note.032 SIDE:G

 なんとか、全員無事に青ゴブリンを倒すことができたみたいだね。

 さて、これで普通に終わりかと思っていたら、マグナムブレイクの土煙が晴れた後になっても、青ゴブリンを倒したフォトンは靄のようにその場に漂い続けていて……あれ?フォトンの色が……虹色(・・)
 と思った瞬間には、最後に取り落とされたまま残されていた、青ゴブリンのものだった片手剣へと、虹色のフォトンが収束していく。
 フォトンは剣に近づくにつれて白へと色を変えていき、最終的に、剣はひとりでに浮き上がって、真っ白くフォトンの球体に包みこまれてしまう。
 収束が収まると、フォトンクラスターに触れた時と同じように、球体はふにゃりと片手剣に姿を変えて、フォトンを弾き飛ばすと、浮く力を失ってその場に落下した。

「ふ〜〜〜……大丈夫だった?」

 それを見届けたミスティスが、剣を収めつつ傍らの少女たちに声をかければ、

「た……助かりましたぁ〜……」

 緊張の糸が切れたのか、支援役だった子がふにゃふにゃとへたり込んでしまう。
 その彼女には、弓役の子がすぐに駆け寄って、背中をさすったり、MPポーションを渡したりして介抱してやっていた。

「えぇぇっと、あの、ありがとうございました! 本当に助かりましたっ!」

 と、盾役の子が深々と頭を下げる。

「あ〜、いいのいいの。依頼で衝突してるんでもないんだから、こういうのは冒険者同士お互い様だよー」
「あ、ありがとうございます」

 ミスティスの言葉に、さすがにまだ幾分恐縮した様子で顔を上げた盾役の子は、茶色のボブカットに藤色の瞳が印象的で、装備はミスティスと同じような、片手剣と盾の組み合わせにこのLv帯では普通な動きやすいスカートルックに要所を護る軽鎧、といった感じだったけど、鎧は胸当てというよりはお腹までしっかりと覆うプレートメイルと呼べそうなものだったり、腰回りにも簡易的ながら前垂れの装飾がついたスカートアーマーを纏っていたりと、ミスティスと比べると幾分か防御力を重視したような格好をしていた。
 はきはきした喋り口は、普段ならもっと快活な子なのかな?という印象を受ける。

「そっちの二人も、大丈夫ぅ?」

 と、ミスティスが残る二人にも声をかけると、支援役の子も立ち上がれるぐらいには落ち着いたようで、

「はい、もう平気です。お手数をおかけしました」
「本当に、本当にありがとうございましたっ」

 支援役の子は礼儀正しくぺこりと一礼。
 弓役の子は、なんというかもう、ひたすら恐縮しきりという感じで何度もお辞儀を繰り返していた。

 支援役の子は、かなり小柄なのが印象的で、多分見た目150cm台半ばぐらい?なミスティスよりもまだ小さいので、もしかしたら身長は150cmを切っているかもしれない。
 身長相応の……まぁ言ってしまえば幼児体型と、首筋辺りまでの長さで小さくまとめた空色のポニーテールに、同じ色のつぶらな瞳をした童顔とあって、見た目にはかなり年下に見えてしまうけど、ミスティスへの対応を見ると、多分僕たちとあまり年代は変わらない、かなりしっかりした子、という印象を受ける。
 服装は、ツキナさんのような聖職者風、というよりは、どちらかと言えば僕に近い、魔導師風のワンピースタイプのローブで、腰元をアイテムポーチのベルトで緩く縛ってある、という感じなんだけど……。
 なんというか、魔法使いというよりは、こう、中学校入りたての子が、その後の成長を見越したぶかぶかのコートを着せられてるみたいというか……うん。
 失礼とは思いつつも、そのせいで尚の事幼く見えてしまっているのは否定できない……。

