note.035 SIDE:G

 そんなこんなで、質問タイムも一通り済んで。

「ふむ、後は、実戦を見れば何かアドバイスできることもあるかもしれないな」
「あー、そうだね〜。ちょうどいいからあれとかどーお?」

 ミスティスが指差した先には、こちらに気づかずにT字路を直進しようとしているホブゴブリン3匹の集団がいた。

「いけそう?」

 というミスティスの問いに、

「はいっ!」
「いけるよ!」
「大丈夫ですっ」

 三人は気合十分に答える。

「それじゃ、ここで見てるから頑張ってね〜」
「いってきます!」

 と、ミスティスに見送られて、三人はホブゴブリンへと向かっていった。

「よぉ〜し、じゃあ、いつも通りいくよ!」
「うん!」
「はい!」

 モレナさんが挑発を仕掛けてゴブリンたちを気付かせて、戦端を開く。

「《聖体降福》 《ファーストエイド》 《グローリア》!」

 挑発の後そのままゴブリンたちに突貫していったモレナさんが接敵する前に、謡さんがバフをかける。

 ファーストエイド……応急手当を接敵する前にかけるってなんか変な感じもするけど、このゲームのクレリックスキルとしてのファーストエイドは自然治癒力を高めることで傷の治りを早くする初級聖術になっているので、ゲーム的な効果としては一定時間のHP自然回復量アップになる。
 被弾した時の保険として事前にかけておくことは何も不思議なことじゃないね。
 一応、ファーストエイドというだけあって、被弾してからかけることで、出血の状態異常によるスリップダメージを、ダメージ1回ごとに一定値分軽減する効果もある。
 出血の状態異常そのものの解除はできないけど、ダメージの実数値で軽減するから一定値を超えない限りは出血を完全に止めることができる、まさに応急処置といった感じのスキルだ。

「せやぁっ!!」

 支援スキルもかかったところで、モレナさんがワイドスラッシュで3匹にまとめて斬りかかる。
 そのわずかなヒットストップの隙を突いて、マジシャンに切り替えた謡さんが前に出る。

「《フロストスパイク》!」

 斜め方向から放たれたフロストスパイクは、ゴブリンたちの内の2匹を巻き込んで壁まで進み、結果的に2匹を氷の槍で壁面に(はりつけ)にしてしまう。
 なるほど、挑発がかかってるからあそこまで前に出てもタゲられることはないし、フロストスパイクの上手い使い方だね。

 慌ててそれぞれの武器で氷を割ろうとするゴブリンたちだったけど、

「えっと、そこっ!」

 謡さんと立ち位置を入れ替えたエイフェルさんが放った矢に武器を持った手首を射抜かれて、壁に縫い留められる。
 すると、その矢の先に宿った魔力がまるで刺さった壁に根を張るようにして食い込んで、貫いたゴブリンの腕を完全に固定してしまった。
 ダメージは少ないけど、当てた相手に一定時間のバインド効果を付与する足止め用のアーチャースキル、バインドアローだね。

 システムアシストありの本来のバインドアローは、敵の足元にあの矢を撃ち込んで、足を地面に縫い付けてしばらく動けなくする、っていう効果なんだけど、今回はシステムアシストなしで発動させたことで、狙いを脱出のために氷柱を壊そうとしていた腕に変えて、上手く拘束した感じだね。
 これも上手い使い方だと思う。

 その間、残った棍棒持ちの1匹と剣戟を繰り広げていたモレナさんだったけど、不意にゴブリンが、棍棒をバットのように横薙ぎでフルスイングしてくる。
 だけど、彼女はむしろそれを好機と捉えたみたいだね。
 盾の死角になる右手側からのスイングだったけど、それを無理に受けようとはせずに、逆に盾を前に構えて、タックルのようにゴブリンへと突撃していく。
 ゴブリンの一撃はモレナさんの右脇腹へと直撃するけど、予めかかっていたファーストエイドの効果もあって、ミスティスよりもしっかりした作りの鎧に守られた彼女はそれをものともしない。

「こっ……のぉッ!」

 上位職のガーディアンでなら、シールドチャージのスキルが発動できていたであろう、盾での突進をもろに受けて、棍棒持ちは2、3歩大きく後ろにノックバックする。
 盾を突き出したことで、ちょうど剣を後ろに引く形になったモレナさんは、その姿勢から続けてピアシングスラストを発動。

「ってぇぇえい!!」

 腹部からゴブリンを貫通した剣を、その身体を足蹴にして引き抜いてやれば、よろめいたゴブリンは更に数歩後退りする形になる。

「《グローリア》」
「《バーストアロー》!」
「――――!!」

 最後にそこに、謡さんにグローリアの支援をもらったエイフェルさんから、チャージング付きのバーストアローで三発の矢が同時に撃ち込まれて、棍棒持ちは断末魔と共にフォトンへと消えていった。

「《グローリア》 《聖体降福》」

 と、モレナさんの方にもバフがかけ直された頃になって、ようやく磔にされていた2匹が拘束を抜けて這い出してくる。

「あなたにはまだ、行かせない……!」

 2匹の内、背中から不格好に着地してしまい、立て直しに遅れた1匹に、エイフェルさんがもう一度、今度は元々の効果通りに足を狙ってバインドアローを射かける。

「――!?」

 撃ち抜かれたゴブリンは、苦悶の声を上げて射抜かれた足を抑えようとするけど、その足は既にがっちりと床面に縫い留められてしまっていて、動かすことができなかった。

 結果としてもう1匹の、短剣を持ったゴブリンだけがモレナさんと対峙することになる。
 ゴブリンは必死に攻撃を仕掛けているんだけど、モレナさんはそれを的確に盾で受け、聖体降福で上昇した回避率で軽やかに躱しながら、短剣と片手剣のリーチの差でゴブリンを圧倒していく。
 合間合間に差し込まれるエイフェルさんからの追撃は、その全てをチェインアローで放つことによって、後ろで拘束されているもう1匹にも着実にダメージを蓄積させていく。

