……ちょうどいい依頼は張られてないみたいだね、残念。

「ん〜……スライムの買い取りとかあればちょうどよかったのになー」

 昼間のミスティスの力説通り、スライムの粘液はいろいろな使い道があるので、収集依頼が出されていた時には報酬金額もそれなりのものになるらしい。
 だけど、今日はスライム関係の依頼はないみたいだね。
 ミスティスは、あからさまにつまらなさげに下唇に人差し指を当てて唸っていた。

 他にこれといって目ぼしい依頼もなさそうだったので、今日は諦めて、常設依頼から低級ジェムと、スライムのドロップ品に含まれる植物の種の木札を取って、まずは依頼報告用の受付で報酬を請求書で受け取る。
 それから、その他の収集品を素材換金用の受付で引き換え、これも請求書で受け取る。
 ちなみに、スライムは二人で分割したので、僕だけ個別で売却することにした。
 ミスティスは自分で何かに使うことを考えてるみたいだね。

 ここで、直接現金が渡されるのではなく、請求書での引き換えになっているのは、手順の簡略化のためだ。
 比較的短時間で済むやり取りが多く、事務的な手続きが挟まることもある依頼関係の窓口と、かさばるほどの大きな素材を扱う場合もあり、査定なんかで時間がかかることも少なくない素材関係の窓口は、分かれていた方が都合がいいということで、別々になっているんだけど……そうすると当然、現金の支払いもそれぞれの窓口でやらなきゃいけなくなるから、それはそれで効率が悪い。
 ということで、それぞれの窓口では引き換え用の請求書だけを渡して、支払い用の窓口は別にして一括で支払う、という形式になってるわけだね。

「アシアノさん、こんにちは」
「こんちわ〜」
「は〜い、こんにちは〜。あら〜、マイスくんに……ミスティスちゃんね〜? 珍しい組み合わせね〜」
「はは……さっきジャスミンさんにも言われました」

 アシアノさんは、此処アミリアギルドの受付嬢をしているNPCの1人で、よく晴れた冬空を思わせる深い青色のストレートヘアに、真っ白なうさ耳と、ウサギらしい真っ赤な瞳が目立つ、おっとり系のお姉さんといった雰囲気の人だ。
 そして、そのうさ耳の通り、この手のファンタジー世界の定番の1つと言っていいだろう、「獣人族」だ。
 さっき名前が出た「デーモン族」のジャスミンさんと、もう1人、「エルフ族」のプエラリアさんと合わせて、アミリアギルドのマスコット三人娘として、PC、NPCを問わず人気がある。
 彼女たちに会えることを目的に拠点をアミリアにしている冒険者も少なくない。
 ギルドとしても、彼女たちの存在が冒険者のモチベーションに繋がっていることは理解しているようで、基本的にローテーションで三人の内二人が依頼確認用窓口と精算用窓口を担当することになっている。
 今日は依頼担当がジャスミンさんで、精算担当がアシアノさんということだね。

 この三人の種族からもわかる通り、この世界にもNPCとして、ファンタジーの定番の様々な種族が人間と共に暮らしている。
 まぁ、プレイヤーの種族は人間で固定だけどね。
 この世界で「人類」と括った場合、基本的には「人間」、「エルフ」、「ドワーフ」、「獣人」の4種族が含まれる。
 他にも対話が通じる知性を持ち、人類とある程度友好的な関係を保っている種族もいるけど、それらは「人類」に一般的に含むほど勢力が大きくなかったり、友好度合が個体レベルで大きく変わったりする種族が多く、人類からは、他の敵対的な種族も含めて「高位魔族」と分類されている。
 ジャスミンさんの「デーモン族」なんかは高位魔族の典型例だね。
 デーモン族は、名前から想像できる通りの、山羊のようなネジ巻いた角と、コウモリのような翼を持った、外見上は人の姿をしている種族。
 種族的な特性として、極端に個人主義が強く、人類への友好度合も個人単位で大きく変わる。
 ジャスミンさんのように、普通に人類に混じって暮らしている人もいれば、他の敵対的な高位魔族同様に人類に危害を加える、倒すべき敵と見なされている個体もいるんだよね。

 ちなみに、エルフとかドワーフや獣人と聞くと、森や洞窟なんかに自分たちの集落や国を作って人間や他種族とは相争う、みたいなイメージがあるかもしれないけど、この世界ではそういう種族対立みたいなものは現状ほとんど発生していない。
 森の奥深くにあって樹をくり貫いて作られたエルフの集落……みたいな、それぞれの種族独自の文化様式なんかは残っているけど、そういう場所にも、基本は郷に入っては郷に従えの精神で、文化様式は残しつつも普通に人間とか他の種族が共存してるんだよね。
 この理由を知るには……まずは、このゲームのバックボーンのストーリーを知らないといけないね。