 ……っと。

 対する弓役の子の方はというと、対照的に、僕と同じ年代の女の子として見るとなかなかの長身で、僕が最後に身体測定で測ったのが確か169cmだったから……多分、162か3cmはありそうな感じだ。
 背中ぐらいまではありそうなストレートロングの黒髪と黒目は、キャラクリがかなり自由なこのゲームではだいぶ地味に見えるけど……あえてリアルの色から変えずにやってるのかな?
 手足が長めでスレンダーながら出るところは出ている、という感じの体型は、長身と相俟って、見る人によってはモデルさんのような理想形、と羨ましがられるかもしれないね。
 服装は白を基調に、チュニックのような上着の腰元を、矢筒を提げたベルトで締めてワンピーススカート風にした下に、トレンカレギンスっていうのかな?靴の中まで繋がってる感じのぴっちり目のパンツスタイルにブーツ、女性の弓手として一般的な、胸部は右胸だけ覆うタイプの胸の膨らみに弦が当たらないように保護する金属製の胸当てに、他は弓の動作を阻害しない簡素な革鎧、という感じだね。
 未だにペコペコと頭を下げ続けている辺り、だいぶ気弱そうな人、という印象だ。

「あははっ。いいっていいって、気にしないの。 あ、そだ、私はミスティス! よろしくねっ♪」

 すっかり水飲み鳥のおもちゃみたいになってしまっている弓役の子を抑えつつ、自己紹介したミスティスに続いて、僕たちも軽く名乗る程度に自己紹介する。

「あ、ぁと、私はエイフェル、といいます」
「アタシはモレナ!」
(うたい)といいます。よろしくお願いします」

 順に、弓役の子がエイフェルさん、盾役の子がモレナさん、支援役の子が謡さんだね。
 名前を確認すると、3人ともNPCではなく、プレイヤーのようだ。

「よろしくね〜♪ あ、そうそう、これこれ」

 と、ミスティスは、さっきのフォトンを纏ったっきり忘れられかけていた片手剣を拾い上げる。
 そう言えば、さっき消えていくはずのフォトンがこの剣に集まったのはなんだったんだろう、と見てみれば、剣は青ゴブリンが持っていたものとはどう見ても完全に別物に姿を変えてしまっていた。
 ど、どういうことだろう?
 さっきオグ君が言ってた、魔物の力が武器に宿る、と言うのが、倒した時に消えるはずのフォトンを使って残された剣に対して発生したってことなのかなぁ?

 剣の柄は、さっきの青ゴブリンの肌を思わせる薄ら暗い青色に変わっていて、鍔からはゴブリンの牙のようなハンドガードを兼ねた装飾が持ち手側に向かって伸びている。
 刀身は、カトラスと柳葉刀のあいのこ、とでも言えばいいのかな、先端になるにつれて幅広になりつつ、刀身全体にわずかに反りがついたような、いかにも切れ味のよさそうな形に変わっていた。

「はいこれ、渡しておくね」

 ミスティスはモレナさんに剣を渡そうとしたんだけど、彼女は慌ててそれを突き返す。

「い、いやいやいや、さ〜すがにもらえませんってば! 倒したのほとんどそっちのパーティーですし!」
「え〜? でも、先に見つけてあそこまで戦ってたのはモレナたちだし、私たちはたまたま通りがかっただけだよ。こういうのは先に見っけたもん勝ちだって、ほらほら♪」

 と、ミスティスは半ば押し付けるようにして、モレナさんに剣を握らせてしまう。

「うー、あー、まぁ、そういうことならもらっときますけど……」

 モレナさんも素直に押し切られておくことにしたようだ。

「うんうん、よしよし! あ、ちなみに見てなかったけどどんな性能してるの?」
「待って、えーっと……なになに?」

 聞かれて、モレナさんはアイテム詳細を開いたのだろう、いくつか空中に操作を加える。

「『蒼鬼の闘剣』、ハイゴブリンの力を宿した片手剣……Str+5%!? 攻撃力も……す、すごい、今のLvでドロップするものとしては破格じゃない!?」
「おぉ〜、さすがはブーステッドドロップだね!」
「ブーステッド……?」

 ブーステッドが何なのかわからなかったのはモレナさんも一緒だったみたいで、僕とほぼ口を揃えて同じように聞き返していた。
 エイフェルさんたちも、聞き慣れない単語に首を傾げている。
 と、すぐにオグ君が解説してくれた。

「ブーステッドMob、というのは、フォトンクラスターに触れることによって上位種に進化したMobのことさ。ハイゴブリンというのがさっきの青いゴブリン……ホブゴブリンの上位種族に当たる。フォトンクラスターとして集まったフォトンを、肉体の強化に使ったのがブーステッドMobだ。まぁ、さっきの戦闘でわかったと思うが、大体のパターンでダンジョンの適正Lvから2ランクぐらいは上の強さになってしまう。だがそれだけに、倒せた時のリターンもでかい。おそらくだが、今ので全員Lvが上がったんじゃないか?」
「あ、うん、上がってるー」
「上がってます」
「そうですね、上がってます」

