note.101 SIDE:R

 まぁ、チャイムが鳴ってから後はもう、いつも通りの授業風景という感じだね。
 先生たちとしても転校生の学力の程を確かめておきたかったのか、ほとんど毎授業、最低一回は指名されていた楪さんがちょっと大変そうだなぁとか思ったりはしたけど、特段滞りなくいつもと変わらない一日が過ぎていく。
 結局、謎の「探し物」については暗黙の裡に双方「それ以上触れない」という方針になったようで。
 楪さんも、お昼休みにはいくつかの女子グループに同時に誘われて、取り合いみたいになった結果、最終的に十数人の大集団でわちゃわちゃと食堂へ……なんて一幕もあったりと、ひとまずは順当に新しいクラスでの第一歩を踏み出せているという感じだね。

 そうこうしているうちに時間はすぎて、あっという間に放課後。
 最後のチャイムが齎した解放感に包まれていく教室で、その喧騒に混じって大きく伸びをしながら席を立った楪さんに声をかけたのは、やはりというか、九条君だった。

「よ、楪……でいいか?」
「ん〜? なんでもいいよ、好きに呼んで。それで、用事はな〜に?」
「あぁ、それで……あーっと、その前にまずは自己紹介からか。俺は九条 直也。まぁ、そっちも好きに呼んでくれ。よろしくな、楪」
「じゃあ、直也くんでいいかな。よろしくねー」
「おう。で、本題だけどよ。今朝言ってた『探し物』ってやつ、俺たちにも手伝わせてくれねぇか?」
「え、えぇっ!?」

 よっぽど予想外の申し出だったのだろう、楪さんが目を丸くする。
 まぁ、そりゃそうだよね。
 本人すらなんだかよくわかってないという探し物を、他人が手伝おうなんて、普通に考えたらだいぶ奇特な暇人だと思う。

「待って待って! いや、本当に真面目に手伝ってくれるんだったら確かにありがたいけど、今朝も言ったよね? 私、自分でも何探してるのかわかってないんだよ?」
「あぁ、ちゃんと聞いてたぜ。むしろ、だからこそさ」
「だからこそ?」
「モノが何かはわかってなくても、この街にあるってことは間違いないんだろ? だったら、俺たちなら助けになれると思うぜ」

 と、自信ありげに九条君が言ったところで、タイミングを見計らっていたか、小倉君と塚本さんが加わる。

「ご近所のお悩み相談から」
「巷の噂の真相までっ!」
「我ら遠堺探偵部にお任せあれ!」
「……た、探偵……部?」

 やっぱりリアクションに困るよねぇ、このノリ……うんうん、気持ちはわかるよ……。

「まぁ、俺らが勝手に『部』って言ってるだけで、正式な部活じゃないんだけどな。こっちのオグと、リナ、それとこっちの高坂を加えて4人で、まぁちょっとしたお悩み相談とか、七不思議系みたいな噂を集めて真相の調査なんかを引き受けてるのさ」
「ご紹介に預かった小倉 恭一だ。まぁ、オグと呼ばれることが多いけど、好きに呼んでくれて構わない」
「同じく塚本 理奈! よろしくねー」
「あ、えっと、高坂 大樹、です。よ、よろしく」
「オグくんに、理奈ちゃんに、大樹くんね。うん、覚えた! よろしくぅ」

 うぅ……ちょっとトチった……自己紹介ってやっぱり苦手だ。

「にしても、探偵部ね〜。お悩み相談はともかく、噂の真相探し……おもしろそうなことしてるじゃん」
「お? 興味あるげな感じ? なんなら、メンバーになってくれてもいいんだぜ」
「いいの?」
「うんうん、結ちゃんなら大歓迎!」
「ふむ、どうせ探し物を手伝うなら基本一緒に行動することになるだろうし、ちょうどいいだろう」
「そうだね、僕も異論はないかな」

 早速、楪さんと友達になれるチャンスだし、どっちみち「探し物」の正体は彼女本人にしか確かめようがない以上、小倉君の言う通り探し物を手伝う限りは基本的に一緒に行動することになるだろうしね。

「そいじゃあ、よろしくしてもらっちゃおうかな〜。どうせ、放課後は一人で探し物のつもりだったから、きちんとした部活ってのも入る予定はなかったしね〜」
「っしゃ、決まりだな! 改めてよろしくな!」
「よろしくねみんなー」

 あれよあれよという間に転校初日の楪さんを仲間に加えてしまった。
 う〜ん……この九条君のアクティブさは見習っていきたいところだなぁ……。

「それで、お悩み相談はまぁ、相談する人がいればってことなんだろうけど……噂の調査って具体的に何してるの?」

 そう言えば、僕もまだその辺詳しくは聞いてなかったなぁ。
 今まで本人たちがそう言っているのを横目に聞いてはいたけど、別に放課後の様子まで直接見たりしてたわけじゃないもんね。

