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note.032 SIDE:G

 櫓の弓手が倒れたことを確認して駆け出すオグ君に、僕とツキナさんもそれぞれ応えて後に続く。

 僕らが拠点の敷地に入った時には、既にミスティスはだいぶ奥まで踏み込んでいた。そこかしこから湧いてくるゴブリンを相手に、視界に入ればワイドスラッシュで、囲まれそうになれば、剣に纏わせた魔力を地面に思いっきり叩きつけて爆破する全周範囲スキルのイグニッションブレイクで吹き散らして、一騎当千とばかりに殲滅していく。

 大半のゴブリンはミスティス目当てだったけど、幾分かは後ろの僕たちに気が付いて、こちらに向かってきていた。
 けど、一番近くまで来ていた1匹にオグ君の矢が刺さり……と思ったら、そのゴブリンの身体から飛び出してくるように新しい矢が出現して、別のゴブリンへと突き刺さる。
 敵に当たると矢が複製されて別の敵へと連鎖する、アーチャー時点での数少ない複数攻撃スキル、チェインアローだね。
 今回は2体だったけど、スキルLvによって最大5体まで連鎖可能になる。今はまだ1回の攻撃で倒せるのは2匹とはいえ、ロックオンなしでも使えて、ほとんど通常攻撃と同じノリで撃っていける手数の多さもこのスキルの魅力だ。

 オグ君から次々と矢が放たれるたび、こちらに向かってくるゴブリンは瞬く間に数を減らしていく。途中からさすがにゴブリンたちも業を煮やしたのか、タゲをオグ君に集中しようとしたみたいだけど、それによって逆に、馬鹿正直にオグ君に真っ直ぐ突っ込むだけの単調な動きになっていて、結局全てのゴブリンが難なくチェインアローで射抜かれてしまっていた。

 さて、露払いはオグ君が全部やってくれたから、僕は落ち着いてミスティスの援護に集中すればよさそうだね。
 ここまでで多少Lvが上がってることもあって、支援込みでの繰り返しの使用で、フレアボムの詠唱も今日の最初よりもう少し短縮できるようになっている。

「猛り狂い、渦巻き爆ぜろ! 《フレアボム》!」

 彼らの住処なのだろう、竪穴住居のような小さい建物から出てきたばかりだった集団を、住居ごと吹き飛ばしてやる。と、その爆発でちょうど足止めを食らう形になった別の集団が、爆風にたたらを踏みながらも僕の方にタゲを切り替えて突っ込んできた。
 だけど、足止めと突然のタゲ切り替えで足並みが乱れていて、集団がすっかり僕に向かって縦に伸びててまばらだねぇ。
 これだと多分、フレアボムよりも……

「猛る紅蓮よ、槍と成し穿て。《ブレイズランス》!」

 狙いは中央最後尾、味方を追いかけるようにして向かってきていた1匹。
 ついでに、構築する時のイメージを、槍の鋭さそのものよりも、炎の柱としての太さと、そこに纏う炎の螺旋を意識したものに変えてやる。

「――――!?」
「――! ――!!」
「――!?」

 敵の配置を見て、なんとな〜く思いつきでやってみたんだけど、思った以上に上手いこといったね。
 僕の狙い通り、螺旋を纏って太さを増したブレイズランスは、向かってくる全員を掠めるように通り抜けて、最後尾の1匹を呑みこんで爆発した。
 射線上の他のゴブリンたちも、身体の半分以上を炎に呑まれて消し飛ばされたり、燃え移った火が全身に回って丸焼きになったりして、全てフォトンへと還っていく。

 その前方では、ミスティスが剣を大上段に構えながら上空高く飛び上がる。スライムの時にも使った上空からの斬り下ろしスキル、メテオカッターだね。
 だけどさらに、その刃にはイグニッションブレイクの魔力が纏われていて――

「いっけぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜♪」

 それはもはや、着地と言うより着弾と呼んだ方が表現として適切だったと思う。
 着地と同時に、今の僕の支援込みのフレアボムにも勝るとも劣らない轟音を轟かせながら巨大な爆発が起きて、ゴブリンの集団1つが丸ごと消滅する。
 メテオカッター分の落下の勢いまで乗せられたことで、イグニッションブレイクの範囲と威力が大幅に上昇した形だね。
 ちなみに、たまたま瞬間が見えたんだけど、爆発直前にメテオカッター部分でちゃっかり1匹両断していた。

 さっきの僕のブレイズランスのイメージ変更とか、今のミスティスの合わせ技とか、発想次第で無限に応用できるスキルの柔軟性もHXTのウリの一つなんだよね。
 果てには、条件は厳しいけど、オリジナルスキルを作る機能まであったりするから、これも突き詰めると結構奥が深いんだよねぇ。

 今のミスティスの大技を最後に、敵の数もそろそろ打ち止めみたいで、ゴブリンたちの数が目に見えて減りつつあった。
 後ろで適時ミスティスへのルクス・ディビーナのかけ直しや全体支援の維持に集中してくれていたツキナさんも、余裕が出てきたのか、クレリック系の上位職の一つ、フォースが持つ攻撃スキルで火力に加わりだすと、残りのゴブリンもあっという間に殲滅されていく。

 フォースは、クレリック系ながらある程度の物理攻撃力も持ち合わせる、いわゆる魔法剣士に近い万能職。
 その万能さの分IntやDexといった魔法関係の補正は他の魔法職と比べると控えめで、突出したところのない器用貧乏なステータス補正だけど、攻撃魔法もある程度使えたり、片手剣なんかのクレリック系では普通は装備できない刀剣類もいくつか扱えたり、プリーストとは系統の違ういくつかの支援スキルも持っている。純支援型で作ると単体での戦闘能力がどうしても低くなりがちなプリーストにエクステンドするサブ職として、プリーストのダブルエクステンドと並ぶ人気の職だね。

 そうして、僕が放ったファイヤーボルトを最後に、辺りに静寂が戻る。

「えっと……これで終わり、かな?」
「そーねー」
「あぁ、終わりで問題ないだろう」

 攻撃役二人がそう言うんだから大丈夫そうかな?と思ったんだけど、そこにツキナさんが付け加えて、

「あとはー……施設潰しよね」
「めんどくさいけどね〜」
「施設潰し?」

 この拠点そのものを使えなくしないといけないってことかな?

「そう、このレベルの拠点を放置すると、連中に再利用されてしまう。だから、二度と使えないよう、拠点としての機能を完全に潰しておく必要がある。それと、攫われて囚われている人がいないかの確認の意味もあるな」
「これが洞穴とかだったら入口崩すだけでいいから楽なのにな〜……」

 なるほど、必要な手順ではあるけど……。確かに、ゴブリンサイズとはいえ、それなりの広さはある中にまばらに配置された住居なんかを全部潰していくのはちょっと手間だね。

「まぁ仕方ないさ。やらないことには追加報酬も出ない」
「だよねぇ〜……」

 と、心底めんどくさそうなミスティス。
 見回せば、戦闘で壊れた部分は多少あったとは言え、かなりの数の施設がまだ再利用できそうな状態なのがわかってしまって、さすがに僕も少しげんなりしてくる。

「ま、こんなのさっさと終わらせて、次いきましょ。もう1個ぐらいは拠点潰して追加報酬稼ぎたいでしょ」
「それもそーだね」

 報酬の話が出たからか、ミスティスが気合を入れなおすように姿勢を正す。
 現金だねぇ……。
 まぁ、歩合制だし稼げるだけは稼ぎたいって気持ちは僕もあるのは確かだけどね。

 と、そんなわけで、それとなく四人で散らばりつつ、10分ほどをかけて、主のいなくなった住居を一つ一つ潰していった。
 僕が持っている魔法の中だとフレアボムぐらいしかちょうどいいのがなかったから、毎度詠唱するのはなかなかに骨が折れるねぇ。
 まぁ……ある種の反復練習か何かだと思えばこれも悪くはなかった……かな。


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