note.102 SIDE:R

「さってと、すっかり話逸れちまったけど、ともあれ、早速探し物探しといこうぜ」
「いいよー、それじゃ、みんなよろしくね!」

 「黄昏の欠片」で脱線しちゃったけど、本題はこっちだったね。
 と言っても、本人も正体のわからない探し物なんて、どう探すんだろう?

「とりあえず、まずはなんかヒントというか、アテはないのか? この遠堺にあるってのは間違いないんだろ?」
「う〜ん……それが、私もちょっと困っててさー。なんてったらいいかなぁ……この街に来るまでは、なんとな〜くこっちの方向にあるなー、みたいなのが感覚としてあったから、それに従ってここまでたどり着いたんだけどね。ここに来た途端、その感覚がすごく曖昧になっちゃって……」

 楪さんが「うむむ……」と目を閉じて腕組みで唸る。

「なんだろなー、な〜んかこう、感覚が街全体にうす〜く広がっちゃってるというか……すごくモヤモヤするんだよね……むむぅ……」
「ふむ、それは見ればわかるようなものなのかい?」
「ん、そうだね。実際に見てみるまでこれっていう形とかはイメージが浮かばないけど、見つかれば判別はできると思うよ」
「つぅとまぁ、街中虱潰しに回っていくしかねぇか」
「そうかも……ごめんね、全然具体的なこと言えなくて」

 ものが何かもわからないのに実質ノーヒントで探せと言っているような状況に、申し訳なさそうに肩を落とす楪さん。
 だけど、

「ははっ、なぁに、気にすんな。むしろ、こういう時こそ俺たち探偵部の本領発揮ってもんだぜ」
「そ、そうなの?」
「えぇ、あたしたちに任せて!」
「何せ、普段から噂の収集と調査で街中駆け回ってるからな! 俺らよりこの遠堺に詳しい奴はそうそういないと思うぜ」

 九条君たちは悩むどころか自信たっぷりという感じだね。

「ふむ、ひとまずは……楪さんはこの遠堺についてはどれぐらい知ってるのかな? 虱潰しにしたって、とりあえず街のどこに何があるかぐらいは把握してないと、目星の付けようもないだろう?」
「あー……そっかぁ。今までこのなんとな〜くの感覚に頼っちゃってたから、そんなこと全然考えもしなかった。言われてみればそーだね。この街のことも、まだ来たばっかりすぎて、なんにも知らないや」
「それなら! 今日はあたしたちで遠堺を案内しようよ! 遠堺観光ツアー!」
「おっ、それいいな! 楪、それでどうだ?」
「いいね! 実際、探し物を抜きにしても、まだこの街のこと全然知らないし、教えてくれるとすごく助かるよ〜! お願いしていい?」
「よっしゃ、任せとけ!」

 そんなわけで、今日は楪さんにみんなで街案内になりそうだね。
 そう言えば、と思い返してみたけど、僕も案外と自分の生活圏のこと以外となると、他人に案内できる程詳しくは知らないなぁ。
 大雑把なエリア単位での要所ぐらいはさすがに覚えてるけど、後はー……あー……ジッパチ基準での安全圏と危険区域ぐらい……いや、そんなの他人に話せないってば!

 迷走しかけた思考を振り払う。

「んーじゃ手始めに、この校内の案内からいくか。今日が初日じゃ、うちの学校のこともまだ全然だろ?」
「そうだね〜。休み時間とかはお昼ご飯誘われたりでドタバタだったし、ちゃんとした説明受けるタイミングなんてなかったからね。案内してくれると助かるかな」
「OK、んじゃ早速いってみっか。南校舎は全部教室だから、まぁ省略ってことで……まずは1階降りて、西校舎の保健室と職員室からにするか」

 というわけで、5人で連れ立って教室を出る。

 南高の校舎は、「コ」の字型の真ん中に渡り廊下を加えた「タ」の字型を左右反転させた配置になっている。
 この遠堺全体が、境山を中心とした「C」字型に広がっている関係で、「C」の南側少し西寄りに位置するこの校舎は、東西南北を合わせると少し東に傾いた向きに建っているから、地図で見ると本当にちょうど「タ」の字を左右反転させた感じに見えるんだよね。
 そして、渡り廊下を除いた逆「コ」の字の横棒がそれぞれ北校舎と南校舎、それを繋ぐ縦棒部分が便宜上西校舎と呼ばれている。