 この世界にはかつて、「大魔術師」として全世界にその名を轟かせた魔法の権威がいた。
 当時存在したあらゆる魔法の真髄を全て修めてしまった大魔術師は、更なる力を求めて禁術である「異界の扉」の召喚を成功させてしまった。
 開かれた扉からは、確かに異界の「新たなる力」が手に入ったが、同時に、異なる二つの世界が繋がったことで、次元の歪みが「闇」という形で扉から溢れ出して大魔術師を呑みこみ、そのまま世界を侵食し始めてしまう。
 これに対して、この世界の最高神である「女神シティナ」が裁定を下す。
 その内容は、「この世界の各地にシティナが隠す『神器』を見つけ出すことで、そこに宿る神々に少しずつ『闇』を浄化させる。『闇』が全世界を呑みこむ前に全ての『神器』を見つけることができれば『異界の扉』は閉じられるが、見つけきれなければそれ以上の救済は行わず、世界は『闇』に呑まれて滅亡する」というものだった。
 だけど、誰も「神器」を見つけられないまま、世界は今や小国「ユクリ」を残して全て「闇」に呑まれてしまった。
 ……というのが、このゲームのバックストーリーだ。
 つまり、この「神器」を見つけ出して世界を救済することが、設定上のプレイヤーの最終目的、というわけだね。

 そんなわけで、種族対立の話に戻すと、昔は実際、そういうテンプレ的な種族対立も根深い時期があったみたいだけど……「闇」の侵食でそれどころじゃなくなって、言わば「闇」という共通の敵に対する共同戦線って形で融和が進んだということらしい。
 何とも皮肉な話だけど、迫りくる「闇」の侵食という最大の問題から目を逸らせば、今の世界は意外にも、かつてでは考えられなかったほどに平和なのだそうだ。

「マイスくんも、ミスティスちゃんが一緒じゃあ大変ね〜、だいぶ振り回されたんじゃないかしら〜? 大丈夫ぅ?」
「ちょっと〜、どういう意味ですかそれー!」
「あら〜、そのままの意味よぉ。ミスティスちゃんほどのお転婆さんは、そうはいないわぁ〜、うふふふふっ」
「う……そ、それは〜……」

 ……一応、他人を振り回してる自覚はあったんだね、ミスティス……。

「あはは……いやまぁ、僕なんかまだまだ右も左もわからないことだらけで……むしろ助けられてばっかりですよ」
「あら〜。でもぉ、あんまり調子に乗せちゃダメよ〜。ミスティスちゃん、す〜ぐハメを外しちゃうから〜」
「あー……えぇ、なんとなく言いたいことはわかるので、肝に銘じます」
「もう! マイスまでー!」

 ふくれっ面で抗議するミスティスだったけど、それもすぐに笑いに変わって、三人でひとしきり笑い合う。

 このゲームのNPCって、こういう何気ない会話も全く違和感なくこなすんだよね。
 この街の住人や、他の冒険者たちも……と言っても、僕はこのギルドのアシアノさんたち職員や、いつも使う道具屋や宿屋の主人ぐらいとしか会話らしい会話をしたことはあまりないけど……それでも、NPCの会話に機械的な不自然さのようなものを感じたことは一度もない。
 プレイヤーの種族は人間で固定だから、アシアノさんみたいに種族が違えばすぐにわかるんだけど、人間同士となると、外見や言動からではPCなのかNPCなのかは全く見分けがつかない。
 唯一、能動的にPCかNPCかを判断できる要素は、相手のフルネームを知ることで、「見ようと意識した時だけ」頭上に表示される相手のキャラクター名が白で表示されるか黄色で表示されるか、だけ。
 白がPCで、黄色がNPCだ。

 これもまた、HXTに僕が感じている「ズレ」みたいなものの一つなんだよね。
 確かに、量子コンピューターも実用化されて、ほとんど日常生活上で意識することもないほどに基幹インフラとして普及するまでに至って久しい今の技術なら、このレベルのAIを作ること自体は可能だと思う。
 だけど、このゲームはそれを、主要なNPCはもちろんとして、特にクエストやらに関わるわけでもない、ほとんど背景扱いの単なる町や村の住民に至るまで、無数に存在する全てのNPCに実装しているんだよね。
 これだけの同時並列処理を、一体どうやって実現しているんだろう?
 それに、主要キャラ以外もNPC全てにまで、ここまでする意味は果たしてあるんだろうか?
 どういうわけか、不思議とこれを誰も疑問に思っていないみたいなんだよね。

「はぁい、これが申請分の報酬よ〜。こっちがミスティスちゃんで……こっちがマイスくんね〜」

 アシアノさんが、麻袋で分けて二人分の報酬金を出してくれる。
 スライムの分があるから、僕の方が袋が幾分か膨らんでいた。
 僕たちはそれぞれお礼を言って袋を受け取ると、ストレージに放り込んで金額を確認する。
 うん、ちゃんと請求書通りの金額だね。
 このゲームのアイテムストレージは、所持金の出納記録も一定期間ログが残るようになっているから、こういう時の金額の間違いなんかはすぐにわかって何かと便利だ。
 ……しかし、スライムって本当にいい素材なんだねぇ、なかなかの臨時収入だ。