「そりゃあもちろん、当たって砕けろの体当たり捜査だぜ。百聞は一見に如かず! とにもかくにも直接現場に行って、この目で確かめるのが一番確実だかんな! それにほら、よく言うだろ? 探偵は足で稼げって」

 九条君がびしりと親指を立てて答える。
 おぉぅ……結構アグレッシブな捜査方法なんだねぇ。
 まぁ確かに、学校で流れる程度の噂の真相だなんて、結局のところ直接行って確かめるのが一番確実ってことなんだろうけど。

 えーっと、ところで……

「いや、足で稼げは刑事じゃなかったっけ……?」
「いーんだよ高坂、んな細けぇことは気にすんな、ハハッ」
「えぇー……」

 う、うん、まぁ、実際どっちでもいいと言えばどっちでもいいんだけど、うん……。

「あははっ。ふんふん、な〜るほどー。もしかしたらそーいう噂の中に私の探し物の手がかりもあるかもだし、なおのこと私にピッタリだね! ちなみにだけど、今何かこう、調査中みたいな噂ってあるの?」

 という楪さんの質問に、一瞬顔を見合わせる九条君たち。
 多分、あのことを聞くかどうかで迷ったんだろうね。
 で、結局聞いてみることにしたようで。

「あーっと……それなんだが……ダメ元で一つ聞いてみてもいいか?」
「うん? 私に? いいけど、何?」
「『黄昏の欠片』って単語を聞いたことはないか? ちょっとしたことでもなんでもいいから、心当たりがあったら教えて欲しい」

 まぁ、探偵部で目下調査中の案件といったらこれになるよね。
 さすがに今日転校してきたばかりの楪さんが何か知ってるってことはなさそうだけど……?

「『黄昏の欠片』、ねぇ……。ん〜、それってさぁ」
「お、なんだ? 何か知ってるのか!?」
「あいやごめん、単語自体は初耳なんだけどさ。ただ、事前情報なしでそのワードだけを聞いた第一印象としては、どっちかっていうと七不思議系っていうよりは、こー、ファンタジー世界の伝説のキーアイテムとかそーいう感じだよね、って思って」

 その言葉に、今度は僕も含めて全員で、顔を見合わせることになった。
 様子が変わった僕たちに、楪さんも首を傾げる。

「はれ? なんか私おかしなこと言った?」
「いや、なる、ほど……言われてみりゃそうかもな」
「ふむ……この遠堺……もっと言えば僕らの周囲限定で流れてくる噂だから、無意識に可能性から外してしまっていた選択肢ではあるが……」
「でも、だとして、あたしたちは一体何を探せばいいの? 図書館でそれっぽい本でも漁る?」
「それに、この考えが正しいとするなら、『黄昏の欠片』の正体は結局ただの創作上の作り物ということになってしまう。そんなものが、どうして内容も一貫しないようなオカルトとして独り歩きしているんだ?」
「う〜ん……」

 考え込む九条君たちだったけど……僕の中では不思議と、足りないピースの一つがパチリとはまったような、そんな感覚があった。

「HXTだ……」
「え?」
「きっとあのゲームの中に答えがある……と思う」
「ふむ、些か荒唐無稽にすぎるとは思うけれど……確かに、今の僕たちで直接調査ができる『ファンタジー世界』の一つではある、か」
「いやいや、それはさすがに……まさかだろ」

 適当にあしらおうとして、しかし半信半疑といった感じで思案気になる九条君。
 と、少し置いてけぼり気味になってしまった楪さんが口を挟む。

「えーっとー……なんか話進んでるところ悪いんだけど、結局その『黄昏の欠片』って何なの?」
「あ、すまん。実は、最近噂を集めてると、『黄昏の欠片』って単語をよく聞くようになってな。だけど、名前は『黄昏の欠片』で一致してるのに、なんちゃらの埋蔵金だとかUFOだとかよくわからん陰謀論だとか、どれもこれもオカルトみたいな内容ばっかりでさっぱり正体が掴めねぇんだよ。なもんで、試しにダメ元で聞いてみたわけなんだが」
「ふむふむ。う〜ん残念だけど、思い当たるような情報は持ってないかなあ」
「ま、そりゃそうだよな。サンキュ」

 さすがにやっぱり、噂そのものに関しては当たり前だけど初耳だよね。
 だけど、彼女がくれた「ファンタジー世界」というキーワード、その最たるHXTにはきっと何か手がかりがあるはずだ。
 実際突拍子もない発想だっていう自覚はあるし、どうしてかと問われると昨日からの僕の周りで起きた諸々の事件を総合してのなんとなくの感覚としか言えないんだけど……。
 ともあれ、今日はログインしたらまずは王都ユークスの図書館の予定だ。
 それこそダメ元みたいなものだし、本題である神器の情報探しのついでにでも軽く気にかけておく、ぐらいのノリで試しに探してみようかなーぐらいの心境だね。

 まぁ、その話はひとまず、今夜HXTにログインしてからかな。


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