 まずはともあれ教室を出て左、突き当りの階段を下りれば、最初に現れるのが保健室だ。
 扉に近づくと、AR情報で「保険医:在中」の文字と共にベッドの使用状況が表示される。
 ひとまず、今は誰も休んでいる人はいないみたいだね。

「ここが保健室だな。教室から一番近いから、もしもの時には便利なんだよな」
「確かに、体調悪い時にすぐ駆け込める位置にあるのはありがたいね〜」
「職員室も近いから、なんかあったらすぐ先生も呼べるしな。んで、トイレ挟んでここが資料室だけど、基本鍵かかってるしまぁ、こっちの職員室と合わせてほぼ職員用って感じだから普段この辺にお世話になることはまずないな」

 部屋を一つずつ指差しながらも、説明は軽く流す感じで、足は止めずに進んでいく。

「そう言えば、メインの玄関は2階みたいだけど、ここからも出入りできるんだね」
「あぁ、俺ら生徒の玄関口は2階だけど、1階のこっちは職員とか来客用って感じだな」
「なるほどねー」

 そうそう、うちの学校で少し特徴的なのは、生徒用のメインの玄関口は2階にあるってことなんだよね。
 だから、僕たち生徒は基本階段で出入りすることになっている。
 そして、その階段裏側の1階の目立たない場所にひっそりとあるのが、職員室直通で実質職員専用のこの玄関だね。

「職員室の隣は校長室と用務員室だ。これも俺らが来ることはないな。まぁ西校舎はこんなもんだ。2階は玄関だけだし、3階はただの渡り廊下だからな」

 便宜上「西校舎」とは呼んでいるものの、九条君の説明通り、2階が玄関で1階にほぼ職員用の事務的なスペースが詰め込まれているだけで、僕たち生徒からするとほぼ用のない場所なんだよね。
 生徒の行動範囲は保健室以外、南北の校舎だけで完結するようにできている。

 ってことで、この辺りは歩きながらサラッと流して、次はいよいよメインとなる北校舎の紹介だね。
 西校舎を通って1階を進むと、最初に現れるのは多目的室だ。

「ここはまぁ、多目的室ってやつだな。会議室兼用だから先生たちが会議室に使う時もあるし、文化祭の打ち合わせとかで生徒が使う時もあるし、文化祭の本番には出し物の部屋にもなる。普段も割と自由に使える部屋だから、放課後の待ち合わせ場所とか、学食が席埋まってたり騒がしさが嫌って奴がここで飯食ってたりすることもある。今は……空っぽか、んじゃちょうどいいからちょっと機能の説明だけするか」

 扉に近づくと、「未使用」と半透明のARウィンドウが現れる。
 これは今は中に誰もいないってことだね。
 中に人がいる時にはこれが「使用中」の緑色のウィンドウに、会議室に使われてたりして鍵がかけられている時には「施錠中」の赤いウィンドウになる。

 九条君がウィンドウを横にスワイプすると、それに合わせて扉が自動で開かれて、僕たちは中へと入る。
 中は一見すると何もない、壁面に電子黒板用のARプロジェクターがあるだけの簡素な部屋。
 会議室なんかに使うには、折り畳み椅子はあるけど机がないように見える。

「おぉ〜、結構広い部屋」

 とは、楪さんの第一印象。
 実際、教室2つ分の大きな部屋だからね。
 まさに、文化祭の出し物とかにもぴったりな部屋だ。

「だろ? で、ここをこうすると……」

 九条君が扉のすぐ裏、部屋の照明の物理スイッチに手をかざすと、ARの拡張メニューが現れる。
 そこに現れた「テーブル」のトグルをフリックでオンにすれば、床下から埋め込み式の長机がせり上がってきて、立派な会議室に早変わりだ。

「机が出てくるってわけだ」
「なるほど〜、椅子だけそこにあると思ったら、そういうことね〜」
「ま、多目的室はこんなもんかな。次いくか」

 机を元通り格納してから、渡り廊下と繋がる階段と、トイレを挟んで次の部屋に向かう。

「隣が家庭科室だ。……とは言うものの、授業で使うのはたまにある調理実習ぐらいだから、実質料理研究部の部室みたいな扱いになってるけど」

 扉に近づくと、ARウィンドウは使用中の緑表示なので、今も料理研究部が何かやってるみたいだね。
 ということで、部屋そのものはスルー。

「隣の食堂の厨房とも繋がってるから、空いてれば厨房のピザ窯とか中華鍋とか使わせてもらえたり、かなり整った設備でやれるらしいぜ。俺らはそれこそ調理実習でもないと来ないからよく知らねぇけど」

