note.010 SIDE:R

 そんなわけで、まずはともかく山道を降りて平地に出ると、程なくして正面に川と、そこを渡す橋が見えてくる。

「んじゃ、試しにまずは向こう側に渡るだけ渡ってみようぜ」
「な、なんかドキドキしてくるわね……」

 塚本さんは既に恐る恐るといった感じだったけど、ひとまず一旦橋を渡って、「西」の領域である住宅区に入る。
 まぁ、この辺りはまだ、例のエリアとは全然離れてるから、なんてことはないって感じかな。
 どこかの区画との境目ってわけでもないから、特段変わったところもなく、リアルそのままの光景が広がっている。

「確か、ちょっと北西に入った先に、更地になってるとこがあったよな。あそこがとりあえず気になったから、行ってみよう」

 現在地から見ると、件の雪エリアは、南西寄りの西側奥の方、九条君が行こうとしている更地区画はそれよりずっと手前の北西側、トワイライトゾーンは川に沿って山を回り込んだ先、少しだけ東寄りのほぼ真南、という感じだ。
 方向としては、山を降りた最初からいきなりの寄り道って感じだけど、多分まだ大丈夫な領域ではある……はず……。
 今のところリアルと変わらない景色なこともあって、勝手知ったるなんとやら、と言わんばかりにずんずんと進んでいく九条君に、一応警戒はしつつもついていく。
 そうして、4、5軒ほどの民家を通り過ぎると、唐突に視界が開ける。
 そこには、区画整備だけは施されて、とりあえず網目状に道路が通っているだけ、という状態で、たっぷり10軒分ほどに区分けされた更地が広がっていた。

「おぉ……ホントに更地になっちまってる。というよりこれは、ここに家が建つ前って感じか?」
「そのようだね」

 見れば、完全な真っ新というわけでもなく、まだ更地のところもあれば、基礎のコンクリートが打ち込まれていたり、はたまたその作業の途中だったり、既に柱が組まれていて大雑把に家の形の枠ぐらいは出来上がっていたりして、普段間近で見ることはまずないだろう、家の基礎工事の様子が手順の段階ごとに確認できるような状態になっていた。

「おー、すげぇな、こんな風に木枠でコンクリを流し込んでるのか」
「見て見て! どうなってるのかわかんないけど、隙間がほとんどわかんないぐらい、梁と柱でピッタリ組み合ってる」
「へぇ、ARクラウド用のサーバーシステムって、この段階で既に床下に埋め込まれるものなのか。これはなかなかに興味をそそられるね」
「うん、こんなに間近で見たのは初めてだよ」
「すげーなー……!」

 思わず時間も忘れて、しばしの間、普段絶対に見る機会のない工程に見入ってしまっていた。

「あ、見て、あそこ!」

 と、塚本さんが指差した先には、別の区画データとの境目らしい、こちら側の更地区画とで半ばから真っ二つにされた家が何軒か並んでいた。

「おぉ、ハハハ! こりゃすげぇや! お前らももうちょっとこっち来てみろよ!」

 いち早く駆け寄った九条君が、少し興奮気味に手招きする。

「これはまた……なかなか見られるものではないね」
「すげぇよなぁ。誰ん家だか知らねえけど、こんなにちゃんと内装までデータに残ってるもんなんだなぁ」

 九条君が目を付けた1軒の2階建ては、1階にはシンクの真ん中から真っ二つにされたキッチンと、その隣のダイニングと思われる、同様に、半ばから真っ二つにされて片側が完全に宙に浮いた状態ながらも何事もないかのように直立しているテーブル、その奥のリビングらしきスペースや、壁にかけられた風景画らしき額縁まで、完全に内装の形が残されていた。
 2階の方も、ベッドが2つ並んだ寝室らしき部屋や、そこから廊下と思われる狭いスペースを挟んで区切られた、書斎らしき机と本棚がある部屋などが見て取れた。
 こういうところから個人情報なんかが盗まれたりするからこそ、トラッシュエリアの侵入って基本的には犯罪行為とされてるんだよねぇ……。
 まぁ、現状はこうして入って外から眺めてるだけなら、取り締まられることはないんだけどさ。

