note.015 SIDE:N

 カジマを先頭に、裏口から事務所を出たマイスたちは、ジッパチ内の住宅区を進んでいた。
 その後ろをついていきながら、ユイリィはキョロキョロと辺りを見回す。

「あの……この街は一体……? 昼だったり夜だったり夕方だったり……あっちこっちツギハギだらけです」
「そっか、来る時は寝てる間に僕が運んだから、此処をきちんと見るのは初めてだっけ」
「面白れぇだろ? この街は遠堺市っつぅんだけどよ。此処はその遠堺で唯一のアングラ、『遠堺パッチワークス』ってんだ。ま、オレたちゃ大体、遠堺の『遠』を数字の『10』の『とう』に読み替えて、『ジッパチ』って略してんだけどな」

 そうして、しばらく辺りを見回していたユイリィだったが、ふと前方の一画、季節外れの雪が降るエリアに気が付いて指差す。

「もしかして、あの雪の降ってるところに向かってるんですか?」
「おうよ。見ての通り、普通に雪降ってる程度には寒ぃから、何だったら冬服用意しといた方がいいぞ」
「わ、わかりました」

 カジマに言われて、ユイリィは幾分緊張した面持ちで、いそいそとARコンソールから冬用のコートを手元に呼び出す。
 そのまま歩いていくと、程なくして肌でも感じられる程に気温が下がり始める。

「わぁ……本当に雪が降る寒さなんですね。は〜っ! ……ほら、もう息が白いです」

 と、コートを着込んだユイリィがはしゃぐ。
 そのユイリィの鼻先に、何か冷たいものが触れて、

「ひゃっ!? わぁ……! 雪……すごいですっ! あははっ」

 暦の上ではとっくに夏であるこの時期にはあり得ない光景に、ユイリィは思わず童心で駆け出した。
 気がつけば足元はすっかり雪で覆われて、真っ新な新雪のキャンバスに、彼女の足跡だけが刻まれていく。

「すごいです! こんなに雪が積もってるの、初めてです!」

 一通り駆け回って満足したのか、ユイリィはくるりと二人の方に向き直って、目をキラキラと輝かせる。
 心底から楽しそうに笑顔を振りまく少女の姿に、思わず見惚れそうになったマイスだったが、カジマの台詞が意識を引き戻した。

「ハハハ。まぁ、はしゃぐのもいいが、そろそろ到着だぜ。こっちだ」
「あ、はいっ!」

 ユイリィの走った場所より一つ手前の角を曲がるカジマに、マイスと、再び少し緊張した面持ちで駆け戻ったユイリィが続く。

 角を曲がった先は、少し歩いた突き当りがT字路になっていて、そこにちょうど正門を構える形で、周囲よりも少しだけ大きめの、2階建ての一軒家があった。
 その正門の右側では、学校の制服姿と思しき黒い長髪の少女が、雪だるまを作っているらしい姿が見えた。

「えっと、あの人がもしかして……?」
「うん。これからユイリィさんを匿ってもらおうと思ってる人」

 マイスの後ろから覗き込むようにして、少女のことを確認しようとするユイリィに、マイスは肯定で返す。

 近づくにつれて、少女の容姿がはっきりとしてくる。
 下腕部3分の2ぐらいまでスリットが刻まれて袖口の広がった、青みの強い紺色に臙脂色の返し袖がついたブレザーと、同じく両側面にスリットが切り込まれて、その下の白地とレース地との三重構造になった赤いタータンチェックのフレアスカートの組み合わせは「南高」の冬服。
 首元には深緑色のマフラーが巻かれ、ブレザーの下は指定のブラウスの上にクリームイエローのセーターを着込んでいるようで、スリットと袖口からは、掌が少し隠れる程度の丈の、淡い黄色が見え隠れしている。
 腰まで伸びたストレートの黒髪に、少しつり目気味の大きな蒼い瞳は黒猫を思わせ、整った目鼻立ちもあって、成熟した猫の凛とした怜悧さと、仔猫のような年相応のあどけなさが不思議と同居していた。

「綺麗な人……」

 それが、ユイリィから少女への、率直な第一印象だった。

 少女の顔立ちがはっきりとわかる距離になったところで、彼女の方も来客に気が付いたようで、こちらに顔を向ける――と同時に、その表情は明らかに不機嫌の色が強くなり、氷を思わせるほどに怜悧さを増した。
 少女はブレザーの内ポケットから煙草らしきものを取り出すと、慣れた手つきで火をつけて煙を吸う。

