note.034 SIDE:G

 とまぁ、ミスティスの規格外っぷりに驚くやら呆れるやらしつつも、気を取り直して探索を再開する。

「えっと、ミスティスセンパイ、次はアタシが」

 次に挙手したのはモレナさんだ。

「あー……剣に関しては、基本トルーパーと、このキャラ作ってからのことが基準になっちゃうけど、それでもいい?」
「あー、いや、そんな難しい話じゃないというか、単にさっきのセンパイを見て思った事なんですけど……ここにレベリングに来る段階だと、まだマグナムブレイクとかスピニングブレイドとか、システム的なスキルとしては覚えられないですよね? 自力でアレをスキルとして成立させる動きってめっちゃムズくないです? 何かコツってあるんですか?」
「あー……それねー、ん〜……」

 と、珍しくミスティスが歯切れの悪い答えになる。

「ん〜……どうしよ、私結構アレ、フィーリングでやっちゃってるんだよねー」
「えぇー……」

 あの動きがフィーリングだけで出来てるのは逆にすごすぎない……?
 僕以外も多分全員同じような感想を思っただろうことが顔に出ていたし、オグ君に至ってはまた頭を抱えていたけど、そんなことは欠片も気にせずミスティスは話を続ける。

「んー……あー、でも、そうだね、コツみたいなのは一応、説明はできるかも。なんてゆーか、こう、スキルをスキルとして成立させる必要最低限の動きっていうのをまずは自分なりに見つけて、身体で覚えること、かな」
「最低限の動き?」
「たとえば……そうだねぇ、多分一番わかりやすいから、ワイドスラッシュでやるとね?」

 ミスティスは一旦立ち止まって剣を抜くと、合わせて立ち止まったみんなから数歩前に出て、

「まず、スキル名をきちんと声に出して、システムのアシストがかかると、こんな感じでしょ? 《ワイドスラッシュ》」

 スキル名を宣言して、普通にワイドスラッシュを発動させる。

 物理スキルでスキル名を唱えて発動させると、システムによる補助がかかって、自分で意識しなくても自動的に既定の動きで身体を動かしてくれるんだよね。
 ワイドスラッシュの場合は、魔力を通した剣を、胸の前で持ち手の反対側に振りかぶって、その腕を開くように真横に一閃、同時に大きく一歩踏み込む、というのが一連の動作だね。

「うん、まぁ普通そうだね」
「でまぁ、この動きをこの通り真似すれば、とりあえずスキル名なくても技は出るわけじゃん?」

 言いながら、台詞の途中からミスティスは同じ動きでもう一度、ワイドスラッシュを発動させてみせる。

「まぁ、そこまではアタシもできるよ」
「うんうん。で、こっからなんだけど、この動きから、どこまで外れてもスキルになってくれるのか、って感じなんだよねー」
「えーっと、つまり?」
「たとえばさー、ワイドスラッシュって実は別にこんな大振りしなくても、これだけで発動しちゃうんだよ」

 と、今度は棒立ちのまま、魔力を纏った剣で左から右へ真っ直ぐに横一閃しただけ、という……言ってしまえば酷く雑な操作で剣を振る。
 だけど、彼女の言う通り、きちんとスキルとしては成立しているらしくて、その剣の軌跡はしっかりと纏わせた魔力によって範囲を拡張されて、軌道上に斬撃のエフェクトを残していた。

「はぇー……ちょ、ちょっとアタシも自分でやってみていい!?」
「うんうん、こういうのは自分でやって体感するのが一番早いと思うよ」

 と頷いて、ミスティスは立ち位置をモレナさんに譲る。

「こんなんでいいのかな……ていっ! おゎ、ホントに出たよ! あ、ちゃんとMPも使ってる」
「でしょ? こういう感じで、スキルごとに、最低限どこの動作が出来てればスキルにちゃんとなる、っていうラインがあるんだよねー。既存スキルから派生させたオリジナルスキルっていうのは、大体ここを研究して組み直した結果なんだよ。だから、このラインをまずは見つけて、身体に覚えさせるのが大事かなー。そこさえ覚えちゃえば、それ以外の部分はどう動いてもいいわけだから……」

