note.071 SIDE:G

 モンハウの敵は全部倒せたと思ったら……うん?ゴーレムのフォトンが、蒸発せずに床に集まっていく……?
 フォトンが集まる先を見ると……なるほど、多分、僕たちが戦闘に夢中で気付いてなかっただけで、ここまでの他のMobの分も全部集まってたんだろうね。
 最初に床に引っ込んでしまった箱の蓋の上面部分に何やら紋章刻印らしきものが刻まれていて、いつの間にかほとんどが満たされていたそこに、ゴーレムのフォトンも魔力として取り込まれているようだ。
 ゴーレムのフォトンも全て吸収されきったことでちょうど発動に必要な魔力が満たされたのか、紋章刻印が光を立ち昇らせると、埋まっていた箱部分が再び床からせり上がってきた。
 つまり、出現したMobを全部倒しきれれば箱が開けられる仕掛けになってるなんだね。
 箱が上がりきると、紋章刻印の光が箱の装飾全体に広がって、光はまるで水の底が抜けたようにスッと上から下へ消えていって、完全に静まる。
 なんだろう、魔力が切れたというよりは……箱に吸収された?なんだか、そんな印象だ。

「おぉ〜、ごほーびだー♪」

 早速ミスティスが箱に飛びつく。

「開けるよー?」
「うん!」
「おぅいぇ」

 さて、箱の中身は――

「おぉー……おぉー?」
「えっと……?」
「なんじゃこりゃ」

 中に入っていたものは全部で三つ。
 多分、僕たち三人分ってことなのかな?
 ただ、僕たちが微妙に困惑した理由は――ぱっと見で何なのかわかるものが片手剣一振りだけだったからだ。

 とりあえず片手剣は、例によっての謎顔レリーフ……が刻まれているわけでもなく、鍔の辺りにゴーレムの核を模したのだろう、赤い玉がはめ込まれている以外はあんまり特徴がない、見た目には普通の片手剣だ。
 そして、問題のあと二つは……ゴーレムの核そのもの?……にしか見えないんだけど……何だろう、これ……。
 ひとまずはミスティスが片手剣を、僕と天地さんで一つずつ謎の赤い玉を手に取ってみる。

「まぁいっこっつ見ていくか」

 というわけで、まずはわかりやすいミスティスの片手剣から。

「えっとー、なになに……? 『ソードゴーレム』……? え、『ゴーレムソード』じゃなくて? えーっと……?」

 怪訝な顔でミスティスはアイテム詳細のウィンドウをスクロールさせていく。

「あー、なるほどねぇ」

 と、何やら納得したミスティスは、

「ていっ」
「!?」
「ちょっ!?」

 何を思ったか、突然その剣を壁に向かってぶん投げてしまう。
 偶然か狙ったのか……いや、狙ってたら地味にすごいことやってる気がするんだけど、剣は綺麗に石レンガの隙間に挟まって壁に突き立っていた。
 そして、だいぶ遠くまで飛んでしまったその剣に向けてミスティスが腕を伸ばす、と――

「わっ!?」
「おぉぅ」

 なんと、ひとりでに剣は壁から抜けて、ミスティスの手元まで戻ってきた。

「いいじゃん! すげぇな!」
「うん、すごい……」
「でしょー? あと、こーゆーのもできるんだって」

 そう言って、ミスティスが今度は剣に軽く魔力を通す。
 すると、剣が彼女の手を離れてひとりでに浮かび上がる。

「う、浮いた……?」

 その上で、ミスティスは自分の剣を抜くと、適当に素振りで一振り。
 直後、浮いた剣がその軌道を追うようにして、自動的に斬りかかった。

「どーよこれ!」
「おぉー」
「ほほぅ、なかなか面白い機能だな」
「でしょでしょ? なんかねー、これ単体で小型のゴーレムなんだってさ。ある程度私の動きに連動して自動的に追撃してくれるみたい」
「それで、『ゴーレムソード』じゃなくて『ソードゴーレム』ってことか」
「みたい。まぁ、攻撃力とかはLv相応って感じだから、使えるのは今のうちのLvぐらいだろうけど、しばらくはいい戦力になりそうだよー。逆に言えば、ここのLv相応ではあるから、今私が使ってる剣よりスペックは上だしね〜」
「なるほど」
「それで、二人の方のその玉は何なの?」

 問題の、謎の赤い玉だね。
 見た目はゴーレムの核そのもの。
 大きさはー……テニスボールぐらい……かな。

「んー……『ゴーレムコアスペラー』?」
「あー、僕のも同じみたいです」

 見た目同じな時点でなんとなく予測はついてたけど、やっぱり僕と天地さん用?っぽく出てきたこの二つは同じものみたいだね。
 えーっと……?ゴーレムのコアを利用した魔法補助道具……コア単体で動作する極めて初歩的なゴーレムであり、基礎的な魔導書と同等の機能を持つ。自立駆動サポート付き、と……。

「って、いやこれ魔導書扱いかよ草でしょ」
「あははっ、それが魔導書はちょっと無理あるでしょー、本要素どこにもないじゃん」
「あ、でも、マジシャン装備可能ってなってますね」
「あー、だな。まぁそこは、ここで出るLvの装備なのにここに来るLvで装備できなきゃしょうがないってことじゃないすかね」

 魔導書は本来、ある程度熟練した魔術師でこそ使いこなせるものという扱いをされていて、上位職にならないと装備できないんだよね。
 でも、この玉はその制限がないらしい。
 とは言え、