「……何をしに来たの、カジマ……と、高坂 大樹」

 敵意……というよりは、あからさまな鬱陶しさが多分に籠った少女の第一声。

「あはは……こんにちは、ミノリさん」
「よぅ、ミノリ。すまんな、ちっと厄介な頼み事が出来ちまってよ」
「断るわ」

 間髪入れずの即答。

「おぉぅ、わかっちゃいたが即答だな……。だが、すまねぇがもう既に半分ぐらいは確定事項なんだわ、おそらくはな」
「はぁ? 何よそれ。あまりふざけたこと言うようなら……」
「まぁ、待て待て! とりあえず説明すっから、まずは話だけでも聞いてくれや」

 一瞬、少女の苛立ちに連動するようにして、明らかに肌で感じられる程に周囲の気温が下がる。
 カジマがなんとか「ミノリ」と呼ばれた少女を宥めすかしたところで、マイスの背中から恐る恐るといった様子でユイリィが顔を出す。

「あ、あの……こ、こんにちは……」

 おずおずと挨拶するユイリィを見て、少女は少し驚いたように、怪訝そうに片眉を吊り上げた。

「……この子は何? 説明して」
「話ぐれぇは聞く気になったか。まぁ、頼み事ってなぁこの嬢ちゃんのことなんだがな」

 と、ひとまず話を進められそうなことに安堵して、やれやれと頭の後ろを掻くカジマに、マイスが話を引き継ぐ。

「とりあえず、紹介するね。この子はユイリィさん。ちょっと訳あって、僕が助けたというか、実質僕が助けられたというか……まぁ、詳しい事は後で話すよ。えっと、それで、この人はミノリさん。一応、僕の同級生で……このジッパチでラクトグレイスを持ってる二人の内のもう一人なんだ」

 ミノリ――こと、本名「柏木 実里」は、所属上はマイスと同じクラスの同級生になる。
 しかし、元々素行不良気味であったことに加えて、高校入学のほぼ直後にラクトグレイスを発現し、ラクターとなってからは完全に不登校となっていた。
 その後はラクトグレイスを使ってジッパチの「西」の支配者となって引き籠っていたため、当初は行方もわからず、そのまま不登校で退学かと思われたが、ジッパチに迷い込んだマイスをカジマが引き合わせたことにより、渋々ながら彼を通じて学校の課題データ等を受け取ることとなり、なんだかんだで渡された課題は一通りこなしているらしく、進級試験にも無事合格、現在も不登校ではあるものの、所属上は南高の2年生に在学中になっている。

「えと、は、はじめましてっ! ユイリィって言います! よろしくお願いします!」
「……フン……ミノリよ」

 完全に萎縮して、深々と頭を下げるユイリィに、ミノリは、そっぽを向いて煙を吐き捨てつつながらも、最低限名乗ることにはしたようだった。

「それで? この子があたしと何の関係があるわけ?」
「あー……どっから説明すっかな……あー……この嬢ちゃんな、どうにも厄介なラクトグレイスを抱えちまったみたいでな。それでどっかの組織に追われてるらしいんだわ。んで、追い回されてたところにちょうどマイスの坊主が通りがかったみてぇでな、成り行きで助けてここまで連れてきたんだ」
「ふぅん。で? 何でそれをあたしに持ってきたわけ?」

 ミノリはほとんど興味なさげに、煙草を燻らせながら先を促す。

「まぁ言っちまえば、オレの代わりに嬢ちゃんをしばらく預かってやって欲しいんだわ。嬢ちゃんを追ってるのが、どうもかなりでけぇ組織みたいでな。嬢ちゃんには、また追手がかかる可能性が高ぇ。んで、嬢ちゃんも嬢ちゃんで行くアテもねぇっつぅもんで、どっかに匿ってやらなきゃならねぇんだが、オレが預かるよりかは女の子同士の方が嬢ちゃんも安心だろうと思ってな」
「断るわ」
「ミノリさん、少しは話を……」