「それじゃあ、本日もご利用ありがとうございました〜。うふふっ、また来てねぇ〜、待ってるわぁ〜」

 という、アシアノさんのいつもの見送りに応えながら、僕たちはアミリアギルドを後にした。

「んん〜……お疲れ様〜」
「お疲れ様〜」

 ギルドを出たところで、一息ついたとばかりに大きく伸びをするミスティスと、お互いを労う。

「今日はその……誘ってくれてありがとう。パーティーなんて初めてだったから、すごく楽しかったよ」
「いいのいいの、私も楽しかったしね。こういうのはお互い様だよ」
「そっか、うん、そうだね」
「そうそう♪」

 屈託なく笑うミスティスに、僕も思わず笑顔がこぼれる。
 彼女のこういうところは、なんというか、一緒にいて気持ちがいいよね。

「さてっと〜、今日はそろそろ解散にしよっか。あ、そうだ。マイスは今日はあと何日いられる(・・・・・・・・・・・)?」

 ……うん、一見、日本語のおかしな質問に聞こえると思うけど、「今日はあと何日?」というのは、このゲームのプレイヤーの間では割とよくあるやりとりだ。
 というのも、HXTのログイン中はリアルとは時間の感覚が全く違うからだ。
 ゲームにログインしている間、プレイヤーは普通に24時間を1日として体感する。
 だけど、ゲーム内での1日は、リアルでは30分に設定されているんだよね。
 仮にこっちの世界で丸1日遊んで、次の日の同じ時間にログアウトしたとしても、リアルでは30分しか経過していないわけだ。
 技術的にどうやっているのかは全く謎なんだけど、ともかく現実にそうなっているので、そういうものと思っておくしかない。
 だから、さっきの質問の「今日」というのはリアル時間での「今日」を指していて、「何日」はゲーム内時間であと何日過ごせるか?っていう意味になるわけだね。

 さて、それはそれとして……。

「う〜ん……。日付が変わるまでには寝たいから、今日はここまでかな」
「ありゃりゃ、もうそんな時間になってたか〜」

 システムメニューを呼び出して、ゲーム内時刻と常に併記されているリアル時刻を確認すれば、23時51分52秒を指していた。
 日付が変わる前に寝るにはちょうどいい時間だよね。

「んー、そっかー。じゃあ、私もちょうどいいから今日はこの辺にしておこっかなー。それじゃ、また明日だね」
「そうだね、また明日」
「あー……そうだ、インする時間決めておかないとね」
「あぁ、そっか。う〜ん……明日も平日だし、夕飯とかお風呂とか、やることは済ませちゃってからにしたいから……21時のH1朝8時とかでどうかな」

 H1っていうのは、1時間をゲーム内時間に合わせた30分ずつに区切った「ハーフ」を略してHとして、前半30分を「H1」、後半30分を「H2」、と分けることで、複数人でのゲームへのログイン日時を合わせるために使われる通俗的な単位のこと。
 朝8時はもちろん、ゲーム内での朝8時だね。
 こう指定することで、リアル時間で何時何分ごろにログインすればいいか、大体の待ち合わせができるんだよね。
 何しろ30分で1日が経過するんだから、リアル時間の5分でゲーム内では4時間が経過していることになる。
 お互いのログイン時間が数分ズレただけでも、ゲーム内では結構な時間待たされるハメになっちゃうんだよね。
 だから、ここのところは結構厳密に時間を合わせておく必要があるわけだ。
 そこで、この指定方法を使って、まぁ今回のように「21時のH1朝8時」と指定すれば、大体21時10分ぐらいでログインすればちょうどいいことになる。
 リアル時間とのタイミングが合わせやすいから、ゲーム内時刻は0時、4時、8時……の4時間ごと、リアル時間での5分区切りが使われることが多いね。
 まぁ、時間がわかりやすいから4時間ごとに区切ることが多いというだけで、ゲーム内のログイン画面の時点では、時間感覚はリアル時間のままでゲーム内時間も併記されているから、もっと細かい指定も可能ではあるんだけどね。

「りょ〜か〜い。そうだ、最後に……これっ」

 言いながら、自分のシステムウィンドウでミスティスが何やら操作する。
 その操作の完了ど同時に、システム音と共に僕の方に表示されたウィンドウは、ミスティスからのフレンド登録申請だった。
 もちろん、これを拒む理由はないよね。
 承認をタップすると、フレンドリストが開かれて、空欄だったウィンドウに「MISTIS」の名前が追加される。
 当然ながら……と言えてしまうのが悲しいところだけど、ひたすらソロを続けるだけだった僕にとっては、初めてのフレンドだ。
 これは素直に嬉しいなぁ。

「ありがとう。改めてよろしく、かな」
「こちらこそ〜。改めまして、よろしくねっ♪」

 お互い笑顔で、改めて握手を交わす。

「えへへ。それじゃ、また明日ねー、おやすみぃ」
「うん、また明日、おやすみなさい」

 ログアウトの操作をしたミスティスが、エフェクトに包まれながらもこちらに手を振るのに応えてから、僕も自分のログアウトボタンをタップした。

 こうして、内容が濃かった分だけ、いつもよりも少し長く感じた1日は終わりを告げたのだった。


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