note.057 SIDE:G
「んん〜……地上だー♪」
ミスティスが、正面方向に沈む夕日に目を細めつつも大きく伸びをする。
今日は丸々半日近くダンジョン内だったこともあって、日の光がちょっと新鮮だね。
そういえば、と、ふと思い出して、僕は辺りを見回してみる。
すると……あ、あった。右を向いた方向、ピラミッドからちょっと離れた隣に、1本の大樹が青々と屹立していた。
「どうした? マイス」
「あぁ、いや、エニルムスタッフの説明文にある古木ってあの樹のことかなぁって思って」
「あぁ、そのことか。おそらくそうだろうな」
「おっきぃねー。そういえば、あんなところに樹があったなんて、今まで気にしたことなかったかも」
「確かに、あれなら枝を削り出せば杖の一つや二つはできそうね」
と、それぞれに感想を言い合っていると、ダンジョンから誰かが出てくる気配があった。
と思ったら……
「あっ、センパイたちも帰るとこですか?」
誰かと思えば、ちょうどモレナさんたちだったみたいだね。
「そだよー。ちょうどボス倒して今戻ったとこ〜」
「おぉー、ボス討伐まで行ったんすね。さすが!」
「私たちはずっと1層でしたけど、アドバイスのおかげでゴーレムも楽に倒せるようになりましたっ。Lvも上がったので、明日は2層にも挑戦してみようと思ってます!」
「先輩方のおかげです!」
「ふむ、それはよかった」
「いいねー、2Fもふぁいとだよー♪」
「はい、頑張ります!」
なんて、軽くお互いの進捗報告も終われば、あとはもう帰るだけだね。
「あ、そうだ。せっかくこうして合流できたんだから、アミリアに帰ったら全員でギルドも寄っていきましょ。ハイゴブリンの戦果を報告すれば報酬が出るはずよ」
「あ、そーだね。いこいこ〜」
「おー、それは是非いきましょう!」
というわけで、モレナさんたちを加えた全員でアミリアへ帰還して、ギルドに向かうことになった。
「こんにちは〜。今日は随分賑やかねぇ〜」
と、うさ耳をぴょこぴょこさせながらいつものおっとり口調で出迎えてくれたのは、今日は依頼担当になっているアシアノさんだね。
応じて、オグ君が代表して対応していく。
「あぁ、ブーステッドMobの討伐ができたから、戦果確認と報告にね」
「あら〜、それは助かるわぁ〜。そっちの、エイフェルちゃんたちのパーティーも一緒にってことかしら〜?」
「あ、はいっ」
「それじゃあ、まずは戦果の確認ね〜。オーブをどうぞ〜」
いくつか操作を加えたマザーオーブが差し出されて、それぞれのパーティーリーダーになっているミスティスとエイフェルさんがそこに触れる。
そういえば、モレナさんたちのパーティーリーダーはモレナさんじゃなくてエイフェルさんなんだね。第一印象だと、控えめなエイフェルさんにあんまり周りを引っ張っていくみたいな感じはなさそうだったから、ちょっと意外だ。
「は〜い、確認完了よ〜。この7人全員での戦果になるわね〜。お疲れ様〜。本当に助かっちゃったわ〜。この依頼、実は昨日付けでもう少しLvが高い人に向けて斡旋依頼が出てたんだけどぉ、誰も受けてくれなくて〜」
「あぁ、やっぱり出てたんですね、依頼」
「そうなのよ〜。だから、依頼分の報酬もあなたたちで総取りよぉ〜。おめでとう〜」
「やったぁ♪」
依頼分も追加報酬と聞いてはしゃぐミスティスに、エイフェルさんたちも顔を綻ばせる。
「聞いたわよ〜。ミスティスちゃんたち、昨日もお手柄だったんですって〜? うふふっ、エイフェルちゃんたちといい、将来有望な冒険者さんたちが増えてくれると、お姉さん嬉しくなっちゃうわぁ〜」
なんて、マザーオーブに操作を続けながらもゆるく褒めてくれるアシアノさん。
けれど、その顔にふと影が差した。
「あとは、このユクリが滅びる前に、せめて一つでも神器が見つかってくれればいいのだけど〜……」
