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note.109 SIDE:G

 それからしばらくは問題なく、てんとう虫やらトレントやらを蹴散らしつつ、玉虫はみんなに引き受けてもらいながら深層部を進む。

 と、大型の羽音……!
 これは、因縁のカブトムシだね……。

 案の定現れたシールドビートルに、

「出たなー! 今日は昨日みたいにはいかせないんだからね!」

 ミスティスはビシリと剣先を突き付けて宣戦布告してから挑発を仕掛ける。
 カブトムシはパターン通りにシールドスキルを発動させたけど、

「それはもう通じないよっ!」
「!!」

 早速、ミスティスがライジングファングを放って、下方向から腹部を斬り上げる。
 まさか盾をめくられるとは思っていなかったか、一瞬ながらカブトムシがふらつく。
 この隙は逃さない……!
 カブトムシが体勢を立て直す間に、スペラーを後ろに回らせて、

「《ブレイズランス》ッ!」

 同時に、ミスティスも好機と見たか、ソードゴーレムを回り込ませて左右から挟撃する。

「とや〜いっ!」
「よし、このままダメージの蓄積などさせるものか! 《マーキングアロー》!」

 オグ君が矢を持たないまま弓を引くと、その手元に魔力でできた半透明の矢が現れて、それを射る。
 当然ながらアブソーブに吸収されるんだけど、どうやらダメージは完全に0だったようで、蓄積はできなかったみたいだね。

 ダメージ0の魔力の矢を放って、当たった相手に魔力で「マーキング」を施すアーチャースキル、マーキングアロー。
 このスキルを当てると、「マーキング」という専用状態異常がかかって、次の一射のみ命中率とクリティカル率が上昇すると共に、その一射だけ全ての攻撃手段に若干のホーミングがかかるようになる補助スキルだ。
 そして、このスキルにはもう一つ効果があって、それは――

「行けっ!」

 オグ君が突然、完全に何もいない明後日の方向に向けて、チャージングをかけたホーミングアローを撃つ。
 何に向けて撃ったの?と思いきや、矢はぐるりと大きく円軌道を描いて、裏から回り込むようにカブトムシの背後を目掛けて飛んでいく。

 ――マーキングが効果を発揮する一射のみ、視界から外れた状態でもロックオン状態が維持される、ということ。
 そこに元々ほぼ必中レベルの誘導性能を持つホーミングアローを撃てば、この通り、明後日の方向からでもぐるっと回り込んで追い付いてくれるというわけだね。

 立て続けに盾の背後を攻撃されて、未だに蓄積ダメージも0で何もさせてもらえずに、せめてそのホーミングアローだけでも吸収しようと思ったか、カブトムシは矢の方を追って後ろを振り返る。
 となれば、背後を向けてくれた僕たちからは隙だらけだよね。

「フ、本命はこちらだ!」
「すっきあり〜ぃ!」
「あたしたちのことも忘れてもらっちゃ困るわね!」
「《ブレイズランス》!」

 バーストアロー、ソードゴーレム、サブマシンガン、ブレイズランスと一斉射が加わり、

「てあ〜いっ!」

 次いでミスティスが跳躍して、ウルヴズファングでのピアシングダイブで吶喊。盾の縁が突き込まれると同時に二本の牙杭が射出されて、比較的脆いカブトムシの腹部を易々と貫通する。
 おまけとばかりに、盾を引き戻しつつミスティス自身がその腹部を蹴りつけて離脱すれば、「ぐしゃあ」と音を立てて外骨格が潰れる。
 腹部を上から足蹴にされたことで、カブトムシはのけぞるような体勢で上方向を向かされてしまい、そこで更にちょうど正面を向いた腹部の下側に、回り込んできたホーミングアローが直撃した。

 結果的に1ダメージすら吸収させてもらえずに、満身創痍のカブトムシはそのままひっくり返る形で裏返しに地面に落ちる。
 最後にそこへ、

「ふっふ〜ん、どーよ! これで終わりっ!」

 すかさずミスティスが離脱した跳躍からの落下する勢いに合わせて剣を振り下ろせば、上を向いた腹部にトドメのフォーリングファングが突き刺さり、一瞬ビクリと足をばたつかせたカブトムシは力なく動きを止めるとフォトンへと爆散したのだった。