 一旦言葉を切って、ミスティスはもう一度モレナさんと入れ替わって前に出る。

「ワイドスラッシュなら、こうとか……」

 ワイドスラッシュを発動させつつ、そのままぐるりと一回転ターンしてみせれば、斬撃は全周への回転斬りになる。

「で、こう飛んじゃえばもうスピニングブレイドになるじゃん?」

 と、事もなげに跳躍、空中で身体を倒してワイドスラッシュを起動して、連続回転攻撃のスピニングブレイドに派生させる。

「えぇぇー……なんか途中の段階が3つぐらいすっ飛ばされてない? それ……」
「あははー……ごめん、空中の姿勢制御とかはさすがにそれこそフィーリングでやっちゃってる領域だからね〜」

 開いた口が塞がらないというようなモレナさんのツッコミに、着地まで綺麗に決めて剣を収めたミスティスは、ちょっと困ったように頬を掻いた。

「やまぁ、理屈はわかったんで、アタシもいろいろ練習してみます。すっごく参考になりました、ありがとうございます!」
「うんうん、いろいろ研究してみるといいよー。この辺は、いかにシステムアシストの枠に捕らわれないかっていう発想力が大事だからね〜。案外、面白いオリジナルのスキルとか作れちゃうかもよ?」
「いいねー、そう考えると俄然やる気が出るね! 夢があるって言うの? 後でいろいろ試してみます!」
「そうするといいよ〜♪」

 と、そんな感じでモレナさんの質問も落ち着いたところで、最後は謡さんだ。

「わたしは、二人の後方支援でマジシャンにもクレリックにも切り替えるので、オグさんとツキナさんに1つずつ聞きたいのですが……」
「あぁ、問題ないぞ」
「いいよー、なんでも聞いちゃって」
「ありがとうございます。えと、じゃあオグさんに聞きたいのですが、二人への火力支援としてやっていくなら、スキル振りってどれがオススメなんでしょうか……マジシャンのスキル振りってタイプが多すぎて迷ってて……」

 あー……僕も未だに迷ってるやつだね。
 まずそもそも型の数が多すぎて、僕も全部は覚えてないってところから始まるんだけど……パッと思い出せるだけでも、オーソドックスな氷炎型、足止めとコンボ火力が強力な氷雷型、手数で攻める風炎型に、別名「大魔法型」とも呼ばれる、詠唱時間稼ぎのための足止めに特化した地水型とか……他にもまだあったはずだ。
 属性ごとにスキル数が膨大なマジシャン系は、一人が全部のスキルを取り切るのは難しい。
 なので、必然的に取捨選択される取得スキルを、どの属性に絞るかによって戦い方が全然変わってくるんだよね。

 今のところ僕は氷炎型「気味」にはなってるけど、まだ氷炎型でいくと決めたわけではない。
 中級魔法ぐらいまでは属性を使い分けられることもマジシャンの利点の一つだから、最終的には一通り取得することを前提に、先にコンスタントに戦えるこの2属性を取得してみたってだけなんだよね。

「ふむ、三人で固定パーティーを組むことを前提として、火力支援のサポートに徹する、という話なら……そうだな。僕なら氷雷型をオススメするところかな」
「氷雷……氷と雷ですか」
「あぁ。モレナさんが盾役のソーディアン、エイフェルさんがアーチャー、ということになると、おそらく君たちには範囲火力が足りていない。そしてこの場合、君はヒーラーも兼任しているから、常にマジシャンの仕事ができるわけでもない。……となると、君が無理に範囲火力役を引き受けるよりも、魔法は敵の足止めに使うことにして、その間に二人の各個撃破で潰していく方がおそらく安定できるだろう。となれば、凍結の状態異常が有効に使える氷魔法がうってつけだ」
「ふむふむ……」
「そして、凍結させた敵は一時的に、属性を強制的に水に変更できるんだ。ここに雷魔法を撃ち込んでやれば、相手の元々の属性を無視して高火力を狙える。雷魔法は全体的に詠唱も短いからな。クレリックとしての支援の合間、余裕がある時に短時間で詠唱して高火力を出せる、という意味でも、君が取るべき戦闘スタイルには合っているだろう」
「なるほどなるほど」