けど、それも一瞬のことで、すぐに表情を笑顔に戻すと、
「な〜んてね〜、うふふっ。それを支えるのがわたし達ギルドのお仕事ですもの〜。お姉さんが暗い顔してちゃあ、始まらないわぁ〜」
何事もなかったように7人分の請求書を渡してくれた。
神器かぁ。
ゲーム的に考えると、単にエリアが未実装なのを「闇」として世界観的な設定に落とし込んであるって話なんだろうけど……世界観的にはかなり……というか、もう限界ギリギリの危機的状況なんだよねぇ。最高神である「女神シティナ」が神器を配したらしいけど、現在実装されてる舞台であるユクリの国以外は既に全て「闇」に呑まれている今、最悪のケースとしては、この国の中には神器はなくて、既に全ての神器の在処が「闇」の中に呑まれてて完全に詰んでることすら考えられる状況だからね。
仮に神器がゲーム的に実装されるとして、どういう形になるんだろう。
実際問題、サービス開始からそれなりの期間は経ってるゲームのはずだけど、未だにフィールドのアップデートはないみたいなんだよねぇ。世界観設定に合わせれば、何らかの形で神器が世界に現れることで新しいエリアが解放されていく、って流れであることは間違いないんだろうけど……。まぁ、実際アプデがきてみるまではわかりようもないか。
とは言え、あぁしてこの世界のNPCたちが時折見せる、諦観にも似た悲痛な表情を見ると、できることならなんとかしてあげたい、とは思ってしまうよね。
「それじゃあ、他の素材は取引用カウンターへ、請求書はまとめて精算用カウンターまで持っていってね〜。本日もご利用ありがとうございました〜。次も待ってるわぁ〜」
アシアノさんに見送られた僕たちは、取引用カウンターで売り物になる蛇の素材やらも換金してから、プエラリアさんに精算してもらってギルドを後にした。
「今日は本当にありがとうございましたっ」
「ありがとうございました! いやぁ〜、センパイたちのおかげで収入もほっくほくすわ〜」
「アドバイスもすごく参考になりました。ありがとうございます」
ギルドを出たところで、エイフェルさんたちが改めて頭を下げる。
「あはは、いいっていいって。それよりも、せっかくフレンドにもなったことなんだし、そろそろその先輩後輩とか、カタっ苦しいのはナシでいこーよ。ひとつ、これからもよろしくってことで!」
と、それに答えたミスティスが握手を差し出すと、
「ははっ、それもそうだね。アタシも正直そーゆうのあんまりガラじゃないし。そうしてもらえると助かるよー。改めて、よろしくね!」
モレナさんがそう答えて、エイフェルさんたちもそれに応じる。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!」
「よろしくお願いしますー」
僕たちともそれぞれに握手を交わすと、
「それじゃあ、私たちは今日はこれで失礼しますね。お疲れ様でしたっ」
「おつかれさま〜、またねー!」
エイフェルさんがもう一度ぺこりとお辞儀をして、三人は僕たちと分かれて帰っていった。
「さってー、うちらも今日は解散にしよっかー」
「うん。お疲れ様」
「あぁ、お疲れ。……と、そうだ、すまないが、僕とツキナは22時からは先約があってね。明日明後日だけ別行動になる」
「ごめんねー、明日明後日だけだから」
「オッケーオッケー。いってらっしゃいな〜」
「うん、了解だよ。いってらっしゃい」
そっか、みんなはぼっちでやってた僕と違って他にフレンドもいるだろうからね。
これぐらいのことは不思議はないか。
「すまないな。まぁ、今日のところはお疲れだ」
「おつかれ〜」
「乙〜。マイスはまた明日ねっ」
「うん、みんなお疲れ様」
そうして、僕にとっては初めてのダンジョン攻略となったこの日の一日は幕を閉じたのだった。