「まぁ、スロット数は4ですか」
「言うてマジシャンで装備したらどのみち上級魔法なんて持ってないしねぇ。こんなもんっしょ」

 魔導書にのみついている特殊機能である「スキルスロット」。
 「本」としての本来の使い方ということで、初級魔法がコスト1、中級がコスト2、上級をコスト3として、対応するスロット数分の魔法を記録して、消費MP3分の2の無詠唱で発動できる。
 けど、この玉はマジシャンでも装備可能な魔導書である代わりに、そのスロット数が少なめらしい。
 完全に、上位職ではない、それこそこのエニルム3Fぐらいを狩場にするようなLvのマジシャン向けのお試し用魔導書って感じだね。

「一応、固有魔法付きか。ってかこれ多分……」

 と、天地さんが玉を適当な方向に向けると、

「ですよねー」

 玉からはトルーパーやtype2が撃ってくるようなレーザーが発射された。

 魔導書の一部には、たまにこういう、固有の魔法が最初から固定で記録されていることがあるんだよね。
 もちろん、そのどれもが既存のスキルツリーにはないユニークなものばかりだ。
 ほとんどは、元の製作者にしか読めないような特殊な暗号や独自の言語で書かれていたりして、術式の再現も難しいようなものばかりらしい。

「まぁパーティーグッズにはなるかね」

 なんて、浮かせた玉を魔導書の要領でふわふわと操作する天地さん。
 まぁ、アイテムの性能としてはLv相応でしかないからねぇ。
 彼にとってはパーティーグッズ扱いということらしい。

 僕も天地さんに倣って、試しに魔力で玉を浮かべてみる。

「おっと……っと……あ、意外と操作は簡単ですね」

 なんとなく玉を浮かばせたい位置をイメージすれば、そこまで自動で飛んでくれる感じだね。

「や、それ多分この玉がゴーレムだからだぞ。普通の魔導書の操作はこんなもんじゃないからあんまそれで慣れるのはオススメしないとだけ」
「そ、そうなんですか……」
「普通の魔導書の操作は……そうねぇ、あれだ、UFOキャッチャーにY軸ボタンを加えて全ボタン一度に手動操作する感じっつったらイメージつくかいね?」
「うわ、もう聞いただけでめんどくさい……」

 ミスティスが露骨に嫌そうな顔をする。

「あー……つまり、こういうこと……ですかね」

 試しに操作のイメージを変えてみる。
 つまり、魔法の座標指定みたいな置きたい場所を指定するんじゃなくて、こう、XYZで今浮いている位置からどのぐらい動かしたいかを指示する感じで……?

「お……わ……わぁぁ!?」

 ま、魔力操作がすっごい難しい!?
 こう、コンソールタイプのFPSでスティックの感度を高くしすぎてちょっと倒すだけでぐるんぐるん回っちゃってゲームにならないみたいなあの感じ!

「ちょっと入力の感度高すぎませんかこれ!?」
「だろー? わかるわかる。それ要するに、空間把握が出来てないから、例えば数値として『1』動かそうとしても、その『1』の長さが曖昧だからそうなってるんだよな」
「は、はぁ……」
「例えばだ。今指で1センチ正確に測れって言われてできる自信あるか?」
「えっ? えっとー、1センチ……これぐらい……ですかね……?」

 だいぶ当てずっぽうだけど、指でそれっぽい長さを示してみる。

「んー……まぁそれが合ってるかどうかは置いといてだ。その指そのまま2センチまで広げてみ?」
「に、2センチ……? えぇっと……」

 言われるまま、完全に目分量だけで広げてみるけど……

「それ、合ってる自信ある?」
「い、いえ、全く……」
「うん、そういうことなんだよねぇ。普通無理っしょこれ。魔導書の操作ってこれを縦横斜め自由に正確に測れなきゃいけないのよ。やー、どこぞのファンネルいくつも操作してる新人類が実際いかにバケモンかって話よねぇー」
「な、なるほど……」

 ……魔導書の操作でビットとして使うやり方を実戦でやる人が少ない理由がよくわかったね。
 やる人が少ないとか以前に、そもそもできる人が早々いない……!
 これでは確かにお手上げだ。

「まぁ恐ろしいことにリアルバケモンってのは探せばいてしまうわけだが……まぁ、その話は今はいいか」

 つまり、これを使いこなしてる人がいるってことね……それこそファンネルみたいなノリで……。
 ミスティスもちょっと遠い目になってるってことは、彼女も面識がある程度にはそれなりに有名な人ということなのだろう。
 この難易度を自在に操れるとなると、確かにそれだけでも目立ちそうだ。

「あはは……ちょっとそんなニュータイプにはなれそうにないので、性能が足りる間はこれで我慢しておくことにします」

 操作のイメージを元通りにして、改めて適当に操作してみる。
 うん、これで操作できるのが本当に簡単だ……。

 ところで……

「そう言えばこれ、どうやって出ればいいんですかね……」

 敵は全部倒せたけど、入ってきた入口は閉じたままだし、他に脱出口もないし……。

「んー……あ、わかった! 多分だけど」

 ミスティスが何か閃いたようで、箱の後ろ側に回ると、開けた後適当に放置されていた蓋を持ち上げて元通りに箱を閉じる。
 すると、

「うん、セーカイセーカイー」

 ゴロゴロと謎顔レリーフが引き上げられていって、閉じていた入口が開いていく。
 なるほど、箱を元に戻すのが脱出の条件だったんだね。

「やー、なかなかに秀逸なトラップだった。ま、出られたし次いくかー」
「「おー」」

 思わぬ足止めだったけど、収穫もあったし結果オーライかな。
 探索に戻ろうか。


戻る