 オグ君の説明に、謡さんはメモ用のウィンドウを表示させて、熱心にメモを取っていく。

「この組み合わせで対応に抜けが出るのが火属性の相手だ。火属性の敵となると、凍結無効持ちが多いし、雷も特に相性がいいとは言えないからな。これを埋めるには、系統上氷魔法と同じスキルツリーで取っていける水属性魔法がちょうどいいだろう。というか、本来は氷魔法の方が水属性魔法からの派生スキルだからな。この2つを並列して取得するのは難しいことじゃない。水属性の状態異常『浸水』は凍結と重複して更にダメージを倍加もできる。サポート用の魔法火力としてこれ以上ない組み合わせというわけだ」
「なるほどー、勉強になります」

 メモを取り終えて、自分なりの納得ができたのか、謡さんがオグ君に大きく頷く。
 オグ君も一つ頷き返して、

「まぁ、これは僕の私見だから、これだけが絶対の正解というわけでもない。人によってはおそらく、ちょっとした合間でも手数を増やしやすい風炎型と言う人もいるだろうし、もっと違う考え方もあるだろう。もし他にも意見をもらえそうな人に出会えたら遠慮せず聞いてみるといい。それに、最終的には結局、君たち自身が実戦を重ねる中でどう連携していくか、というのが一番重要だ。どのみち、中級魔法ぐらいまではいずれ一通りの属性を揃えておくことにはなるはずだから、その中で実際に使って確かめてみるのが確実だろうな」
「わかりました。参考にしてみます。ありがとうございます」

 ぺこりとオグ君に一礼して、謡さんはツキナさんに向き直る。

「えっと、それで、ツキナさんに聞きたいのはですね……」
「なになにー? 遠慮なくどうぞー」
「はいっ、えっとですね、ズバリ、スキル回しってどうやってますか!? わたし、今のクレリックの範囲でも結構頭ぐちゃぐちゃになっちゃう時があって……この先、上位職でスキルが増えたらいっぱいいっぱいになっちゃいそうで……」
「あぁ〜、なるわよね〜、わかるわかる」

 謡さんの質問に、ツキナさんも似たような経験はあったのか、納得したように腕組みをして、うんうんと大きく頷いていた。

「そうねぇ。あたしがやる時は、自分のステータスに関係ないスキルも……例えばアスペルシオなんかもとにかく全部、最初に自分にかけてから他の人に回す、ってしちゃってるかな。そうすれば、自分にかかってる効果アイコンが切れそうになったら、その後に他の人の分も切れるってことだから、他のメンバーのバフ欄全部にあちこち目を通すよりもわかりやすいでしょ?」
「あー、なるほど、そうですね」
「まぁ、人によってやり方はあるところだと思うけど……。そう言えば、前に似た話題になった時にフレンド(フレ)のやり方を聞いてみたら、その人はスキルかける順番を全部決めてて、全部タイムスライスで管理してるって言ってたわね。最初にできるだけ効果時間が長いのから順にかけていって、そこから、効果時間30秒の聖体降福を2回かけ直せば1分経過ってことだから、2回目をかける前に効果時間1分のグローリアもかけ直して、それを2セット繰り返せば2分経過だから効果時間2分のディバイン・プロテクションかけ直しで……って感じで、効果時間の短いスキルを基準にスキル効果の残り時間を先読みしてるみたい」
「そ、それは逆に頭がこんがらがりそうですー……」
「あたしもそれ聞いた時は全く同じ感想だったわ……。けど、その子に支援やらせると、不思議とバフアイコン絶対に途切れないのよね……。ルクス・ディビーナとかサクラメントとかの時間管理関係ないスキル以外はあたしの出番なくなっちゃうぐらいよ」
「そ、それはすごい……」

 うわぁ……なんだか、僕には想像もつかない世界になってるね……?
 ちなみに、聖体降福は加護によって体感の装備重量を軽減させて回避率を上げてくれるクレリック時点で覚えられる初級聖術。
 あくまで体感上での重量軽減だから、重量が攻撃力に関わる鈍器系の武器なんかの計算式には影響を与えずに回避率だけを上げてくれる便利スキルだ。
 グローリアは祝福で武器攻撃力を上昇させる、これもクレリックで使える初級聖術だね。
 聖属性付与によって結果的に攻撃力を底上げするプリーストのアスペルシオとは別枠で武器攻撃力そのものを底上げできるから、併用することで真価を発揮する。

「ま、質問はそんな感じでいいかな?」
「はいっ、とっても参考になりました。お二人ともありがとうございました!」

 と、最後にぺこりと謡さんはもう一礼した。


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