 そう言われてみれば、気にしなかったけど、僕も青ゴブリンでLvは1つ上がっている。
 青ゴブリンの前にLvアップしてから、まだそんなに時間は経ってなかった気がするし、その上で今の経験値ゲージも62%にまでなっている。
 これは……タイミング次第では2Lv一気に上がってたんじゃないかな。

「この人数で割ってもそれだけの経験値ということだ。なかなかのものだろ? 実際、ブーステッドMobと同じLv帯の敵と比べても、遥かに多い」

 確かに、そう考えると凄まじい経験値量だね。

「そして、その剣……ブーステッドドロップだ。さっきの倒した後のことは見たとは思うが、ブーステッドMobの討伐に成功すると、そいつからは確定で固有のレア装備がドロップするんだ。これもやはり、Mob本体同様に、そのダンジョンで本来手に入るラインナップよりも2ランク程度上の装備が手に入る。このゲームのダンジョン探索において、ボスをも上回る最大のハイリスクハイリターン要素と言うわけさ」
「なるほどー」

 僕とモレナさんたち4人で頷く。

「そ、それを聞くとなおさらもらいにくくなったような……」
「いーのー。もう返品はなしだかんね〜」
「う、うん。じゃあ、ありがたく使わせてもらおっかな」
「うんうん、大事にしてねっ」
「そーするよ」

 と、遠慮気味になっちゃうモレナさんだけど、ミスティスは彼女のものということで譲る気はないようだ。

「ちなみに、ブーステッドMobが発生した場合、まぁ適正Lvで挑むと大体あんな強さだ。とすると、そのダンジョンを狩場にしてる人たちでは誰も倒せない、というような事態がままある。そういう時には、ブーステッドMobの討伐が斡旋や指名の依頼に指定されることもあるから覚えておくといい。もちろん、依頼としては討伐に適正なLvの人に回されてくるから、積極的に倒せる自信があるなら希少なレア装備が手に入る格好のチャンスになる」
「はぇー……」
「勉強になります」

 オグ君の解説に、モレナさんたちが頷いたところで、ふとミスティスが思い出したようにポツリと。

「あー……それで思い出した、これだったら、今朝ちゃんとギルド見てればあいつの討伐依頼が出てたかもしれないね〜」
「ふむ、奴がいつからうろついていたのか知らないが、確かに可能性はあったかもな」

 それを聞いてちょっと思案気なオグ君だったけど、

「ま、帰りに事後報告でいいでしょ。依頼になってたらもらえるものはもらえるし」

 と、気楽そうなツキナさんに、

「ま、それもそうだな」

 オグ君も軽く肩を竦める。
 いや、っていうか……

「え、そんな適当でいいの?」
「あぁ、何も問題ないぞ。特に、今回みたいなMobの討伐依頼となると、たまたま出かけた先でなんか強いのいたけど倒してみたら実は依頼の出てる討伐対象でした、なんて話は珍しいことじゃないからな。それに、ギルドとしても依頼として出しているのにいつの間にか倒されてて引き受けた人に報酬が出せませんでした、という方が問題になる。だからむしろ、この手のMobが倒せたら確認報告は義務だ。オーブで戦果さえ確認できれば、依頼が出ていようがいまいが報酬になる。ついでに、依頼が出てた場合ならその依頼を受けて達成した扱いにもなって更に追加報酬だ」
「なるほど」

 確かに、この世界の情報伝達速度なら普通にしょっちゅう発生してそうなパターンだね。
 一応、そこら辺はある程度カバーはしてあるってことか。
 まぁ、ちょっと考えるとこれだと結果的に依頼の横取りみたいなことが可能になっちゃって、場合によってトラブルとかありそうだけど……そこは「冒険者間のトラブルにはギルドは一切不干渉」という話になるんだろうなぁ……。

 なんて、若干のギルドの闇を感じそうなところになって思考を一旦中断していると……

「あ、あの……」

 と、控えめに挙手をしたのはエイフェルさんだった。


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