note.070 SIDE:G

 陣形を戻して、ミスティスを先頭に進んでいく。

 ここまでのところ出てくる敵は、ゴーレム2種類とハイゴブリン、あとはたまにトルーパーとブルースライムって感じかな。
 まだ何かレアMobとかが隠れてるとかでもない限りは、これがこの3Fの出現Mob全種ということだろうね。
 天地さんの最初の予測通り、順当に平均Lv100台にパワーアップしたエニルム最終層っていうのが「真の試練」の正体、というところかな。

「ほいさ〜」

 ミスティスがイグニッションブレイクで最後のブルースライムを吹っ飛ばして、目の前の戦闘が終了する。
 うん、順調だね。

「ふぅむ、時間的にもそれなりに経ってるし、実際そこそこ進んできたとは思うが……」

 天地さんが自分のミニマップを見ながら思案気に唸る。

「そうだねぇ……」

 答えて、ミスティスも改めて全員に見えるようにミニマップを表示させると、

「2Fまでと全体の広さが同じぐらいなら、もうそろそろ東の端っこぐらいまでついちゃう感じだよねぇ」

 考えるように顎に手をやる。
 そうして、少し進んでいると――

「うん?」
「あれ……」
「ほぅ」

 最初に気が付いたのは先頭を行くミスティスだった。
 彼女が何に立ち止まったのかは僕にもすぐに気が付いた。
 天地さんも、当然気付いているという反応だね。

 一瞬、また何かの罠かと思ったんだけど……う〜ん……反応は似てるけど、微妙に違う……?
 あ、わかった、これ、反応してるのは罠師じゃなくて……

「あー、これ考古学スキルの反応かー」

 納得したように頷いたミスティスが、反応が感じられる辺りの壁に近寄っていく。
 こういう遺跡系ダンジョンの隠し部屋みたいなギミックは罠師じゃなくて考古学スキルの範疇、だったね。
 なるほど、碑文を読むと手に入る考古学スキルがこの3Fで早速活用できるようになっているわけだ。

 ミスティスがそれっぽい場所の壁に押し込むように触れると、ちょうどそこが隠しスイッチだったみたいで、レンガが壁の奥に引っ込んで、その両脇にあった謎顔レリーフの目がピカッと一瞬光ると、この3Fに入る時の入り口のギミックのように、周囲のレンガがゴロゴロとズレたり引っ込んだりを繰り返して開いていく。

「わぁ……」
「おぉ〜♪」
「な〜るほど、この手の隠し部屋も遺跡系ダンジョンにはつきものだぁね。やっぱいろんな意味で正しく『エニルム3F』って感じだなぁ」

 天地さんの言う「エニルム3F」は多分、「初心者用ダンジョン」って意味だろうね。
 確かに、こういう隠し部屋の類もダンジョンの定番だもんね。
 一昨日オグ君は「ダンジョンとしてあるべき要素は一通り揃っている」って言ってたけど、考えてみれば、その割には2Fまでにはこういうギミックや、最初に見たような落とし穴型のトラップとか、パッと思いつく「ダンジョンの定番要素」の内のいくつかは欠けているように思えた。
 この辺の、2Fまでにはなかった定番要素はこの3Fに潜んでるってことなのかもね。

 さて、それはそうと、部屋の中身は……?
 覗いてみると……部屋の広さは、学校の教室……よりは広いかな。
 う〜ん……大体、テレビで紹介されるような高級ホテルのロビー、ぐらいがそれっぽいかもしれない。
 そんな広さの正方形の部屋の壁には、1面につき1つずつ、巨大な謎顔レリーフが刻まれていて、中央には、棺……?みたいな、宝箱のような何かが置いてあった。

 このゲームの場合、所謂「不思議な宝箱」の役割はフォトンクラスターが担っているわけだけど、これも宝箱……でいいのかなぁ?
 まぁ、ちゃんとこういう箱に入っているのもそれはそれでファンタジー定番の浪漫ではあるけども。

「ふ〜ん……ま、罠とかではなさそうだし、とりあえずアレ開けてみよー♪」

 と、軽い足取りでミスティスが中央の箱に向かっていく。
 まぁ、実際罠師のスキルは反応してないし、ひとまずは大丈夫そうかな?と、僕もそれに続いてみる。
 が――

「や、あっ、タンマっ……!」

 天地さんだけが何かに気が付いて静止をかけて――しかしそれは一歩遅かった。
 僕たち全員が部屋に入ったタイミングで、ちょうどミスティスが箱に触れる。
 すると、

「へっ?」

 ガラッと岩が落ちるような音を立てて突如箱が床下に引っ込んでしまい、蓋の上面だった部分が床になってしまうと同時に、天井から巨大な謎顔レリーフがゴトンと降ってきて、僕たちが入ってきた入り口を塞いでしまう。
 マズい、閉じ込められた!?
 と思う間もなく、今度は他の三方向の謎顔レリーフがゴロゴロと上に引き上げられていき、その奥からは……Mobが大量に出てきた!?
 わらわらと謎顔レリーフの奥から集まってきたのは、大半がハイゴブリンとブルースライムの集団。
 だけど、1方向につき1体ずつ、ゴーレムtype2も混じっている。
 これはつまり……