 全く態度を変えずに即断で断るミノリに、マイスが抗議しようとするも、

「嫌よ。何であたしがこんな見ず知らずの子なんか……。それに、ラクトグレイス持ってるんでしょ? ラクトグレイス持ちの身の安全はまず自衛が鉄則。まさか今更忘れたわけでもないでしょう?」

 と、取り付く島もなく、ミノリの姿勢は変わらなかった。

「そう……ですよね、やっぱりダメですよね……ごめんなさい、私みたいなのが初対面でいきなりこんな……」
「あぁ、待て待て嬢ちゃん、落ち込むにゃあまだ早ぇ」

 事情を聞いた上ですげなく断られて、落ち込むユイリィにカジマが待ったをかける。

「まぁ、普通なら確かに自衛が一番だ。普通なら、な」
「……どういうこと?」

 そこで一旦、カジマは声を潜めてミノリに耳打ちする。

「嬢ちゃんのラクトグレイスをこのまま外に放り出しちまうのはいろいろとマズい」
「……はぁ?」

 怪訝な顔になるミノリだったが、カジマは声のトーンを戻してユイリィに尋ねる。

「嬢ちゃん、例のラクトグレイス、今見せてやれるか?」
「えっと……」

 ユイリィは、一度考え込むように目を閉じて、見開き、

「やれますっ!」

 頷いて、ユイリィは、ミノリが作っていた雪だるまに歩み寄る。

「すみません、少しお借りしますね」
「……? 何を……」

 と、ミノリが確認する前に、ユイリィは雪だるまの腕に使われていたモップを引き抜いてしまう。

「ちょっ、何を……!」
「見ててください」

 それなりに労力をかけて形になってきていたものを壊されそうになって、止めに入ろうとするミノリ。
 しかしそれを押し留めて、ユイリィは自身もモップを抱えたまま、雪だるまから一歩下がる。

「えっと……こうして……ここの……これっ!」

 モップが刺さっていた位置を軽く指差してから、再び考え込むように目を閉じたユイリィが、その目を開いた瞬間――

 [ログ取得:空間情報]のARウィンドウがユイリィの前に浮かび、同時に、モップが刺さっていた空間がワイヤーフレームで囲まれる。
 次の瞬間には、元のモップはユイリィが手にしたままにも関わらず、雪だるまには引き抜く前と全く同じようにモップが差し込まれた状態が復元されていた。

「は……? えっ、何、どういうこと!?」
「こりゃあ……すげぇな、オレも坊主と嬢ちゃんから話を聞いただけだったが、実際見るとやっぱり、規格外にすぎる」

 あっけにとられて咥えていた煙草を落とすミノリと、話には聞いていても信じきれない様子で目を丸くするしかないカジマ。

「えっと、ごめん、今のもう1回、見せてくれる?」
「はい。じゃあ、えっと……こう!」

 せがまれて、ユイリィがもう一度指差すと、また[ログ取得:空間情報]のウィンドウと共に、今度は復元前の状態に、モップが再び消去される。

「なんだかちょっとだけ、使い方がわかってきました。今なら……えいっ!」

 ユイリィの掛け声に合わせて、今度は彼女がその手に持ったままだったモップが、ワイヤーフレームのポリゴンデータに変換される。
 そうして一瞬後には、[ログ取得:位置情報 オブジェクトID:――]の文字と共に、対応するオブジェクトIDらしき英数コードが表示されたウィンドウが現れて、ユイリィの手からモップが消える。
 消えたモップは、一瞬のワイヤーフレーム表示と共に、元通り雪だるまの腕として差し込まれた位置に戻っていた。

「これは……驚いたわね……。ログの取得……? 仮想空間の構成データそのものへの直接干渉……そんなラクトグレイス、聞いたことがないわ」

 驚愕の表情を浮かべるミノリに、カジマの顔も真剣なものに戻る。

「あぁ。そんで、こいつを下手に外に出すのはマズいってのぁ、考えなくてもわかるだろ」
「……そう、ね……この子が……というよりは、この子の力が、渡るところに渡ったら、それこそ世界のパワーバランスがひっくり返るわ。ラクトグレイス同士の戦いで趨勢が決まる、今の裏世界では特に、ね」
「そういうこった。むしろ、今ここにこうして嬢ちゃんが無傷でいてくれてるっつぅ奇跡に、オレたちゃ感謝しなきゃいけねぇかもしれねぇぞ」
「全く、厄介なモノを持ってきてくれたものね、高坂 大樹」
「前から言ってるけど、せめて他の人がいる時にはマイスって呼んで欲しいなぁ……」
「あはは……私は聞かなかったことにしておきますから……」