「なんだか、横スクロールの2Dゲームみたい」
「あはは、確かにね」

 ポツリと漏れた塚本さんの感想に、みんなで一頻り笑い合う。

「そういやこれ、俺らん家とかどうなってんだろうな?」
「あ、ちょっと見てみたいかも!」
「待った、それは却下だよ」

 なるほど、確かにこういう光景を見るとちょっと気になる疑問だったけど、小倉君が異議を唱える。

「ここから僕らの家付近まで行くのはさすがに不味い」
「みんなの家ってどこなの?」

 僕の質問に、ふと空を確認した九条君は、落胆した様子で額を叩いて頭を抱えた。

「あー……マジか……。俺ら三人とも、あの雪の場所からちょい下った真南ぐらいなんだよな……。こりゃこっからじゃ近寄れねーわ……」
「あぁ……なるほどね……」
「あー、気になるなー! あれだ、こう、ぐるっと大回りとかして、近くじゃなくても、せめて見えるような距離までぐらいとかいけねぇかなー!?」
「ふむ……僕は厳しいと思うけどね」
「あたしもやめといた方がいいと思うなー……」
「やっぱきちぃかなー……しゃーねぇ」

 僕は正確なみんなの住所を知らないから何とも言えないけど、どうやら三人の中では自分たちの家周辺は満場一致で「アウト」と判断されたらしい。
 ……九条君が素直に諦めるぐらいってことは、まぁ多分、実際アウトだね。

「ちなみに聞くけど、高坂君の家は……?」
「近づくどころか、完全に雪降ってる範囲内だね」
「そりゃ残念」

 うん、僕の家ちょうどあの辺なんだよねぇ……。
 と言っても、僕は普段の僕一人なら普通にあの人にも会うし、ジッパチの自宅自体も日常的に拠点として使ってるんだけどね。

「あー、じゃあ、代わりにあそこ行ってみようぜ、あの『お屋敷』!」
「いいね、あの当時のままのデータが残ってるとしたら、僕も少し興味がある」
「あそこなら、雪のとことは全然方向も違うもんね」

 「お屋敷」というのは多分、九条君が山頂で見つけた、もう10年以上前の改築前の状態で存在している、この街の住宅区で一番広い面積を占めている屋敷のことだろう。
 確か、元々は大昔にこの遠堺一帯を管理していた地主の家系の人の屋敷らしく、改築前はいかにもといった感じの、木造平屋の古めかしい日本家屋だったはずだ。
 10年以上前に、当時の当主だったお爺さんが亡くなったのを機に、建物自体もだいぶ老朽化が進んでいたこともあって、改築。
 今はもう少しモダンな雰囲気の木造二階建てになって、お爺さんの子供に当たる人の老夫婦が、娘家族と一緒に住んでいるらしい。
 位置的にはトワイライトゾーンから少し南東、住宅区と駅周辺の商業区との境目辺りになる。
 比較的駅に近いとは言え、ジッパチの勢力図としてはまだ「西」の範囲だから、見に行く分に問題はないはずだ。

「じゃあ、行ってみようか」
「おう!」
「うん」
「おっけー」

 移動を開始しようとした瞬間――視界の端に何かが一瞬光った気がして、僕はふとそちらを確認する。
 あー……今のが見間違いじゃなければ多分、あの人にバレたかなー……。
 お屋敷に直行すれば、進行方向的には大丈夫だと思うけど……さて、一筋縄でいくかな……?

「どうした、高坂」
「あ、ううん、なんでもないよ、行こう」

 まぁ、多分何事もない……はず……。

 ひとまずはお屋敷への道を向かう。
 予想通り、途中までは何事もなかったんだけど……。
 最初にその「異変」に気が付いたのは、九条君だった。

「なぁ……なんだかさっきっから肌寒くねぇか?」
「言われてみれば……」
「ねぇ、これってヤバいんじゃないの?」
「いやいや、おかしいだろ、方向的にはあの雪の場所からは離れる向きだぜ!? なんでここでこんなに寒いんだ!?」

 慌てて全員で空を確認するけど、例の雪エリアに距離的に一番近くなる位置はとっくに通り越して、現在地からだと北西側に遠ざかっていくところだ。
 まぁでも、やっぱりさっき一瞬光った「アレ」は見間違いじゃなかったってことだろうね。
 多分これは、正体が僕たちであることまで把握してるかはわからないけど……少なくとも誰かが僕たちのいる位置をうろついてることは既にバレてて、とりあえずで警告を兼ねた威力偵察ってところかな?