「わわわ、モンスターハウス(モンハウ)だー♪」

 2Fまでで抜けていた「ダンジョンと言えば」な定番トラップの一つ、モンスターハウスのトラップだね。
 ……って、ミスティスはむしろ状況を楽しんでるような反応だね。

「やー、なかなかに上手い作りしてんね〜。他のトラップは全部Lv3以下で油断させといて、ここだけLv5が仕掛けられてるとは、はははっ。作者はなかなかいい趣味してるぜ」

 一応銃は構えつつも、天地さんが暢気に笑う。
 な、なるほど……それで僕たちには何も感じられなかったんだね。
 ちなみに、ライトの補助スキルで見えるようになるのはLv2の罠までだ。
 1FがLv1、2FがLv2、そして僕たちがさっき見えるようになったこの部屋以外の3Fの罠がLv3で、罠のLvも順当に上がってきてたという感じだね。
 それだけに、ここだけ例外的に二つもLvを高くして油断を誘っているのは、なんとも嫌らしい作りだねぇ。

「そ、それはいいけどどうするのこれ!?」

 初めての状況で慌てる僕だったけど、二人は割と落ち着いてるね?

「ヘーキヘーキぃ〜。とりま集めちゃうからあとよろしくね〜」

 いつも通りの軽い調子で、前に出たミスティスが挑発を打ち鳴らす。
 って、この狭い空間で全部のタゲ一度に引いて大丈夫!?
 案の定、集まった全てのMobがミスティスへと殺到する。
 一番足の速いハイゴブリンの波がミスティスに届くかどうかという刹那――彼女が大きく跳躍して、包囲を抜け出す。
 そうして、着地するなりブルースライムの横をかいくぐり、僕たちの左側から回って、部屋の外周を大きく左回りに走り出す。
 なるほど、スライム森のあの時と同じように、サークルトレインでまとめようとしてるのか。

 とすれば、僕のやることも決まったかな。
 僕たちがやるべきは、ミスティスがMobを集めきったところをまとめて殲滅すること。
 ただ、数が数だしゴーレムもいるから、全部まとめて一度にやれる保証はちょっとできなさそうな感じだねぇ。
 僕がここで選択するのは……フル詠唱のアイスボム!
 これなら、全員まとめてある程度はダメージを与えつつ、撃ち漏らした相手も凍結での足止めで各個撃破に持ち込めるはず!

 とは言え、スライム森の時と違って、ゴブリンにスライムにゴーレムに、全然足の速さの違う3種類のMobがごった煮状態なんだけど、大丈夫なのかな?
 なんて僕の心配も杞憂で、最初の1周は部屋の外周を大回りしつつ、2周からは、最終的にゴーレムが円軌道の中心になるように、少しずつ円の中心位置と半径をずらしながら狭めていって、あれだけの量のMobを見事に一ヵ所にまとめてしまう。
 周りの味方を巻き込んでしまうせいか、ゴーレムも腕を大きく伸ばすような攻撃はしてくる気配がなく、誘導されるがままにくるくると無駄な方向転換をするばかりだね。

「凍てる氷礫、荒ぶ氷刃、此処に結せよ。其が形成すは氷禍の牢獄、万象凍止める不壊の氷壁。爆ぜよ、渦巻け。触れる全てを氷獄の贄と成せ!」

 その間に、僕の詠唱もしっかり完了済みだ。

「オッケー、よろしくっ!」

 敵をまとめきったミスティスが軽く跳躍して離脱する。

「《アイスボム》ッ!」

 せっかくまとめてくれた敵集団がミスティスを追って崩れてしまう前に、間髪入れずにアイスボムを発動する。
 吹き荒ぶ風切り音と共に、渦巻く風雪がドーム状になって全ての敵を呑み込んでいく。
 最後に弾けるように雪の領域が爆ぜれば、元々極端な温度変化に弱いスライムはほぼほぼ全滅、ハイゴブリンもほとんどが凍結しているか、凍らなかった奴も多段ヒットの攻撃判定を全てくらってボロボロだ。
 ゴーレムも、ダメージは入ってないけど、凍結はしっかりかかっている。

「てぃやぁ〜〜〜っ!」

 そこに、反転したミスティスがマグナムブレイクで突っ込んで、ゴーレム以外を一気に殲滅してしまう。
 残りはゴーレムtype2が3体だけだね。

 すかさず、天地さんが素早く照準して、パワーシュートで3体全ての頭を落としてしまう。
 こうなってしまえば、type2と言えど片腕を核の防御に使うしかない。
 もう普通のゴーレムと大差ない相手だね。