 フン、と鼻を鳴らして聞く耳持たずのミノリに、がっくりと項垂れるマイスを慰めようとするユイリィ。
 ユイリィはおずおずとミノリに尋ねる。

「あの……私のラクトグレイスって、やっぱり何かおかしいんでしょうか……」
「そうね、規格外もいいところだわ。少なくとも、あなたをこのジッパチから放り出すわけにはいかない程度には」

「その通り。その力は異端だ――」

 突然、あらぬ方向から割り込んだ男の声。

「誰だ!?」

 声のした方を見れば、鉄パイプやナイフ等、思い思いの武器で武装した集団を従えた、マイスたちと同程度の年齢に見える青年の姿があった。
 青年は、黒と黄色のパーカーに、黒のカーゴパンツ、鍔を後ろ向きに被ったキャップという、ストリートギャングのような出で立ちだったが、どういうわけかその足だけは、降りしきる雪の中だというのに裸足だった。

「え、えっ!? 何!?」

 と、明らかに友好的ではない集団の襲来に怯えるユイリィを、マイスは庇うようにしてその前に立つ。

「一応、はじめまして、と言っておこうかな。ボクの名はカタギリ。『権の使徒』カタギリ。我らが唯一の神である『ルーラー』の名の下に、異端の魔女に神罰を下しに来た」
「『ルーラー』、『魔女』……『使徒』だと? さてはテメェ、『ニューズ』の能力者か!」

 ミノリと共に、マイスたちを後ろに隠すように数歩前に出て、カジマは「カタギリ」と名乗った青年に問い返す。

 「ニューズ」――正式名称「ルール・オブ・ニューズ」。
 「ルーラー」と呼ばれる存在を仮想空間世界の「唯一神」として崇め、ラクトグレイスを「神より授かりし恩恵」として信奉するカルト宗教の形式を取った、現在の裏世界で最大の勢力を擁するラクトグレイス能力者組織。

 彼らこそがユイリィに差し向けられた追手の正体と悟り、カジマは内心で苦虫を噛み潰す。

 カジマの問いに、カタギリは見た目には似合わぬ宗教家めいた口ぶりで返した。

「『ニューズ』……その呼び方はあまり好きじゃないね。我々のことはこう呼ぶべきだ。『新世界秩序』と」
「ハンッ、何が新世界だか。秩序から最も遠いところにいるお前たちが、よく言うぜ。片腹痛いわ!」

 鼻で笑ってみせたカジマの反論も、さして気に留めた様子もなく、カタギリは逆に小馬鹿にするように両手を広げて、大袈裟に肩を竦めながら頭を振る。

「やれやれ、嘆かわしいことだ。ラクトグレイスの恩恵を受けておきながら、我らの創る新たなる理想が理解できないとはね」
「ハッ! テメェらの世紀末じみた理想論なんぞ端っからクソ喰らえだ」
「なんと愚かな……。まぁ、いいさ。いずれ解ることだ。今はいい」
「ふぅん……で? 後ろのあんたたちは……『北』の馬鹿共ね?」

 カタギリに従えられた武装集団の方に、ミノリが目をつける。

「んだとコラ!? 誰がバカだって? あぁん?」
「うわぁ……なんかもうその反応が既に馬鹿っぽ〜い」

 馬鹿呼ばわりに俄かに殺気立つチンピラ集団の威圧も、まるで意に介さずにミノリは更に煽り返す。

「ジッパチの勢力図で自分たちだけラクトグレイスを持ってないからって、能力者欲しさにニューズの下っ端に成り下がったってところ? 本当に救いようのない馬鹿っぷりよね」
「クソアマがぁ! 殺す……ぜってーブチ犯して殺す……!」

