note.039 SIDE:G

 その後は特に何かが起こるようなこともなく、遭遇したゴーレムだけ倒しつつ、回廊へと合流して、中央の広間を目指す。
 辿り着いた広間はかなりの広さで、まぁ、イメージとしては大体、そこらの街にある総合デパートぐらいの建物ならすっぽり入ってしまうんじゃないか、と思える程だ。
 その中央には、地上でダンジョンの入り口になっていたものをそのまま縮尺だけ拡大した形の、巨大な中南米風味のピラミッドが鎮座ましましていた。
 ピラミッドは黄金……ではさすがにないみたいだけど、地上のそれとは違う、光をよく反射する黄色味の強い石材でできているようで、天井からの照明に煌びやかに輝いている。
 本当に、どうやってこんな地下にこんな大きなものを作ったんだろう……。
 歴史……というより、もはや考古学の領域の浪漫って感じだよね。

「マイスー? 見惚れるのはいいけど、置いてくよー?」
「あ、ごめんごめん」

 っとっと……思わず足を止めて見入ってしまっていたみたいだ。
 慌てて、小走りにみんなに追いつく。

「それで、このピラミッドにどっかから入れるんだよね?」
「あぁ、この2Fに降りてきた入り口の正面……方角で言えば西側中央に扉がある」
「じゃあ、あっちってことかな」
「うん、いこー」

 僕たちが今通ってきたのが北からの回廊だったはずだから、ここからだと右に回り込めば入り口があるってことだね。

 そんなわけで、ようやくピラミッドの入り口まで辿り着いたんだけど、さすがに大きいね。
 広間に出てからここまでだけでも結構歩かされた気がする……。

「さて、幸い先客はいないようだから、挑む分には問題なさそうだな」

 西に回ったピラミッドの中央、回廊から真っ直ぐ先の真正面には、片側だけでも僕たち4人で手を広げて並んでやっとというぐらいの幅、高さは10mか、もっとありそうなぐらいの、巨大な両開きらしい扉が僕たちを待っていた。
 扉の中央には、両方の扉にまたがるようにして、紋章刻印(エンブレムシール)になっているらしい巨大な魔法陣が掘り込まれていて、その他の扉全体にも、魔術的なものか宗教的なものかもよくわからないような複雑な紋様が隅々まで彫刻されていた。

 紋章刻印(エンブレムシール)というのは、ジェムに魔法陣を刻んで誰にでも魔法を使えるようにした消耗品である刻印魔石(シーリングジェム)の前提段階に位置するもので、彫刻等の手段で、魔法陣を望む場所に直接物理的に刻み付けることで、外部からの魔力の供給さえあれば、誰でも何度でも刻んだ魔法を使用可能にする、という技術だ。
 この世界の魔法は、とにかく望む形の魔法陣(ガイドレール)さえ正確に描けているのであれば、そこに魔力を通すだけで発動できるわけだから、魔力さえ供給できれば、別に刻む物体がジェムに限定される必要はないってことだね。
 ただ、サクラメントのスキルが詠唱によって構築した魔法陣に「治水工事」を施してくれることで魔法の威力が上がるのと同様に、魔法陣として十全に機能させるためには相応の工作精度が必要とされていて、高精度の紋章刻印の構築は、この世界の現代の技術力でもそれなりの高等技術とされている。

 こんなに大きな魔法陣を、紋章刻印として機能させることのできる工作精度は、それだけでも結構な大仕事だったはずだ。
 ますます以て考古学的な浪漫があふれるよね。
 目の前に立って見上げれば、改めてその門扉の威容に圧倒されてしまって、僕は思わずごくりと唾を飲んでいた。

「よーし、じゃあ、準備いーい?」
「あぁ」
「うん、いいよ」
「いつでもオッケー!」
「ん〜じゃ、ごー♪」

 見た目には、とても人の力で開けられるものとは思えないその扉を、押し開けるようにミスティスが手をつければ、扉はそれだけであっさりと、ゴロゴロといかにもな音を立てながら観音開きに開いていく。
 そうして見えてきた扉の奥は、そもそものピラミッドがでかいこともあって、かなりの大きさの部屋になっているようだった。
 正面一番奥には、何か祭壇?みたいなものがあるようにも見えるけど……ちょっと部屋が薄暗くてここからだといまいち見えないね。

 僕たちが、開ききった扉を通り過ぎるぐらいまで部屋の奥に進むと、後ろで再びゴロゴロと扉が勝手に閉まって、最後に「ガコン」と音を立てると、扉に刻まれた紋章刻印が起動したことを示す光を発した。
 どうやらこの部屋に閉じ込められたらしい。
 まぁ、漫画なんかでもよくある、この手のボス部屋のお約束ってやつだね。

