note.072 SIDE:G

 隠し部屋を出て、再び探索に戻る。

「しかしまぁ、あれだ。さっきの部屋、サークルトレインなんて古典技法、よくこのゲームでやろうと思ったなチカ。しかもまさか通用するとは思ってなかったぜ、っははっ」
「やー、こないだちょっとやってみる機会があってね〜。咄嗟の思いつきだったんだけど、案外できちゃったから、多分アレもいけるかな〜って」
「あぁねー。そうか、この世界でもサークルトレインそこそこ通じんのか……。割とその発想はなかったって奴だな。覚えておこう」

 僕は見るのは2回目だからそれほど驚かなかったけど、天地さんでも意外に思うぐらいには古い技術だったんだね、サークルトレイン……。
 なんて話もありつつ、しばしの間順調に進むと、

「ん?」
「お、これは……?」

 ミスティスと天地さんが何かに気が付いたみたいだね。
 マップを覗き込む二人に、僕も倣ってマップを見てみると……

「あ、そこの通路……」

 前方に見えたT字路と、今の僕らの現在位置を見比べてみると、なるほど、あの曲がり角がちょうど、僕たちが最初に降りてきた階段の延長線上に沿う位置にある感じだね。

「これがアタリかな?」

 期待を込めて、T字路を曲がってみれば、

「おぉ〜、あったり〜ぃ♪」

 予想通り、何やら複雑に装飾が施されたボス部屋らしき扉が現れる。
 ボス部屋……いよいよかぁ……。
 おそらくは、これが「真の試練」の最後。
 果たして何が出てくるのか、当たり前だけど事前情報なんて何もない、ぶっつけ本番だ。
 ワクワク半分、ドキドキ半分、って感じだね。

「まぁ入る前にかけ直すか」
「ほいほい、あり〜」
「助かります」

 天地さんが支援スキルを一通りかけ直してくれる。

「それじゃあ、いざっ!」
「うん!」
「いぇあ」

 三人並んで扉に触れれば、2Fの時と同様に扉はひとりでに開いていく。
 部屋の中は、何やら奥にまた祭壇みたいなものがあるように見えるけど……まだちょっと薄暗くてわからないね。
 扉をくぐると、お約束通り背後で扉は閉じられ、一定間隔で壁につけられた松明に順に火が灯って部屋が照らされていく。
 そうして部屋の奥に見えたのは、やはり祭壇らしき何か……。
 でも、銅鐸の部屋のようなそれというよりは、どちらかと言うと、さっきの隠し部屋にあったような、棺?のようにも見える、床と一体化した石棺だね。

 石棺に刻まれた紋章刻印(エンブレムシール)が起動すると、連動するように石棺の装飾全体が光を発する。
 続いて、どこからともなく不気味な、だけどどこか威厳ありげな声が部屋に響く。

「汝、真の試練に挑みし者よ――」

 石棺の向こう、部屋の中央の壁面に刻まれた大きな紋章刻印に魔力が満たされていく。

「我が手ずから最後の試練を与えよう」

 その言葉と共に紋章刻印が起動し、そこから壁をすり抜けてくるように姿を現したのは――ボロボロのローブを纏った、上半身だけの巨大な骸骨だった。
 骨盤から下がなく、背骨だけで宙に浮く骸骨が、部屋の中央に降りてくる。
 名前は「エニルム・ルーラー」……Lv表記は115、か。
 まぁ、ここまでの探索で僕のLvも113まで上がっているし、ミスティスも103になっている。
 天地さんの支援もあるし、勝てない相手ではないはずだね。

「うげ……ゴースト系!?」

 骸骨の姿を見て少し慌て気味になったのはミスティスだ。
 ゴースト系だとすれば属性が付与されていない物理攻撃は通らなくなっちゃうからねぇ。

「チカ!」

 天地さんが彼女に向けて何かを投げた。
 今のは……水色のジェム?
 それを受け取ったミスティスは、

「ありがとー天地〜! 後でなんか返す!」
「やー、言うてそれぐらいはかまわんよ」
「そーお? じゃ、遠慮なく……《アスペルシオ》!」

 スキルを発動させる。
 なるほど、アスペルシオの刻印魔石(シーリングジェム)だね。
 本来は触媒として聖水が必要なスキルだけど、刻印魔石での発動はジェム単体で可能になっている。
 その代わり、水色を使うから、少しジェム自体が割高なんだよねぇ。
 当然、ちゃんとプリーストがいるなら素直に任せた方が圧倒的に安上がりだ。
 基本的には今回みたいなプリーストなしの少人数パーティーでの非常用という感じの認識で、普段使いでの常用にはちょっとお財布と相談、というぐらいの値段になっている。

「それと、マイス。多分初めてのパターンだと思うけど、敵に人語が喋れるぐらいの知性があると状況判断も人間と変わらんレベルでやってくるから、挑発(プロボ)でタゲが固定しきれない場合がある。油断すんなよ」
「了解です!」

 そうか、挑発でタゲが固定されるのは、魔物の魔力に頼った周囲の状況の探知を音と魔力の共鳴で攪乱しつつ、音そのもので注意を引き付けるからであって、人間と同じレベルで魔力以外の方法でも知覚できるのなら挑発も絶対ではないってことだね。
 これは気を付けておかないと……。

 僕たちに合わせているのか実はあまり高くは浮けないのか、ミスティスの剣でも攻撃が届くだろうぐらいの地表近くの高さまで降りてきた骸骨は、お決まりのようにカチカチと歯を合わせてカタカタと骨を鳴らすと、全身から魔力を噴出させて、両手に炎を灯す。
 つまり魔法攻撃が主体ということなのかな?

「それじゃあ……いくよっ!」

 いつも通りに挑発を打ち鳴らして、ミスティスが骸骨に突っ込む。
 構えているのは、新しく腰に提げたさっきのソードゴーレムの方だね。
 骨の身体に斬撃は当てにくいと見たか、初手からイグニッションブレイクで頭部に斬りかかる。
 まぁ、大概のパターンで骨の相手と言えば頭部への破砕と相場は決まってるもんね。
 対する骸骨は、一見してミスティスの動きに反応できていない……?ようにも見えたんだけど……

「っ!? 何!?」

 その刃が骸骨に届こうかという直前……何かバリアみたいなものに阻まれた!?
 ミスティスも驚いた様子で、イグニッションブレイクの反動を使って一旦離脱する。
 ダメージもあまり通った様子はないね。

 反撃に、骸骨が両手の炎からファイヤーボルトをミスティスに向けて放つ。

「おわわ……!」

 ミスティスは、対象指定魔法故に必中であるそれを盾で受ける。
 天地さんがかけてくれたプリズムシールドの効果とウォルフラムシールドの元々の火属性耐性のおかげで、こちらもほとんどダメージなく受けきれたみたいだ。

 これは……まずはあのバリアをどうにかしないと、まともなダメージを入れることは難しそうだねぇ。

「さぁてぇ? こいつは何かギミックがあるパターンか、もしくはバリア自体にHPがあるパターンか……どっちにしろ厄介な話だぜ」

 台詞とは裏腹に、状況を心底楽しんでいる顔で天地さんが唇を濡らす。

 さぁ、どうやって攻略しようかな?


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