 露骨に憐みの目でわざとらしく額に手を当てて頭を抱えてみせるミノリの態度に、集団の殺意もいや増していく。

「フン、余裕ブッこいてられんのも今の内だぜ、『スノークィーン』! 我らは既に使徒様より神のご加護を授かったのだ!」

 「スノークィーン」はジッパチの『西』と呼ばれる区画、天候が常に雪で固定された周辺の一帯を一人で支配しているミノリに対してつけられたあだ名の一つだった。

「あぁ、そうだったね。どれ、一つ見せてやるといい」

 集団の一人の台詞に、思い出したようにカタギリが視線で促す。
 その視線の先にいた、集団の一番手前の壁際にいた一人は、ニヤリと薄ら笑いを浮かべると、手にした鉄パイプを何でもないように素振りする。
 傍目には大した力も込められていなかったように見えたその素振りの先端が、集団の右手側にあったブロック塀に軽く触れた途端――触れた位置を中心に、ブロック塀の一角が爆発を起こして跡形もなく吹き飛んだ。

「ひぅう!?」

 すっかり怯えたユイリィが、マイスの後ろで縮こまる。
 しかし、ミノリとカジマは全く動じていなかった。
 むしろ拍子抜けすらした様子で、

「……あー、うん、で? 加護とか言うのはそれだけ?」
「テ、テメェ……状況わかってんのか? 俺たち全員がこの加護を受けたんだぞ、テメーらは今日でお終いなんだよ! 今日からこのジッパチは我らの創る『新世界秩序』によって支配されるのだ!」
「……とか言ってるんだけど、カジマー」
「あー、いやー、オレに振られてもな……。好きにすればいいんじゃねぇの?」

 何を言っているのか本当に理解ができない風に集団を指差すミノリに、我関せずを決め込もうとするカジマ。

「こんの……――」
「まぁまぁ、少し待ちたまえ」

 怒りのままに襲いかかろうとした集団を、カタギリが一度押し留める。

「我々は秩序であって、無法集団ではないよ。交渉の余地を少しだけあげようじゃないか」

 カタギリは一歩前に出て言葉を続ける。

「正直なところ、使徒たるこのボクがわざわざ出向いてきた理由はただ一つ。そこの――」

 マイスの後ろに身を隠そうとするユイリィを指差して、

「『異端の魔女』をこちらに引き渡してくれればそれでいい」

 しかしてそれに、カジマは鼻で笑って返した。

「ハン、この流れではいそうですかと答える奴がいると思ってんならテメーの頭ん中はどんだけお花畑だよ!」
「……そうかい。ボクとしては最後のチャンスをあげたつもりだったんだけどね。なら仕方がない。異端を庇い立てするのもまた異端だ。異端者には神罰を!」
「おう、グダグダ言ってねぇでさっさとかかってこいよ! 《位相変換(メタモルフェイズ)》!!」

 突如、カジマの全身が光沢を帯びた金属色へと変質する。
 その姿は一瞬にして、体毛の一本一本まで精緻に彫刻された彫像のようになっていた。

「ふぅん。それが君のラクトグレイスというわけかい」
「そういうこった。見ての通り、オレの身体の材質は自由自在よぉ。ちなみに、今のこいつは強化タングステン合金だ――」

 文字通りの肩慣らしと言わんばかりに軽く肩を回してから、拳を握り込んだカジマは、脚を踏み込んで、

「死ぬほど痛ぇぞッ!!」

 一足飛びに距離を詰めてカタギリへと殴りかかる。
 それに応じる形で、カタギリもバシャリと足元の雪を巻き上げながら飛び込んでいく。

「あーあー……なんか勝手に始めちゃったし、んじゃ、あんたたちの相手はあたしがするってことでいいのね?」

 取り残されたチンピラ集団に向かって、呆れ気味にミノリが歩み出る。
 対するチンピラ集団には、若干の動揺が広がっていた。

「ぐ……や、やれるのか? 俺達だけで……」
「畜生、そもそも何で今日に限ってカジマのヤローまで一緒にいやがるんだ!?」
「うっ、うろたえるな! 今の俺達には加護のお力がある! この数の差なら俺達だけでもやれる!」

 何の気もなさげにただ集団に向かって数歩歩いただけのミノリに対して、道を開けるようにしてじりじりと半包囲していくチンピラ集団。
 ある程度の包囲がそれとなく完成したところで、待ちくたびれたとでも言うようにミノリは告げる。

「……で、話はまとまった? まとまったんならさっさと始めてくれないかしら? ほら、初撃のチャンスぐらいはあげるから、かかってきなさいよ」

 そんな気だるげなミノリの台詞が、開戦の合図となった。


戻る