 そうこうしているうちに、みるみる気温は下がり、ついに雪がちらつき始める。

「げぇ!? 雪降ってきた! なんでだ!?」
「これはまさか……『ラクトグレイス』!?」
「何だって!?」

 小倉君、さすがに察しがいいね。
 「ラクトグレイス」――ラクターとなって、仮想空間からのログアウトができなくなった人のアバターデータに稀に現れる、原因不明の異常能力のこと。
 誰が言い出したのか、「施錠」(ログアウト不能)を代償として授けられる「祝福」とされて「ラクトグレイス」と呼ばれている。
 どんな能力になるかはその人次第だけど、他人と同じ能力になった例はなく、発現した能力は全てその人固有のものになる。
 要するに、バトルものの漫画やアニメに出てくる超能力と一緒だ。
 まぁ、そんな力がある日突然手に入った人が複数現れれば、当然、多かれ少なかれ、能力を使った争いごとに発展するわけで。
 ラクターの間に発生するものという性質上、同じラクター同士や能力者同士で派閥が作られたりするのも必然的な流れで、主に各地のアングラを舞台に、そういった派閥や組織同士による熾烈な勢力争いが日々繰り広げられている。
 能力を悪用した犯罪やテロ行為なんかも頻繁に発生してるから、警察も専門部隊を作って対抗しているみたいだけど、あまり成果が挙がっているとは言い難いのが実状だ。

 厄介なことに、普通はリアルの身体に影響が出ないように各種の安全策で守られ、そもそも「傷を負う」という概念自体が実装されていないから、傷つくことはないはずのアバターデータに、ラクトグレイスは「傷をつける」ことができるんだよね。
 それによって、「死亡」してしまった場合は「デリート」と呼ばれて、アバターデータ破損によるエラーで強制ログアウト。
 それだけならまだいいけど、当然、その際には脳も相応のダメージを実際に受けたと勘違いしてしまうことが多く、リアルの身体にも影響してしまうことも多い。
 更に厄介なのが、ログアウトが不可能なラクターが「デリート」された場合で、アバター破損のエラーがログアウトできずにそのまま脳へとフィードバックされてしまい、脳死状態の植物人間と化してしまう。
 当然ながら、ラクトグレイス同士の戦いとは即ちラクター同士の戦いとなるわけで、能力者は常に命がけの戦闘を強いられることになる。

 まぁいろいろ説明したけど、つまるところ、ラクトグレイス能力の効果範囲に巻き込まれている現状って実は真面目に結構な命の危険があるわけで。

「これがラクトグレイス!? それにしたってこれは……」
「は、早くここから離れよう!?」
「あぁ、とりあえずは先を急ごう」
「うん」

 全員駆け足で、雪エリアから離れる方向へとお屋敷への道を進む。
 だけど、逃がす気はないと言わんばかりに、あっという間に周囲には足を取られる程の雪が積もっていく。

「さ、さささささ寒いっ! 何なのよこれー!?」

 たまらずといった様子で、塚本さんがシステムメニューを開いて、アバターを真冬用の防寒着に変更する。
 見れば、九条君たちも冬服に着替えていたみたいだ。
 こ、これは……僕も着替えよう、割と冗談じゃなくなってきた……。
 そうしている間にも、ますます雪足は強まって、気が付けば50cm先も見えているのか怪しいぐらいの猛吹雪と化していた。

 あー……これは多分、完全に誰がいるのかまでわかった上で遊ばれてるなぁ……。
 単に近寄らせないための警告なら、僕らが雪エリアを離れる方向に進んだ時点でそれ以上は必要ないはずだし、それ以前に、雪エリアに近い位置はとっくに通り過ぎた後のこんな場所でここまでする理由もない。
 多分だけど、僕が一緒にいることと、塚本さんの制服姿を確認した時点で全員南高の生徒と判断して、暇つぶしの玩具にしてるだけだね。
 あの人なら多分、それぐらいはするだろう。