 続いて、部屋の奥に、最奥の壁に向かって道を作るように立ち並んでいた燭台に、手前から順にひとりでに火が点いていき、部屋の奥が照らし出される。
 そこにあったのは、やっぱり何かの祭壇だったみたいだね。
 まぁ、これもお約束の演出という感じだね。
 燭台で道が作られているのは、祭壇手前の僅かなスペースだけで、その手前にはそれでもまだサッカーグラウンドぐらい?は余裕がありそうなスペースが残されている。

 祭壇の姿が露わになったところで、天井から部屋全体が照明されて、部屋の薄暗さに少し慣れつつあった僕たちは思わず目を細めた。
 それも一瞬のことで、すぐに目が慣れたところで改めて前に向き直ると、その僕たちの反応を待っていたかのように、部屋の中央の床に描かれていた巨大な魔法陣が突如として起動した。
 そして、魔力の光を立ち昇らせた魔法陣から、その一部が空中へと浮き上がって、真っ直ぐに上へと上昇していく。
 一枚の大きな魔法陣だと思っていたものは、どうやら上用と下用の二枚の別の魔法陣が重なり合って、さらに別の機能を発揮させる一つの複雑な魔法陣を作り出していたみたいだね。
 扉の紋章刻印同様に、それだけでもかなり高度な技術力で作られただろうことは一目でわかる、精密な積層魔法陣だ。
 上の魔法陣が天井付近まで浮かびきると、魔法陣に挟まれて薄い魔力のベールに包まれたようになった円筒形の空間に、上下の魔法陣の間をバチバチと電流のように魔力が迸る。
 そうして、上と下、それぞれの魔法陣から、別々の何かが召喚され始める。

 まず最初に上の魔法陣から召喚されたのは……何これ?でっかい……銅鐸……?
 うん、なんかこう、古墳でも掘ったら出てきそうな、暗い藍色をした巨大な銅鐸……としか表現しようのない、寸胴の巨大な岩がズシンと降ってきた。
 その中央には、例の謎顔レリーフが装飾と共に黄色で描かれていた。
 次に、その銅鐸がふわりと浮き上がると、下の魔法陣から、大きなアイロン?みたいな形をした岩が二つ、水面から浮き上がってくるように召喚されると、銅鐸の底面との間に電流のような魔力の流れが繋がれる。
 それから最後に、銅鐸の両脇に、粗雑な球体関節人形のような、円筒形の石柱が大岩の関節で繋がれた、拳を握った状態の両腕が降ってきて、下のアイロン岩と同様に魔力の電流で肩口を銅鐸と繋ぐ。

 ……これ、もしかして下のアイロンみたいな岩二つは足のつもりなんだろうか。
 随分と不格好な気はするけど、ともかくこれで形としては完成のようで、「ブゥン」とどこからか起動音を発した銅鐸が少し高度を上げると、両腕も浮き上がり、弾けるようにして魔法陣の光は消えて、銅鐸は軽く腕を引いて、胸を張るようなポーズを取る。

「えーっと……これがボス?」
「そだよー。いやぁ、久しぶりだねぇツリガネ君」

 油断なく戦闘態勢で身構えながらも、ミスティスの声はウキウキだ。

「ツ、ツリガネ君……?」
「正式な名前は『エニルム・ガーディアン』だ。まぁ、見ての通り釣鐘とか銅鐸とか分銅とか、だいぶ好き勝手呼ばれてるが」
「あー……な、なるほど……」

 うん、僕の中でこいつの名前は銅鐸に決定した。

「見た感じ、こいつも一応ゴーレムだよね? 核はどこにあるの?」
「あぁ、これがなかなかに厄介な話だが、こいつのコアは最初、両手の掌に一つずつの二つある。だからまずは、どうにかあの握った拳を開かせる必要があるんだが……まぁ、いくつかやりようはある。まずはミスティスに任せて、僕たちは回避優先だ。タゲは基本ミスティスだが、範囲攻撃やランダムターゲットがいくつかある。対応は臨機応変に行こう」
「了解だよ!」

 僕がオグ君に頷くと、それを僕たちの準備完了と取ったのか、

「さぁ、始めるよ〜、ツリガネ君!」

 ミスティスが挑発を打ち鳴らし、銅鐸の各部を繋ぐ魔力が唸りを上げる。
 それが戦闘開始の合図となった。


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