「OK、1匹は受け持とう」

 天地さんがゴーレムの1体に向けて発砲する。
 けど、サイレンサーもついていないのに、「カチャッ」というわずかな銃の動作音以外その発射音は聞こえなかった。
 これは、魔力で発射音に指向性をつけて目標の1体だけに音が聞こえるようにしつつ、その発射音に魔力を共鳴させて、目標の1体だけにピンポイントで挑発と同じ効果を発揮させつつダメージも入れてタゲを取る、ガンナースキルのヘイトクラッカーだね。
 基本は他のアーチャー系と同様に各個撃破が主な戦術になるガンナーが、集団から敵を釣り出して効果的に1対1の状態を作り出したりするためのスキルだ。
 今の天地さんのように、敵の集団の中から厄介な1〜2匹だけを抜き出して、一時的なサブタンクとしてメインタンクの負担を軽減する、みたいな使われ方もよくあるみたいだね。

「サンキュー!」
「お願いしますっ!」

 1体は天地さんに任せておけるとして、残るは2体。

「《フロストスパイク》!」

 その内、ミスティスの側面側にいた方にフロストスパイクを撃ち込む。
 さすがにゴーレムの巨体を射程外まで突き飛ばすことはできないけど……!
 狙い通り、突き出した氷の棘に足元を掬われて、ゴーレムが前のめりに倒れる。
 当然、倒れたその先には既に馬防柵のように無数に氷の棘が突き立っているわけで、そこに絡め取られるようにして挟まって、ゴーレムは行動不能になる。
 氷の槍がゴーレムの重さに耐えられる間だけだけど、ミスティスが対峙している方のゴーレムを倒すには十分な時間稼ぎになるはずだ。

「ナイス〜! んじゃ先こっちやるよっ!」

 こうなればまぁ、既に頭が落ちて、核の防御で片腕しか使えなくなってるゴーレムなんて、2Fまでの通常型ゴーレムと大差ない。
 今更遅れを取るような相手でもないね。
 ミスティスがサクッと両腕を落としてくれれば、がら空きの核にブレイズランスを撃ち込むだけだ。

 フロストスパイクの拘束がついに耐えきれなくなって、氷が割れて手足が動かせるようになった2体目が、頭も復活させつつ起き上がる。
 けど、その頃には僕たちもばっちり迎撃の体勢を整えている。

「2匹目っ!」
「《ファイヤーボール》!」

 ミスティスが飛び込んで、飛んできた右ストレートを盾で受ける。
 そのノックバックと入れ替わるようにして、核を守っている頭の関節に向けてファイヤーボールを放つ。
 あの巨体であってもファイヤーボールの効果はしっかり発揮できたみたいで、ゴーレムは1ヒット目で上半身をのけ反らせられながら頭の岩を落としてしまい、続く爆発で、上から押し潰されるようにして膝を突く。
 あとはもうほとんど流れ作業だね。

「よっ……とー♪」

 膝を落とされて地面に突いた腕を足掛かりに、イグニッションブレイクでの爆破から反動を使った跳躍でのメテオカッターで一息に両腕が落とされる。
 ゴーレムの方も苦し紛れにレーザーを放ってくるけど、盾できっちり受けきっているし、プリズムシールドもあるおかげでほとんどダメージもなさそうだね。

「穿て、《ブレイズランス》!」

 無防備な核にブレイズランスを撃ち込んで、2体目の処理も完了。

「天地〜、こっち終わったよー」

 と、天地さんがタゲを取ってくれた最後の1体を振り返ると……

「おー? おつかれー」
「……って、えぇぇ…………」

 最後のゴーレムは、本来胴体として核を取り囲んでいるはずの小さな岩まで含めて身体中の岩という岩の接続を全てバラバラに切断されて、ただ赤い石が混じった石ころの集団と化していた……。
 しかも、ご丁寧に接続を復活しようと光が灯った石から順に適当に蹴っ飛ばされて、再接続すらさせてもらえていない。
 こ、これはえげつない……。

「わー……バラバラ殺人だー……」
「ぶっ、おぅ、人聞きの悪い表現やめーや」

 ミスティスがドン引きするのもむべなるかなというところだ。

「やー、テキトーに斬ってたらなんか楽しくなっちゃって」
「あー……そ、そう……」

 言いつつ、ただ無力に転がっているだけの核に銃弾を撃ち込んで、天地さんが最後のゴーレムをフォトンに還す。
 う、うん、なんていうか……暇を持て余した廃人の遊び……?
 えーっと……と、ともあれ、これで一応現れたMobは全部倒せた、かな?


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