 まぁでも逆に、わかってて遊ばれてるだけなら直接的な危害はないだろうから、僕としてはむしろ安心だ。
 ネタバラししてもいいけど……ここは黙ってあの人に乗っておこうかなぁ。
 みんなをジッパチに入れるのはこれで最初で最後にしておきたいしね。
 ……ただ、これ本当に遊んでるだけだよねぇ!?
 ちょっと確信なくなってきたよ!?

「し、死ぬ! このままだと凍え死ぬ!!」
「おぉーーーい!! みんな無事かーーーーーー!?」
「大丈夫だーーーーーー!」
「何にも見えないよーーー、ナオぉ〜〜〜〜〜〜!?」

 ビュウビュウと吹きすさぶ風で容赦なく雪が吹きつけられて、手持ちの冬服程度ではまるで意味を成していない、身を切るような寒さに、瞬く間に体温が奪われていく。
 みんなの声はなんとか聞こえるから、はぐれてはいないんだろうけど……。
 さすがにちょっとやりすぎだってば!

「クソっ! 何も見えねぇ! と、とにかく東だ! ARマーカーをとにかく東に! 全員に共有!」

 九条君の咄嗟のボイスコマンドは無事に認識されたようで、僕の視界にも東方向を示すARマーカーが赤く表示される。
 今の時代の音声認識システムって結構な精度になってるから、これぐらいアバウトな命令でもきっちり解釈して実行してくれるんだよね。

「よし、みんなあっちだ! はぐれないように、手は繋げそうか!?」
「試してみよう!」
「わかった! 塚本さん、大丈夫!?」
「うわ〜〜〜ん! みんなどこ〜〜〜〜〜〜!?」

 ほとんど機能していない視界の中、さっきまでのみんなの位置関係を思い出そうとしながら、とりあえず手探りで手を伸ばす。

「んん……お、よし、掴んだぞ! 誰だ!?」
「わぁん、ナオーーー!」
「リナか! よし、多分近くに二人もいるはずだ!」

 ひとまず、九条君と塚本さんはお互いを確認できたらしい。
 と、僕の指先にも何かが触れる感触があった。
 それを逃さないように、必死に目を凝らしながら手を伸ばすと、なんとか誰かの手を掴むことに成功する。

「掴んだ!」
「あ、じゃあこれは小倉君だね!?」
「高坂君か! よし、後は……見つけた!」
「オグ!」

 小倉君がどうにか塚本さんを見つけられたみたいだね。

「よし! 全員手は繋げられたな!?」
「うん!」
「問題ない!」
「大丈夫!」
「よし! じゃあこのままマーカーの方に進むぞ! 風が吹いてきてるから、道は繋がってるはずだ!」

 確かに、マーカーの方を向いてみれば、向かい風が絶え間なく吹きつけてくる。
 つまり、この先はちゃんとどこかに通じてるってことだね。
 ……一応、脱出させる方向に風向きは操作してあるってことね……。

「行くぞ!!」

 九条君の合図で、僕たちは風上に向けて一歩ずつ歩き出した。
 半ば感覚をなくしつつある互いの手を離さないようにだけ気を付けながら、すっかり膝上辺りまで積もった雪を掻き分けて、着実に進んでいく。

「クソっ、これホントに前に進んでんのか!? っつぅか、いい加減ここがホントに遠堺なのかも怪しくなってきたぞ!?」

 まぁ、そう思ってしまうのも無理はないレベルの猛吹雪だ。
 少しずつ前に進めてはいるはずだと思うんだけどね……。

 もはや全員無言のまま、掴んだお互いの手の感覚だけを頼りに進む。
 そうして、どれぐらいが経ったか……体感では数時間ぐらい歩いていたような気もする。
 ようやく風の勢いが弱まってきたことになんとなく気が付いた辺りで、段々と目に見えて視界が開けてくる。
 そこからは一歩ごとに移動が楽になるのが感じられるようになり、なんとか足が埋まらずに雪が踏みしめられる程度になったところで、