 だけど、これなら順当に勝てるかな、と思いかけた瞬間――

「あっ、あれ!?」

 後ろの1匹のバインド効果が切れて、いい加減業を煮やしたといった様子のゴブリンがモレナさんの方へ向かってしまう。
 当のモレナさんは、左に半歩ずれつつ半身になって短剣持ちの刺突を躱した、というところで、バインドが解けたもう1匹に対しては隙を晒してしまった状態。
 これは防御が間に合うかな!?と、一瞬ヒヤリとさせられたんだけど……

「――! 《ワイドスラッシュ》!!」

 あえてのスキル名を宣言してのワイドスラッシュ。
 それによって、システムアシストがかかり、多少無理のある体勢ながらもギリギリでスキルが発動する。

「――!?」

 ゴブリン側も、あの体勢から立て直されるとは思っていなかったのか、モレナさんの動きに反応しきれず、斬撃のエフェクトにまともに突っ込んでしまう。
 短剣持ちも、この一撃がトドメになったようで、フォトンへと爆散した。

 こうなれば、今度こそもう危なげはないかな。
 謡さんから支援スキルがかけ直されて、こちらも棍棒を持っていた最後の1匹は、先程までと同様に、剣戟の合間にエイフェルさんから弓が差し込まれる二人の的確な連携で追い詰められていく。
 そうして最後に、

「とりゃあっ!」

 モレナさんのピアシングスラストが綺麗に決まって、最後のゴブリンもフォトンに還っていった。

「ふぅっ……なんとかなりましたー……」
「へっへ〜ん、どうどう? アタシたちの連携は!?」
「先輩方から見てどうだったのでしょうか……?」

 ほっと胸をなでおろすエイフェルさんに、ミスティスたちの評価が気になる様子の二人。

「あぁ、なかなかいい連携だったんじゃないか。悪くないと思うぞ」
「まぁ、2匹目でちょっと危ないところはあったけどね〜」

 うん、僕の目でも2匹目の途中でバインドが解けちゃったこと以外は悪いところはなかったように見える。
 オグ君たちも大体同じ評価ってことは、実際十分悪くはなかったということだろう。

「あの時は……もう少しバインドの時間はあったと思ったんですけど……」

 ちょっと落ち込んだ様子のエイフェルさんに、ミスティスがその読み違えの答えを教えてくれた。

「それはねー、同じ敵に対して同じ状態異常を連続してかけたからだよ」
「えっと、つまり、バインドを2回かけちゃったのがよくなかったってことですか?」
「そうそう。一人の敵に何回も同じ状態異常をかけちゃうと、相手もだんだん耐性がついてきちゃって、効果がだんだん減っていっちゃうんだよ」
「そうだったんですか……」
「うん。具体的には、同じ状態異常を2回かけると効果時間は95%。だから今回はビミョーに短くなった分、早く抜け出してきちゃったってことだね。で、3回目以降は75%、50%、15%って減っていって、5回かけると6回目以降はもう効かなくなっちゃうね」
「な、なるほど……覚えておきます」

 と、頷くエイフェルさんの横で、謡さんもしっかりとメモを取っていた。

「ふむ、ともあれ、その後の立て直し、わざとスキル名を宣言してシステムアシストを逆に利用したのは実にいい判断だった。仲間のミスもしっかりカバーして戦闘を続けられる判断ができているのは、お互いをよく理解できている、いいパーティーの証拠だ」
「おー、褒められた♪ ありがとうございま〜す!」
「謡ちゃんも、上手く支援回ってたじゃない。それに、最初のフロストスパイクで前に出たのもいい動きだったわね。普通、挑発でタゲ固定されてるってわかってても、後衛があそこまで前に出るって結構勇気がいると思うんだけど、よくできてたわねー」
「そ、そうですかね。えへへ、ちょっと照れちゃいます」
「エイフェルも、最初のバインドアローで腕を拘束してたのはイイ感じだったと思うよー」
「あ、あれは……はい! 先輩の、モレナへのアドバイスを聞いて、弓のスキルでも狙う場所を変えるぐらいのアレンジはできるんじゃないかって思って、思いつきで……」
「うんうん、思いついたら即実行はこのゲームでは基本大正解だよー♪ 自分にできる戦い方をいろいろ探すのもHXTの楽しみ方だからね〜。横槍入れながら、バインドかけた方も削っておくチェインアローの使い方も上手だったし、エイフェルも十分合格だよ!」
「はい! ありがとうございます!」

 オグ君たち三人からそれぞれ合格点をもらえたことで、エイフェルさんも笑顔に戻って、三人で喜び合う。

 これは、僕も負けてはいられないなぁ。
 彼女たち程のしっかりした連携が取れたパーティーなら、ちょっと気を抜けばあっという間に僕なんか追い越してLvを上げていってしまいそうだ。
 まぁ、それを言ったら今日のこのダンジョンでの僕たちの連携だって決して負けてはいない、とは思うけど、今後はどうか、となると、結局は僕たち自身次第ってことだもんね。
 とは言っても、変に今より肩ひじ張るような必要まではないとは思うけど。
 まぁ、今後も気を抜かずに、楽しくやっていけたらいいかなぁ。ぐらいってことで。


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