 なんて軽く説明しつつ、次は……

「次は学食と購買部だな。つっても、ここは昼休みに来てるだろうから説明はいらねぇか」
「そうだね〜」

 うん、食堂だから昼休みに一度女子グループで案内されてるはずだよね。
 この食堂がある区画だけは部屋の奥行が拡張されていて、かなり広々としたスペースが用意されている。
 まぁ、お昼休みには大半の生徒が来る場所だからね。
 相応の想定で席数も確保されているってわけだね。
 ちなみに、入って正面が飲食スペース、左手が配膳カウンターで、右手が購買部だね。
 普通に廊下の横から入れば食堂スペースだけど、廊下の突き当りから入ることで直接購買部に出入りすることもできる造りになっている。

「あでもそうだ、みんなの学食のオススメメニューってある?」
「そうだなぁ、俺はやっぱド定番だけどカレーかな」
「ふむ、そうだな。軽く済ませたい時はサンドイッチとシーザーサラダにコンソメスープがついてくる軽食ランチセットがオススメだけど、ガッツリ食いたい時には丼物が僕のイチオシだ。牛丼、豚丼、親子丼と揃っているけど、どれもそこらのチェーン店程度になら負けてないと思っている」
「あたしは断然、パスタかな〜。3種キノコのスープスパとか超オススメよ」

 なるほど、みんなそれぞれだねぇ。
 う〜ん、僕は……。

「僕はお蕎麦かなぁ。夏場の冷たいのも、冬のあったかいのも、どっちもオススメだよ」
「ふんふん、いいね〜、どれも美味しそう! 今日はわかんなかったから、とりあえずで日替わりセット頼んだらシンプルに焼き魚定食だったけど、いい感じに美味しかったから、どれも期待できそうだよ〜!」

 4人見事に別れたオススメメニューに、期待の眼差しで目を輝かせる楪さん。
 ひとまず、ここの食堂を気に入ってはくれたみたいだね。

「ちなみに、購買部の方はオススメってある?」

 購買部のオススメ……。

「ふむ……」
「そりゃあ……」
「もちろん」
「あれだよね〜!」

 まぁ、みんな思い浮かべるものは一つだね。
 購買部の断トツ人気ナンバーワンと言えば……

「「「「焼きそばパン!!」」」」
「おぉぅ、こっちは全員一致なんだね」
「まそりゃあもう、毎日売り切れ必至の超ド定番メニューだしな!」
「シンプルではあるが、やはり安定した味だ」
「チャイムと同時にダッシュしても、すぐ上の理科室とかVR室使ったクラスがあると着いた時には最悪売り切れてるぐらいだもんね〜」
「焼きそばパンとカレーパンだけはいつ行っても品薄だもんねぇ」

 あー、でも……と、ふと思い出す。

「僕としては、おにぎりも結構オススメだよ。半月に一回ぐらいこっそり新メニューが出てるんだけど、なんていうか、かなり尖ったのが多くて……」
「尖ったの? 例えば?」
「う〜ん……今のところ僕の中で一番強烈だったのは、しょうゆ風味の味付けご飯にワサビだけ入れた『わさび醤油味』かなぁ……」
「何その、『1個だけ激辛入り!』みたいな罰ゲームに出てきそうなやつ……」

 味の想像がついたのか、塚本さんが露骨にげんなりしてみせる。
 まぁ、うん、ご想像の通りだったよ……。

「あれは……刺さる人には刺さったかもだけど……うん、実際かなり罰ゲームだったよ……同じしょうゆ風味ご飯だから見た目だけなら完全に和風ツナマヨだったし」
「あっははっ、だいぶ攻めてるね〜」
「うん……。でも、大粒鶏からマヨとか、新メニューで当たったやつが常設メニューになることもあるから、新メニューは密かに楽しみなんだ」
「あぁ、あれ美味ぇよな。そっか、あんま気にしたことなかったけど、あれは元からあったメニューじゃなかったのか。俺もおにぎりはちょくちょく買うけど、普段明太子とか定番しか買わないから、言われてみりゃそこまでラインナップを気にしたことなかったかもなー」
「ふむ、今度からその辺りもチェックしてみるのも面白そうだね」

 なんて、メニュー談議が一段落したところで、

「っとまぁ、そろそろ学食はこの辺にしとくか。1階はここまでだから2階行こうぜ」

 九条君の先導で、校内案内に戻る。
 言う通り、1階はここで突き当りだから、次は2階だね。


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