「よし、そろそろいいだろ、走るぞ!」

 という九条君に応えて、雪のない場所まで全力でダッシュする。
 足元の雪が完全になくなったところで、息も絶え絶えに後ろを振り返ってみれば、まるでさっきまでの吹雪など全て幻だったかのごとく、雪が降っていた形跡など欠片も残っていない、いつもの住宅区の光景があるだけだった。
 しかも驚いたことに、体感で数時間も歩かされたと思っていた距離は、この住宅区の標準サイズの一軒家で精々3軒分程度の距離にしかなっていなかった。
 ついでに、時間にしても30分も経っていない程度だった。

「ま、マジかよ……嘘だろ!? あんなに苦労して、俺たちが進んだのってたったのこれだけだったってのか!?」

 思わず全員で元いた場所に駆け戻ってみたものの、ただただリアルと変わらない、いつもの住宅区の一画が広がるばかりで、今度は気温も下がらず、それ以上何か起きる気配もなかった。

「ハ、ハハ……なんだよこれ……さっきまでの苦労は一体何だったんだ……」

 完全に放心状態で崩れ落ちる九条君。
 うん、気持ちはわかるよ……。
 やっぱりこれはやりすぎだよねぇ……。
 次にあの人に会ったら一言ぐらいは文句を言っておこうと心に決める。

「うえぇえぇぇぇん、怖かったよ〜〜〜ナオぉ〜〜〜〜〜〜!!」
「あー……よしよし……」
「うぅぅ……死んじゃうかと思ったぁ……ふえぇぇぇ……」

 同じようにへたり込んで、完全に大泣きで泣きつく塚本さんを、九条君はされるがまま抱きとめて、ポンポンと頭を撫でてあやしてやっていた。

「ラクトグレイスね……そういう力があるとは聞いていたけど、まさかこれ程のものとは……。正直、二度と関わるのは御免だね」

 とは、小倉君の弁だ。
 うん、まぁ、今回はある意味、相手があの人だったおかげで遊ばれただけで済んだようなものだから、まだ運が良かった範囲だと思うな。
 ……でもやっぱり後で文句は言おう。

「今にして思えば、あのエリアに雪が降っているのは、他の区画みたいな環境データの設定じゃなくて、ラクトグレイスで降らせてるものだったというわけかい……」
「はぁ……まぁでも、こうしてここまで戻っても何も起きないってことは、多分もう大丈夫だろ」
「うん、そうだね」

 多分、一通り遊んであの人も満足したってところかな……。
 僕もさすがに少しうんざりして、思わず何処ともなく空を見上げると……おそらく今度は僕に見えるようにわざとだろうね、空の1点が、さっきの更地エリアで見かけたように、一瞬キラリと光ったのが見えた。
 あぁ……一応、監視はつけてるぞって言いたいのかな。
 思わず、恨みがましい視線を光った方向に向けてみるものの、それ以上空からの反応が返ってくることはなかった。
 まぁ、あの人からすれば僕がみんなを連れてきた目的が不明だろうからね。
 それぐらいは仕方ないかな。

 塚本さんがようやく落ち着いてきたところで、九条君が手を貸しつつ、一緒に立ち上がる。

「あ〜……んじゃまぁ、そろそろ次行こうぜ」
「えぇ〜……まだ行くのー?」

 塚本さんはだいぶ懲りたようだけど、九条君はあくまで目的を諦めるつもりはなさそうだね。
 その折れない精神力は正直尊敬するよ。

「まぁ……あとはお屋敷と境橋を見に行くだけなら多分平気じゃないかな。別に根拠とかないけど」

 内心、確信はしてるけどね。

「ふむ、それだけなら、もうあちらに近づくことはないし、大丈夫だと思いたいね」
「ま、行ってみりゃわかんだろ」
「全く、君は本当に懲りないね」

 小倉君はやれやれと両手を広げて(かぶり)を振りつつも、それ以上引き留める気もないようで、特に誰からともなく防寒着からそれぞれ元のプリセットにアバターを再設定した僕たちは、再びお屋敷を目指して歩き出した。


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