「よーっし、完封!」
「あぁ、今回は文句なしだな」

 と、それぞれに取得した新スキルの効果に満足したミスティスとオグ君がハイタッチを交わす。

「それにしても、マーキングとホーミングアローはよく考えついたねぇ」
「ま、実際昨日のカブトムシは僕も少し癪だったからな。対策スキルを考えていたのはミスティスだけじゃないってことさ」

 素直に褒めるミスティスに、オグ君は中指で眼鏡を押し上げながら笑う。

「カブトムシでこれなら、もう向かうところ敵なし!っでしょ!」
「いいねいいね! この調子で一気に森を抜けるよー!」
「おー!」

 ツキナさんとミスティスに引っ張られてテンションを上げつつ、進行を再開。
 実際、そこからはもう何が問題になろうはずもなく、出会う魔物を蹴散らしながらサクサクと進んでいく。

 途中、自由掲示依頼で取ってきた内の一つ、「空色以上の魔石5個納品、緑以上なら報酬追加」という依頼のための魔石収集も忘れない。
 この深層部なら空色や青緑は普通に落ちてるし、追加報酬条件の緑以上も、樹の洞とか根っこの間、低木の隙間みたいな、魔力溜まりになりやすそうな籠った空間を探せば十分見つかるからね。

 そして、魔力が溜まる場所には当然、エーテルも溜まりやすいわけで。

「おぉー、クラスターだー♪」

 樹の洞の中に光るフォトンクラスターを見つけて、ミスティスが目を輝かせる。

「じゃあ、欲しい人ー? はーい!」

 と、ミスティスに僕とオグ君が挙手したので、三人で適当にじゃんけんして決める。
 結果、勝ったのはオグ君。

「ではもらうとしよう」

 フォトンが弾けて、オグ君の手に現れたのは――
 多分、樹の枝、もしくはカブトムシの角辺りがモチーフなのかな?そんなデザインが読み取れる、山吹色に近い色合いの弓だった。
 カブトムシの、太い方の角を根本同士で二本繋げて、それぞれの先端の二股の片側を弓の形になるように延長して装飾を施せばこんな形になるかなー、という感じの見た目だね。
 二股に分かれて太くなった部分には、エメラルドみたいな緑色をした菱形の結晶が埋め込まれたりしていて、なかなかにカッコイイ感じだ。
 中央には、アーチェリーで使う弓のような、矢を真っ直ぐに通すための輪がついていて、おそらくは矢を番える時に人差し指を添えるためだろう、その輪の左下四分の一は欠けた状態になっている。
 そして、その欠けた先端を含む上下左右4ヶ所には、簡易的な照準器……にこれで果たしてなるかは疑問だけど、延長すれば輪の中心で十字に交わるだろう向きに小さく突起が出ていた。

「弓おめ〜」
「……おめでとうございます」
「おめでとう」
「よし、弓が出てくれたか。僕もそろそろ一度装備を更新しておきたい頃合いだったからな、ちょうどいい」
「おめ〜。お〜、結構カッコイイじゃん、性能はどーお?」
「ふむ、こんな感じだな」

 ミスティスが聞くと、オグ君が説明文のウィンドウを見せてくれる。
 えーっと……?エルダーの古木弓……エルダートレントの古木から作られた弓。埋め込まれた宝石が、元々高い魔力伝導率を更に底上げする。チャージング威力倍率+15%、と……。

 エルダートレントは、この森でも深層部にたま〜にいる、長く生きたトレントが進化すると言われている中ボスぐらいの扱いのレアMobだね。
 元がそんな魔物なだけあって、元々魔力伝導率が非常に高い素材として知られているけど、それを更にこの緑色の宝石が底上げしている、と……。
 なるほど、弓に魔力を通すことで強度限界を超えて弓を引けるようにするチャージングの威力が上がるのは納得の効果だね。

「おー、いいじゃん! チャージングの強化とか超当たりだよ!」
「あぁ、長く使っていけそうでありがたい」
「うんうんよしよし、早速試し撃ちいこー!」

 なんて、相変わらず自分のことのようにはしゃぐミスティスのハイテンションに引かれつつ、僕たちは歩みを進めていく。
 さてさて、このまま何事もなければもう少しで深層部は抜けられるはず、かな?


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